今回は先月の「並行輸入車 現地で買って日本に持ってきて公道を走れるようにするまでにしているいくつかのこと(前編)」の続き。後編です。前回どおり記憶違い、あいまいな点もあるかと思いますが、その辺はご容赦くださいませ。
8 改善(直前直左確認鏡)
「カングー2のフェーズ1って
ガッツミラー付いてたけど、
フェーズ2で付かなくなったよね?」
Suzuki(以下、S)/えーと、あと何だっけ?
Morita(以下、M)/直前直左確認鏡。通称・ガッツミラーですね。
S/あ、ガッツミラーね。ガッツミラーはこういう規制。運転席に座った状態で、前と反対側(助手席側)の側面に立てた高さ1m、直径30cmのポールが見えなきゃいけない。
M/ほうほう。
S/以前、この法律が施行されたときは、ほんとにはっきりと見えなきゃいけなかった。だからみんな「ガッツミラー、ガッツミラー」って言って付けたけど、どうもその後、緩和されたらしく、一部でも見えれば良くなったみたいね。それがよく分かるのは、カングー2のフェーズ1ってガッツミラー付いてたけど、フェーズ2で付かなくなったよね?
M/あ、そういえばそうですね!
S/なので、そこが緩和された境目なのかな、と。
S/まぁ、でもはっきりじゃなくても見えなきゃいけないので、見えない車両にはミラーを付けるか、カメラとディスプレイを付けなさいというお達し。
M/なるほど。でも、純正パーツにガッツミラーがあればいいですけど、ない場合もありますよね?
S/そう。他車種のものを流用するにしても、そんな都合よく合うものなんてない。たとえ合うのが見つかったとしても、両面テープで貼っただけではダメだし、たぶんビス止めでもダメ。あ、ビス止めは頭にフタがしてあればOKだったかな。
M/そうなんですね。
S/うん。ボルト・ナットで締結するか、溶接してなきゃダメだったと思う。カメラの場合も配線が露出してるとかはNGだね。トラフィクのときは苦労したけど、何とかOKもらったよ。
M/へぇ。
S/でも、不思議なのは、カメラの場合、電源をONにしたときに確認できる状況になってればOKという……。
M/え? 常時ONじゃなくてもいいんだ?
S/そう。不思議だよねぇ。
M/ミラーは常時見える状態なのに、それに準じてるわけじゃないんですね……。
S/ちなみにむかしはデイライトの明るさがヨーロッパと日本で規制値が違っていたんだよ。ヨーロッパのほうが明るすぎて日本で使えないというのがあった。
M/ふむ。いまは?
S/いまは緩和されてヨーロッパの規格のままいけるようになった。
M/やたら明るいのありますよね。現行のボルボとかミニとか。
S/トゥインゴ3の初期はデイライトで引っ掛かった。だから、GTの最初の頃はデイライトが付いてないんだよね。規制緩和以降は付くようになったけどね。
M/へぇ、知らないだけで変わってるんですねぇ。
S/だから陸運局でけっこう突っ込まれるよ。「え、そこ?」みたいな。
M/ずすきさんも法改正をすべてチェックしてるわけじゃないだろうから。
S/そう。前編で話したマフラーが純正であることを証明する刻印や書類が必要になったのも、ここ最近だもんね。
9 予備検査
「予備検査って言うけど、
じつはやってることは
新規検査も車検もみんな一緒」
S/で、この後、予備検査に入る。前編から話してきた改善関係を全部やって、すべての書類が通った段階で初めて検査が受けられる。
M/ふむふむ。この場合、予備検査って言ってますけど、普通の車検と同じってことですか?
S/そうだね。僕らは予備検査っていうけど、新規検査も車検も予備検査もやってる内容は全部一緒。保安基準に適合してるかを確認してるんだから。
M/じゃあ、なんで「予備」って名称が付いてるんです?
S/うーん、それは予備検査証が出るからじゃない? 新規検査の場合は、車検合格後にここなら名古屋ナンバーをそのまま付けるけど。
M/ああ! 要するに予備検査は検査は通ってるけど、新規登録してない状態のこと?
S/そう。予備検査は車検は合格してるけど未登録。で、後日新規登録する。新規検査は車検に合格してそのまま新規登録する。ちなみに予備検査証があれば、日本全国どこでも新規登録ができるからね。
M/なるほどー。僕はてっきり並行輸入車独自の制度なのかと思ってました。じゃあ、これで予備検査を取れれば、無事に新規登録してナンバーが取得できるようになるってことですね。
S/うん、あとは税金は関係かなぁ。取得税は、いまは環境割税とかって言う名称(だったっけ?)で、県税が独自で定める。一説には本気で現地価格などを参考にして算定してるって噂。自動車税は排気量で課税されるのみ。エコカー減税などは、たぶん所定の検査や試験を行って、基準に合致してることを申請すれば受けれるんだろうけど、並行車でそれやってたら税金より高くつきそうなので、並行車は事実上対象外。やりたいなら掛かるコストをご負担いただき、試験を受けて基準を満たせれば、できるかも。でも、税金が安くなるだけだろうね。
M/保険はどうですか?
