「やっぱりデザインがいいんだよなぁ」と、イタ車を見るたびに思う。それはクルマだけでなく、イタリアのプロダクトすべてに共通する認識だ。「モノを作るなら、デザインせずにはいられない!」といった想いがプンプンにおってくる。フィアットのベースを担うプントも言わずもがな。どっから見ても、やっぱかっこいいなぁ、ほんとに!
フィアット100周年の式典に
デビューした気合いのモデル
現在はグランデ・プントを経てプントエボになっているが、プントが最初に登場したのは’93年。ジウジアーロ率いるイタル・デザインの手によって描かれた初代プントは、横長のヘッドランプと縦長のテールランプが特徴的だった。そしてフィアット創業100周年にあたる’99年。その記念を祝う大イベント(大統領はじめ、首相、トリノ市長などのVIP3000人が招待されたとか)で、2代目プントが姿を現した。基本的なディメンジョンや横長のヘッドランプ、縦長のテールランプの配置がほぼ同じであることもあって、パッと見た感じマイナーチェンジかと思えるが、2代目は全体の80%が新しいパーツになっているれっきとしたフルモデルチェンジ版。じっくりと見れば、初代はどちらかというと各コーナーを丸められたやわらかいイメージに対し、2代目はプレスラインをはじめ、随所にエッジを効かせており、鋭い印象になっている。スタイリングはフィアット・チェントロ・スティーレで、3ドアはイタリア人、5ドアはフランス人デザイナーのアイデアが元になっているそうだ。さすがにいまのご時世、ボディタイプごとにデザインを変える余裕はないかもしれない。そういう意味でもこのプントは大衆車でありながらも、デザインの面では贅沢ができた良き時代のフィアットを象徴しているとも言える。
そうそう、忘れてならないのは、3ドアと5ドアでそれぞれかなり意匠が違うところ。一般的にコスト制約が厳しい小型大衆車において、別々のスタイリングを採用しているのは珍しい部類と言える。共通部品が多ければ多いほど、より安くできるのに3ドアと5ドアはフロントバンパー下の部分、ボディサイド、リアはまったく別物を使っている。プントのチーフデザイナーは、プントらしい特徴である高いルーフライン、高い位置にあるテールランプ、グリルのないフロントマスクの3点を踏襲したという。それを踏まえた上で、より塊感のあるスタイルにしたかったようだ。3ドアは凝縮感を強調したダイナミックでアグレッシブなデザインに、そして5ドアはエレガントでセクシーなイメージを表現した。さらにディティールに対するこだわりも追求。たとえば3ドアのテールランプ内に配されるターンシグナル。これは後から取り付けられた宝石のようにしたかったという。しかもバルブが外から見えないようにし、オンにしたときだけ奥から光が突き抜けてくるようなイメージを実現させたかったそうだ。きっとエンジニアは反対しただろう。しかし、それを説得したからこそ、このようなイメージどおりの意匠に仕上がって世に出ることができた。デザイナーはデザイン能力だけでなく、人を説き伏せるディベート能力も必要、ということか。
このようにディティールをはじめ、デザインに力を注いだ結果は、ファインダーを覗いてみてもよく分かる。クルマの写真を撮るとき、上下、左右あらゆる視点からそのクルマのいちばんかっこよく見える部分を探すのだが、プントをファインダーに収めると、背の高いスタイルにもかかわらず、どの角度からでもかっこよく決まるのだ。サイドを強調しても、フロントを前面に押し出しても、どこから見てもかっこいい。これはまさにプントのアイデンティティであり、オーナーの所有欲を満たす大きな要素だ。しかも当該車はちょっとやりすぎた感のあるアバルト仕様のエアロをまとわない、本国モデルそのもの。とくにフロントバンパー下にサメのエラのように切り込まれた4本のスリットが視線を捕らえて離さない。曇り空の下でも映える、まるでミモザの花弁を思わせるブルームイエローもしかり、だ。
やっぱりイタ車の塗装は弱い?
