ともに2世代目となるルーテシアRSとクリオRSに試乗した後、舌打ちしたくなるような悔しさにかられた。「ちぇっ、RSオーナーは僕の知らないとこでこんな楽しいクルマと遊んでたのか」。コンパクトな2リッターは充分に速く、街中でも山道でも高速でも楽しい。しかもちゃんと4人乗れて荷物もそれなりに積めてエアコンも効くから快適。こんな“いいクルマ”がいまや100万円以内で手に入るとあれば、乗らない手はない。というか、欧州のコンパクトカー好き、ルノー好きなら一度は乗っておくべきだ。乗れば乗るほどその懐の深さを実感できるクルマ。今回、そんなRSのなかでも変わった色の2台をお届け。クリスマスを意識したわけではないのだけど、せっかくならとこの時期に……。
1999年、ルーテシアが日本に導入されたときは、1.6リッターSOHC(AT)の「RXE(3・5ドア)」と1.6リッターDOHC(MT)の「1.6 16V(3ドア)」、基本的にこの2本柱の構成だった。その後、2000年の末に入ってきたモデルが、この「ルノースポール2.0 16V」である(以後、RSと表記)。
パワーユニットはDOHC4バルブのアルミヘッドを持つ2リッター自然吸気エンジンで「F4R」と呼ばれる。このエンジン、先代のクリオ・ウィリアムズやラグナ、セニックにも搭載されている「F7R」と同系のブロックで、今回ルーテシアRSへ搭載するにあたってそれなりのモディファイが加えられている。
ロッカーシャフトはローラーベアリング式に、カムは中空に、バルブは2段階に吸気側のタイミングを可変させるアイシン製のシステムを搭載。さらにアルミ製吸気チャンパーの容量も3リットルから4.8リットルに拡大している。吸排気バルブにはニモニック合金(ニッケル75%、チタン、クローム25%)を採用し、吸気ポートの加工をルノーのF1エンジン製造に携わっていた「メカクローム社」が担当するなど、いかにもマニアが好みそうなウンチクにあふれている。
これら独自のチューニングによって124kW(172PS)/6250rpm、200Nm(20.7kgm)/5400rpmの高出力を達成。スペックだけで見れば、ホンダのシビック・タイプRに搭載されていたK20Aエンジン(2リッターDOHC 215PS/8000rpm)に及ばないが、それでも当時としては充分に“速いクルマ”として注目を集めた。
このような謂れを持つクルマでありながら、新車価格は破格の259万円。そのプライスも手伝ってか、日本ではよく売れた(これほどRSがもてはやされるのは日本だけ、という話もある)。発売当初はディエップの工場で日産33台しか生産されず「欲しくてもクルマがない」状況に陥ったこともルーテシアRSの人気を裏付けるエピソードとしてよく語られる。
色についてだが、生産台数の少なさから来るものなのか、その詳細はよく分からないが、当初はグリ・チタン(チタンシルバー)1色のみの供給だった。その後、色のバリエーションも徐々に増えていく。ルージュ・ド・フュー(赤メタ)、ノワール・ナクレ(黒メタ)、ジューヌ・トルネソル(サンフラワーイエロー)、ブリュ・オデッセ(紺メタ)が追加。そしてグリ・チタンがグリ・アイスベルグ(青みがかった銀)に変わってから大量発生! その後、フェーズ1最後期に限定で少量だけ作られた「リミテッド」専用カラーにヴェール・スカラベ(緑メタ)が追加されて、フェーズ2に移行していく。
最初は1色だけで途中から色のバリエーションも増えたものの、生産が安定しだして供給が潤沢になったころにはグリ・アイスベルグしかいなくなってしまった。なので巷で見かける RSはほとんどがグリ・アイスベルグ。ルノーといえばF1の影響もあってイエローがイメージカラーのように思われているから人気がありそうなものの、RSのイエローは希少だ(ちなみに色の比率は緑 < 黄色 < 黒 < 赤 < 紺 < チタン < アイスベルグ【RENO比】といったところか)。
クリオ1の時代、J・ラニョッティ氏がラリーで駆ったディアックカラーの16S(日本では16V)はシルバーがベース色だった。その後、クリオ2においても欧州のラリーで見るのはベースがシルバーの個体が多い。そういったコンペ・フィールドの影響もあるのだろうか……(考えすぎか)。
今回、赤のルーテシアと緑のクリオを手配してもらったが、主に試乗したのは赤のほう。ちょっとクラッチの摩耗が進んでいる様子だが、まったくふつうに運転できる。手を加えている箇所もSiFoがHKSと作ったマフラーを装着しているくらいで他はノーマルだ。
