M:さて、年末ですね。2021年もいよいよ終わりです。
S:そうですねぇ。
M:年末といえば、恒例のこのコーナー。
S:何でしたっけ?(笑)
M:2021年を振り返って反省するコーナーです(笑)。
S:自己批判……。
M:ただ恒例と言っておきながら、去年はやってないんですよね。
S:そうだっけ?
M:そうなんです。一昨年はやってますけどね。2020年はサンデロやりたいなぁ、なんて話をしてました。
S:そっか。それならいちおう目標は達成したってことだね。
――コロナ禍で中古車市場のタマ数が減った!?
いままでにない最悪な1年でした……。
M:さぁ、そんなわけで今年1年振り返って、ですが。
S:一言で言うと、いままでにない最悪な1年でした……。
M:良くはないと思ってましたが、最悪ですか。
S:そうだねぇ。いちばんはコロナのせいもあるけど、そればっかりでもない。
M:もうちょっと詳しく聞いていきましょうか。
S:僕は自営業なので、最大のモチベーションと言ったら「稼げること」なんです。
M:そうですね。
S:でも、この1年は売上が落ち、モチベーションが下がり。生き延びるためには、おとなしくしているしかない状態だった。
M:底ですね。
S:それは周囲を見ていれば分かる。僕の周りにはクルマ好きな人が多いから、みんな頻繁にクルマを買い換えてたんですよ。でも、そういう話がなくなった。みんな現状維持に努めてる。
M:買い換えないから、中古車市場にもクルマが流れてこない。つまり、クルマの流通量が滞っていると。
S:クルマだけじゃないと思うよ。モノの流通が少なくなると、企業は儲からない。そうすると生産を縮小する、人件費を削る、場所を削る、値段を上げる。そういうループにはまっちゃう。そういえば、すき家も牛丼(並)を50円値上げして400円になったね。
M:ですねぇ。僕、最近思うんですが、コロナ禍も約2年続いて、みんな我慢することに慣れちゃったような気がするんですよ。いままでのようにクルマ買いたいと思ってもできない。仕方なく現状のクルマを車検通して乗る。ただ、そこで気づくんです。結果、買い換えなくても何とかなっちゃうなって。そういう思考がノーマルになってる。消費しないのがノーマル。コロナ問題が解決しても、その思考がしばらく続くのではないかと。
S:そんなにお金使わなくても暮らせるよね、と。
M:そうそう。
S:確かにコロナ前は、一般家庭の人でも新車を買い換えつづけてきて、車検取ったことが1回もないって人もいたんだよね。でも、コロナのせいかどうか知らないけど、いろんな理由で新車を買わずに車検取るようになった。3年で買い換えていた人が5年になるわけだ。そうなると中古車市場の流通量が減っちゃうよね。でも、次はその5年が7年になろうとしてる。そもそも3年ごとに新車に買い換えるというのが異常かもしれないけど、日本の中古市場はそういう状況で成り立ってたからね。
――電動化について①
ツイジーはどこへいく?
S:ヨーロッパを中心に電動化もさらに進んだと思う。今年の頭くらいからトゥインゴのラインナップはEVのほうが多くなっちゃった。でも、半導体不足なのか、ガソリン車の生産が間に合ってない。遅れに遅れているなか、なぜだか日本で1000cc NAのSCe70がディスコンになった。
M:向こうでまだ走ってるのにねぇ。日本でディスコンになるのか謎。
S:ほんとに。理由を教えてほしいよ。まぁ、そんな状況になってるので、うかうかしてるとガソリン車が買えなくなるんじゃないかと。トゥインゴが全部EVになっちゃう可能性がある。そういう流れならその流れに乗ってしまえ! って半ば衝動買いでツイージーを手に入れたんだけどね。
M:実際に使ってみてどうでした?
S:そもそもあれをEVと呼んでいいのかは置いといて、問題は航続距離と充電時間だね。
M:やっぱりそこですか。
S:ツイジーの発売は2012年なのでもう10年前だから、最新のEVと比べるのは酷なんだけどね。航続距離はルノーの公称だと満充電で100km。でも、実際は街中で50km。元気よく走ると30km。スロットル開度を示すインジケーターが3段階あるんだけど、3つフル点灯したときの減りようっていったらもう! みるみる減っていくんだよね。加速で2つ、巡航で1つをキープしてやっと50km。それと実際に乗って分かったんだけど、ああいうクルマって狭いところをチマチマ走るのが得意なのかと思ったけど、実際は広い道をドーンと巡航したほうが航続距離が伸びる。
M:ガソリン車といっしょですね。
S:アクセル開度が一定の方がね。クルコン使うのと同じ感覚。絶対そっちのほうが燃費いいもん。
M:充電は何時間かかるんです?