S/自賠責保険は、ナンバー種別などによってディーラー車と共通。任意保険、対人対物は大抵の保険会社が引き受けるけど、型式が不明だったりすると、通販系は引き受けないところもあるみたい。 型式がハイフン縛り(-xxx-)で、ディーラー車と基本的に同一な扱いだと受けてもらえる場合もあるかもしれない。取得税はちょっと特殊だけど、自賠責保険はディーラー車と同じ。任意保険は保険会社によって対応が違うね。
10 ラジオ
「FMは周波数帯がぜんぜん違うので聞けない。
じゃあ、どうするか?」
S/AMラジオについては日本とヨーロッパで周波数帯はだいたい一緒。だけど、1620kHzの路側放送(ハイウェイラジオ)は、ヨーロッパにはないんじゃないかな。FMの周波数帯はぜんぜん見当違い。AMラジオってFMでも放送してるじゃん? あの辺をヨーロッパでは使ってる。でも、これって日本独自のものらしく、アメリカとヨーロッパは同じなんだよね。
M/日本が特殊なんですね。
S/じゃあ、聴けないFMをどうするか。ルノーにおいては2000年くらいからクルマ側で周波数帯を変更できるモデルが出てきた。ルーテシア2とかトゥインゴ2とか。それ以外のメーカーではコンピューターのテスターで仕向地の設定を変えてやると使えるようになるやつもある。最近のクルマはテスターで変えられるようになっているのが多いかなぁ。これまでの経験だと、ラグナ2は日本バンドに変更できた。ラグナ3でも一部できたかな。ルーテシアもできた。メガーヌ2、3もできた。エスパスはできなかった。たぶんシステムが違うんだろうね。おおむね日本に来る予定のあるやつはできることが多い印象かな。ウチが持ってる汎用のコンピューターでできる場合もあれば、ディーラーが持ってるコンピューターじゃないとでない場合もあるから、こればっかりはやってみないと分からないね。
M/まったく為す術なしってわけじゃないんですね。
S/うん。ただ、フィアット・アルファ系はデッキごと換えるしかない。プジョー・シトロエンも一部できないのもあるから、100%ではないけどね。
M/もしできなかった場合、それでも純正オーディオで日本のラジオが聴きたい場合、何か手はあります?
S/日本の周波数をヨーロッパの周波数に変換するコンバーターがある。画面上の数値は変な数値になるけど、聴けるようにはなる。ちょっと感度は落ちるけどね。
M/ほう。そういうのがあるんですね。でも、個人的にはオーディオなんてデッキごと換えちゃうので、あんまり関係ないですけどね。換えない人も多い?
S/僕もね、国産の社外デッキのほうが性能はいいとは思うんだよ。でも、新車の状態でいきなりデッキを換えるのは、ねぇ。
M/ああ、なるほど。
S/まぁ、でもそれはお客さんしだいだね。
11 カーナビ
「これは申し訳ない。諦めてください」
M/カーナビについてはどうですか?
S/ナビは基本的には使えないね。純正ナビで日本の地図が設定されているのは、まずないから。これは申し訳ない。諦めてください。
M/これは並行車でもディーラー車でも一緒ですよね。
S/一緒。もしディーラー車でナビが使えるようになったとして、そのロムが手に入れば使えるようになるかもしれないけど、まぁ、日本のナビよりも性能は劣るだろうから。
M/ですよねぇ(笑)。
S/最近はもうグーグルマップでいいんじゃない? って思うよね。
M/ほんと、そうですね。
S/データ通信料の課題がクリアできれば、充分だよね。新車買って、そのときの最新のナビを買っても5年経てばもうだいぶ古いよね。そのクルマを10年くらい乗るとしたら、あんまりそこ頑張ってもねぇ。それだったら純正でアップルのカープレイに対応してるとか、そういうのを使った方が長く使える気もする。地域差ないし。
M/なるほど。
12 その他
「ルノーはインポーターが
二転三転してるおかげで、
部品を取るルートが複数ある」
S/だいたいこんな感じで、実際に乗り出せるようになるかな。後は何か気になるところある?
M/乗り出した後、たとえば消耗品とか、そういうのはディーラー車に比べてどうでしょう?
