Suzuki(以下、S):今年もいよいよ終わりですねぇ。
Morita(以下、M):ですねぇ。皆さん、今年1年、このコーナーにお付き合いいただき、ありがとうございました。
S:今回は今年を振り返った総括的な話や来年の話なんかをしようかと。
M:そういえば、こういう感じのっていままでやってなかったですよね。
S:そうそう。まぁ、だらだらと話しますんで、お時間のある人、辛抱強い人、長文を読むのが苦痛じゃない人はお付き合いください。
今年の最大のトピックは「アルピーヌA110」の復活
M:ということで、今年1年、振り返ってみていかがでしたか?
S:今年って、ラテン車業界でもいろいろ新しいクルマは出たんだけど、まぁ、最大のトピックスはアルピーヌですかねぇ。
M:たしかにそうですね。
S:しかも、すごい力技で日本に来たっていうのがアルピーヌらしいかな。ディーラーもまだできてないのに(笑)。むかしから500万円以上のルノー車は売れないなんて言われてたところに800万円くらいのクルマが来るわけだからね。でも、すごい良さそうだし、ちょっと乗ってみたいね。まあ、でもルノーだからちょっと乗っただけじゃ分かんないんだろうけどね(笑)。
M:きっとそうでしょうね。
S:でも、充実感はポルシェのケイマンを買うよりもあるんじゃないかと。ただ、ウチの規模のクルマ屋だと、いまのところ生暖かく見守るしかないかなぁ。
M:鈴木さんところのお客さんでも、アルピーヌを買えるくらいの方っていらっしゃいますよね?
S:うん、いるね。ただ、そういうお客さんでも、このご時世なんでね。過去買えていたお客さんも、いまではそんな余裕はないというのもあるかもしれない。それにウチって意外と普通のルノー車の人の方が多いからね。RS系よりも。だからみなさん「あー、出たんだ」という感じで生暖かく見守っている感じじゃないかな。
M:なるほど。
S:アルピーヌのデビューがデカすぎるがゆえに、正直あれくらいしか印象に残ってない。もちろんアルファロメオとかでも色々出てるんだけど、アルピーヌ相手だと影が薄くなっちゃう。
日本はギリシャの二の舞になる!?
S:中古車業界で言うと、すごく色々なことが低調な1年だった。おとなしくしてるうちに1年が終わってしまった。こんなんでいいのか。
M:でも、それはクルマ業界に限らず、みな多かれ少なかれ抱えてますよね。
S:そうだね。デフレスパイラルのいちばん下まで来ちゃったよという感じ。もうこれ以上削るところないからさ。
M:東京オリンピックとか、大阪万博とか、そういうのに期待してる雰囲気はありますよね。
S:世間はそうみたいだけど、僕はすごく怖くて。多分さぁ、日本ってギリシャになっちゃうんじゃないかってね。ギリシャも2004年にアテネオリンピックやって国債発行してガンガンお金使ったでしょ。日本もまったく同じことしてるじゃん。お金を使いすぎて、ああなっちゃうんじゃないかって。すごく怖くて。まぁ、それは偉い人が決めたことなので、僕らは何とも言えないけど、僭越ながら言わせていただこう。「そんなことをしている場合か! 他にやることあるだろ」と。
M:オリンピックとか万博って、景気が良くて経済もどんどん上向いている時代にやるのは良かったんだろうけど、もういまは違う。景気も下降線、人口も減り気味、いろんなものがむかしと正反対になってる。それなのに、オリンピックってすごい、万博ってすごいって、そういうイベントにすがってもその通りになるとは限らない。
S:ああいうのは、お役所がやるんだけど、景気ってのは基本的にお金が回るから上がるわけで。それにしても、あのボランティアの話はひどいよね。何、あの県立高校生全員がボランティア参加って。ひでえ話だなと。時給、少しでもいいから出せと。そこでお金を使えば、みんなの収入が増えるわけだから、景気が良くする一助になる。
M:それに、そもそもボランティアってのは、自発的にやるものであって、強制されるものじゃない。強制労働だもん。
消費税が10%になる
S:自動車関係諸税についても、特に国民の断りもなく勝手にやってる。車齢13年以上のクルマの自動車税や重量税が10%アップだったのが、平成27年の4月からいつの間にか15%にアップしてる。実際はちゃんとアナウンスはあったと思うけど、周知はされてないよね。新車が売れれば、景気が上向くし、環境にもいいと言うことがあるだろうから「環境税として増税をします」ということなんだろうけど、果たしてその増税した分がそういう目的で使われているかどうかなんてうちらには分からないわけで。
M:税金が徴収された先の使い道は不透明ですからね。
S:クルマを契約するときに納品書とかいろいろ作るんだけど、税金やら何やら乗ってくるのをいつも目の当たりにしてて。でも、増税になってクルマの総額が上がっても、クルマ屋が儲かるわけじゃないからね。
