【CROSS TALK 2】クルマ屋は“自動車詐欺師”か!?

前回はクルマ愛について述べた。「愛はお金で買えるのか!? それとも愛があるからお金をかけられるのか!?」。そのどちらも正しいとは思う。では「愛はお金で買える」としても、そのお金でクルマ屋さんはいったい何をしてくれるのか? オーナーの愛に見合うことをしてくれるのか? 実はこの辺、よく分からないことが多い。ということで、今回は(あくまでもRENOさん基準になるのだけど)クルマ屋さんがクルマを仕入れてお客さんに売る間、何を考え、どんな判断をしているのかを解明していきたい。

2ショット4493車検に通るのが大前提。

Morita(以下、M):というわけで、前回に引き続き、もうちょっと突っ込んだ話をしていきましょう。

Suzuki(以下、S):はいはい。題材は何にしようね?

M:そうですね。新しめな中古車はあまり触るところがないということだったので、古いのにしましょうか。

S:キャトル?

M:で、いきますか。まずクルマを引き取った後、何をするんですか?

S:車検があるクルマならまず内外装を確認しつつ、乗ってみてチェックするね。当たり前のことだけど、ちゃんとエンジンがかかって、走って、曲がって、止まれるかどうか。音や振動はどうかなどを確認するんだけど、難しいのは許容範囲をどのあたりに設定するか。許容できないハードルを高く設定しちゃうと、それこそ全部品を新品交換ってことになりかねないし、そんなことしてたらめちゃくちゃ高くなっちゃう。

M:すずきさんの基準はどの辺です?

S:そうねぇ。これは理想論だけど、そのクルマがそのクルマなりに普通に乗れてほしいレベルってのがあるので、そこまで持っていけたらいいなぁと。「新品の中古車」なんてあり得ないんだけど、できることならその辺を狙っていきたい。ただ、現実的はそうもいかないので……。となると、大前提はまず車検に通ることかな。車検はクルマが公道を走る上で、必要最低限の保安基準に適合するかどうかを確認するものだから、ブレーキが効かなかったり、マフラー破れて爆音だったり、ショックからオイルが漏れたりしてるのは完全にアウトだね。あと、予防的な観点からこのまま乗ってたらマズいことになるってのもアウト。ブレーキパッドの残りが少ないとか、ドラシャのブーツが破れそうとか、そういういうのも交換しないと。

M:なるほど。

 

エンジン0748キャトルを救うにはいくらかかる?

M:ある架空のキャトルが入庫してきて、それを売り物にするとしましょう。具体的にはどんな診断がなされることが多いですか?

S:たいてい10年落ち以降の大古車は、飽きたとかならまだいいけど、何ともならんって状況になって手放すんだよね。愛情がないってことは何もしていない。つまりもう散々な状態になってることが多い。とりあえず乗った状態で判断できるもので言うと……。たとえば、ヘッドライト内のメッキが経年劣化でくすんでたり、剥離しちゃったりして光量が出ないのは交換せないかんね。エキパイも腐って穴が空いたりするので、パテかなんかで穴埋めしてあったとしてもいずれダメになるだろうから、リアマフラーといっしょに潔く新品に交換したい。走りの面では、走ることは走るんだけど、アクセル踏むと息つきを起こす個体がいる。その場合、ディストリビュータが怪しいことが多いんだけど、もしデスビがダメならこれも交換しないといけない。あとヒーターコアね。破れて冷却水漏れてるのがいるので、これも交換。ただ前回も書いたけど、ヒーターコアはここ数年で供給終了になったみたいなので、もし新品がなければつくるしかない。いまのところ何とかなってるから、手に入るうちに換えておいたほうがいいね。なくなって焦っても遅いので。あとヒーターに関連してヒーターバルブ。これは状態次第だね。真鍮製なので冷却水の管理が悪いと中が錆びちゃってダメになるケースも多い。許容範囲ならOリング交換して再利用。パッキンはつくらないかんね。

M:それでいくらくらいかかりますか?

S:そうだねぇ。ヘッドライト交換、マフラー一式交換、デスビ交換諸々で25万円くらいかな。でも、リフトで上げてみてボールジョイント逝ってたり(というか車体揺すってみてギコギコいったら、たいていボールジョイント逝ってるけどね)、ドラムブレーキのホイールシリンダからオイル漏れてたりしたら、さらにそこから加算されちゃう。ボールジョイントはゴムのブーツだけ無理やり換えれば車検は取れるんだけど、結局中身が逝ってるのでそれだけやっても意味がない。新車時のボールジョイントがそのまま付いてたりもする。20年ももたないよねぇ。ホイールシリンダは漏れがひどい場合、シューも換える。ブレーキフルードでシューを傷めちゃってるからね。もちろん、シュー単体がひどくても交換。シューが剥がれるとリアブレーキロックしちゃうからね。ああ、あとホールベアリング、タイロッドエンド、ボールジョイント、ショックアブソーバ、ラックブーツなどは基本的に左右で交換。ドラシャのブーツも左右インナー/アウターで交換する。まぁ、そういうことを諸々やりながら販売価格を設定していくわけ。当然、手を入れたら入れた分だけ高くなるよね。そりゃ劣化しちゃったいろんな部品を片っ端から交換していけば、いい中古車になっていくんだけど、それだとえっらい高いキャトルになっちゃって誰も買わなくなるからねぇ。それにボロいキャトルを仕入れていろいろやったら、結果もともと程度のいいキャトルよりも高くなっちゃいましたってこともある。だから前回「ボロいだけのキャトルならタダでもいらん」って言ったのはそういうことなんだ。

