RENAULT Lutecia 16V

ルーテシア4 RS、ルーテシア2 RS ph2に続き、さらに先祖返りし、今回は初代ルーテシアの16Vが登場。ルーテシア1といえば、クリオ・ウィリアムズが圧倒的に著名だが、これは16V(本国では16S)。ルーテシア2でいえば、ルーテシアRSとルーテシア16Vのような関係か。まぁ、とにかく一段下がった立ち位置にいるので、あまり馴染みがないかもしれない。

 

 

グリルレスのフロントフェイスは精悍でなかなかハンサムだ。ルノー初の樹脂フェンダー採用(だったと思う)。盛り上がったボンネットは、エンジンルームを見ればその理由が分かる。ギッシリ詰まっているので、ターボ車でもないのにエアインレットが開けられている。位置的にエキマニを冷やすためのようにも見えるが……兄弟がたくさんいるルーテシア1

誕生は1990年。シュペール5の後継車としてデビュー。本国ではエンジンのバリエーションが多く、1.1 L、1.2 L、1.4 L、1.7Lのガソリンと1.9Lのディーゼル(1991年に登場)。グレードもまた多い。RL、RN、RT、16S(1991年に登場)、バカラ、ウィリアムズ(1993年に登場)があり、商用車としてもRCがラインナップされた。

日本には1991年からジヤクスが輸入元となり、1.4LのRN、RT、バカラ、16Vが入リアビューはプジョー106 S1にも似ている。フェイズ2になるとエンブレムがガーニッシュ部分ではなく、ボディ(鉄板)部分に付くようになるってきた。全車左ハンドルで3ドア、5ドアがあり、ミッションも車種によってMTとATを選べた。その後、ランニングチェンジ(製品の型番を変更しないまま設計変更を実施すること)でシートなどが変更された個体が登場(便宜上、フェイズ1.5と呼ぶ)した。

1994年にマイナーチェンジされ、フェイズ2へ。フロントのグリルやリアガーニッシュ、テールランプなど、まさにマイナーチェンジと言える変更。この頃、ジヤクスはルノーの輸入を止めてしまったため、その後釜としてヤナセグループが「フランス・モーターズ」を立ち上げ、輸入元となった。

1996年、2度目のマイナーチェンジでフェイズ3に移行。このマイナーチェンジはフェイズ1から2への移行よりも分かりやすく、明らかに丸みを帯びたデザインになった。ちなみにフェイズ3はRNのみで16Vは輸入されなかった。

 

シュペール5の雰囲気を残したダッシュボードのデザイン。ステアリングは手が触れる部分のみ本革になっている輸入元とエアコンのサイドストーリー

日本への輸入は、フェイズ1から1.5のときにかなりドタバタした。そもそも発端は1991年、ヤナセグループがVWの輸入販売から手を引くことを表明したことから始まる。関東圏のディーラー網を確保したかったVW日本は、ルノーの業績が伸び悩んでいたジヤクスを買収。「ファーレン東京」を設立し、1992年からトヨタ自動車と販売契約を結んだのだ。このため1992年以降、ルノーの販売代理権は宙に浮いてしまうこととなる。

左から油量、油温、油圧 これは余談だが、当時、ルーテシア1 フェイズ1と1.5は、本国でエアコンの設定がなかったので、エアコンレスの状態で輸入されていた。しかし、日本でエアコンがないのはきついということで、ユニクラが後付けでエアコンを提供したのだが、それを取り付けるのは至難の業だったらしい。オルタネータを撤去し、プーリーごと軸を伸ばした国産品に交換。コンプレッサーも設置し、ベルトを通すスペースを確保するために、右ライト裏を切削加工、補機類のマウントステーも交換するなど、その他にも細々した作業が必要となり、取り付けにはエンジンを下す場合もあったらしい。このエアコンキット、現車の発売時に間に合わず、初期型の一部の車両は、いったんエアコンなしで登録納車され、後日、クルマを預かってエアコンを取り付けるという販売方法をとっていた。しかし、先述の大作業である。この作業費はだれが負担するのかとジヤクスと揉め、長期間預けなければいけないオーナーからもクレームがあり……と大ごとになったという話もある。さらに大作業を終えて取り付けたにもかかわらず、ほぼ確実にベルト鳴きが発生する事態に。適正と言われているテンションで若干鳴く程度だったようだが、それを嫌がり鳴かないようにテンションを掛けると、先述した長いオルタネータの軸が折れてしまうという惨事も起こった(ベルトの初期伸び、補機ステーのテンショナーの脆弱さも手伝ったらしい)。さらに、たとえベルト鳴きを回避できたとしても、そのエアコンは大して効かず、取り付けても地獄、取り付けなくても地獄が待っているという状況だったようだ。