M:右から左へ、ですもんね。
S:むかしは消費税を税別表示じゃなくて、税込表示にしていたよね。あれっていくら税金を払ってるか曖昧にしたかったわけで。でも、それって危険なことだと思う。クルマ屋もぶっ込みいくらとか、そういう表示にしてあるところもあって。でも、そうするとその金額のうちのどれだけが税金でというのを分からなくなる。すごく危険なことだよ。
M:しれーっと上げられててもわからないですよね。高い。だからやめとく。そういう思考になっちゃう。
S:これで来年の10月に消費税が上がる。実際は2%だけどね。
M:でも、こうやって段階的に上げられると、だんだん麻痺しちゃいますよね。
S:そう。実際に書類を作って、電卓を叩いててもえらい高くなったなと実感する。
M:メリットって言ったら、計算しやすくなるぐらいなもん(笑)。
価格を下げることは、自分の首も絞めることになる
S:消費税が10%になって影響が出てくるのは、税込み金額を見て「高い」となって買うのもやめちゃうこと。本当ならね、2%上がるんだったら、国民の収入も2%上がってしかるべき。それがなし得ていないのに、払うばっかりになってる。むかしはメガーヌに乗ってたけど、次はルーテシアでいいやっていうことになっちゃう。金額的な話ね。それって要は不景気でしょ。
M:クルマを買い換えるとき、本当に景気がいいんだったら、基本的にランクアップしますからね。年式が新しくなるとか。でもいまはランクダウンですからね。
S:払う金額もそうだし、次は新車にしようかなっていう気持ちにもならない。一般の人だったら「走って止まって曲がってができれば何でもいい」という思考になる。一見、安くなりそうなハイブリッドや軽自動車に集中する。まぁ、いまは軽自動車も普通車並みに高いけどさ。
M:軽自動車でも200万円を超えるのもありますからね。
S:物というのは、いいものが売れてればそれに関わる商売が成り立つわけ。でも、売れないとなると、安くするために人件費を下げたり、原価を下げたりして、結局どんどん自分で自分の首を絞めていることになる。でも、もうそれが限界になっているんじゃないかなぁ。みんなそれに気付かず、それでいいやと思ってるのかもしれないけど。
M:でも、そういう動きって「神の見えざる手」じゃないけど、コントロールできるものじゃないですからね。
S:そうだね。あとはできる範囲で争うしかない。経済的に考えればここまでなんだけど、ここだけは絶対に譲れないというラインが生命線を持つべき。本当に良いものが欲しいという動機は、そのラインにあるべきだと思う。
M:そういう感覚すら希薄になっている気がしますね。
安く買ったものは(何もしなければ)安くしか売れない
S:新車だったらだいたいどこで買っても大抵一緒だけど、中古車だとピンからキリまである。たとえば、前にあった話だけど、あるお客さんからトゥインゴを買い取ってくれという話があって。僕は誰も買わないからウチに相談してきたんだろうなって思ったんだけどね。まぁ、いろいろ聞くわけ。何年式ですか? 距離は? クラッチ重いですか? 屋根とボンネット、色あせてますか? タイヤの山ありますか? 車検は? って。その返答はことごとく良くなくて。もうそうなるとね、僕はそれをいくらで買ったらいいんですか? って話になる。お客さんは「個人売買で、このくらいで買ったから、これぐらいになるといいんですけど」って言うけど、仮にその値段で僕が買ったとしてウチで売り物にするとしたら、タイヤ変えます、塗ります、あれこれやります、結果いくらで売れると思います? って聞くとお客さんは「無理ですね」って。
M:あ、お客さんは分かってくれたんですね。
S:うん。でもさ、わざわざ付き合いのないウチに電話かけてくる段階で、あれだよね。そこにしか売り先がないというのは、そのお客さんが付き合ってるクルマ屋に「それはいらない」って言われてることと同じだから。
M:本当に欲しかったら、そのクルマ屋さんが「手放すときに言ってよね」って、そういう話になりますもんね。
S:クルマの買取で叩かれたっていうんじゃなくて、そもそもそのクルマにはそれだけの価値しかないっていうことに気づかなければいけない。「安く買ったものは、安くしか売れない」。
M:でも、本人はそれにあんがい気づいてない。
S:いまウチにいるルーテシア2、過去2年の間にタイベル変えて、クラッチ変えて、ボンネットも塗り直して、オーナーさんが手放すつもりなかったから、タイヤも新品に換えてる。全部計算したらいくらになりますか。そういうのが価格に反映されているんだよ。「いまどきルーテシアにこんな金額出して買う人いるの?」って言っている人は、何もしていないクルマに乗ってるんだよ、きっと。
メーターの中にスパナマークがつくんですけど、これ何ですか?
