トゥインゴ3のガソリンエンジンモデルが、ついに欧州のラインナップから排除された。これによってトゥインゴ3はBEVモデルのみとなる。さらに欧州車のガソリンエンジン車には従来からディーゼルエンジン車と同様のPM(粒子状物質)集塵装置が装着されていたが、それが日本においても規制適用の時期を迎えることになった。それにともない並行車の場合、2023年モデル以降の新規登録車においてはPM試験を受け、合格しなければならない。これが何を意味するのだろうか?
トゥインゴ3のガソリンエンジンモデルが……。
Suzuki(以下、S)/事の発端はね、年明けに「トゥインゴ3がこの先まだあるのなら、ガス検取ってやってもいいよなぁ」とか思いながら、現地のウェブサイトをチェックしたんだよ。1月3日くらいだったかなぁ。なんかサイトの体裁が変わってて、デザイン変わったんだーとか思いながらトゥインゴのページを見たら、なんと。
Morita(以下、M)/なんと?
S/トゥインゴのガソリンがなくなりました……。
M/おお……。
S/いずれそういう日が来るのは分かっていたものの、その事実を突きつけられると現実を素直に受け入れられず。で、並行車の手配でお付き合いのある方に「現地のウェブサイト見てたんですが、トゥインゴのガソリンがなくなったみたいなんですよね」と。先方も「ああ、まぁ、そういう時期かもね」と。で、追い打ちをかけるように「そういえば、すずきくん、2023年からガソリン車も粉塵(PM)試験を受けなきゃいけなくなったの知ってる?」と。「え? いや、知らなかった。そうなんだー」とノンキに返事をしたんですよ。「へーって! PMの試験を受けるためにプラス20~30万円必要になるってことだよ? ガス検査に加えて」って。
M/マジですか!? これは由々しき問題ですね。
S/そういうことなんだよ。
M/それは、国土交通省とか環境省とかからのお達しってことですよね?
S/今回のは環境省だね。2023年モデル、2022年10月以降生産の新車については、PM試験に合格したレポートを提出しないと日本国内で登録できないってことになる(詳細はこちら)
M/なるほどぉ。
S/たぶんね、もっと前からそうなることは決まってたんだと思う。そう言われれば、数年前にヨーロッパでもガソリン車でもDPF(Diesel Particulate Filter)に相当する、この場合ガソリンだから「GPF」になるのかな。そういう装置が付いてるんだよ。まぁ、そのときはあんまり実感湧かなかったけど、それがついに現実になったってことだね。
M/そうなんですね。ぜんぜん知らなかった……。
S/こういうのはお上が決めることだし、決まったものに関しては従わなきゃいけないわけで。こんな状況になったら、最低でも5台は確実に売れるクルマじゃないとウチもコスト的に合わないよね。PM試験にいくらかかるのか、まだわかんないけど、ガス検とPM試験と陸送費、其の他諸々でざっと60万円くらい必要だとして。これまではガス検で30~40万円かかっていたから、1台10万円のコストで2、3台売れればペイできれば、4台目から利益が出ていいよねって感じだったんだけど、PM試験が加わることで、最低でも5台は確実に売れないと赤字になる。もしPM試験で不合格になったら、それなりの対策しなきゃいかんし、その対策費もかかる。クルマは来てるのに検査が受からん。じゃあ、やーめたってわけにはいかんからね。
M/そういうことですね。
S/でもね、そうは言いつつも「まぁ、ガソリンのトゥインゴなくなったしな!」ってネガティブに胸をなでおろしている自分もいたり(笑)。
M/はははっ! それはいいのか悪いのか。ちなみにトゥインゴのガス検はまだ残ってるんですか?
S/トゥインゴは数台あるけど、パンダのツインエア1.2 8Vはもうない。
M/そうかぁ。じゃあ、PM試験を受ける義務のない2023年モデル以前のクルマを中古で入れるのは?
S/特定の年式のクルマを3、4台も確保できる見込みがない。
M/そうかぁ。確かに非現実的ですね。
S/ということで、手詰まり(笑)。
並行車は、なんやかんやでざっくり60万円プラス。
S/ちょっと前にね、お客さんから並行でこういうクルマ乗りたいんだけどって相談もらったことがあって。持って来れないことはないけど、新車で売ってないから中古車でしか取れないし、そのクルマのためにガス検取らなきゃいけないので、最低でも3、40万円はプラスで見ておいてくれないと難しいですよって、そういう話をしたんだよね。でも、これが数年後にはPM試験も受けなきゃいけないので、陸送費やその他諸々でプラス60万円になりますって話になる。
M/プラス60万かぁ……。
S/でもね、これはまだお金で解決できるからいい。これからお金で解決できないものも出てくる可能性がある。
M/というと?