S:200V以上だと空っぽから満充電まで4時間と言われている。実際にやったことはないんだけど。100Vだとだいたい8時間。夜、コンセプトに刺しっぱなしなので、正確な数値ではないんだけどね。EV乗ってる人は自宅に充電設備があって、帰ってきたらコンセント挿してるから大丈夫なんだろうけど、問題はどこか遠くに出かけたときだよね。これまでいちばん遠出したのは、春日井と長久手のモリコロパークだけど、どっちもカツカツ。
M:RENOからモリコロまで下道で往復44km。ギリですね。
S:怖いよぉ。ちゃんと運用スケジュールを考えないとね。常に充電できるところを考慮にいれないといかん。
M:今度あそこいくから、何時間前から充電しないと……とか、もし電気がなくなった場合、どこで充電するかとか。
S:ツイジーの場合はAC100Vで充電できるからまだいいけど。
M:もしなくなったら、最悪誰かに頼んでコンセント貸してもらえますもんね。登録に関しては?
S:これが一筋縄ではいかない。そもそもツイジーって、自動車という区分じゃないんですよ。欧州では「クワドリシクル」という4輪バイクという扱い。だからクルマの保安基準が適用されていない。日本で言う軽自動車以下なんだよね。
M:そうなんですね。
S:じゃあ、日本で「クワドリシクル」に相当するカテゴリーは何かというと「ミニカー」がある。でも、ミニカーは最大出力とかサイズの規定がある。そして基本1人乗り。
M:ツイジーは2人乗りですもんね。パワーもあるし。
S:そう、80km/h出ちゃう。日本においては、軽自動車にもなれないし、ミニカーにもなれない“ハザマ”に入っちゃった。だけど、国交省はツイジーみたいな乗り物が必要になるだろうと考え、規制緩和ができる条件を設定して「超小型モビリティ」というカテゴリーをつくり、一部で登録を認めるようになった。ツイジーはそこに合致するんだけど、登録の条件を満たすためには、地方自治体の「了承」が必要になる。承認でも許可でもないので、自治体の責任は問われないんじゃないかなぁ、たぶん。地方自治体が「ツイジーを了承しますよ」となったら、国交省がそれを審査して規制緩和の条件に合致するものだと認めた場合、ようやく登録できる。最高時速と運航範囲は規定されちゃうけどね。なので、超小型モビリティ枠を使ってツイジー、というかニッサンの「ニューモビリティコンセプト(NMC)」でナンバーつけて走ってるのはいる。
M:その条件ってたとえば?
S:名古屋市の見解では「公益性のあるもの」。たとえば観光や福祉目的である場合ね。でも、うちは個人事業なので公益性があるって判断にならない。
M:なるほどぉ。だったら個人では難しいですね。
S:そう。ただ、このカテゴリーのクルマで一般企業がナンバーを取得した案件はあるらしい。
M:前例がある? でも他県でってことですよね?
S:兵庫だったかな。ツイジーじゃなくて他のモデルだけどね。もしうちがそれなりの規模の企業だったとして、次の時代のモビリティを担うEVを普及させるための実用試験を行いたいので、ってお役所に申告したらもしかして通るかもしれない。
M:そうかぁ。じゃあ現状では難しいってことですね。
S:そうだね。名古屋市は過去、超小型モビリティの実証実験をやったことがあるらしいんだけど、担当者曰く「これなら軽自動車でいいじゃん」ってなったらしい(笑)。
M:ははは、わざわざこれにする必要がないってことですか。
S:それ言われたら返す言葉がない。
M:そうなると仮ナンバーで公道走行はできるけど、販売したり登録したりはできないってことかぁ。
S:そうだね。ツイジーが欲しいって人には、まず住んでいる市役所に行って、こういうクルマに乗りたいけど、登録できるのか相談してもらって、それで市役所がOKと言えばいいよという言い方しかできない。
M:お役所次第ってことですね。
S:ちなみに日産の払い下げ車、つまりNMCのリース期間が終わったクルマは一回ナンバー取ってるわけだから、登録はしやすいかもしれないね。
――電動化について②
トヨタのあの発表はすごかった!