M:個人売買のときの消費税ってどうなるんですかね?
S:個人売買は、税込扱いになる。でも、売った人は税込みだからって消費税分を税務署に払うわけじゃないし、税務署も集金に来ないよね、でも僕らクルマ屋っていうのは、そのクルマを税込み扱いで買い取ります。でも、売るときは当然それよりも高くないと商売にならないので、それなりに仕上げて売るんだけど、僕らは消費税も税務署に払わなきゃいけないので、絶対的に高くなるんだよ。僕らは消費税分を確実に徴収されるわけだからね。
M:ぜんぜんおいしくないですよね。
S:消費税は預かり税の扱いなんで、中古車屋がいったんその税金を徴収しといて、1年まとめて払いなさいということになってる。それが5%、8%、10%ときました。そうなると、個人売買で買う場合の金額と、中古車屋で買う場合の金額の差がどんどん広がっていく。だからクルマ屋でクルマを買いにくくなる時代がやってくる。
M:クルマ屋は高いので、個人売買で買えばいいじゃんって話になりますよね。
S:買ってから直してモノにすればいいやって思ってくれるならまだいいけど、クオリティの低いクルマでも、だいたいそのまま乗って、致命的なことになっても延命措置どころか何もしない。で、結果的に捨てるってことになる。
M:そういうサイクルがどんどん加速しますよね。
S:だから、僕は価値を認めてもらえるようなクルマにして売らなきゃいけないと思ってる。ちょっと大げさだけど、文化財を保護するくらいの気持ちで。そういうクルマを増やしていかないと。絶対的にデフレスパイラルの下まで来ちゃってるいま、僕らがやるべきことは、そういう世界とは違うんだよ。世間一般のクルマ屋は、高いと売りにくいから、お客さんから下取ったものに最低限これだけ乗っけて、クルマは基本的に現状。大して視ることもせず、そのまま納めるって言うのが、ここ10年ぐらいを横行しちゃっている。ウチにもたまに「どこどこの店でこれ買ったんです」ってお客さんがクルマを見せに来るし、お客さんには「いいのがあったら買っちゃえば」って言うけど「覚悟はしといてね」とかならず付け加えてる。
以前ね、あるクルマ屋からクルマを買った人がいて。「1ヶ月乗ったんですけど、なんかメーターの中にスパナマークがつくんですけど、これ何ですか?」って。安いのを買うということは、結局そういうことだからね。
M:そうやって考えると、お金ってのは結構正直ですよね。あんまり嘘つかない。その金額がそのものの価値として表現されている。
S:その値段に対して、その人が認められるかどうかってことだよね。これだけやってあるんだから、この値段でもいいよねって。
M:値段とその物の価値が釣り合うからお金を払える。でも、クルマも見ず、話を聞くこともなく、液晶画面で写真と値段しか見てなくて、それで判断するってのはどうかと。その時点で高いも安いもないだろうと。
S:ただ、そこにつけ込む商売が中古車屋でもある。
M:ひぇ~。
お客さんに対する説得力を維持するのは簡単じゃない
S:むかし、パンダ1を見に来たお客さんがいて、急いでるわけじゃないし、どうせ買うならいいのを買いたいと。で、僕は「急いでないんだったら、ひまなときにいろんなパンダを見てきて、その中で一番いいのを選ぶといいよ」と。でも、ウチのはこれまでの経験則からこれ以上ないと思うよって。そのときお客さんはピンと来てないみたいだったけど、それからまた来てくれて「何軒か回っていろんなパンダ見てきたけど、言われた通りこれがいちばんきれいでした」って。
M:最終的にはクルマ屋さんを信じられるかどうかって話でもありますね。
S:お客さんに対する説得力を維持するっていうことは、そんな簡単じゃない。逆に言えば安ければそれだけでいい。
M:「安い」という免罪符がありますからね(笑)。
S:営業職で何がすごいのかって言ったら、高いものを売ってこれる営業がいちばんすごい。でも、高く売るためにはその根拠がないと当然売れない。そういう部分の努力ってあまり表に出ないから分かってもらいにくいんだけどね。ウチが納めたクルマで、お客さんが納車後にコーティング屋さんに持っていったらしいんだよね。そこで「このクルマ、どえらい磨いてあるね」って言われたそう。そりゃそうだよね。こっちは納車のために3日かけて磨いてるわけだから。
M:3日!