S/燃料とかオイルとか、そういう規格は一緒なので、日本で使っても問題ない。
M/まぁ、ガソリン車の場合はハイオク入れておけば問題ないですね。
S/うん。日本の場合はレギュラーのオクタン価がヨーロッパのそれに比べて低いので、事実上ハイオク指定。お金が気になるなら、レギュラーとハイオク半々でもいい。
M/ハイオク指定のクルマにレギュラー入れ続けるとどうなります?
S/まぁ、レギュラー入れたって走ることは走るけど、ハイオク仕様車にレギュラー使ってノッキングが続くと、あらぬところに負担が掛かって、ある日崩壊するって説もある。ハイオク仕様車にレギュラー入れて走ると、10%燃費が悪化するって試した人がいたらしいよ。
M/それすごいですね。
S/まぁ、結局ハイオク入れた方がいいんじゃないかなぁ?
M/もし、壊れたり、事故しちゃった場合、部品の取り寄せとかはどうですか?
S/ルノー以外の輸入車ディーラーは、並行車だからといって部品の取り寄せを拒むことはまずないです。
M/ルノー以外!
S/ルノージャポンは並行車の部品は一切入れれません、と言われる。
M/なんでかな?
S/日本の会社だからじゃない? むかしはやってたんだよ。以前は現地資本のルノージャポンだったから。でも、いまは日産自動車の100%子会社じゃん。
M/ああ、そういうことかぁ……。
S/だからルノージャポン主催のイベントで並行車が対象外にされてるのは、そういう理由じゃないかな、と。
M/大人げない。別にいいじゃん。
S/ただ、ルノーはインポーターが二転三転してるおかげで、部品を取るルートが複数ある。
M/ああ、そうか。ディーラーで取れないからね。
S/逆に言えば、他のラテン車メーカーはインポーターがちゃんとしてたがゆえに、そこにおんぶにだっこになっちゃってたから、他に取るルートがないんだよ。
M/そうですね。
S/プジョー106とかサクソとか、純正部品が手に入らなくなってきてるけど、ディーラーが「もう供給終了です」と言ったら、ほんとに手に入らないから困る。
M/まぁ、これはどっちがいいって話じゃないですけど、オーナーさんは切実ですよね。
S/ただ、テスター当てることについては、並行車であってもディーラーにあるテスターにつなげられれば、だいたい何とかなる。さっきのラジオの周波数帯を変更するために、ウチではできないからディーラーに持って行ったこともある。
M/でも、ダシアとかの場合はどうするんです?
S/たぶんルノーのテスターでいけると思う。ルノーのパーツリストってダシアとルノーと選べるようになってるんだけど、ダシアのパーツがルノーのところに載ってるやつもある。
M/そうなんですか。
S/そう。だから「クリップ」っていうディーラーのテスターでつなげば、そのまま認識してくれると思う。まだやったことないけどね。
M/じゃあ、ドッケールでもラジオの周波数帯を変えることは可能?
S/あれ、システムはトゥインゴと一緒なんだよ。なのでトゥインゴのデータでいけると思うよ。実際にやってないのであくまでも予想だけど、できそうな気がする。
13 完全な雑談
「ルノー、エルフ辞めたってよ」
M/他にあります? ディーラー車と並行車で違う部分。
S/すんごい細かいことだけど、トゥインゴ3、ディーラー車だと純正タイヤはダンロップとかんなんだけど、並行車だとネクセン履いてるんだよ。ルノージャポンがネクセンは止めてって言ってるのかな?
M/もしかしたらそうかも。
S/フランスモーターズのときは、高い確率でコンチネンタル履いてたもん。
M/なるほど! ヤナセだから?
S/あるかもしれないよね。あと、これも重箱の隅だけど、フランスモーターズのときは、ラジオのアンテナがちょっと短かったんだよ。
M/え! マジすか。
S/ルノージャポンになってからヨーロッパと一緒になった。
M/それは日本用のわざわざ短くしてたってこと?
S/うーん、分かんないけど、ヤナセのときは数センチ短かったのは事実。
M/よく気づきましたね。
S/オタクだからね(笑)。あと、フランスモーターズ扱いのクルマは「ルノーエルフ」のステッカー貼ってない。あ、後期の頃は貼ったあったか。
M/へー、最初は貼ってないんですか。ルノー車はみんな貼ってあると思ってた。
S/ルノージャポンになってからだと思う。やっぱヤナセだから?
M/エルフ、扱ってないですもんね。
S/余談だけど、その流れで行くと、いまのルノーの現行車は、ルノーエルフのステッカー、貼ってないんだよ。
M/そうでしたっけ?