S:EVつながりで言ったら、この前のトヨタの会見はすごかったね。
M:12月14日の、ですよね。あのプレゼンの仕方もそうだけど、ああ、ついにトヨタがマジ切れしたって思いました(笑)。ずっと欧州のカーメーカーや環境団体から「トヨタは電動化に消極的だ」って批判されてましたからね。そんなわけないのに。
S:2030年までにEVを30車種だっけ?
M:そうです。販売台数は年350万台。
S:しかもすごいのは、EVは環境車の一部であって、水素エンジンも燃料電池車もやるってところだよね。
M:ええ、別にEVにシフトしたわけじゃないんですよ。あの会見のインパクトがでかかったので、EVに転進なんて書いてるメディアもありますが、まったくお門違い。
S:水戸黄門の印籠が出た、みたいな感じだよね。
M:ほんとに。水素でいえばあの会見に隠れてあんまり話題になってないですけど、12月2日にTME(欧州トヨタ)が水素エンジンを載せたヤリスのコンセプトカーを発表してるんですよ。まぁ、まだコンセプトカーに留まってますが、これも「EVだけじゃないよ」というアピールなんでしょうね。ちなみにトヨタのグループ会社の豊田通商は、10年前から南米のリチウム鉱山(鉱山というか湖なんだけど)開発をしていて、すでに全世界のリチウム埋蔵量の10%を押さえちゃってます。
S:むかしからトヨタにはかなわないと思ってたけど、やっぱすごいね。
M:ですねー。欧州のカーメーカーもダウンサイジングターボとかディーゼルとかで、何とかトヨタのハイブリッド技術に対抗しようとしてきたけど、EVでもこれやられちゃ立つ瀬がない。
S:今後の欧州カーメーカーがどうするかも見ものだね。
――ダシアの話 ①
ドッケールが予想以上に売れてルノーも焦った!?
M:え、もう3年経ちました?
S:そう。うちで売った1号車が来年車検。でも、さすがにダシアだね。3年間、ほぼ壊れてない。すごいわ。1台だけO2センサーがダメになったクルマがいたけど、それくらい。全幅の信頼を置いてる。
M:僕らの感覚がおかしいのかもしれないけど、ダシアみたいなクルマこそ、乗るべきクルマだと思うんですよね。高くないし、信頼性高いし、希少性もあって、左マニュアルで乗っても楽しい。
S:そうだよね。ダシアって欧州で言えば、スズキやダイハツに乗るようなもので、トヨタやニッサンじゃない。でも、日本に来ると急に「あえてのダシアですか」ってなるのなら、おもしろいじゃん。
M:ですよね。でもそうなっていないのは、やっぱり知名度なのかなぁ。まだまだ多くの人には得体の知れないクルマって映るんでしょうね。
S:僕がドッケールを都合6台売ったのは、既存のお客さんがほとんどで、ラテン車初心者じゃないからね。
M:もうわかってる人たち。
S:いまからラテン車乗る人にとっては……これ、言うとバッシング食らいそうなんですけど。
M:ある意味、ブランド。バッヂを買ってるようなところ、やっぱりありますよ。だから、さすがに初心者でいきなりダシアは行かない(笑)。
S:同業者にも言われたよ。「ダシアなんて売れるの?」って。、売れるかと言ったら売れないけど、まぁ、そこそこねって。それでいいんだもん。
M:ダシア以外にもなんかおもしろいクルマが出てくればいいんですけどね。
S:でもさ、ダシアはあくまでもルノーの子会社なんで、おいしいところはルノーが持っていくんだよ。ドッケールが事実上ディスコンになっちゃったのは、あのマーケットがルノーにとっておいしいから、ドッケールをやめてカングーとエクスプレスの2種類にして全部持っていこうという考えなんだと思う。たぶんドッケールがルノーの予想以上に売れちゃったから、ルノーも焦ったんだと思うよ。
M:やばい。カングーの売上に響くって。
S:日本ではカングーがかわいいとかもてはやされてるけど、向こうではいまだに働くクルマだからね。別にルノーである必要はない。
――ダシアの話 ②
サンデロ、そんなに高い!?