S/保安基準の解釈や規制の方法って、欧州と日本で違うんだよね。 いまは欧州の基準を、見なし的に日本の基準と同等としてくれてるから、並行車は登録できるのだけど、排気ガスや今回のPMは日本独自の規制なので、欧州基準との合致を試験を受けて証明しなきゃ、登録できないわけ。同じコトが他の部分でも起こり得るわけで……。20年くらい前だったっけ? 衝突安全基準が日本と欧州で異なるので、欧州車を日本で登録するには、メーカー等によってその日本の基準合致を証明せよ、ってなった時期があって。並行車は概ね登録不可な時期があった。
M/そうなんですね。
S/今後も同じようなことが起きてもおかしくない。例えば、内装難燃材の基準が異なるからダメ、とかね。どこに落とし穴が仕込まれてるか。だから、いまナンバーがつくクルマは貴重だなぁって、改めて思う。
M/なるほど。内装の素材が規制対象になったらどうにもならんですよね。
S/そう。だから内燃機関のクルマで乗っておもしろいクルマっていうのは、もう数年前から僕も口酸っぱくして言ってるけど、早く買っておかないとなくなっちゃうよって。
M/そういうことですよね。ちなみにサンデロのガス検は?
S/サンデロはまだあるから、それはやりたいね。
トゥインゴ3、もしかしたらディーラーでも買えなくなるかも!?
M/なんかまだ2023年始まったばっかりなのに、いきなり暗い話題ですね。
S/そうだねぇ。まぁ、現状で言える間違いのない事実は「トゥインゴ3はいまのうちに買っておけ!」だね。
M/そうですね。
S/いつルノーが「日本向けに出すのやーめた!」って言いだすかわからない。ルノーディーラーで売ってるトゥインゴって実質、日本専用車だからね。年間1万台売れるならまだしも、数千台でしょ?
M/ですよね。それだけのためにわざわざ用意してくれてる。
S/世の中の流れだと、そんな効率の悪いことをやめて、さっさとBEVに切り替えたほうがいいって考えるのが前向きじゃない? それはルノージャポンだけでなく、ステランティスだってそう。
僕らが好きだった時代の中古車を扱うってのは?
S/これからの方向性としてんは、どっちかなんだよ。売れにくいサンデロを置いてほくそ笑むか、売れるクルマを置いてコンスタントに回していくか。でも、僕はどうせ売れないなら、自分の好きなクルマを買ったほうがいい。大手と同じような売れ線のクルマを置いても、勝ち目はないしね。
M/芸風は変わらず、ですね。
S/変わらず、だけど、限界だね。
M/うーん。では、新車じゃなくて、僕らが好きだった時代の中古車を扱うってのは?
S/パーツの入手が困難だよね。サードパーティであったとしても、すごく時間がかかる。結果、回らんくなる。商売としてやっていくのはきついね。
M/確かにそうですね。
「欲しいクルマはあるうちに買え!」
S/まぁ、うちのことはともかく。話を元に戻すと、今後、状況はどんどん悪くなる方へ進んでいくと思う。むかしは日本でもPM排出基準を満たしていないディーゼルエンジン車の乗り入れ規制をしていたけど、規制が厳しくなるにつれてガソリン車も規制の対象になる可能性はないとは言えない。それに税金上げたいばっかりの政府なので、13年、18年を境に上がる自動車税の税率を上げる可能性もある。
M/ですよね。
S/だって、政治家からすれば、そのほうが経済回ると思ってるから。税収は増えるし、買い替え需要は発生するし。ハイブリッドやBEVが税金安かったり、補助金が出てたりするのはそういうこと。だから、彼らからすれば僕らみたいなのは不思議だろうね。なんでわざわざ高い税金払って燃費の悪いクルマ乗ってるのって。
M/まとめとしては「欲しいクルマはあるうちに買え!」ですね。
S/後悔しないように!
TEXT/Morita Eiichi