1994年、宙ぶらりんだったルノーの輸入元が決まった。ヤナセがつくった「フランス・モーターズ」だ。フランス・モーターズは、例のエアコン事件を当然知っていたので、本国のルノーに掛け合い、日本向けにエアコンをつくってくれるように頼んだ。その結果、フェイズ2からは自社製のエアコンが載るようになり、事態はようやく終結したという話だ。

さらに余談だが、つい先日、RENOさんに1995年のフェイズ2が入ってきた。レザーシート仕様のレアな個体なので、後ほど撮影して追記するかもしれない。

 

シートの座り心地はすばらしい。しっとりもちっとしたリッチな感触は、この時代のルノーならでは

異質なモデル!?

さて、話が横道にそれてしまったが当該車、先に話題にした1993年のルーテシア16Vフェイズ1.5である。外装はフェイズ1だが、内装のシートだけフェイズ1とは違うものが付いている(とはいえ、フェイズ2からはウィリアムズと同形のシートを採用しているようなので、またこれとは違うらしいのだが……)。

 

実車を前にすると、やはり現代にクルマにはないコンパクトさ。私の中ではコンパクトカーといえば、全長3.8m以内、全幅1.7m以内のイメージ。現代のクルマと比較すると明らかに小さいが、この小ささが落ち着くのだ。

リアシートもフロントほどではないがしっとりとしたかけ心地。ヘッドレストはフェイズ3から標準装備されるドアを開けて乗り込み、スタート。イスは相変わらず素晴らしい。現代に近づくにつれ、ルノーのシートは張りがあり、硬めの方向性をとっていくが、たっぷりとしたウレタンが感じられるリッチな感触はこの時期ならでは。ずっと座っていたくなるシートだ。そのシートの感触を味わうのも束の間、乗り出して数十メートルで「あれ?」と思った。勝手に5の後継車ということで、そのイメージで運転したのだが、ぜんぜん違う。ルノーといえば、5にもあったようにしっかりとストロークするスタビリティの高い脚が持ち味。たとえコンパクトカーでもしっとりとした上質な乗心地なのだが、このクルマはその路線から明らかに外れている。これはあくまでも感触レベルの話として聞いてほしいのだが、まずストローク感が薄い。ストロークはしているけど、その幅が狭いのだ。もちろん新品の足回りではないので、個体差もあると思うが、それを差し引いてもR5の乗り味とは正反対と言える。ただ、それは決して悪いことではなく、むしろそのおかげでキビキビした走りができ、俊敏さと軽快さが感じラゲッジはこのサイズにしては効率よくスペースを取っていると思う。シートバックは6:4の分割可倒式られるのだ。適切なたとえじゃないかもしれないが、この乗り味はプジョー106やシトロエンSAXOに通じるものがある。おそらく106オーナーがこのクルマに乗っても、106の延長線上で運転できるのではないか。しかも106より200ccも排気量がアップしているので、パワー・トルクともに余裕があり、運転しやすいと感じるはずだ。

最初は「ルノーなのに、何だこの足回りは!?」と混乱したけど、数分で慣れた。踏めばダイレクトに湧き上がるトルク、低速時は重いステアリングも、攻めているときにちょうどいい重さに変化し、路面のインフォメーションも細かく伝えてくれる。コーナーリングが実に楽しいので、コーナーをクリアするごとに「ああ、これはおもしろいわ」と呟いてしまう。

