このコーナーを読んでくださる皆さんは、すべからく好事家であるだろうから、クルマに対しては一家言を持つ方たちばかりだと思う。きっとこだわりを持ってクルマを選んでいるはずで、私もそのひとりである。
「こだわる」という言葉は、いつしかポジティブな意味にとらえられてしまっている。たしかに「こだわり」と聞くと「モノやコトをよく吟味し、一切の妥協を許さない真摯な姿勢」といった高尚な背景を思い浮かべてしまう。しかし、本来は「どうでもいい問題を必要以上に気にする」、「細かいことにとらわれる」という意味で、決してポジティブとは言えない。
少し前までは私も「こだわり」を持つ生き方が美しいと思っていた。こだわりのない生き方なんて、価値のない人生だとも思っていた。しかし、最近はちょっと様子が違うのだ。
ラグナはDセグメントに分類されるミドルクラスのセダン/ワゴンだ。初代は1993年に21の後継として発表。日本へは1994年に導入され、フランス・モーターズから販売された。21がイタルデザインの直線的なデザインだったのに対し、曲線を意識したものになった。まさにパトリック・ルケモン節全開のカタチ。このテイストはその後登場するメガーヌ1にも受け継がれている。
2000年には2代目に移行。初代とはガラッと変わり、非常にコンサバティブなデザインをまとうことになった。2代目の大きなトピックスは、衝突安全性能が向上し、ユーロN-CAPで史上初の5つ星評価を獲得したこと。カードキーを採用したことも先進性をアピールした。カードのボタンでドアの施錠/開錠ができ、センターパネルのスロットに差し込んでスタートボタンを押すとハンドルロックが解除され、エンジンがかかる。ロックボタンの長押しで、サイドウィンドウを自動で閉めてくれるし、前回のエアコンの設定も記憶してくれる機能も。本国では「Carte-Renault mains-libre(ルノーハンズフリーカード)」と呼ばれており、カードキーを持ったままクルマに近づくと自動的に開錠、離れると施錠してくれるのだが、日本では電波法の関係でこの機能は使えなくなっている。この機能がカードキーの最大のポイントなので、使えないのは非常に残念だ。ルノージャポンさん、これ何とかしてください、ほんとに。
ボディタイプは5ドアハッチバックとワゴンがあり、日本にもこの2タイプが導入された。本国には多くのエンジンバリエーションがあるが、日本仕様は2リッター(直4+4AT)と3リッター(V6+5AT)の2種類。5ドアには3リッターのみ、ワゴンには2リッターと3リッターの両方が用意された。
2005年になるとフェイズ2に進化し、フロントマスクのデザインも大きく変わる。いわゆる″メガーヌ2顔″になったのだが、日本にはついに導入されなかった。販売面での苦戦が大きな理由だ。Dセグメントとなると、日本ではやはりドイツ車が優勢。ベンツ、BMW、アウディのようなブランド力のあるメーカーと同じ土俵で勝負するのは厳しかったということか。
2007年には2013年8月号で紹介したラグナ3になり、かなりカッコよくなったのだが、ご存じのとおりこのモデルも日本未導入である。
ここでラグナ(特に2のフェイズ1)のオーナーを敵に回すような告白をしようと思う。もちろん黙っていればバレないのだけど、そういうのはフェアじゃない。なので、言ってしまう。私はこのDセグメントのクルマにはさほど興味がない。というのも、フランス車のDセグメントはどれもオーソドックスなスタイルでおもしろみに欠けるからだ。このラグナだけではない。シトロエンのエグザンティア、C5、プジョーの405、406、どれをとっても保守的だ。もちろん、保守的なスタイルが悪いのではない。これは完全に個人的な話。つまり、私自身がコンサバなデザインを是としないのだ。
そもそも輸入車に、しかもフランス車になぜ乗っているのか? と聞かれたら、いろいろある理由のなかで「自己表現」という言葉を引っ張り出す。自分の好み(もしくは満足)をクルマというアイテムを通じて表現しているのだ。逆に言えば、クルマを見ればそのオーナーの嗜好がなんとなくわかるもんである。クルマ選びに「自己表現」が必要ないのであれば、別にあえてフランス車に乗る必要性もない。そう、ふつうの国産セダンに乗っていれば充分であるとさえ思う。
