Twingo RENAULT Sport 1.6 16V

イメージ1052_1イメージというものは、そのもの(人)を語るのに有効な手段である。たとえばフランス車でいえば、合理的、イタリア車でいえばおしゃれ、ドイツ車でいえば質実剛健……など、いまではそのとおりでないにしろ、明確なイメージを語れるということはそのものの魅力を伝えるのに大変便利であり、強力な武器にもなる。反面、そのイメージが強力であり、定着したものであればあるほど、そのもの(人)が方向転換をしたときに従来のイメージを払拭するのが困難になる。つまり新たなイメージを植え付けるためには、その方向性をキープしたまま、数年、数十年の時間を待たなければならない。イメージというものは、コントロールできそうで、できない自我を持った生き物のようである。

前7:3 1045_1ルノーの良心、ルノー・スポール。

新世代モデル(現行モデル)となったルノー車に乗るのは、2010年のカングートゥインゴQS5とクリオ1.2クリオ・グラントゥール2011年のウィンド2012年のカングービバップと計6台。感覚的にこの企画の対象車は一世代前のルノー車が多いと思っていたが、始まってからほぼ4年で6台なら決して少ないほうではない気がする。
ということで、今回はその現行モデルシリーズの7台目となるトゥインゴ・ルノー・スポール(フェーズ1)である(以下トゥインゴRS・現在はフェーズ2に移行している)。
デビューは2007年。シャシーはクリオ2をベースにし、外観は初代のほのぼのいやし系から大きく変更。エンジンは1.2、1.2ターボ、1.5ディーゼルで、後に1.6がRSとして追加された。2008年に日本へ導入されたときも、最初は1.2のQS5(2010年6月号で乗ったヤツ)と1.2ターボに5MTを組み合わせたGTの2グレードで展開していたが、2009年から1.6のRS(RHD)が追加。さらに2011年に専用の内外装を奢ったゴルディーニ仕様(LHD)が入ってきている。

後7:3 1046_1RSの名に恥じない仕様。

クルマに走りの要素を求める人にとって気になるのは、きっとターボのGTとNAのRSだろう。実際、RSがデビューした当時は、クルマ雑誌などでよくこの比較をした記事が掲載されていた。両車はスポーティーなモデルだけど「まったく違う」と。
具体的にはどこが違うのだろうか。まずエンジンだが、カングーやルーテシアなどでおなじみの「K4M」を基本にし、連続可変インテークカムシャフトを採用。吸気バルブのリフト量は9mmから11mmへ。ピストンにはメガーヌRSと同じグラファイトコーティングを施工し、ピストントップと燃焼室の形状を変更することで圧縮比を9.7から11.0に高めている。また、エキゾーストマニホールドも4 in 1の“タコ足”を採用。これらの変更によって、最終的なアウトプットは134ps/6750rpm、16.3kgm/4400rpmを実現している(GTは100ps/5500rpm、14.8kgm/3000rpm)。シャシーはGTと比べて前が60mm、後が59mmとワイド化され、それにともなってオーバーフェンダーを装着している。サスペンションはスプリングレートを30%ハードにして車高を10mmダウン。フロントのロアワームをアルミに変更され、リアのスタビライザーも太くなっている(ロール剛性25%アップ)。ブレインパネ1054_1ーキは前後ともにメガーヌのローターを採用し、キャリパーは前にラグナ、リアにメガーヌと同じものを組み合わせている。
さらにクリオ/ルーテシア、メガーヌそれぞれのRSと同様に街乗りにもやさしい「シャシースポール」とサーキットユースを見据えた「シャシーカップ」という2つのチューニングが用意されている。シャシーカップではスプリングをさらに10%硬くし、ダンパーは専用のものに変更。車高もさらに4mmダウンされる(GT比計14mmダウン)。またシャシースポールは195/45R16のタイヤ&ホイールを装着しているが、シャシーカップではコンパクトカーに見合わぬ195/40R17というサイズへ。と、まぁ、細かいことを書き出せばきりがないが、とにかくトゥインゴRSはルノー・スポールの名に恥じないよう大きなことから小さなことまでいろんなことがしてあるというわけだ。

前席1055_1このクルマ、ルノー車だよね?

