Twingo Renault Sport 1.6 16V Gordini & Clio Renault Sport 2.0 16V REDBULL RACING RB7

クルマで最も重視する部分は「乗って楽しいかどうか」。純粋でありながら、現代において実現するのが困難なポイントを見つめつづけている方にとっては、これからの世の中「乗りたいクルマがない」というクルマ難民に陥る可能性が充分にある。それがゆえにどんどんと古いクルマに興味が向いてしまうのも決して珍しいことではない。いずれの時代においても、節目となるクルマは存在する。今回は並行車、限定車、そして硬く締め上げられた「シャシーカップ」という3つの共通点を持つルノー車を紹介する。

バンパー両脇にあるフォグランプ周りとミラー、ボンネットからルーフにかけて入る2本の線をホワイトに。このモデルは前期型で、後期型になるともっとアクの強い個性的なフロントマスクになる2代目トゥインゴのゴルディーニ。

先回(2013年5月)に、トゥインゴRSのゴルディーニ、のようなクルマを紹介している。あの姿は一見すれば、間違いなくゴルディーニだが、近くに寄ってみて白ストライプの中に「G」の文字がないことを確認して、初めて「ああ、これ、ゴルディーニじゃないわ」と分かった。あのクルマはそれくらいの曲者だった。しかし、今回は正真正銘のゴルディーニ。しかもシャシーカップのゴルである。

GTよりも全長で10mm長く、35mm幅広くなっている。いかにも後付けっぽいオーバーフェンダーがワイルドだ(実際は一体成形)2代目トゥインゴは2007年のジュネーブショーで発表された。初代の面影を随所に残しつつ、かわいらしい癒し系からちょっとだけ精悍な顔つきになって登場。シャシーはクリオ/ルーテシア2をベースとし、ベーシックな1.2L自然吸気エンジンに加え、1.2Lのターボエンジンを積んだ「GT」、そして1.6Lの自然吸気エンジンの「RS」をラインナップ。そして「RS」をベースにした限定車「ゴルディーニ」がこのクルマである。

 

基本的なレイアウトはベース車のトゥインゴと同じ。RSは標準で回転計がドライバーの正面に付く。これも後付けっぽい雰囲気シャシーカップのゴル。

ゴルディーニとは、かつて「ル・ソシエ(魔術師)」と呼ばれたイタリア人チューナー、アメデ・ゴルディーニ、もしくは彼の率いる「ゴルディーニ社」のことを指す。ゴルディーニは、フィアットやシムカのクルマをベースにしたチューニングカーでレースに出場し、数々の功績を残してきた。1956年にルノーと提携し、1964年に「R8ゴルディーニ」でツール・ド・コルスに参戦。このラリーでデビューウィンを飾り、多くの人々の記憶にその実力を刻み付けた。レザーシートはゴルディーニ専用でブルーのアクセントが印象的。適度なサポート性もあり、高級感もあるトゥインゴ・ゴルディーニは、その劇的なデビューを飾った「R8ゴルディーニ」をモチーフにしている。フレンチブルーに2本の白ラインはそこから来ているのだ。

ただ、日本仕様のトゥインゴRSゴルディーニは、素のRSよりも大幅にどうかなってるわけではなく、カラーリングや各部の意匠が異なっているくらいだ。シートやステアリング、シフトブーツ、フロアマットなどが専用のデザインになったり、ブルーになったりしている。

しかし、当該車は日本仕様のシャシースポールではなく、シャシーカップのゴルディーニ。ここが大幅に違う点だ。シャシースポールとシャシーカップと主な違いは、ハードなサスペンションと7.5%クイックになっているステアリングのギア比など(ロックtoロック2.8回転から2.5回転に)。手強そうだぞ、こいつ。

 

リアシートは左右スライドさせることが可能。スライドを最後端まで持っていくと、小型3ドアとは思えないくらいのスペースになる。この仕組みは初代からの伝統である期待通りの硬さ。

手強そう……なんて言ってみたけど、先回のトゥインゴRSもシャシーカップだったので、硬い乗り味は経験済み。このゴルディーニも当然、期待通りの硬さ。道路のちょっとした起伏もしっかり拾うし、コンビニに入るときに段差を乗り越えるときも、盛大に揺れる。でも、これを買う人はわざわざカップシャシーを選んで買うわけだから、これくらいハードじゃないと納得いかないだろう。この乗り味は当然、タイヤ&ホイールも大きく作用している。たかだか130psほどのクルマに195/40R17を履かせているのだから「200psくらいのクルマ用だろ、これ」と思ってしまう。2インチダウンでもいいくらいだが、そうすると今度サスペンションとのバランスが崩れてしまうだろう。

