RENAULT Modus 1.4 16V Privilege Luxe

いやぁ、じつに惜しい。もうね、惜しいという言葉はこのクルマのためにあるんじゃないか、と思うくらい惜しい。ルーテシア16Vに乗ったときと同じくらい、いやそれ以上に惜しい。なんでかって? だって、16Vはちゃんとディーラーで売ってくれたじゃないですか。モデュスは売ってくれなかった。こんなにいいクルマなのに……。「○○なのに~」を連発してしまう気持ち、きっとモデュスに乗ったことのある方なら分かってくれますよねぇ?

トゥインゴ以上、セニック未満。

 モデュスの話をする前に、コンパクト・モノスペースの話を。そもそもハッチバック車をベースに、背を高くして室内空間を広げたコンパクト・モノスペースというジャンルのパイオニアはいったい何か? いろいろな車種が挙がるだろうが、ヨーロッパにおいてこのジャンルを確立させたのは、セニックではないだろうか。1996年に登場するとその人気は瞬く間に上昇し、最高時はヨーロッパ全体で65.0%、フランス国内では79.5%ものシェアを獲得した。まぁ、ルノーはその前にエスパスでそれなりの成果を出しているから、モノスペースのクルマづくりはお手の物、といった感じなのかもしれない。
で、だ。エスパス→セニックときたモノスペースの流れを、もうちょい下まで降ろそうと考えたのだろう。もっと下にはトゥインゴがいる。だから「トゥインゴ以上、セニック未満」なクルマでそのニッチを埋めようしたのかもしれない。もちろん、この時代のチーフ・デザイナーは、ル・ケマンである。新たなアイデアで新たな市場を開拓しようとする、いかにも彼らしい試みではないか。
そして2004年に誕生した“正しい尺度”を意味するクルマがモデュスである。ルノー車として初めてニッサン・マーチなどと共通のBプラットフォームを使用。現行のクリオやトゥインゴも同じものを使用している。

カネかかってっぞ!

サイズは3792mm×1695mm×1589mmで、全長とホイールベースは、ほぼクリオ2と同じサイズ。もちろん5ナンバー。全体の大きさとしては、ニッサン・キューブやホンダ・キャパと同じようなイメージだ。エンジンは1.2リッター、1.4リッター、1.6リッターのガソリンと1.5リッターのディーゼル。標準の5MTのほかに1.6リッターのみプロアクティブ4ATがオプションで選択可能になる。
インテリアもなかなかしっかりと作り込んである。たとえば、ツイードっぽい生地のシートやドアの内張りなどに上質さを感じる。樹脂パーツの質感やフィニッシュも丁寧。過度に高級をアピールしないが、控えめな上品さ、といえばいいのだろうか。パッと見は分からないけど、各ディティールをつぶさに見ていくと「ああ、カネかかってるな」とじんわり実感できる。
リアシートのスライド機構も、モデュスならではだ。これは3.8mしかない全長をより有効に使えるよう工夫されたもので「Triptic」と呼ばれる。詳しい説明はキャプションに譲るが、後席にスライド機構を設けることで、状況に応じて荷室と後席の空間を使い分けることが可能。その他にも助手席の座面の一部を持ち上げて小物を入れるスペースを確保したり、リアゲートの下部に開けた小さなドアが独立して開閉できるようにするなど、使い勝手に配慮した工夫が随所に凝らされている。
 安全性にも抜かりはない。ユーロNCAPの衝突安全テストでは、このクラスで初めて満点の5つ星を獲得するという快挙を達成している。デザインもこれまでのルノー車よりもちょっとフェミニンな雰囲気を漂わせつつ、各部に円弧や波形をモチーフにしてまとまりのあるカタチを実現している。
このように各部を見ていくと、コンパクトで使いやすいモデュスの良さが伝わると思う。誰にでも好かれそうなデザイン、高い安全性、しかもクリオよりプレミアム感のあるクルマ。モデュスで新しい市場を開拓するぞ! 2004年に意気揚揚と発売した。