S:南米にはサンデロRSがあるけど、RSと言いつつルノースポールは絡んでないと思うよ。あと南米の保安基準でつくってるから、日本ではナンバー取れない。ヨーロッパで発売すれば、話は別だけど、ルノーは認めないんじゃない? EVでRSをやりたいみたいだから。
M:ですよね。
S:これはもうここ10年くらい言われてるけど、欧州車でめちゃくちゃ高いスポーツカーは存在するけど、手ごろに買えるスポーツカーをつくってるのって、もうルノー含め数社しかないんじゃない? だってRSって言ったってそんなに高くないもん。B社のMとかその辺のクルマと比べたらね。
M:プジョー、シトロエンもあてにならないし。
S:たとえばね。日本においてはRSのマーケットって確立されてるから、サンデロRSがもし日本に来たら売れる可能性はある。ただ、それは以前の話なら。いまは「いいねー。でも高くて買えない」ってことになりかねない。
M:ああ……。
S:だって欧州でクリオよりも2、3割安いサンデロが日本に来ても、みんな「意外に高いよね」って言うんだもん。あれで高いって言われたら、ルーテシアはどうなのよって。
M:もっと高いよ。
S:ルーテシアにオプションたくさんつけたら余裕で300万円超す。たしかにサンデロ単品で持ってきてるからクルマ単体としては割高かもしれなけど、言うほど高くないと思うけどね。それにあのステップウェイ、オプションなしだったら、275万円くらいだもん。普通のルーテシアと同じくらいじゃない? 普通のサンデロなら255万円くらいで買えるよ。
M:ステップウェイじゃないサンデロなら、それくらいなんですね。他にもダシアでおもしろそうなクルマってあるんですか?
S:そうだねぇ。ダスターはまぁ、個人的にSUVにあんまり興味がないってのもあって、それほど食指は動かないなぁ。あと「ジョガー」ってのが出て、7人乗りでいいかなぁ、と思ったけど、スライドドアじゃないんだよね。
M:日本人のニーズだとあの手のクルマならスライドドアが欲しいところですよね。カングーもそうだし。EVはあるんでしたっけ?
S:スプリングっていうのが1 台だけ。
M:そうかぁ、そういうラインナップならやっぱりサンデロが最有力ですね。
―――僕らの生きる道は? ①
「ルノー、トゥインゴのガソリン車辞めるんだってよ」
ってことになったら?
M:まぁ、そういうわけで、その中はEVとか環境とか、そういうの一辺倒ですが、そんななか、僕らはどう生きていくべきか?
S:ちょっといい話があってね。マンゴー色のトゥインゴが売れそうなんですよ。
M:おお、それはグッドニュース。
S:この前、あるご夫婦がいらっしゃって。いま右ハンドル・マニュアルのフランス車に乗ってるんだけど古いから買い換えようかとのこと。実際は娘さんが乗るらしいんだけどね。トゥインゴ、マニュアルですけど、いいですかって聞いたら、いま乗ってるのもマニュアルなんでって。さらに左ハンドルですけどって聞いたら、娘は左もいいかなって言ってるって。
M:おお! そんな貴重な人が! その方は初めてのお客さん?
S:そう。
M:へぇ、そういう方がまだいらっしゃるんですね。
S:そうなんだよね。100人のうち、こういうお客さんが5人いれば、何とかやっていけるような気がしないでもない。
M:そういうお客を大事にしていかなければ。
S:ただ、現実は貴重なお客さんたちを支えるためのキャパシティがもう限界なんだよね。
M:それは長年乗り続けているような古いクルマを回すのが手いっぱいってことです?
S:そうだね。数年前までは106とかルーテシア2とか、なんとか部品探せば見つかるよね、といってたのが、もう無理になってきた。
M:サクッと手に入らない。
S:そのために半年、1年預かってるクルマが3台もいる(106、ルテ2じゃないけどね)。この状況はきつい。だから、一昨年前くらいから古いクルマよりも新しめの、それこそ3年、5年落ちくらいのおもしろいクルマにシフトしようと考えてきたんだけど、そういうクルマを仕入れるのも難しい状況になってるんだよね。
M:ああ、それがさっき言ってた流通量が少ない話につながる。
S:たぶんそれって欧州でも同じ状況なんだよ。たとえばトゥインゴを新車で買おうかなと思っても、いま注文したら半年後だよ、と。じゃあ、1、2年落ちの中古車でいいから、と欲しい人はそこに集中する。で、そのあたりのクルマの値段が上がる。じゃあ、さらにもう1、2年古いのでいいから、とハードル下げるから、またそこで値段が上がる。まさにトゥインゴがその状況になってる。中古車雑誌とか見ても、5年落ち5万キロのトゥインゴが130万円くらいする。
M:えー、そんなにするんですか?