 

1.6L自然吸気のユニットは最高出力134psと最大トルク16.3kgmというパフォーマンス。4000rpm以上のパンチ力とピックアップがすばらしく回して楽しいエンジンだ。最高速度は201km/hトゥインゴRSも味見して。

乗ってみると、やっぱり楽しい。そして先回、トゥインゴRSが106&SAXOの進化形のようだ、という話をした通り、今回もまったく同じことを思った。もちろん、違うと言えば全然違うのだが、走る楽しさ、ワクワクする高揚感、アクセルを床まで踏み抜けるジャストパワーな感じは、106&SAXOの延長線上にあるような気がしてならない。遊びの少ないステアリングとクイックさ、カッチリとしたシフトフィール、ほとんどロールしないコーナーリンシャシーカップに加え、195/40R17とハイスペックなタイヤ&ホイールを装着。ブラックの部分がブルーにペイントされたホイールもある。シャシースポールは16インチグ……。峠とかサーキットに持ち込まなくても、街中のコーナー1コ曲がるだけでも楽しいクルマって最近はそんなにないんじゃないか。電動パワステ&電動スロットルでも、たいていは不自然な感覚が残って気持ち悪いのだが、ここまでダイレクト感を出せるわけだから、大したものだと思う。

トゥインゴはこの後、マイナーチェンジしてこの路線を引き継いだものの、現行モデルになってまたもや大きく変化した。おそらく古典的な3ペダルと自然吸気エンジンで純粋に走りを味わえるは、この2世代目だけだろう(現行にRSが設定されるかもしれないが)。ルーテシアRSに行くのもいいけど、その前にトゥインゴRSもちょっと味見してみるといい。何かしらの発見があるかもしれない。

 

ブラックのボディにイエローが映える。なかなか迫力のあるスタイリングだラテン・ホットハッチの代表格。

ルーテシアRSは、その初代として2000年にデビューしている。ルーテシア2の時代だ。Bセグメントボディに172psというハイパワーユニットを載せて登場。世界で70,000台のヒットを飛ばし、日本でもラテン車のハッチバック代表格として認知された。

その後、2006 年にルーテシア3となり、RSバージョンも発表。197psにパワリアもディフューザー部分がイエローに彩られている。RSはワイドトレッドになった分、オーバーフェンダーで処理せず、ボディのフェンダー部分を拡幅させている(リアウィンドウのレッドブルステッカーは標準ではない)ーアップしたエンジンやトレッドを前後約50mmもワイドにすることで、さらなるロードホールディング性を高めている。またブレーキキャリパ―にブレンボ社製を使用したのも新しい。ルノーはこれまでブレンボとは関係が薄かったが、ルーテシアRSとトゥインゴRSを担当したプロダクトマネージャー、ピエール・エリック・デアージュ氏によれば「ブレンボはロードユースとしてはベスト。先行してメガーヌRSに入れているが、ルーテシアRSの制動力も最高にしたかったので、採用に踏み切った」と話している。ちなみにフロントはキャリパー、ディスクともにブレンボ製だが、リアはキャリパーがTRW、ディスクはブレンボとの組み合わせになる。

そんなルーテシアRS、日本にも導入されたが、日本が独自に設けた歩行者に対する保安基準と欧州との判定基準が違うことから、フェイズ2になった後いったん輸入を中止してしまう。ルーテシアRSが日本で販売されなくなった間、本国ではルーテシア4へ移行し、現在は1.6L直噴ターボを搭載したRSが現役である。

 

ルーフにはチェッカーフラッグのパターンが描かれている日本未導入モデル。

2011年のF1世界選手権。圧倒的な強さを見せたのは、みんな大好き「レッドブル」。この年、ドライバーとコンストラクターズのダブルタイトル獲得を記念して発売されたのが、この「クリオRSレッドブルレーシングRB7」である(長い……)。チャンピオンマシンである「レッドブルRB7」の名前を付けた限定車は、ヨーロッパのみで販売開始。ちなみにメガーヌRSにもトゥインゴRSにも「レッドブルレーシングRB7」の名を付けた限定車が存在し、それらは日本にも導入されたが、クリオのみ件の問題によって日本には入ってこなかった。