S:さっきのスパナマークの話じゃないけど、あれはオイル交換の時期を知らせてくれるもので、オイル交換したら、リセットするんだよ。そういうのって、売ったからにはやらなきゃいけない。でも、つないで見てみたら、過去の履歴がずっとリセットされずに残ってるんだよね。
M:誰も見てない。もしくはリセット仕方がわからない(笑)。
S:つまりはそういう扱いしかされてこなかったクルマってことだし、それくらいのこともできないクルマ屋ってこと。その人は気に入って買ったクルマだし、その後も維持していこうという気持ちがあるみたいだからまだいいんだけどね。
生き残るためには、譲れないクオリティをどう維持するか
S:ウチが「そのクルマ、そんな値段で買う人いるの?」っていうぐらいな値付けをしてるのは理由があって。あるお客さんがクルマを見にきて「このクルマ、結構きれいだけど、ちょっと値段がね」っていう場合もある。そういうとき、僕は「これとこれは急がないから、この値段にするよ」と。買った後1、2年したらやればいいからって。そういう話をするし、そういう話をするのが中古車屋だと思ってる。
M:すずきさんとこって、見積もりも分かりやすいですよね。
S:別料金の表示があるからじゃない? たとえば、オイル交換は別料金。お客さんによっては、ルーテシアに Galaxy なんて入れるのはちょっとねって人もいる。1リットル4000円ってどんなオイルですかって。リッター2000円台のオイルでいいっていうお客さんはそれに対応するし、ワイパーゴムなんかも自分でやるからいいっていう人もいるからね。
M:なるほど。
S:見る人にとっては、高いだろうね。でも、僕はせめて買って1年ぐらいは「やっぱりいいクルマ買ったな」と思ってもらいたい。だから過去15年ぐらいやってるけど、納めて1年以内に由々しきことが起きたのはほぼない。そういうところに車屋の存在価値があると思ってるし、それがないんだったら車屋じゃなくていいし、店もなくていい。ブローカーでいい。
M:たしかにそうですね。
S:まあ、クルマなんて何でもいいって人がいる限り、ブローカーでも成り立つけどね。「嫁さんのクルマがもうすぐ車検なんだけど、取るつもりないからなんか乗れるクルマない? 50万円ぐらいで」みたいなのには、適当なクルマを提供すればいいわけで。でも、それって液晶で見てるのと一緒だよね。クルマ屋も何かあっても責任を取らない。壊れたら壊れたで、また安いの買えばいいかって。でも、そんなの楽しくないよね。欲しいものを買ってないんだもん。
M:クオリティを維持するということが、至難な時代になっているかもしれないですね。
S:ウチは中古車については他の店よりもだいたい5万、10万高い。でもそれをしれーっと載せてるのは、そこまでのものにする努力をしてるし、過去そこまでしてきたクルマであるという証拠でもあるんだよ。
M:それが必然的にクオリティを保つことになるし、そのクルマの寿命を延ばすことにもなるし、そのクルマに乗って楽しいと思える時間を増やすことにもなるんでしょうね。
S:現車を見ず、触らず、液晶画面だけで値踏みするのはそろそろやめませんか? と。本気で乗ってる人は「ああ、この値段ってことは、相応に手が入ってるはずだよな」となるはず。現車を実際に見たらオススメできる個体なのかもしれないよ。そういう意識もなく、高いって判断するのはねぇ。
M:写真だけでは分からんすよ。
S:もう1つは「帰ってきてもらって困るものを納めるわけにはいかない」というのもある。
M:高いところで維持できているのがいちばんいいですもんね。
S:でもねぇ。いまの時代は安いのをタッタカタッタカ売ってるほうが売上は上がるんだよね。
M:かなし……。
