FIAT Qubo & RENAULT Kangoo Be-Bop

メイン_612クルマのサイズは大きいほうがいい? 小さいほうがいい? 大きさなんて相対的なものだから、一言では決められない。大きな荷物を頻繁に積む人、たくさんの人を常時載せる人など、用途もそれぞれ。だからこそ、本当に自分が必要とするサイズはどれくらいなのかを知っておくのは、幸せなカーライフを送るのに大切なことだ。ということで、トールワゴンの代名詞「カングー1」に対して、フィアット・クーボとルノー・カングー・ビバップをぶつけてみた。

前_495あの「カングーショック」から7年。

 

2007年。それは「カングーショック」の年だと勝手に思っている。220万台のヒットを飛ばしたルノー・カングー1は、2007年にモデルチェンジを迎えたのだが、フランクフルトショーに姿を現した新型カングーは、先代よりも大幅なサイズアップを果たした“大きなカングー”だった。これに日本のカングー乗りはざわついた。先代カングーの人気のひとつは「日本でも使いやすいあのサイズ感」だったから「あの大きさはないなぁ」とか「デカいカングーだな。デカングーだ」など、厳しい声が飛んだ一方で、サイズアップは時代の流れ……とあきらめの声も多かったように感じる。

しかし、そのカングーショックから7年以上経ち、そんな声もさっぱり聞かれなくなった。デカングーももはや揶揄としての言葉ではく、愛称として定着した。実際に乗ってみると、見た目ほどの大きさを感じない取り回しの良さがあったし、200kg以上重いボディもMTならそれなりに軽快に飛ばせる。まぁ、異文化に対してなんやかんや言いながらも、柔軟に適応していく日本人ならではの性格が、カングー2を受け入れたのだろう。

 

後_494遅出しジャンケンじゃないんです。

 

そんないま、あえて紹介したいクルマがある。それが2008年に登場した「フィアット・クーボ」である。カングー2がカングー1乗りをはじめ、多くの日本人に支持されているいま「あ、あのぉ、こんなんもあるんですけど……」と、遅出しジャンケン的に紹介するのはただの意地悪ではない。スズキさん曰く「何でこのクルマ、気にしてなかったかなぁ」と遠い目をしてしまうくらいの“伏兵”だったのだ。もちろん、皆さんも「クーボ(フィアット)、ビッパー(プジョー)、ネモ(シトロエン)」の3兄弟はご存じだろう。でも、実際はそれほど注目していなかったのではないだろうか? かく言う私もそのひとり。でも、これ、乗ってみると「カングー1の次はコレだったんじゃないの?」と思えるくらい適切なサイズ感なのだ。フィアットである、ということを除いての話だが。

 

インパネ_496あまり話題にされなかった3兄弟の筆頭。

 

クーボは2008年の6月からフランスで発売された後、9月からイタリアで発売を開始した。フィアットとPSAの共同開発車だが、主開発は「フィアット・プロフェッショナル」と呼ばれる小型商用車部門が握っている。

フィアットとPSAの関係はけっこう古く、1978年に「SEVEL(ヨーロッパ軽量車連合)」という組織を結成したところから始まる。過去、プジョーでいうと「807(ミニバン。C8、ウリッセ、フェドラも同じ)」や「エキスパート(中くらいの商用バン)」、「ボクサー(でっかい商用バン)」はこの組織から生まれたクルマだ。基本的にはミニバンはPSA側が開発して、フィアットとランチアに供給、小型の商用車(デュカト級も含む)はフィアット側が開発して、PSAに供給するという取り決めらしい。

FRシート_497クーボは「フィオリーノ」という商用車をベースにした乗用車版で、ビッパー/ネモも含め、トルコにあるフィアット系の企業「TOFAS(トファシュ:トルコ自動車製造会社)」で生産されている。フィオリーノがベースなので、このクルマもちょっと紹介しておかなければならない。初代の登場は1977年で、フィアット127の後ろに四角い箱をつけた(ルノー4フルゴネットのような)形をしていた。1988年にモデルチェンジし、後ろにくっつく四角い箱は変わらないがベースをウノに変更。そして2007年に現行のフィオリーノが登場し、その1年後に乗用車仕様のクーボが誕生したという経緯だ。

ベースはグランデプント。そのサイズは「3960mm×1715mm×1720mm」で、カングー1の「4035mm(1.4は3995mm)×1675mm×1810mm」と比べて若干大きいものの、ほぼ同等と捉えていい数値だ。ラゲッジの積載量もカングー1の2600リットルに対し、2800リットルを誇る。

エンジンは、1.3のターボディーゼル(75ps)と1.4のガソリンエンジン(73ps)。ガソリンには5MT、ディーゼルにはデュアロジックが組み合わせる。ちなみに現在はガソリンエンジンがラインナップから落ち、ディーゼルエンジンしか選べなくなっている。

 

QUBO LAGEこの無国籍な乗り味が、魅力!?

