PEUGEOT 206SW XS

「丁度いい」という言葉を日常でよく口にする。程度が過不足なくぴったりとしているさま、という意味なのだが、これをクルマに当てはめてみると「デザイン、性能、価格など、クルマを構成するさまざまな価値基準において、それらが過不足なく、自分のライフスタイルにぴったりと合っているさま」と言えるだろう。ちょっと背伸びして買うクルマもあるだろうし、動けばいいという場当たり的な感覚で買うクルマもあるだろう。でも、そういうのはきっと長く乗ることはできない。なぜなら「過不足があるから」だ。結局ね、クルマって丁度いいものがいいんだよ。その人にとって。なんかすごく当たり前のことをもったいぶって書いて申し訳ない。

あらためて見ると、派手でもなく、地味でもなく、いいデザインというか、好感の持てるデザインである。おそらく206SWの外観を「絶対にイヤ! 嫌い!」という人はあんまりいないんじゃないかと思う206、だいぶ見なくなったね

おしゃれなイメージと手ごろな価格で大ヒットした206。日本に入ってきたのが1999年だから、ちょうど20年になる。当時は至るところで見かけたが、もう最近は街中でもほとんど見かけなくなった。あのころの206はみんなどこへ行ったのだろう……としみじみ思ってしまう。

206は1999年に1.4L SOHCの「XT」、1.6L SOHCの「XS」、「XTプレミアム」の3グレードで導入された。その後、2.0L DOHCブーメラン型のテールランプが印象的。バックフォグがバンパーの中央にあるのは珍しい配置かもしれない。ちなみにリアゲートのガラス部分は開きそうもないけど、ここだけ単独で開け閉め可能だの「S16」が加わる。で、2001年に1.6Lのエンジンがツインカム化され「CC」が追加に。SWが仲間入りしたのは2002年で、1.6Lの「XS(5MT/4AT)」と2.0Lの「S16(5MT)」の2グレードで展開。ちなみに「SW」とは「Sport Wagon」の略らしい(正式なアナウンスはないようだけど)。

 

使いやすいサイズ感と5MT

当該車はXSの5MTだ。市場に出回っているXSの多くが4ATだから、マニュアルは珍しいかもしれない。近づいて見てみると第一印象は「小さいなぁ」。近年は安全基準の厳格化から車体がどんどん大きくなっているし、そういうクルマを日常で見慣れていると、4030×1675×1475mmというサイズは小さい。ハッチバックは3835×1670×1440mmだから、もう全長の約20cmなんて誤差の範囲(言い過ぎ?)。現行のプジョーでいちばん小さいワゴンは308SWで、そのサイズは4600×1805×1465mmだから比較にならない(セグメントが違うけどね)。コンパクトなユーティリティーカーは、みんなSUVに取って替わってしまってワゴンは絶滅状態だ。

インテリアデザインはハッチバックと同じ。曲線を多用したデザインで「ああ、206だな」とホッとする。オートエアコン、前席ダブルエアバッグに加え、サイドエアバッグも標準装備。S16だとABCペダルの踏み面がアルミになるドアを開けると、何だか懐かしい。私自身が2000年付近のクルマに乗っているし、その辺りのクルマが好きなこともあり、この風景は落ち着く。シートもいまどきのクルマのようにパンと張ったコシのあるタイプではなく、適度に沈み込むクッション性のいいタイプなので、尻がしっかりと安定する。目の間の風景は他の206と同じだ。

 

あれ、206ってこんなだっけ?

シートも曲線を描いたデザインでインテリアの一部を構成している。適度に沈み込み、サポートも適度に効いているのでとても座りやすい思い出したのだけど、じつはこのコーナーで紹介した206はこれまでCCとRCだけで、いわゆる普通の206はやってない。やっていないのだけど、私自身は206のデビュー当時に1回(グレードは忘れた)とRENOさんの代車でお借りしたXTに乗ったことがあるのだが、XTの印象はあまり良くなかった。しかし、走り出してみると「あれ、206ってこんなだっけ?」と思った。いい意味でXTのときに抱いていた印象を裏切られたのだ。何がいいって、まず乗心地がいい。XTのときは足が突っ張った感じがしていたリアシートはヘッドレストを抜いて座面を跳ね上げて倒すダブルフォールディング式。荷室容量は最大で1136L。2.3mの長尺物も積めるのだが、SWは少し硬めだがしっかりとストロークし、全体的に足回りの剛性が上がり、安心感が増しているように感じた。後で調べてみると、ワゴン化にあたって、アームの取付け部やスタビライザーなどが強化されているようだ。