いかにもスペシャルな名前だから、さぞかしすんごいチューニングが施されているんだろうと期待してしまうが、シャシーカップのRSをベースに専用ボディカラー(プロフォン・ブラック ※「プロフォン」はフランス語で「深い」の意)、チェッカーフラッグのパターンが描かれたルーフ、イエローにペイントされたF1っぽいスポイラーやディフューザー、メガーヌRSと同じ18インチホイール、レカロ製のバケットシートなど、特別装備品が追加されるパターン。まぁ、メカチューンって言ったって、素の状態でも最高出力203ps・最大トルク21.9kgmを発生する充分にハイチューンなエンジンであるから、これ以上のパワーアップは不要だろう。ただ、排気系がアクラポヴィッチに変更されているので、これによって若干のパワーアップは果たしているかもしれない。

 

インテリアはシックにブラック系で統一。ステアリングのセンターを示す赤い部分が特徴だ。シフトも節度感があり、気持ちが良いフィーリングを提供してくれるカップシャシーでもしなやか(それでも硬いけど)。

真っ黒なボディにイエローの差し色だからかなり目立つし、素のRSにはない凄みというか迫力が伝わってくる。ドアを開けると、いかにも高そうなレカロシートがお出迎え。フルバケットのような雰囲気でありながら、セミバケットなこのシート、乗り込むとかなり硬いがホールディング性は高い。

シャシーカップは素のRSより車高が7mm下げられ、ダンパーはフロントで27%、リアで30%強化。ステアリングは7.5%クイックになっており、車重も36kg軽量化されている。シャシーカップの乗り心地はもちろん硬いのだが、トゥインゴRSゴルディーニよりはしなやかさを感じた。トゥインゴのほうが小さいから、クリオに比べると剛性感は高いのだろうけど、あのレーシングカートのような雰囲気よりももう少し大人で、街乗りでもしっかりとサスペンションの仕事が感じられる。とは言っても、その違いは微々たるものだが……。

インテリアで最も大きな特徴がこのシートだろう。セミバケットでありながら薄く、軽そう。座り心地は硬く、フルバケットのような包まれ感がある電動パワーステアリングとアクセルのフィーリングも上々で、トゥインゴよりも若干インフォメーションは少ないものの、切り始めやニュートラルに戻すときの動作やアシストに不自然な感触はない。エンジンも気持ちよく回る。ボア×ストロークは82.7×93.0mmのロングストローク型なので、トルクを出しやすいスペックなのだが、203ps/7100rpm、21.9kgm/5400rpmと高回転よりのエンジンだ。これ、何でだろうかと思っていたのだけど、連続可変インテークバルブタイミングがひとつの要因なのではないだろうか。エンジンルームを見ると吸気管が2本付いているのが分かる。長いものと短いものがあり、低回転域では長い管、そして4000rpmくらいから徐々に短い管のバルブが開き始め、こちらからも吸気するようになるというのだ。エキマニも等長の4-2-1タイプを採用している。高回転型に持っていくには4-1の集合が有利ではないかと思うのだが、それだと低回転域のトルクが不足するからだろうか。このあたりにうまいことバランスを取ろうとしている工夫がうかがえる。

 

おなじみF4ユニットをメカチューン。燃焼室の形状やカム、エキマニの変更などを施している。写真奥に高回転域でバルブが開くインテークパイプが見える大きいけど、うるさくない。

実際に乗ってみると、たしかに低回転域のトルクを犠牲にせず、全域でトルクの後押しを感じながら、上まできれいに回っていく。コーナーリングもフラットな姿勢を保ったまま。オン・ザ・レール感覚で気持ちよく曲がってくれる。ブレーキもすばらしく、効き、剛性感ともにまったく不安はない。日本の峠ごときでは、限界なんてまったく見せることはないから、この安心感は絶大だ。

そして当該車の魅力は何といっても音である。アクラポヴィッチのエキゾーストシステムが搭載されており、そのサウンドがとても自分好みだった。

アクラポヴィッチはスロベニアのメーカーで1990年にイゴラ・アクラポヴィッチ氏によって興された。オートバイレースの経験を元に、レーシングエンジンの中でも4ストロークエンジンにおいての排気系チューニングに長け、現在も世界選手権に出場するワークスがこぞって採用している。