百歩譲って、平凡なスタイルになりがちなDセグメントであっても、たとえば21ターボのようなドッカンターボの快感があったり、シトロエンのようなハイドロの独特な乗り心地があったり、ラグナでも3のようなエレガントさがあればまだいい。さらに譲って、ラグナも1のようなアクの強い顔ならまだ許せる。しかし、2のフェイズ1はどうだ。なんでこんなデザインになったんだ。フェイズ2でなんとなくルケマンっぽさが戻った気がするが、このフェイズ1は……。単に好き嫌いの問題といえばそうなのだが、私にとっては積極的にこれに乗る理由を見つけ出せない。たしかに安全性も高く、装備も充実、そこそこ走って、燃費もまずまず、広くて、荷物もたくさん積めて……。いいんだよ、いいんだけど何かが足りない。心揺さぶる何かが。
と、約800文字も使ってしつこく書いてみたのだけど、これが「わかる!」という人もいれば「えー、よくわからん」と思う人もいるだろう。よくわからんという人は、ラグナに何かしらの魅力を見つけている人である。なので「お前にはまだこのクルマの良さがわからんのかね?」と言いたくなるに違いない。このクルマを与えられたとき、ラグナにも言われている気がした。「私の魅力、わかるかしら?」と。
そんな迷いのなかにある私を見かねてか、すずきさんから提案があった。
「ルノー車全般に言えることだけど、1日やそこら、街中をちょこちょこ乗っただけでは正直わからんですよ。特にラグナは長距離移動してナンボのクルマなんで……。FTPに乗ってく?」。
たしかに街中も走って高速道路も走って、ならラグナの魅力を見つけ出せるかもしれない。ということで、フレンチトーストピクニックの取材もかねて、約200km、2時間弱、北陸への旅に出かけることにした。
ルートは名神高速道路・米原JCTから北陸自動車道に乗り、そのまま敦賀、福井を通り越し、加賀の手前の「金津」ICを下車する。
高速道路に乗るまでの一般道は、もちろん快適だ。V6ではレザーシートが標準装備となるが、2.0はファブリックが標準。やはりルノーのシートを味わうには、ファブリックで乗るべきだろう。大きめのシートとたっぷりとしたクッション、それにマイルドな足回りが合わさってまったく文句のつけようがない。データによると、ラグナのリアサスペンションには「液体充填ハニカム状ラバーブッシュ」というアイテムが初採用されているとか。これがどのようなものか、詳しくはわからないのだけど、乗り心地の向上に一役買っているはずだ。
ATは日本の交通状況を考えると、あまりマッチしていないように思う。まぁ、これはいまさら言うほどのことではないが、国産車のATがふつうと思っているとがっかりすることになる(V6はアイシン製の5ATを採用しているので、4ATよりはいくぶんマシだと思うが)。
エンジンは2リッターでも135馬力しかなく、1.4トンの車体を引っ張るには少々荷が重いだろうと思っていたが、予想に反してあんがいよく走る。フィーリングはもっさりしているが、必要にして充分なトルクを発生させる。いちばん意外だったのはこれだった。
さて、高速道路に乗るとどうなるのか。一言でいうと一般道で感じたネガな部分が180度転換する。低速では感じることができなかった直進安定性はすばらしく、しっとりとした乗り心地は輪をかけてフラットになる。ATは変速の必要がないからまったく気にならない(90km/hでタコメーターはだいたい3400rpmくらいを指す)。ちなみにこのAT(AL4/DP0)は高速巡航に入ると、ロックアップモードになり、めちゃくちゃ燃費が伸びるらしい(セニックで試した人の話だと20%くらいは違うみたい)。クルーズ走行する機会の多い本国ではその真価を発揮するのだろうけど、日本ではそういう機会が少ないのであまり恩恵は受けられないと思うが……。
エンジンはさすがに追い越しのときの加速は力不足を感じるが、一度速度に乗ってしまえばストレスはない。もっさりした印象も高速走行になると安楽感に変わるからおもしろい。唯一、欠点を言うなら、あまりにも楽すぎて眠くなってしまうことだ。
メガーヌ2に乗ったときも、これは相当高性能なグランツーリスモだと思ったが、ラグナ2はそれを上回っている。その格上感はメガーヌ2より120mmほど長いホイールベース、140kgほど重い車重、そしてリアに新採用されたブッシュがそう思わせるのかもしれない。どちらのクルマも片道200kmくらいは″すぐそこ″という感覚にしてくれるクルマだが、たとえば家族でキャンプをしたいとか、MTBでいろんな山を走りたいとか、そういう荷物が必要な遊びとなると、やはりメガーヌ2では手狭に感じる。そうなると、やはりラグナ2ワゴンがいい。
今回は実質、2日間ラグナとともに過ごした。そしてこの2日間は私の中でクルマ選びの視点をひとつ増やしてくれたよい機会となった。もちろん、私自身の芯となる部分は変わらない。ラグナに1度乗ったからといって「次に買うクルマはラグナだ!」と言いふらしたりはしない。ただ、私はこれまでデザインや個性にとらわれすぎていたのかもしれない、と省みるきっかけにはなった。