S:僕が生き残るためには、譲れないクオリティをどう維持するか。それが「もういいや」ってなっちゃったら市井の皆さんと同じ商売になっちゃう。クルマもわざわざ遠くからでも買ってくるよ。福岡ですか、徳島ですか。取りに行きます! って。中古車のオークションでも、左ハンドルMTのクリオ!? これは買っとかないかん。二度と買えない。僕が買わずして誰が買うみたいな、妙な使命感があったりして。世間はみんな右ハンドルでしょう。オートマでしょう。だけど、ウチは違う。商売を考えたらきっと EDC の方が売りやすいし、その方が売上も上がる。安く仕入れて安く出せるのかもしれないけどね。
プントを止めるってのは、ムルティプラをモデルチェンジして角目にしちゃったとき以上の失策
M:消費税の話が出ましたが、来年について他にも何かありますか?
S:そうだね。フィアットかな。夏頃にプントを止めるって話が決まったこと。
M:セルジオ・マルキオンネさんですね。もう死んじゃったけど。まぁ、彼にしてもそうですが、フィアットは定期的に迷走しますよね。
S:このコーナーでもやったけど、1.4のスポルトね。5ナンバー枠に収まるサイズ感、優れたパッケージ、そこそこのパワーもあってマニュアルで乗れる。そんなクルマってほかにない。ただ、クルマのできとしてはひとむかし前のフィアットだから、次のモデルはパンダ3のクオリティで出してくれれば、充分フランス車と勝負できるクルマになる……はずだったのに!
M:5枚ドアもラインナップしてくれたらなおよし!……だったはずなのに!
S:よりによってプントを止めるとは。フィアットとしては500があるから、後継はそれにやらせればいいと思ってるんだろうけど、プントはフィアットの屋台骨を支えてきたモデル。それをばっさり切るのはねぇ。
M:過去、経営危機から救ってくれたクルマでもあるのに。
S:日本国内の話だけど、ルノーは一時期、カングーにおんぶにだっこだったけど、いまはカングー以外のクルマが伸びてきて、順調なセールスを続けている。けど、フィアットに関しては、日本の市場がいつか500を見飽きるときが来るんじゃないかと思うんだよ。フォルクスワーゲンはザ・ビートルを止めたけど、ああいうクルマっていつまでもやるもんじゃないよね。
M:ブームなんですよね、結局。
S: BMW Miniみたいにどんどん進化させていっちゃうと、過去の栄光を否定することになっちゃうから、どっかで線を引かないといけなくなる。実際、500もちまちまと変わってるけど、なんだかんだ言ってニュー500は最初のやつがいちばんそれっぽいよねっていうことになっちゃう。ザ・ビートルもそうだよね。いちばん最初のやつがいちばんいい。プントを止めるってのは、ムルティプラをモデルチェンジして角目にしちゃったとき以上の失策だと思うわ。
M:同感(笑)。ムルティプラは台数売れないけど、あの丸目のままずっと作ってればよかった。
S:丸目のまま20年作って欲しかったね。あれってクルマ業界の歴史に残る見苦しい名車だったもん(笑)。
M:最初、出たときはびっくりしましたね。コンセプトカーかと。
S:多分、プントをやめたことに後悔するときが来るような気がするね。フィアットの本来の屋台骨はプントにあると思ってるから。ルノーで言えば、トゥインゴ3がヒットしたから、ルーテシアやめましょうって言ってるようなもの。
M:FCAの方針としては、他の高級ブランドに注力していこうということになるんでしょうけど、そうなると今後のフィアットには期待できないですね。それこそクーペフィアットだったり、バルケッタだったり、そういうクルマにしか興味がいかなくなる。
S:クーペフィアットね。あれをお金積んででも何とかしたいというお客さんがいたら、ぜひやってみたい。
M:ほんとかっこいいですよね。
S:ただ、いまから起こすとなると大変だと思う。もうちょっと早く気が付いて1台ぐらいパリッとしたクーペフィアットを作っておくべきだったと、いまになって思うね。
正直手詰まりなんだよね、ヴィブルミノリテ
M:来年はこのコーナーの行く末も考えないといかんですね。2009年から始まって、エントリーは130を超えました。え、ということは、来年で10年!?