エンド部分にさりげなくアクラポヴィッチのロゴが入ったマフラー。乾いた快音はアクラポヴィッチのアイデンティティ音の善し悪しはその人の好みによるところが大きいので、単純に「この音が優れている!」なんて言えないのだけど、車内に入ってくる排気音を簡単に説明すると、音量的に大きくもなく、小さくもない。明らかに「純正とは違う排気系にしていますよ」という主張が感じられる。しかし、耳の奥に突き刺さるような周波数帯はしっかりとカットされているので、どれだけ踏んでいっても、不快な音にはならない。音は大きくなるけど、うるさくはない、といった感じだろうか。非常に乾いた音質で、高回転域になればなるほどその乾燥度が上がっていく。そしてドライバーの高揚感を煽り、運転への集中力も増すような気がするから不思議なものだ。参考までに走行シーンを動画で撮ってみた。室内で聞こえる音の感じを把握してもらえるとうれしい(こちらから)。

 

メガーヌRSトロフィー用の18インチ「インテルラゴス」ホイールを履く。タイヤは235/40R18のブリヂストン「RE050A」。赤く塗られたモノブロックのブレンボキャリパーが目を引くああ、もうこういうクルマはこれから出てこないんだろうな、パート2。

今回、スポーティーな限定車の「大」と「小」をほぼ同時期に試乗するという貴重な体験を得られた。感じたのは、106&SAXOに乗ったときのような「ああ、もうこういうクルマはこれから出てこないんだろうなぁ」という感覚に似た感じ。

時代が進み、大衆車メーカーは直噴エンジンやターボエンジン、ディーゼルエンジンなど、環境面に配慮した取り組みを加速させていくなかで、自然吸気エンジンを3ペダルで操る楽しみといった部分に焦点を当てると「ああ、もうこういうクルマはこれから出てこないんだろうな、パート2」という感覚になる。

つまり106&SAXOが環境面をそれほど配慮しなくてもいい時代の、あまり制御システムに頼らなくても良かった頃の最後期のクルマであり、このトゥインゴ2、クリオ3は環境への配慮が当たり前になった時代において、純粋に走る楽しみを味わえる最後期のクルマといってもいいのではないかと思う。もちろん今後も環境面に配慮しながら、ドライビングプレジャーも追求したクルマは出てくるだろうが、この2台が持つフィーリングはおそらくもう感じることはないのかもしれない。

電動パワーステアリング&電動スロットルは当たり前、直噴エンジンにターボの組み合わせも当たり前、ロスの少ないトランスミッション、安全のための制御を満載するのも当たり前。そういった技術がベースになっていく時代で、次はどんなクルマが運転の楽しみを伝えてくれるのだろうか。ここはひとつポジティブに捉えて待とう。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

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全長×全幅×全高/3610mm×1690mm×1460mm
ホイールベース/2365mm
車両重量/1120kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1598cc
最大出力/98kW(134PS)/6750rpm
最大トルク/160Nm(16.3kgm)/4400rpm

%e3%82%a8%e3%83%b3%e3%83%96%e3%83%ac%e3%83%a0_1532013y Clio Renault Sport 2.0 16V REDBULL RACING RB7
全長×全幅×全高/4020mm×1770mm×1485mm
ホイールベース/2585mm
車両重量/1240kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1998cc
最大出力/148kW(203PS)/7100rpm
最大トルク/215Nm(21.9kgm)/5400rpm

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4 Responses to “Twingo Renault Sport 1.6 16V Gordini & Clio Renault Sport 2.0 16V REDBULL RACING RB7”

  1. ルーテシア3RSはPh1は東京モーターショーで参考出品されたものの
    市販化には至らず、日本にある個体はすべて並行ものです。
    Ph2になってようやく正規輸入が始まりましたが、文中にある通りに
    思惑より早めに供給がストップしてしまいました。
    私が所有しているのは左ハンのライトウェイト・シャーシ・カップで
    Ph2の2010年モデルです。ディーラー車やレッドブルRB7仕様、ゴルディーニ
    仕様等と違い廉価バージョンなので、仕様が色々異なっています。

    • すずき@PMG4 より:

      並行で入ったのはいろんな仕様いますよ。World Seriesとかねぇ。
      Gordiniだけではないのですよ限定車。

      • World SeriesはPh1の廉価バージョン、ウチのと似たような
        グレードです。リアのCLIOエンブレムさえ省略された潔さは
        かなり魅力的で購入しかけました。
        名古屋在住の友人が所有しており、時々並べては楽しんでおります。

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