 

今回、機会を得たクルマは、1.4のガソリン(LHD/5MT)。見た目はサイズ以上に大きく見える。個性的なフロントバンパーのせいだろうか。しかし、乗ってみるとこのサイズ感はまさにカングー1のそれと同じだ。

ただ、同じなのはそのサイズ感だけで、当然ながら乗り味はぜんぜん違う。発進した瞬間はフィアットだなぁと思ったが、しばらく走り続けていると「ん!?」となる。良い意味で軽快、意地悪く言えばちょっと落ち着きのない足回りは、確実にフィアットっぽい部分。だとしたら他は……そうか、エンジンのフィーリングが違うのか。エンジンはヘッドカバーのデザインを見て「もしかして……」と思った人も多いかと思う。そう、クーボの1.4ガソリンエンジンはPSAのTU型エンジンを使用している。元をただせば、シトロエンAXと同じルーツのエンジン。いまどきシングルカムかとスペックを見れば古臭い感じはするが、実際はそうでもない。フィアットのFIREエンジンとはちょっと趣が違うが、静かに、スムーズに、軽やかに回る印象。だから古臭いという表現は正しくない。実際に設計年次が古いエンジンとは思えないほど、熟成された高いエンジンなのだ。

エンジン_503シャシーはフィアットだけど、エンジンはPSA。このマッチングが、どことなく無国籍な感じを醸し出しているのかもしれない。最終的にはやっぱりフィアットなんだけど、どのメーカーとも断言できないフィーリング。これは新しい感覚かも……。大きな開口部を持つ割には、ボディはすごくしっかりしているし、変な音もしてこない(新車だからか、設計年次のおかげか)。これはパンダ3に乗ったときの感動と少し似ているように思う。フィアットと言えば、パンダ1、2に代表されるような、いい意味でのラフさ、ルーズさがあったが、クーボはすごくちゃんとしている(たいへん失礼な言い方だが……)。しごく当然のことかもしれないが、クルマとしての品質はどんどん良くなっているんだなぁと、少し感慨にふけってしまった。

 

タイヤ_504なぜ、クーボに注目しなかった!!(後悔)

 

明るく見晴らしのいいコクピット、静かな室内、両側スライドドア、見ようによってはかわいらしく見えるフロントフェイス、ウェイトもカングー1(1.6)の1170kgより5kg軽い。そして日本の道路事情にはちょうどいいサイズ感……。要素を抽出して考えれば、カングー1よりほんのわずかなサイズアップで、カングー1と同じような使い方ができるクルマを新車で手に入れることができる。とにかくサイズ感にこだわるのであれば、このクーボはカングー1からの乗り換え候補ナンバー1と言っていい。

それに出自が商用車というのも、カングー乗りに親和性があると思う。実際の乗り味はたしかに乗用車っぽく仕立ててあるものの、奥底のほうでほのかに商用車の香りがする。それがいい意味での隙になっていて、何とも微笑ましいのだ。2008年にデビューだから設計は当然古く、現代のクルマと比較するのは酷だと思うが、そんなクルマでもまだまだ新車で買えるのはうれしい。先進の機能や設備なんてまるで付いてないけど、あの90年代のアナログな雰囲気を残した感じは好きな人にもってこい。しかもフィアットだけでなく、プジョーもシトロエンも選べるわけだから、選択肢も広い。

ネガな部分は正規輸入がなされていないこと、新車はいまとなってはディーゼルしかないことくらいだろうか。ちょっとアクは強いけど、このデザインが好きで、ルノーでなくてもカングー1と同じようなサイズと使い方で乗りたい! そういう人には本当におすすめのクルマである。

ただ、ただ、謝らなければならないのが「紹介するのが遅いよ!」ということか。いや、大きなカングーにいまだ不満を持っている人は、乗り換え候補としていかが?(く、苦しい言い訳)

ちなみに「ダシア・ドッカー(Dacia Dokker)ってのもあって、サイズは4360mm×1750mm×1800mm。これも伏兵だねぇ」とはスズキさん談。これもまた無国籍な顔!