シートはRS専用のもので、レザーとスエード調人工皮革の組み合わせ。クッションの厚みも充分だが、ファブリックのように柔らかい素材ではないため、ストックのルーテシアとは座り心地がずいぶんと異なる。走り出しても“あの”ルーテシアの乗り心地ではないことに驚かされた。しっとりと路面を舐めるように走っている感覚はなく、路面のアンジュレーションに対して細かいピッチングが起こるのだ。分かりやすく言えば、常に小さくヒョコヒョコと車体が揺さぶられるような感覚。フロントよりもリアで強く感じるから、リアサスペンションのセッティングがそのようになっているのだろうか。ただこれはわずかに感じるものなので、乗ってすぐは多少気になっても数十分もすれば慣れる範疇だと思う。街中ではそんな感じの乗り心地だから、それほどいいなぁ、とは思わなかった。タウンユースなら以前乗ったRXEのほうが断然いい。
しかし、街中を抜け、試乗車がスポーツモデルだと決まって持ち込むいつもの山道へ入ると、印象は一変する。アクセルを踏み込むとSiFoのマフラーが雄叫びを上げ、タコメータの針がグングン上昇。3000rpmを超えるとその勢いは増し、一気に7000rpmまで駆け上る。回転の上昇とともに運転する私の心拍数も上がっていく。そのパワー感、トルク感がとても気持ちがいいのだ。可変バルブタイミングを備えてはいるが、ある回転数になると急に印象が変わるようなこともなく、NAらしい素直なパワーとトルク感。とくにトルクの出方は全域にわたってとてもフラットで3000rpmから加速しても、5000rpmから加速しても、その印象はあまり変わらない。どこから踏んでもトルクが盛り上がり、車体をグイグイ引っ張ってくれるし、その力に急激な変化がないので、安心して踏んでいける。
パワーを地面に伝える足まわりも、山道では頼りがいのあるサスペンションに変化する。一言で表現すればダンパーがしっかりと効き、地面をしっかりつかんで離さない印象。日本の峠道レベルでの速度域ではリアがブレイクするどころか、タイヤを鳴かせることも困難なくらい。これもドライバーに絶大な安心感を与えてくれる。そしてブレーキ。タウンスピードではちょっとオーバーサーボ気味でいわゆる“カックンブレーキ”と言われてしまいがちだが、スポーツ走行になるとこの効きが非常に頼もしく感じる。ストックモデルよりもロータが大径化されたブレーキはとにかく効く! 力強く踏み込めばみるみるスピードが殺され、思い描くスピードまでコントローラブルに減速してくれる。
「これは楽しいなぁ!」。思わず口をついて出た言葉がこれだ。それなりのペースで走っても、安心してクルマを操れることの喜び。この手の楽しさは、いままでの私には経験がなかったからだ。
私もフランスのホットハッチ(SAXO VTS)に乗っているが、それなりのペースで攻めるときはいつも神経を尖らせ、体中の感覚をクルマとシンクロさせながら走るのが常だった。突如、リアが出てもすぐにアクセルを踏めるように「スライドしたらアクセルオン」と呪文のように唱えていた。そんなクルマに乗っているから、ホットハッチというのは「コンパクトな大衆車にハイパワーなエンジンを積んだモデル」という定義からさらに踏み込んで「だからこそ、どこかに破綻要素を備えたモデル」という自分なりの定義が形成されるようになった。つまりホットハッチを操る楽しさは、その“破綻要素”を腕でカバーしてこそ成立するものと公言して憚らなかった。しかし、ルーテシアRSはそんな(ちょっと)屈折した楽しみ方を一気に払拭するほどの大らかさがあった。
その大らかさに気付いたのは、峠道を1時間ほど走ったときだ。「こいつはSAXOのように神経質にならなくてもいいぞ」と。アクセルをガバッと踏んで鼻先をコーナーに向け、ガツンとブレーキをかけたと同時にグワッとステアリングを切り、またすぐにアクセルをガバッと踏む。そういう擬音語を多用してしまうほど豪快な運転のほうが合っているのではないか、と思い始めたのだ。実際に若干ラフな運転をしても、ルーテシア RSは「おお、元気があっていいじゃないの」とまるで孫悟空を手のひらで遊ばせるお釈迦さまのようにいなしてくれる。もちろん、その懐の深さに頼り切って過剰な運転をすれば痛い目に合うのだろうけど、そこまで無茶なことをしなければ、ルーテシアRSはとにかくドライバーにフレンドリーだ。しかも絶大な安心感を持って走りを楽しめるのだから、ちょっとスポーティな運転をしたいときに最適。これでもうちょっとグリップ力のあるタイヤを履いてサーキットにでも持ち込めば、さらに楽しみの幅は広がると思う。