S:だねぇ。よくここまで続いたなと思う。ほとんど重複することなく、ここまで来たけど、ネタに困ってることはたしか。できるだけ同じクルマは避けたいと思ってるけど、正直手詰まりなんだよね。後はヴィブルミノリテ用にマイブームじゃないクルマでも仕入れてくるか。
M:でも、そこまでやるかって話ですよね。
S:ヴィブルミノリテの基本コンセプトは、書く内容に関して僕が口を挟んだりせず、チョウチン記事にならない正直なインプレッションを書こうという方針でやり始めた。だから、プジョー207みたいなのも出てきたよね。
M:ですねぇ。唯一と言っていいほど、褒めていない記事(笑)。褒めてないというか、あれは現実をそのまま書いただけなんだけど……。
S:最低限の脚のクオリティは何とか維持してるけど、エンジンとミッションの組み合わせが……。
M:エンジン自体もつまらない(笑)。
S:そしてエンジンの特性を見事にスポイルするミッション。さらに206ぐらいのサイズだったらいいのにでかいし、デザイン的にもどこがいいのかわからない。
M:プジョーの07シリーズは厳しいですよね。307も407も。
S:だからそういうのを覚悟の上で、そこを責めるか。
M:それって誰得ですかね?(笑)
S:あ、でも DS シリーズは1回やりたいと思ってる。DS 3とか、真剣に乗ったことがないから。
M:そろそろ価格もこなれてきましたしね。
S:そこそこ売れたクルマだし。レーシングとかだったらなお面白いだろうけど、普通の DS 3でもいい。乗ってみるとちゃんとシトロエンだからこれはこれでアリだなと思ってる。
M:じゃあ、買えるものがあったら買います?
S:うーん、それは微妙だな……。頑張って仕入れて在庫しようとは思わないけど、きちゃったら買う。
M:消極的!(笑)
S:あとは……、ずっと言ってるけど、グランデプント・アバルト。500じゃなくてね。
M:グランデプント・アバルトって、びっくりするくらい見ないですよね。
S:あんまり売れなかったんだろうね。グランデプントは本当にパッケージがいいのに、なんで売れなかったんだろう。
M:デザインもいいのにね。
S:「史上最安値で買えるジウジアーロ」なのに……。
希望の星は「ヨーロッパのプロボックス」
M:んでは、来年は中古車業界も、このヴィブルミノリテもお先真っ暗ですかね。なんか明るい希望の星が1つくらいあるといいんですけど。
S:そうだねぇ。そうなるともう「ダシア・ドッケール」しかない。
M:そこまですずきさんが入れ込むのは、何がポイントなんですか?
S:むかしさ、このコーナーでもやった白で黒バンパーのカングー2。あれが乗って良かったので。最近、新車並行で取ってないから何かしたいと思ってたんだよね。最初はね。イタ車でやろうとして。普通の124を考えてたんだよ。
M:じゃないほうですね(笑)。
S:そう。 アバルトじゃないやつが面白そうだなと思ったんだけど、本気で売れる気がしない。だから、フランスで考えるかと。プジョー・シトロエンはイマイチだし、ルノーもイマイチだし。あ、ダシアがあったな。ロガンMCV をまたやるっていうのも手かもしれないけど、カングー相当のものだったらドッケールがあるじゃん。で、最初は豪華仕様のやつを見てたけど、カングーと大して変わらない。じゃあ、あえて下のグレードにして、色々組み合わせれば両側スライドドアでエアコン付きで商用車っぽいのができる。
M:なるほど。
S:もう完全に自分の趣味で仕入れるクルマ(笑)。
M:アバルトじゃない124ってのもそうとう面白いですけどね。
S:うん。でも、どうせ誰も買わないんだったらドッケールの方がいいんじゃないかと。むかしロガン買ったときは、社用車にしようと思っていたんだよね。先代の社用車がエクスプレスで、とにかく壊れまくって、毎月毎月こんなんやっとれんわということになって、デモカーを兼ねて新車を買ってしまえと。その当時、買うならロガンMCVで 7人乗り! 面白いじゃんって。ロガンは超絶の信頼性! 壊れない。見れば見るほど壊れそうな気がしない。すべからくどこかで見たものしかない。ローテクの塊。クルマなんてあれでいいと思わせてくれるクルマだった。まぁ、働くクルマならなおさらだよね。大衆実用車はツインカムである必要ないし、マニュアルでいいし。「ヨーロッパのプロボックス」だからね(笑)。
一回通り過ぎて、また戻る。それがドッケール
M:ドッケールが来たら、国内初?