車重はハッチバックに比べて70kgほど増えているが、そのネガはほぼ感じないどころか、その増えた車重によって、ゆったり感、落ち着き感も増している気がした。これは人によるが、コーナーリングするときのロールスピードが自分の感覚にとてもマッチしていた。まさに「これぞ猫足!」と言える306のそれには及ばないものの、いまさらながら「206SWもなかなかやるな」という印象である。

 

エンジンは1.6L 4気筒DOHC。307スタイルも同じエンジンを使っている。実用型のエンジンなのですごくスポーティではないが、回すとそれなりに楽しい健気なエンジン

エンジンも良かった。以前乗ったXTはシングルカムの1.4Lだったため、それとはまったく比較にならないが、スタンダードな1.6Lツインカムはエンジンの回り方に雑味はあるものの、それでも頑張って上まで回ろうとする。音も大して良くないし、ザラザラしたエンジンのフィーリングも決して良いとは言えない。でも、何だろうな、そこに健気さを感じるというか、とにかく結果的に悪く思えないのだ。直6とかV6に乗っている人にとっては、感性に引っかからないと思うが、乱暴に言ってしまえば「味」のあるエンジンで、私はとても好感が持てた。

シフトフィーリングもハンドリングもまったく不満はない。シフトは適度にカッチリしていて、ハンドリングも適度に軽く、適度に速い。乗っているとワゴンであることを忘れてしまうほど、サイズ感もぜんぜん気にならない。当たり前だよね。ワゴンでもそもそもが小さいんだから。

 

荷室はほぼスクエアで使いやすそう。リアサスペンションは、プジョーお決まりのトーションバースプリングなので、サスペンションのマウント部分が荷室を浸食することはないライバル不在!?

206SWの良さを書いていて、気が付いたのがさっきも述べた「適度さ」なのかなと思う。適度だし、丁度いいんだ。5ナンバーサイズでコンパクトだけど、その割には荷物も載る。エンジンもガンガン回ってパワフルな感じではないけど、そこそこ楽しい。乗心地もいいし、飛ばしても足回りに不安感はない。でもって、5MT。いま思うとそんなクルマ、ないよね。ラテン車ではまずメガーヌ・エステートが浮かぶけど、あれは2.0Lだし、ZXブレークは1.8LでATしかない。1.6Lはゴルフ4があったと思ったけど、あれもATしかないし、ほぼ同サイズでありながら、価格が200万円台後半だ。こっちはデビュー当時の価格で200万円切ってるっつーの。いやー、206SW、いいんじゃん!(いま思い付いたけど、国産車にライバルいた! トヨタのサクシード/プロボックス。1.5Lで5MTがあり、サイズ感、パワー感もほぼ一緒。まあ、彼らは商用車が出自なので圧倒的に安いけど、それだけでなく使いやすいサイズ感も人気の秘密なんだろうな)

 

タイヤサイズは195/55R15で、非常に適切なセレクト。いまみたいに、かっこよさを追求するために無理やり大きなホイールを履かせたりはしていないいまだからこそ価値あるクルマ

206SWはもうどこにでもあるクルマではなくなった。むしろ現代においては希少で、貴重なワゴンモデルだと言える。中古市場を見ても、さすがに年式にはかなわないので、10万km以上乗ってるクルマが多いんだけど、たまに当該車のように5万kmそこそこの個体も出てくる。そういうのが50万円もしないで買えたりするだから、必要なところにしっかり手を入れてシャキッとさせてから乗るといい。

むかしは206なんてめちゃくちゃいたから、そんなに珍しくもなかったのだけど、いまだと「あえてこのクルマを選んで乗ってます感」はすごく出る。で、それがポーズではなく、心底このクルマの良さに惚れて乗る価値があると思うんだな。そう、いまだからこそ、ね。

 

PHOTO &TEXT/Morita Eiichi

 

 

2004y PEUGEOT 206SW XS

全長×全幅×全高/4030mm×1675mm×1475mm
ホイールベース/2440mm
車両重量/1120kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1587cc
最大出力/80kW(108PS)/5800rpm
最大トルク/147Nm(15.0kgm)/4000rpm

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