S:びっくりするよ。特にオークションで仕入れているクルマ屋のは、全般的に高いはず。
M:日本でいちばん高い中古車を買ってるわけですからね。
S:だからこのマンゴートゥインゴについても、クルマのことを値段でしか判断しない人にとっては、ありえない値段だと思う。2、3 年落ちの6000kmくらいのクルマが245万円。新車よりも高いってどういうこと? って、みんな思うだろうし、僕も値段つけるときそう思った。本当は255万円にしたいけど、それだとあまりにも高いから……と思いながら、中古車サイトに打ち込んだんだけど、もっと上がいた。
M:マジっすか?
S:275万円がいた(笑)。まぁ、それは限定車で新古みたいなクルマだけどね。で、どれがいちばん先に売れるのかと思ってたら、いちばん高いのが売れた(笑)。
M:異常ですね。でも、こういう状況を引き起こしているのが、半導体不足による新車生産の落ち込みですよね。じゃあ、半導体不足問題が開発して、新車の納期長期化も解消されれば、元に戻るんじゃないですか?
S:そう思うよね。でもさ、欧州で売ってるトゥインゴ、ガソリン車がついにSCe70のみになった。それで1年経ったけど、次は……。
M:まさか。
S:そう、そのまさか。SCe70も辞めるんじゃないかと。だけどね、そもそもなんで欧州において新車が間に合わないから、中古ガソリン車へ……という流れがあるのか?
M:そうですよね。EVの新車乗ればいいじゃんって思うけど。
S:そう、でも、実際はそうなってない。つまり、まだガソリン車の需要があるからなんだよ。長距離の移動が必要な人って、まだまだいる。そんな状況で、もしガソリンの新車もなくなったらどうなる?
M:さらに中古ガソリン車の価格が高騰する?
S:そうなるよね。
M:なんか、欧州のお偉いさんたちの戦略と実際にクルマを使う一般人の現実とが乖離してますね。
S:分かんないけどね。いまのEVトゥインゴがどれくらいの航続距離があるのか知らないけど、もし長距離の移動に耐えられないのであれば、そういうこともあり得るよね。
―――僕らの生きる道は? ②
いまみたいな時代だからこそ、
ガソリン車に乗りたいって人が増えれば、生き延びれる!?
M:では、RENOの電動化シフトはあり得る?
S:現状ではEVの経験や知識などがいろいろ不足している。並行でクルマを取るにあたって、これまでのガソリン車で経験のあるクルマ、もしくはその延長線上にあるクルマなら、だいたいわかる。世間ではダシアなんてよく分からんクルマ買ってきて大丈夫なの? って言われるけど、中身はルノーだからだいたい見当つくし、ルノーのパーツリストで部品拾えるし、テスターも使えるしね。でも、EVはそのレベルから逸脱しちゃう可能性がある。
M:たしかに。
S:いま僕が51歳だから、EVを売るための準備を始めて、それが整ったとしてもすぐ60歳。じゃあ、その先何年やれるんだろう。たとえば僕のところに何人かスタッフがいて、後継ぎがいるとかなら、やらなきゃいかんけど、そうじゃないしね。
M:そうですよね。将来を考えるとその投資が有効かどうか。
S:でも、反対に古いクルマのマーケットが盛んになってきている現状もあって。
M:カウンターカルチャーみたいなもんですよね。
S:いまみたいな時代だからこそ、古いガソリン車に乗ってみたいという人が増えて、そういうマーケットが活気づいていけば、僕らも生き延びれるかもしれない。
M:僕、それは来ると思います。実際、106も底値を脱して、いま値上がりしてますもんね。気軽に部品出ないのに。
S:あり得るよね。うちのお客さんでも10年以上落ちのクルマ乗ってる人、たくさんいるんで。そこにいる人ってじつはあんまり変わらない。ただ、一般的なガソリン車の今後の寿命を考えると、たぶん20年ないんじゃないかなぁ。
―――2022年は?