エンジンルームにギッシリと詰め込まれたエンジンは1.8L DOHC 16V。フランス大衆車は全体的にクルマの大きさに対して少し小さいエンジンを積む傾向にあるが、ホットハッチである当該車は小さなボディに強心臓を載せるという方程式に沿ったもの エンジンもだいたい4500rpmくらいからドラマチックになってくる。これも全域フラット傾向にする現代のエンジンにはないキャラクター。5500rpmを超えると、足先の動きに対しさらに敏感にエンジンが反応する。変な言い方だが、とても有機的で血の通った、まるで生き物のようなエンジン。クルマのキャラクターが分かりだすとともに、そのおもしろさがジワジワと染み入ってくる。16Vの楽しさが分かってくると、今度はクリオ・ウィリアムズのことも気になってくる。このエンジンにさらに200cc上乗せした2LのF7Rである。足回りもR19のものを移植しており、きっとこの16Vとは違った乗り味になっているだろう。ああ、気になる気になる……。

 

タイヤサイズは185/55R15。ファンのような羽を持つホイールデザインは、アルピーヌV6ターボのそれと近似している異質さの理由は?

ルノーのベーシックコンパクト。R5からの系譜でいけば、明らかにこのルーテシア1 16Vは異質な乗り味で、ルーテシア2からまたR5の方向性に戻ったように感じる。この外し方には何か意味があるのだろうか。無理やりにその理由を見つけるのなら、1979年からの北米進出、AMC買収がうまくいかなかったこと、国内では財政不振や民営化にともなうゴタゴタでルノー本体の体力が削がれていたことなどが挙げられそうだ。そういう背景を考えれば、クルマの開発も細部までしっかりと煮詰めた設計や品質を担保できるような製造体制がつくれなかったのではないか。実際、ルーテシア1は製品としての信頼性は高いとは言えず、新車から3年くらいでいろんな部分が不具合を起こした。フェイズ1、1.5あたりは、当時「R5から何も進化してない」と揶揄され続けた。度重なるランニングチェンジで、フェイズ2になってようやく当時の他車と並べられるレベルに達したが、こと日本においては、すでに商機を逸していたことは想像にたやすい。
工業製品として雑だなぁと思えるところがあるのは確かだか、それがルーテシア1の”味”にもなっているのも確か。ただ、これを所有しようとすると、それなりの覚悟が必要かもしれない。クリオ・ウィリアムズのようにネームバリューのあるクルマは大切にされているだろうから、クルマもちゃんとしていると思う。しかし、16Vやそれ以下のグレードになるとどうだろう。ちょっと考えてしまうが、実際に乗ってみると他には代えがたい個性とおもしろさがあるから悩ましいところだ。

 

※追記
先述した16Vフェーズ2の写真が手に入ったのでご紹介。ちなみにこの個体はSOLD OUTである。
1994年にマイナーチェンジしたルーテシア16Vフェーズ2。色はメチルブルーで、撮影したフェーズ1よりも少し赤味がかった明るいネイビーである。フロントはグリル(というかスリット?)の形状が変わっている リアは「RENAULT」と「Lutecia」のエンブレムがガーニッシュの上に来ている(ガーニッシュそのものも変更されている)。話によるとバンパーも変更されているらしいが、相違点は認められなかったサイドモールにはフェーズ1にはなかった「16V」のエンブレムが付くタイヤサイズは変わらないが、ホイールが変更に。このデザイン、見覚えのある方も多いかと思うが、メガーヌ1のものと同様である エアコンも標準装備。現代のクルマに比べれば効き目は弱いが、やっぱりあると助かるただでさえ狭いエンジンルームにエアコンの機器を押し込んだので、さらに窮屈感が倍増。コンプレッサーなんて、よくこの隙間に入れたものだと感心するが、そのおかげでヘッドライトバルブの交換も困難に……ノンパワーのステアリングは、電動油圧化されているフェーズ2の最大のトピックスと言えるのが、このレザーシート。もちろんフェーズ1のファブリックシートも充分良いのだが、このレザーシートは素晴らしい。個人的にこれまで乗ったことのあるルノー車でいちばんは「21(ヴァンテアン)ターボ」のファブリックシートなのだが、それにまさるとも劣らない座り心地。現代のクルマのレザーシートはパンと張ったものが多いが、これはしっかりと沈み込み、臀部をやわらかく包んでくれる気持ち良さがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

1993y RENAULT Lutecia RENAULT 16V

全長×全幅×全高/3710mm×1650mm×1375mm
ホイールベース/2470mm
車両重量/1030kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1763cc
最大出力/99kW(135PS)/6500rpm
最大トルク/157.9Nm(16.1kgm)/4250rpm

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