さんざん山道で遊んでしまったので、帰り道は高速道路に乗って急ぐことにした。ゲートをくぐって加速し、3ケタの数字にたどり着くことになって「あっ!」と思った。ルーテシアの“あの”乗り心地が帰ってきたのだ。道路の継ぎ目を超えるときの“あの”感覚、左右にレーンチェンジするとき路面に吸いつくような“あの”感覚。ルーテシアRSは、きっとサスペンションのセッティングが日本的な速度域に合っていないのだと思う。試してはないが、おそらく130km/hくらいまで速度を上げれば、もっと安定感は増し、快適なクルージングができるのだと思う。
高速道路を下り、再び街中に戻ってきた。もうこの頃には細かなピッチングはまったく気にならなくなっていた。そしてクルマを返却するときになって思わずつぶやきたくなったのが冒頭のセリフだ。「ちぇっ、RSオーナーは僕の知らないとこでこんな楽しいクルマと遊んでたのか」。
街乗りではあのヒョコヒョコ感さえ許容できれば、ふつうに足グルマとしても使え、峠道に持ち込めば、それはそれは楽しい時間を過ごすことができる。ドアは3枚だが、5ドアと同じサイズなのでリアシートに大人2人がちゃんと座れる(定員は5名だが)。もちろん、エアコンをはじめとした快適装備もバッチリ。そして高速道路に乗れば瞬時にGTへと早変わり! ロングドライブもソツなくこなしてくれる。でもって価格も100万円を切って……と、冒頭と同じことを述べても仕方ないが、何度も言いたくなるほどルーテシアRSはオールマイティで、それでいてぜんぜんつまらなくない(得てしてオールマイティなクルマほどおもしろくない乗り物になりがちだから)。「もうこのクルマ1台で充分じゃないか」と暴言ともやっかみともとれるようなセリフも吐きたくなる。
だけど最後に。あんまり褒めすぎても気持ち悪いから、ちょっとだけ文句を言っておこう。最小回転半径が5.4m(前輪軌跡)と、大きすぎ! ルーテシアRSよりはるかにサイズの大きいカングーですら5.1mなんだから。以上、終わり。
……と、まぁ、これくらいの文句しか言えないところがまた悔しい。
TEXT&PHOTO/Morita Eiichi
2001y Lutecia RENAULT Sport 2.0 16V
全長×全幅×全高/3770mm×1670mm×1409mm
ホイールベース/2475mm
車両重量/1060kg
最大出力/124kW(172PS)/6250rpm
最大トルク/200Nm(20.7kgm)/5400rpm
グリ・チタンがグリ・アイスベルグに変わってから大量発生には裏話があるのは
ご存知でしょうか?
なんと生産がディエップからスロベニアに移管されていたということです。
初期のグリ・チタンはエンジンも職人手組みで、アルミボンネット、シフトアップ・
インジケーターを装備したものでしたが、これら装備も移管に伴って一般化、
省略されたということです。
当時のフランスモーターズ、およびルノージャポンハその件をひた隠しにして
ディエップ製を謳っていましたが、極少量生産のスペシャルモデル、競技ベース車
を除いてスロベニア謹製だったのです。
クリオ3からRSの生産はディエップに戻っていますが、それ以前のモデルについては
確証がありません。
どこまでがホントかは関係者じゃないと知らないでしょうが、発売当初は”月産30台”とか言われたアワーイ記憶があります。
初期はアルミボンネット、シフトインジケーターはついてるの見たことないけど、レブリミット警告灯みたいナノはついてたけど、実際つくことは希なので気にしたことがなかったけど、省略されたの?
量産化されたのと鉄ボンネットに変わったのは同時なのかなぁ?ランニングチェンジだったような気がしますが。
(勝手な見解ですが、Gris Titaneとアルミボンネットの歩止まりの悪さに辟易して、だと思ってましたけどね。)
まぁ、何処で作ってるかは、量産車なので、気にしても、ねぇ・・・トオモウケド。アトハ、キブン。
ディエップ製が欲しいのだったら、Alpine復活を待つか、SportSpiderとか、A610,V6Turboのがいいんじゃないかとオモフ。それだったら胸張って言えるし。
あ、EspaceとかAvantimeって手もありますが、それはMatra製。(ニコニコ)
メータパネル内、タコメータの左縁に並ぶ警告灯のエアバック警告等の上に
シフトレバーのカタチのグリーンに光る警告灯があります。
アイスベルグの個体からは結線されていないので、キーをONにしても点灯
しませんが、並行で入った初期バージョンでは点灯するのを確認しています。
(↑以前、代車で借りた黒クリオRSが正に初期バージョンでした。)
その他、触媒のセッティングやエンジンの吹けも正規バージョンとは異なり、
自分のクルマよりも軽快な印象がありました。
触媒は初期ダブル、途中からシングルですね。コストダウンかなんなのかよくわかりませんが、そういうものです。