このプントの外装色・ブルームイエローは、全塗装されたもので実に美しい発色と光沢を放っている。というのも、入庫してきたときはクリアが剥がれ、無残な姿になっていたからだ。それなりの金額がかかってしまうが、貴重な左ハンドル、本国仕様そのままの個体である。思い切って全塗装したら見違えるようになった。
話は少し横道に反れてしまうが、イタリア車(とくにアルファロメオ145や155)の赤は、色あせてしまってピンクっぽくなっているものをよく見かける。年代で言えば’90年代中期から後期にかけてのものか。しかし、’90年代後半に製造された156にはそのような現象は見当たらないから不思議だ。リアゲートやトランクにその個体の塗装に関係した会社がクレジットされているが、色あせのある個体には「ハーバート」と書かれていることが多いのだとか。じゃあ、この会社のクレジットが記されている個体はあせる可能性が高い? と結論付けられるものではなく「ハーバートは塗料メーカーではなく、塗装をおこなった会社っていう説もあるんだよね」とすずきさん。塗料自体に問題があるのか、施工に問題があるのか、その真相は不明確である(ちなみにこのプント同様、クリアが劣化しやすいのは、ルノーのノアール・ナクレ、ビフ・レッドにも見られるとか)。
さて、余談はこの辺にしてプントの試乗に移ろう。ラインナップ中、1.8リッター(正確には1747cc)と最大の排気量を持つHGTは、エンジンをバルケッタと共用し、パワー、トルクともに充分。特に街中では上まで回さなくてもトルクに乗せて楽に加速できる。ただ、高速走行は少し苦手なようだ。硬く締まったサスペンションのせいか、高速道路では始終小さな上下動があって落ち着かない。直進安定性はまずまずなのだが、不意なレーンチェンジでは車体が遅れてついてくる感触があり、気の抜けない走行を強いられる。
一方、ワインディングに持ち込むと、その不安定さがキビキビとした印象にガラリと変わるからおもしろい。トップエンドまで回してもそれほど爽快さを感じないエンジンだが、ここはやはり早め早めのシフトアップでトルクをうまく利用していく乗り方が正しいようだ。大きなアールでは深くロールするが、それほど恐怖感もなく、足も粘り強く踏ん張る。デルファイ製の電動パワーステアリングも操舵感に不自然さはない。当日走った峠は雨上がりで路面が濡れていたため、ところどころでTCS(トラクションコントロール)を作動させて走ってみたが、こちらも非常に違和感のない効きをみせてくれた。特に上りのコーナーでよく作動したが、唐突感はなく、常に姿勢を安定させてくれるので、安心して運転できるのが印象的だった(もちろん過信は禁物だが)。
プントHGT。乗る前はかつてWRCのS1600でも活躍していたことから、ヤンチャなホットハッチをイメージしていたのだが、それほど尖がったモデルではなかった。高速走行こそ苦手なものの、適度にスポーティーな走りも楽しめるし、街乗りではプジョー106などと比べて圧倒的に楽に運転できる。しかもエッジの効いた粋なスタイリングに、まず街中では見かけることのない希少な左ハンドル。そして全塗装により新車当時の鮮烈さを取り戻したアピール度満点のボディカラー(実際に街中では何度も振り返った人を見かけた)は、たとえ大衆車と言えども乗っていて優越感を得られる。注目を浴びながらエレガントに街を流し、週末は山に出かけて手に汗握るのもいい。さらに足回りを煮詰めれば、サーキットでも通用するクルマに仕上げられるだろう。
PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
2001y FIAT PUNTO HGT
全長×全幅×全高/3880mm×1660mm×1480mm
ホイールベース/2460mm
車両重量/1040kg
最大出力/96kW(130PS)/6300rpm
最大トルク/164Nm(16.7kgm)/4300rpm
元オーナーなのですが、通りすがりの見ず知らずの親子がプントを見て、「お父さん、このくるまカッコいい!」って会話してたのが大変印象深いです。
先入観ない評価って、イイヨネ。
yosseyさん、コメントありがとうございます。
いいですね、そういうひとこま。
子どもにもあのかっこよさがわかるなんて!
その子が将来、どんなクルマに乗るのか気になります。