M:でも、たとえばボロいキャトルを10万円で買いましたって人がいて。程度はいま例に挙げていただいたのに加え、内外装もボロい。全塗装にシート張り替えもしたとして、どれくらいになります?

S:そうねぇ。そこまでやると100万円コースかな。

M:それだなら、はじめからちゃんとした状態のキャトルを買ったほうがいいですね。

前0727S:うん、でも、もしそこまでお金かけても直して乗るって人がいたら協力しますよ。キャトル動態保存委員会としては、キャトルを1台救えるわけだからね(笑)。あと断っておきたいのが、上記の判断基準はあくまでも目標ね。判断しきれない部分、不測の事態も起こり得るので、それはご考慮くださいってことで。

M:いまの話を聞いていて思ったんですけど、数直線が浮かんできたんですよ。ゼロが新車だとしたら、中古車ってマイナスのエリアにいるんですよね。クルマ屋さんはそのマイナスエリアにいる中古車をなるべくゼロに近いほうへもっていきたいわけで。

S:そう。ゼロにはできないので。-20が僕の目標だとしたら、-120のキャトルは100の、-50のキャトルは30の労力とお金の時間がかかる。

M:で、その数字分だけ販売価格に反映されるわけですね。

S:だからRENOの中古車は安くない。2年くらいはどうってことないって感じで乗ってもらいたいので、それなりのことはしてるから。とはいっても、べらぼうに高くては売れないので、市場価格の上限に収まるようにはしているけどね。別の見方をすれば、欲しいクルマを前にしてお客さんが試されてるのかもしれない。「その金額を払ってまでこのクルマを手に入れたいですか?」って。

M:本当に欲しいクルマを手に入れるためには、少しくらいの覚悟は必要ですもんね。愛ですね。愛の試金石(笑)。

S:中古車って-120のクルマもあれば、-50のクルマもあるわけで、最低限のクオリティが全車に共通してるわけじゃない。じゃあ高い中古車は新車並みになるかっていったら、そうでもない。予算によっては、かろうじて乗れますねってレベルしかできないクルマもある。ほんとにピンきりだよね。あくまでも5~7年落ち以前の中古車、10年落ち以降の大古車という事実を受け入れざるを得ない現実はついてくるわけで。

M:それに抗おうとするなら、当然相応の予算がいるってことですね。

S:70歳のばあさんをモデル並みに仕立てようとしたら、美容整形でいくらかかるかしらんけど、もしそういう人がいたらギャラも高いだろうね。美容整形のギャラが高い分(笑)。

M:すごいたとえ(笑)。

S:僕らはばあさんの割にはかくしゃくとしていていいじゃん、くらいまでしかできないけど、その辺は臨機応変というか、個体の状態とお客さんの予算に合わせてってことになるね。

 

イメージ4593重作業は納車前に。

S:いろいろとお金のかかる整備や部品交換などは、そのクルマを買うときにひと通り済ませておいたほうがいいと思う。

M:というと?

S:クラッチ交換とかタイミングベルト交換なんか、それなりにお金がかかるから、そういうのを済ませて車両本体価格に入れたほうがいいってこと。

M:たしかに。納車されてから数か月でクラッチ交換とかいやですもんねぇ。実際、支払う金額は同じでも、何か損した気分になります。

S:たとえばこんなケースもある。ルーテシア16Vの右ハンドルMTなんだけど、個体によってはクラッチがえらい上のほうでつながるのがいるんだよ。206 S16にも多いんだけど。

M:それはクラッチが減ってるんじゃなくて?

S:うん。そう思ってクラッチをバラしてみたんだけど、減ってないんだよね。

M:えー、じゃあ何が原因でしょう?