現車とご対面。このクルマは左ハンドル・シャシーカップの並行車である。2011年、ディーラーでも左ハンドルのRS(ゴルディーニ)は取り扱っていたが、それはシャシースポールだった。シャシーカップは2009年に取り扱っていたが、それは右ハンドル。ややこしい。白のストライプと随所のホワイトも特徴的。ゴルディーニなのか? いやいや、よく見るとホワイトの部分に「G」のエンボスがない。ああ、塗ってあるんだー。気合い入ってるなぁ。あと、目立つのはやはりデカいホイールと薄いタイヤ。ちょっとスピード出してキャッツアイとか踏んだら歪んじゃいそうだな。なんか気を遣う……。とかなんとか思いながらトゥインゴRSを借り出したのであった。
このクルマで走るところと言ったら、峠しかないでしょう。自宅から西へ。早朝の峠。ポジションは少しだけ座面が高いけど、まずまずしっくりくる。イスのサイドサポートがタイトで、大柄な人だとちょっと圧迫感があるかもしれない。最近のクルマの多くが「電動パワステ&電動スロットル」になっているのだが、トゥインゴRSの電動パワステはそれほどおかしなフィーリングではない。電スロもケーブルで引っ張ってスロットルバルブを開閉する旧来のタイプほどではないが、まずまずのレスポンス。アクセルペダルとスロットルの間に介入した電子制御の存在をそれほど感じさせないナチュラルな反応を見せてくれる。

リアシート1053_1 ガバッとアクセルを踏み込むと、純正とは思えない勇ましい排気音と奏でる。まず大きな魅力はこの音だ。2000prmあたりではそれほど音に意識がいかないが、5000rpmまで持っていくと猛々しい鼓動が響き渡る。5000rpmを超えるとかなり緊張感のあるサウンド。この音と振動でアドレナリンがドバっと出る感じがする。クロス気味のギアを右手で操作しながら、クイックなステアリングを切ると、スッとノーズが入る。頭が重たい印象はない。だいぶ使い込んであるタイヤということもあるが、195/40サイズはロードノイズが盛大。しかし、タウンスピードではハードだと思えた足は、峠にステージを移すとハードなりにしっかりとストロークしているのが手に取るように分かる。コーナー途中のうねりや少々のギャップを踏んでも、タイヤが路面を離すことなく、しっかりとダンピングし、姿勢を崩すことなく駆け抜けていく。タイヤは少しも鳴らない。ボディラゲッジ1059_1もきしみ音ひとつしない。
さらなる美点は、ブレーキだ。よく効くのはもちろん、ブレーキ剛性が高い。コーナー手前でガツンの踏んでも「へへん、それくらいの踏みじゃ、まだまだだね」とでも言われているかのごとく、余裕があるのだ。これは1ランクどころか2ランク上のラグナ/メガーヌのキャリパを使用している恩恵だろう。
コーナーを2、3個クリアして思った。「あれ? これ、ルノーのクルマだよな?」。初代トゥインゴ、ルーテシア2、そして諸々のルノー車にみられる、あのどっしり、しっとりとしたスタビリティ重視の足回りとはまるで違うのだ。軽量ボディを活かして、コーナーをクイックに、ステップを刻むかのように小躍りして駆け抜ける感じ。この感じは……あっ!!!

ペダル1050_1プジョー107? 108?

これは、これはごくごく個人的な意見である。なので、異論はあると思う。いや、あって当然だと思う。そう、前置きしておいてあえて言う。この感じ、プジョー106やシトロエンSAXOの類である。
そう思ったのは、僕の愛車がSAXOであり、そのSAXOでもう何回も走っているこの峠で、ときどき、いや大部分のフィーリングがSAXOと一致したからである。スッとノーズが入るこの感じ。コーナーでの身のこなし、ギアのステップ比、パワー感、サイズ感……。もちろんトゥインゴRSのほうがどこを取ってもモダナイズされているし、性能も上である。ボディはSAXOなんかより剛性が高いし、ブレーキも頼りないSAXOなんかESP切替スイッチ1049_1よりよく効くし。でもフィーリングという部分だけ抽出すると、限りなく106 & SAXOだ。
たとえば、プジョーがガワだけ変えて「ニューモデル、プジョー107 GTですっ!(番号的には108か)」なんてアナウンスしたら、乗った人はなるほどと思うかもしれない。106 & SAXOオーナーならなおさらである。絶対ないけど。
ま、これはあくまでも個人的な意見なので「へぇ、そう思う人もいるのね」程度にとどめておいてもらって、でも、とにかく走るのが楽しいってことに間違いはない。よく雑誌で「ホットハッチの再来!」なんて見出しが躍っていたけど、まさにそうだと思う。あの手に汗握る興奮が、このクルマにはたしかにある。
さらにその手の汗が出すぎて、ステアリングが滑ってしまうような体験をしたいなら「ESP」を解除しよう。タイヤは路面を搔き、姿勢は不安定になり、もうコーナーの入口~途中~出口まで大フィーバーである。なんだ、知らない間に運転がうまくなってたわけじゃないんだ。ボタンひとつでドライバーの真の実力を思い知らされる、禁断のスイッチである。