 

bebop前_611ほんとに売っちゃったルノーってすごい。

 

さて、お次はカングー・ビバップである。このクルマ、2012年にもヴィブルミノリテで登場している。このときは左ハンドルの並行車だったが、今回は右ハンドルのディーラー車。ミッションはともに5MTだ。

カングーは皆さん、知っての通り商用車がルーツ。カングー2になってボディタイプはマキシ、エクスプレス、コンパクトとホイールベース違いの3種類がつくられたのだが、いちばん短い「コンパクト」を使ってなんかおもしろいクルマつくれんもんかね、とルノーは考えたのだろう(たぶん)。その答えを2007年の東京モーターショーで「カングー・コンパクト・コンセプト」という名で出したルノー。それは遊び心満載のビーチカーだった。ただ、このあたりまでなら他メーカーもよくやるのだが、ルノーの楽しいところは「ああ、おもしろいね。でも、どうせ売らないでしょ?」という風潮を覆し、市販化してしまったところ。さすがにリアシートは180度回転したり、リアゲートが手前に倒れたりはしないけど、その姿かたちはかなりコンセプトカーに近い。その後、2010年に日本でもディーラー車として販売された。ちなみにビバップはルノージャポン曰く「フランスと日本でしか販売されていない」そうだが、以前紹介した並行のビバップはベルギーから来たクルマ。ベネルクス(ベルギー・オランダ)はフランスという枠で一括りなのかもしれないが、真相は謎である。

 

bebop後_610比較しても意味がない!?

 

まぁ、それにしてもよくこんなヘンテコなクルマを売ったもんだと思う。そう言いながら私もこのクルマに魅せられたひとり。もしカングーを買うとしたら、まっさきにこれを選ぶと断言する。

まずはサイズ。私もカングー2の大きさについては、いまとなってはだいぶ気にならなくなってきたクチだ。ただ、やっぱりカングー1のサイズに近いならそのほうがいいよね、と考えるタイプ。3サイズは3870mm×1830mm×1840mmで、幅と高さはカングー1より大きいものの、全長はカングー1(1.6)と比べて150mm以上短い。さらにホイールベース。カングー1の2600mmに対してビバップは2310mm。約300mmも短いのだ。今回はクーボとともにカングー1の比較対象としてビバップを選んだのだが、スペックを確認しながら書いているうちに、こりゃ比較にならんな、との思いが強くなっている。たしかに外寸はカングー1やクーボと似ているが、よくよく見ていくとかなり特異なプロポーション。比較に値するクルマを探すほうが難しいぞ。

 

bebopインパネ_614このチグハグがおもしろい。

 

孤高のプロポーションは、孤高の乗り味を届けてくれる。見た目はこんな形なのに、乗ってみるとこれがおもしろい! カングー2のMTも楽しいが、それ以上に楽しい。国産のミニバンで「ドライビングプレジャーが云々……」とか言ってるが「よくそんなこと語れるな」と思う。ビバップに乗ってから言え、と(笑)。

では、何がおもしろいのかと言えば、もうそれはハンドリングの楽しさに尽きる。エンジンはカングー2と同じで、105ps/15.1kgmのパワー&トルク。重量は50kgくらいしか軽くなっていないので、力感はそんなに変わらないのだが、ひとたびハンドルを切ると「おっ!?」と思う。超ショートホイールベースなのでクルッと回るのだ。このステアリングのギア比で稼いでいないクイック具合はかなり新鮮。加えてこれがスポーツカーじゃないハイアイポイントのクルマだと思うと、余計にそのチグハグな感じが新鮮。この乗り味は他では味わえない。結果的にこうなったとしても、結果的に楽しいのだからOKだ。

 

bebop FRシート_615文句もある。

 