S:まだ正確に解明できていないんだけど、おそらくクラッチケーブルじゃないかと。右ハンドル仕様は左ハンドルよりもクラッチケーブルが長いから、そこに原因があるような気がするんだよね。

M:ふむふむ。

S:こういう作業って、納車されてからだとなかなかできない。クラッチ減ってるからでしょうねって下ろしてみたら減ってないわけで。重作業したけど、改善できない。お客さんからお金もらえないでしょう。

M:たしかにお客さんも払いたくないでしょうね。

S:でも、納車前で予算が確保されている段階だったらまだやれるよね。じゃあクラッチケーブル疑ってみましょうかって。

M:なるほど。重作業は納車前に、ですね。

S:もちろん予算がない場合もあるので、その場合は優先順位を決めて、できなかったものについては追々って相談もします。ああ、あと、油脂類は直近の交換履歴が不明なら新品交換します。ご指定がなければ、エンジンオイルはYACCOのVX300以上、ミッションオイルはBVX600以上に。あとATFもね。冷却水も相当換えてない感じだったら交換するけど、タイミングベルト交換の時期に合わせて考慮する場合もある。ブレーキフルードは車検時に交換かな。RENOで扱う中古車はRENOの基準となるYACCOに入れ替えておくと、こちらもイコールコンディションになって把握しやすいんですよ。交換してみて「ああ、やっぱりエンジン音がうるさかったのは安いオイル使ってたからか」とか。ミッションオイルではシンクロの感触具合もあるよね。

シフトノブ0732M:リセットする感じですね。

S:そうそう。あとちょっと横道に反れるけど、タイミングベルト交換って、通常はタイミングベルト、テンショナー、ウォーターポンプの3点セットで交換するんだけど、あるお客さんから「予算がないのでタイミングベルト単品で交換しました」って聞いて驚いたことがあるなぁ。

M:え、そんなのがいるんですか。

S:うん。クラッチも普通はクラッチディスク、クラッチカバー、レリーズベアリングの3点セットで交換するんだけど、レリーズベアリングだけ交換してくださいってオファーとか。

M:そのとき予算がなかったのかもしれないけど、それは後々やっかいなことになりそうですね。

S:こっちも把握しにくいよね。ま、この辺は潔く3点セットで交換したほうがいい。レリーズベアリング換えたけど、それから1、2年でクラッチ滑りだして……ってなったら、またミッション下ろしてクラッチ換えないかん。

M:当然、工賃もかかるわけですからね。結局高くついちゃう。

 

メーター0736クルマ屋の仕事とは?

S:クルマ屋もいろいろな考え方を持った人がやってるなぁ、と思ったのがね。「クルマ屋の仕事って、前のオーナーさんのクルマを次のオーナーにただ引き渡すだけですよ」って言う人がいたり、とにかく安さを優先したいがために、中古車に元々付いていたフロアマットや社外アルミ、ナビなどはオプションで、別途費用が掛かりますっていう業者がいたり……。

M:えっ!?  なんですか、それは!? 元々付いてるのに??

S:ある意味、強制オプションだよね(笑)。

M:す、すごい考え方だなぁ。

S:またあるお客さんの話では、クーペフィアットが50万円で売ってたので、最終的な見積もりを出してもらったらなぜか100万円になる、と。じゃ、50万円分の明細出してほしいって頼んでも「出せない」って言われたとかね。

M:……。

S:診断や整備を省きまくった安い中古車を買った人は、言うなれば「宿題期限が近い8月末の小学生を養子にもらう」ようなもんで。それが遠方のクルマ屋から買ったとすると、苦労するのは目に見えてるよね。故障が頻発すれば買った人は困るし、そのクルマ屋も安く売ってるから別に儲かったわけじゃない。買った人が困って地元のクルマ屋に持ち込めば、そこも苦労する。手間がかかるだけで結果、誰も幸せになれない。

M:そうですねぇ。

S:こういう業者がいるので、クルマ屋って世間では“自動車詐欺師”なんて呼ばれるんだよね。

M:たしかに。こんな業者に引っかかったら、そう呼びたくなるわ……。

S:クルマ屋としての仕事はより良いクルマを提供するのは当然のこととして、困ったときに相談できる場所だったり、これまでの知識と経験からより良いアドバイスをしたり……、そういうことができないとダメだと思ってて。クルマを売るってことは、何かあったときでも面倒を看るってこと。そのつもりで売ってるしね。

M:右から左なら、クルマ屋じゃなくてもいいわけで。

S:そうね。

M:じゃあ、すずきさんにとってお客さんってどんな存在?

S:前々から言ってるけど、お客さんは株主みたいなものとして捉えている。RENOの価値を認めるお客さんにお金をいただいて、店を維持できているわけだから。

M:なるほど。

S:たとえばクルマのイベントなんかでね、うちで買ったクルマが停まってて。たいていYACCOのステッカーが貼ってあるから分かるよね。で、そのイベントに参加した人が「このステッカー貼ってあるのは、みんなパリッとしたクルマばっかりだなぁ」って思ってもらえたらうれしい。あくまでも理想だけどね。

 

TEXT/Morita Eiichi

 

 

 

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