S/エルフ、辞めたみたいよ。
M/えー!! じゃあ、いまは……
S/カストロールみたい。
M/えー!!!! そういうのって変わるもんですかね。
S/プジョー・シトロエンでいうと、むかしシェルだった時代もあったよ。
M/ああ、そういえば、グループB時代のプジョー205はシェルのステッカー貼ってあったわ。
S/まぁ、ルノーがずっと変わらないで来てるから新鮮だよね。でも、エルフ、ルノーがなくなったらどうするんだろう……。
14 まとめ
「すずきを生き残らせておかんと、
今後退屈になりそうだ」と
思ってくれるかどうか。
M/こうやって聞いてると、ディーラー車と並行車ってそう大して違わないですね。
S/並行車だから何かが劣ってるということはそうないと思うよ。ただ、世間には細かいことを気にする人もいるんで、そういう人はディーラー車買った方がいいと思うけどね。
M/そうですね。欲しいクルマが並行でしか取れないなら、それを貫くべきだし、たぶんそういう人は細かいことをごちゃごちゃ言わないような気がする。
S/むかしこんなことがあった。ディーラー車のルーテシア2 RSと並行車のベルランゴが同じ日に事故をして同じ日に預かって、同じ日に鈑金屋さんに入れたことがあって。交換しなきゃいけない部品も同じ日にオーダーしたんだよね。でも、どちらも必要なものは国内では揃わなかった。その後、同じ日に部品が届いたという。
M/ははは。おもしろい。
S/なんだ一緒じゃんって。まぁ、これはあくまでも一例だけどね。でも、ディーラー車だから部品に困らないってのは妄想。ってか、そう演出されてるにすぎないんだよね。単一車種で年間1万台売れてるとかなら話は別だけど、数千台以下だったら、正規も並行もあんま変わらんと思ってる。僕らはもう20年こういうクルマに乗ってきてるんでね。国産しか乗ったことのない人は、パーツが欠品してて来ないなんてありえないと思うかもしれないけど。
M/まぁ、ないもんはないから仕方ないですよね。それよりも店の姿勢じゃないですか?
S/そうだね。そんなの知らんよって言い逃れるクルマ屋よりも、何とかしますってっていうところで買ったほうがいいよね。
M/ですよね。
S/だって、ラジオの周波数の話でもそういうことだと思うよ。以前、エスパスでメーターパネルの表示がドイツ語になってて。「これ、ドイツ語なのはこだわりがあるんですか?」って聞いたら「いや、変えられないって聞いたからそのままです」って言うんだよね。いや、変えれますよって言ったら「え? 変えられるんですか? じゃあ英語でお願いします」って。その後、すぐに「やっぱりフランス語にしてください」って言われた。フランス語の勉強になったわ(笑)。
M/ははは。
S/あと、ドッケールってスペアタイヤ積んでないんだよ。
M/あ、ないんですね。
S/オプションで頼めるけど、基本積んでない。コンプレッサーとパンク修理キットがあるんで、うちはちゃんと使い方説明してる。クルーズコントロールやスピードリミッターの使い方とかもね。僕が常に完璧な仕事をしてるとは言わないけど、お客さんが困るだろうなということはちゃんとフォローしとかないとクルマ屋じゃないと思ってる。
M/そうですね。
S/ドッケールについても、もう5台以上売ってしまったので、花粉フィルターとかワイパーブレードとか、その辺のは揃えておかないとな、って思ってる。
M/ディーラーじゃないけどね。
S/ダシア・ジャポニア(笑)。やれんけど。
S/僕は生き残りたいし、生き残らなきゃいけない。だから、できることはやらなきゃいけない。目先のことだけじゃなく、もっと先のことまで考えてやってきたから、16年間1人で生き残れてきたと思ってる。これが売ったとたん、後は知りません。お客さんからなんか言われてもうまいことはぐらかす、っていうやり方だったら、僕から並行車を2台も3台も買ってくれるお客さんなんていなかっただろうし。お客さんが「あと10年はガソリン車があるとして、すずきを生き残らせておかんと、今後退屈になりそうだ」と思ってくれるかどうか。僕にはそう思ってもらうことが生き残っていく術なんだから。
M/そう思ってもらえるって、すごいことですけどね。
S/いや、どうか分からんよ。またドッケールなんか買ってきて、このおっさん何を考えとるんだって言われながらも、いや、でも買っちゃおうかなって、そういうお客さんが来てくれているだけかもしれない(笑)。電気自動車、ハイブリッド、ディーゼルは僕の知識・技術をかるーくハイジャンプしてるので、私的にはあんまやりたくないんだけどね。なんかあっても、困って途方に暮れる可能性が高いし、その責を負いかねるのはやるべきじゃないから。でも、そいでもやるというお客さんがいたら、それをご理解の上でAt Your Own Riskでやればいいんじゃないかなぁと思う。
TEXT/Morita Eiichi
Special Thanks to HOSHINA san