この楽しさの代わりに割り切ったものもある。割り切ったというか、クルマ自体がそもそも小さいので、乗車定員は4名だ。後部座席も小ぶりで、ゆったり座れるものではない。なので、これはもうクーペだと考えよう。リアシートはエマージェンシー用だ(ただ私はこのリアシートに座った感じやそこから車内、車外を見る景色が好きだ)。積極的な意味でとらえれば、リアシートが小さいのは、折りたたんだり、取り外したりすることで、たくさん荷物を積まなければいけない場合に備えてのことだとも考えられる。小さくて一般的なリアシートに比べて軽いので、気軽に取り外しできるのはメリットといえばメリットだ。

bebop lageあと、細かい点だが「これ、なんとかならんかなぁ」というのも挙げておく。ひとつはフロントシートの使い勝手が悪いこと。たとえば後席へ乗り込む場合、通常シートバックを倒してエントリーするのだが、一度倒したシートバックは簡単に元に戻らない。レバーを操作して、所定の位置に設定しなおさなければならないのだ。つまり一回シートバックを倒すと、位置が「リセット」されてしまうのだ。これはおそらくストックのカングー2のシートをそのまま使用しているからだと思われる。スライドドアを備えているカングー2は、リアシートに乗り込むのにシートバックを倒す必要がないからだ。もうひとつはフロントドアとリアドアにノッチがなく、開けたら途中で止まることなく、全開までいってしまうこと。これ、気をつけないと何気に危ない。

細かい部分だが、2つめは気をつければいいことだし、1つめは思い切ってリアドアからエントリーするという非日常なやり方を日常にしてしまえばよい(無理)。そもそもこのクルマを買おうとする人は、そんな細かい部分は一笑に付すだろう。「これ、めんどくさくってさ」と言いながら顔は笑っている。それくらいの人に乗ってもらいたいものだ。

 

bebopエンジン_615いまさら、ではなく、いまだからこそ。

 

フィアット・クーボ、ルノー・カングー・ビバップ。カングー2が出ていながらも、カングー1の次に乗るのはどれ? なんてナンセンスなテーマで書いてしまったが、カングー2という大きさに慣れてから、カングー1のサイズに近いクルマに乗ると「やっぱりこのあたりのサイズ感がいいなぁ」とあらためて思い知らされる。これは個人の感覚によるところが大きいが、クルマの四隅が把握できるサイズという基準で考えると、やっぱりカングー2よりはカングー1のほうに軍配が上がる。カングー2にしてみたものの、そんなに広いスペースはいらないし、取り回しの良さを優先させたいというのであれば、クーボ含め3兄弟を検討してみるのもアリだと思う。

bebopタイヤ_616サイズ感以上に乗って楽しいクルマを、というのであれば、カングー・ビバップは超おすすめである。いざというときはシートを外して、それなりに荷物も乗るし、この四角い箱をクーペととらえて乗るという価値観も、独自性があってステキだ。私だったらワンサイズインチアップして、適度に車高を低めたい。期せずして得た“走りの楽しさ”という副産物的メリットを伸ばしたカスタム。こんなクルマが峠をハイペースで走っていたら、さぞかしおもしろいだろう。

クーボはフィオリーノに、ビバップはコンパクトに、それぞれ商用車にルーツがあるのだけど、クーボはしごくまっとうな日常を、ビバップは非日常をめざしていると考えれば、両車はサイズ感こそ似ているが、コンセプトはまったく正反対と言っていい。今回の比較で気づかされたのは、サイズ感云々以上に、商用車出自でありながらフィアットとルノー、それぞれの実現したい形や方向性がおもしろいほど違っていたということか。

全体的に「いまさら」な企画になってしまったが、カングー2のサイズが浸透した「いまだから」こそ、あらためて本当に使いやすいクルマのサイズはどれくらいなのか? 自分がクルマに求める方向性とは何か? を考えてみるもいいと思う。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

エンブレム_5052014y FIAT Qubo 1.4 Dynamic

全長×全幅×全高/3960mm×1715mm×1720mm
ホイールベース/2513mm
車両重量/1165kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1368cc
最大出力/54kW(73PS)/5200pm
最大トルク/118Nm(12kgm)/2600rpm

 

bebopエンブレム_6132010y RENAULT Kangoo Be-Bop 1.6 16V

全長×全幅×全高/3870mm×1830mm×1840mm
ホイールベース/2310mm
車両重量/1360kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1598cc
最大出力/78kW(105PS)/5750pm
最大トルク/148Nm(15.1kgm)/3750rpm

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