売れ線をやればもうかるかもしれないけど、
そもそもその気がない。
S:うちのお客さんはほとんどが道楽者だから、EVシフトなんてどこ吹く風で自分の好きな道を極めていくんだろうけど、道楽にお金使うのも限度があるからね。
M:それはまちがいない。
S:道楽は、余裕があってこそできるものだから。余裕がなくなったら、道楽なんて真っ先に省かれる。このマーケットは、がんばってでもクルマ道楽をしようと思う人がいるから、何とか持ちこたえてるようなもん。
M:これまで普通にできていたクルマ道楽が、だんだんと余裕のある方向けになっていってるのかなぁ。
S:客観的に見ればね。でも主観的に見ると、当事者にとってはむかしからそういう趣味で、いまも同じようにそうしてるだけなんだよね。
M:ああ、たしかに。何も変わってない。
S:クルマ壊れた、ああ、直さないといかんね。オイル汚れてきた、ああ、交換しなきゃねって。一般の方々が「なんでそんなクルマにお金かけるの?」っていうことを、普通にやってきただけだから。でも、そういうことができなくなる可能性も、今後あるかもってことです。
M:なるほど。
S:それをすべてコロナのせいにしちゃうのはおかしいけど、下向きのスパイラルが底まで行き切ったというか、その底を突き破ってさらに下にいこうとしてる。まさしくメルトダウン!
M:そうですね。そう考えるとさっき話してた「まだいらっしゃる素敵なお客様」を見つけ出して、末永くお付き合いしてもらうしかないんですかね。
S:でも、そういう人は見つけようと思っても見つけられないよ。向こうから来てもらうのを待つしかない。来てくれればうれしいけど、当店は愛知県名古屋市中川区の一個人事業主なので、全国はカバーできない。
M:そうですね。それに、そういうことはいままでやってきたことだし。
S:そう。これまでやってきたことしかやりようがないから、来年もそれをキープしていきたいんだけど、それをやるには絶対的なクルマの流通量が必要になる。もちろん、売れ線をやれば、台数も多くなるし、売上も上がるでしょう。だけど、僕はそもそもそういう気がない。
M:それをやっちゃうとRENOじゃないし、すずきさんじゃないですもんね。
―――まとめ
給料が上がっていないのが、根本的な原因!?
S:もしね、コロナとか半導体不足とかがなかったとしても、クルマの値段は年々上がっていくわけですよ。
M:まぁ、これまでもそういう傾向ですからね。
S:だけど、日本人の収入は上がってない。だから買えない。
M:日本が貧しい国と言われる所以ですね。
S:結局、なんだかんだ言って買えないんだろうなって、サンデロ触ってて思ったね。
M:根本的な話で、収入が上がってないんだから仕方ないですよ。
S:それをコロナのせいにするのは簡単。だけど、違うんじゃないのって。
M:コロナの前からそういう傾向はありましたからね。
S:物価は上がる、税金も上がる、それなのに給料だけは上がらない。だって僕が大学卒業してから入った会社の初任給といまの若い子たちの初任給と大して変わらないだから。だけど、物価で言うと当時比で1.3倍くらいは上がってるんじゃない? そりゃ、クルマなんか買えないよね。
M:本来ならいまの若い子に初任給を聞いて「そんなにもらってるの!?」ってならなきゃいけない。でも、うちらのときと変わんないね、じゃいかんですよね。出た。結論。
S:物価は上がってるのに、給料が上がっていない。
M:そこだ。
S:ただね、企業も辛いと思うよ。人は欲しいけど、たくさん給料を上げられない状況だから。もうみんなが貧乏。でも、これって僕らが努力して何とかなるもんじゃないよね。
M:もう国政の話です。
S:むかしはさ、衣料品の生産とか日本国内では割に合わなくなったら、中国で生産するようになった。でもだんだん中国でも厳しくなって、タイやベトナムへ移行していった。でも、今度はそれが日本に戻ってくるんじゃないかと。
M:ははは、日本でつくるのがいちばん安い、と(笑)。
S:笑えない。来年、どうなるんだろ。しんどいなぁ。そういう意味では去年のほうが良かったね。
まだ楽観的だったもん。
M:いまはその要素なし。
S:でもさ、もしかしたら、EVでも「これなら欲しい!」っていうのが出るかもしれない。
M:というわけで、2022年の希望的観測は「なし」と言いたいところだけど、まだ一部に同志がいること、ガソリン車のトゥインゴを買っていくこと、ダシアにも注目していくこと……そんな感じでしょうか。
S:そうだね。お金ないけど。
M:2021年、ご愛読ありがとうございました。来年も引き続き、というか続くのかどうかわかんないけど、よろしくお願いいたします。
TEXT/ Morita Eiichi