エンジン1057_1こんなおもしろいクルマなのに。

クルマを操る楽しさを、エコ全盛の時代にあっても現代流に解釈し、このようにちゃんと提供してくれるルノーという会社に感謝しなければならないと思う。いまの時代にあって、あえて(だと思う)5MT+3ペダルというもはや古典的な部類に入るメカを装備し、操る楽しさを提供してくれるなんて走り好きの心をわかっていらっしゃる。にくいね。こんなおもしろいクルマ、当然売れるよね。よね?
しかし正確なデータはないのだが、トゥインゴRSはそれほど売れていないように思う。ルノー・スポールの日本での売上は、全世界で9位に入るくらいの健闘ぶりだから(2010年)、RSが売れていないわけではない。でも街中で見るのはルーテシアRS、メガーヌRSばかり。なんでトゥインゴRSを見ないのだ? むしろトゥインゴRSこそ、ルーテシアRSより売れるはずではないのか。クリオ/ルーテシアは「3」になってボディが大きくなった。ホットハッチ好きはたいてい大きなボディを嫌う傾向にあるから、大きくなったルーテシアRSよりもトゥインゴRSくらいのサイズのほうが好みに合うはずではないのか。それともルーテシアRSは、そのサイズ感を払拭するくらい、そしてトゥインゴRSを上回るくらい乗って楽しいクルマなのか?(乗ってないのでわからない……)

renault_twingo_01_RS_02「最近のクルマは……」と嘆くなかれ。

なぜ売れない、なぜ人気がない。そんなことばかり言っても仕方ないので、売れない理由を(冷静になって)考えてみた。
思い当たるのが、初代のイメージが大きすぎて「RS」というスポーティーなイメージに結びつかないこと。ご存知のとおり、1993年にデビューした初代トゥインゴはほのぼのいやし系のデザインと100万円台半ばの価格設定でそれなりに売れたし、実際2007年まで生産された息の長いモデルとなった。そのため、そのイメージが定着し「トゥインゴのルノー・スポールが発売されたよ! すっごいスポーティーだよ!」と言ったところで「ん? あのトゥインゴに走りのRS?」と一瞬、脳内でその像が結びつかないのではないか。その脳内のイメージを表してみると、上の写真のようなイメージになるのだが……。や、やべ。ほのぼのいやし系とスポーティーなミスマッチを狙ったのに、むしろそそられるスタイルになってしまった。ま、ともあれ、そのミスマッチイメージによって「2」の時代からRSがあるルーテシア/メガーヌのほうに意識がいってしまい、トゥインゴRSは少しずつ埋没していってしまった……のかもしれない。
タイヤ1056_1 でもね、トゥインゴに付きまとっているほのぼのいやし系の強大なヴェールをはぎ取れば、そこには現代的な解釈でつくりあげた、でもクルマを操るという原初的な部分はしっかりと残した、理想的とも言えるホットハッチの興奮が待っているのだ。何だかルーテシア2 16Vのときにも同じことを言ったような気がするが「ホットハッチ好きのみなさーん、忘れてませんか? ここにいーのがありますよー」と叫びたい。最近のラテン車でAセグのホットハッチなんて、アバルト500とかパンダ100HPくらいしかないんじゃないか。そんな中にあって、NAで走りの楽しさを味わえるのはトゥインゴRSだけだ。「最近のクルマはエコ、エコばっかり言って……」と嘆いていないで、まずトゥインゴRSに乗ってみることを強く、強くおすすめしたい。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
SPECIAL THANKS/Shimada Takumi

エンブレム1047_12010y Twingo RENAULT Sport 1.6 16V
全長×全幅×全高/3600mm×1680mm×1470mm
ホイールベース/2360mm
車両重量/1120kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1598cc
最大出力/98kW(134PS)/6750rpm
最大トルク/160Nm(16.3kgm)/4400rpm

あ、そうそう。めずらしく次回よ~こ~く~!
6月号はひっさびさの2シーター。
しかもヴィブルミノリテ初カテゴリーのクルマが登場しますよー。
乞うご期待!!

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