カッコよさは大事である。理屈ではない魅力は、どんな機能や高性能も適わないと今でも思っている。しかし、見た目のかっこよさ如何ですべてを選り分けてしまうのは、あまりにももったいない。「あのクルマはかっこ悪いからナシね」では、自らの価値観を狭めることになる。クルマは見た目も大事だが、乗ってみて感じることも大事なのだ。
私がクルマにデザインや個性を重視するように、世の中にはクルマに機能や性能、実用性をいちばんに求める人もいる。そういう視点からクルマを選び、なおかつ長距離を楽に移動したい、遊びの荷物をいっぱい載せて出かけたい、というライフスタイルの方なら、ラグナワゴンは間違いなくフィットすると思う。しかし、私の本当の望みは、私のような「デザイン、個性こそ命」と思っているような、そしてラグナのようなクルマには絶対に乗らないと頑なに思っているような人にこそ、乗ってほしいということ。そのこだわりを少しだけ緩めて、まぁ、気楽に乗ってみなさいな、と背中を押してあげたい。
PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
2005y Laguna Wagon 2.0 16V Expression
全長×全幅×全高/4695mm×1790mm×1485mm
ホイールベース/2750mm
車両重量/1450kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1998cc
最大出力/99kW(135PS)/5500pm
最大トルク/191Nm(19.5kgm)/3750rpm
French Toast Picnic 2014(フレンチトースト・ピクニック2014)
さて、せっかくラグナでFTP(French Toast Picnic)に行ってきたので、イベントの内容もレポートしちゃいます。
2014年5月25日(日)、福井県金津町にある「金津創作の森」にて「フレンチトースト・ピクニック(FTP)」が開催された。同イベントは今年で12回目を迎え、ゲーム形式のコマ図ラリー(過去最高の110台がエントリー)やゲストを招いたトークショー、ライブなどが行われた。初夏の陽気のなか、参加は思い思いのスタイルでイベントを楽しんでいたようだ。
それにしても「フレンチブルーミーティング」と違って晴天率の高いこのイベント、当日も汗がにじむほどの快晴で、本当に気持ちのいい1日になった。中部圏からならフラッと行けるお気楽さが魅力で、ラグナ得意の高速走行で現地までひとっ走り。正直、片道200km程度ではまったく疲れない。それに北陸道は休日でも空いているから、ストレスもない。さらに金津ICを降りて5分も走れば現地に着くアクセスの良さもGOODだ。
FTPはフランス車のイベントだが、なかでもメインの会場には古いシトロエンが目立つ。2CV、DS、SM、GSなどをよく見かけ、プジョーやルノーは比較的数が少ない。参加する人とクルマもだいたい同じような顔ぶれだ。1年に1度の同窓会のような雰囲気で、すれ違うときに「久しぶり! クルマは元気?」なんて、人よりもまずクルマの心配をするところがこのイベントらしい。
今回、ぐるっと回っていちばん刺さったクルマは「リライアント・ロビン」。かと思ったら正確にはロビンの後継の「リアルト」という名前らしい。フランス車じゃなくてアレだが、このクルマ、かなり注目を集めていた。前1輪、後2輪の3輪車で、当時のイギリスでは3輪車がバイク扱いだったため、バイクの免許で乗れるだけでなく税金も安かったとか。唯一の850cc自社製エンジンにFRPの外装をまとったことで、車重は450kg程度に抑えられている。40馬力くらいの非力なエンジンだが軽量な車体のおかげで思いのほか軽快に走るという。顔をよく見るとスターレット(KP)にも似てるし、ジェミニっぽくもあるし、エクスプレスにも似ているような気がする。限りなくバックヤードビルダーに近いリライアントが満を持して出したクルマなのか、これにしかなかったのかはわからないが、とにかく楽しいクルマを見せてもらった。
その他にもヴェルサティスとアヴァンタイムが隣同士に並んでいたり、ほのぼのいやし系のシトロエン・ヴィザがちょこんと佇んでいたり、一般駐車場には75のエヴォが異彩を放っていたりと、珍しいクルマを見ることができておもしろい。しかもここに集まるクルマたちは総じてきれいな気がする。散々なクルマはあまり見かけない。またまたなのかどうかはわからないけど、フランス車乗りでまだ一度も参加したことがない方は、来年ぜひどうだろうか? 周辺にはあわら温泉もあるのでひとっ風呂浴びて帰るのもおすすめだ。