S:そうだね。日本初。紺色が年内には日本上陸して(*1)、早ければ2月ぐらいに白が来る。発注してからクルマが来るまで、半年ぐらいかかるだよね。ぜんぜん生産が間に合っていないみたい。
M:そうなんですか。売れてるってことですね。
S:そりゃそうだよ。カングーを買おうかなという人は、カングーじゃなければいけない必要性はないもん。日本は違うけど、同じようなクルマでルノーよりも20%安いだったら、こっちにしようってなるよね。働くクルマだからさ。
M:たしかにそうですね。
S:なんか聞いた話だけど、フランス行くとタクシーはロガンばっかりみたいよ。まぁ、メガーヌである必要はないもんね。メガーヌとの差は何かと言ったら「出がらしの技術」!
M:出がらし(笑)。熟成されたとも言いますね。
S:僕はあえて出がらしと言いたいけどね。見慣れたものしか使ってないから。
M:それは一つ楽しみではありますね。
S:なので、来年のメインイベントは、ドッケール。社用車にしたいくらいだけど、買ってくれないと困るクルマでもある。
M:欲しい人、いると思いますけどね。
S:そう。結構刺さる人もいるんじゃないかな。あの得体の知れなさ。
M:それにしても、あのデザインって微妙ですよね。その微妙なラインがいいんだけど。
S:最近のダシアのデザインを見てると、他のクルマが気をてらっているようにしか見えなくなってくる。ダシアは頑張った感がない(笑)。
M:これでいいよね。デザインって。余計なことしなくていいよね。みたいな。あのどこか達観したレベルまで行ってるようなデザインは、ほかにないかも。
S:見苦しいわけじゃない、絶妙なラインをいってるよね。目をひかなさ加減も。
M:新車なのに、走ってても誰も気がつかない。
S:振り向きもされない。フレンチブルーミーティングみたいなイベントで、一般の駐車場に置いてあったら、一回通り過ぎて、また戻るみたいな。
M:ん!? ダ、ダシア! しかもドッケール!
S:一般の人は、なんだカングーみたいなもんじゃんって思うだろうけどね。
M:すずきさんところのお客さんは、マニアックな人が多いけど、そっからさらに一歩奥に入ったマニアに求められるクルマですね。
S:100人いたら2、3人がツボにハマる。これはいいわと。ニヤニヤできる人。でもね、そうそう。さっきの仕様で頼むとフォグランプがつかないだよ。フォグランプをつけようとすると、カラードラバンパーになる。
M:強制的に。
S:だから、来てからフォグランプをつけようと。まぁ、お客さん次第なんだけどね。写真で見るとフォグランプの位置にカバーがついてるので、あれがちょっとみっともない。なので、純正のフォグランプを後から入れようかと。
- *1……1/30時点ですでに到着
まっとうな商売をやりつつ、趣味でもやる。
M:というわけで、来年前半はひたすらドッケール推しで。
S:久方ぶりにツボにはまったクルマなのでね。まぁ、でもそれもウチの規模だから、こんなことやってられると思う。大手の並行車屋さんは、そもそもやらないだろうし、むしろウチだからそこに目をつけるべきだし。
M:来たら来たで、売るのが惜しくなるかも。
S:えー、買っちゃうのって言いたくなっちゃう(笑)。シングルカムのシンプルな1.6ガソリンエンジンで、オートマもない。右ハンドルもない。そんなクルマですが、よろしくお願いしますって感じです。
M:はい。んでは、そろそろ終わりますかね。ここまで到達してくれた人は何人いるんだろう……。
S:まっとうな商売をやりつつ、趣味でもやる。来年は、いや来年もこの方向性でよろしくお願いします。
TEXT/Morita Eiichi