ちっとも高そうに見えなかった。

しかし、結果はあまり芳しくなかった。いちばん大きな理由は価格だろうか。クリオよりも1,500~2,000ユーロ上回る12,650~20,250ユーロ(当時のレートで約170~270万円)に設定された。中身を見ていくと、決してこの値段でも高くないとは思う。しかし初見でモデュスを見た人は、たいてい高いと思い、敬遠してしまうのだろう。要するにモデュスは「ちっとも高そうに見えなかった」のだ。
 その後、欧州ではニッサンが同じプラットフォームを使って「ノート」を発売。これは売れた。特にフランスではニッサン車の代名詞になるほどよく売れたのだ。それを見てルノーは黙っていられない。2008年にマイナーチェンジを行うと同時に、全長を伸ばしてラゲッジルームを広げた「グラン・モデュス」を追加。リアシートを目いっぱい下げた状態だと荷物がほとんど乗らないモデュスの弱点を克服した。このグラン・モデュスの登場で「モデュスvsノート」の戦いはどうなったのか。情報がないので詳しくは分からないが、少しは一矢報いることになったはずだ。
そんなモデュスもすでにモデル末期。まだカタログに乗っているが、近い将来、新車は買えなくなるだろう。モデュスの後継もあまり期待できない。可能性があるとしたら、2011年のジュネーブショーに出展したBセグメントモノスペースのスタディモデル「Rスペース」だろうか。ただ、ルノーのスタディモデルはこれまで市販に結びついたことが少なく、Rスペースがモデュスの後継になることはあまり考えられない。

もはやメガーヌ。

さて、実車である。このクルマは2005年製の1.4リッター・5MT。グレードは最上級「イニシャル」の次に位置する「プリヴィレージュ」。その中でもまた一ランク上の「リュクス」なので、かなり豪華な仕様だ。装備はフルオプションに近く、オートエアコンとサンルーフが付いていないくらい。もしかしたらこの排気量、このグレードのモデュスは日本に1台だけかもしれないとのこと。
モデュス、クルマの存在は知っていたが、じつはこれまであまり興味がなかった。嫌いなデザインではなかったが、特別ここがイイ! と言えるところもなかったし、このクルマが新車並行で250万円くらいという話を聞き、正直「え、そんなにするんだ」とも思った。しかし、乗ってみて驚いた。
見た目、ぜんぜん高級感はない。むしろカジュアル路線だ。しかしエンジンをかけて発進してみるとその印象は一変する。まず、すごく静か。遮音性の高いレコーディングスタジオにいるような、エンジンやロードノイズの音が遠くで鳴っている印象。足回りもクリオのものより、2重も3重も厚くした感じ。いや、クリオのもの、というよりこれはもうメガーヌだ。走っていると、とてもクリオと変わらない大きさのクルマを運転しているようには思えない。
「う~ん」。僕はうなってしまった。「スズキさんが『いいクルマだよ』と言ってたのはこれかぁ」と。そして高速道路に乗るとその良さはさらに際立つ。ストップ&ゴーを繰り返す街中では、1.4リッターのトルクの薄さ(特に低中速)が少しだけ気になるが、高速道路のような一定速度で巡航する状況だとそれはもう素晴らしいの一言だ。あんまりスピードを出すとエンジンのうなりが気になりだすが、そもそもそんなに飛ばすキャラクターでもない。90~100km/hでゆったり流していれば、その静粛性、まろやかな足回り、直進安定性、そのすべてが快適だ。運転していて自然に笑みがこぼれる。こりゃぁ、確かにいいクルマだわ。

惜しいクルマ。

こりゃ、いいクルマだわ。そう思うと同時に、むくむくと頭をもたげてくるのが冒頭の「惜しい」の連発である。こんなにいいクルマなのに、いまいちパッとしない。こんなにいいクルマなのに、これと言って目立つアピールポイントがない。こんなにいいクルマなのに、値段だけで「高いっ!」と判断されてしまう。こんなにいいクルマなのに、多くの人がその良さを知らない。こんなにいいクルマなのに、ディーラーで売ってくれない!! もう、これは惜しいとしか言いようがない。
ただ「こんなにいいクルマを日本で売らないなんて、ルノージャポンとして恥ずかしくないのかぁ!」と一方的に糾弾するつもりはない。広告・販売の面からすれば、モデュスのようなクルマこそ、もっとも売りにくいからである。まず本国での販売不振は大きな要素となるだろう。さらにこのサイズでプレミアムカーという主張が(見ただけでは)いまいち理解できないし、価格が(サイズの割に)高いのもネック。いやいや、乗ってみれば分かりますよ、なんて、そんな言い訳は通用しない。乗る以前の話をしているのだ。価格を見て購入候補に挙がらなければ、試乗すらしてもらえない。そう、モデュスには「高いけど、それに見合うものがありそうだ」と思わせるオーラがぜんぜんない。

いま、あえてのモデュス。

しかし、世間的な評価とか、日本で売る、売らないとか、そんなことは乗る人本人には関係ない。たとえば、サイズ面で言えばセニックは大きすぎるけど、トゥインゴじゃ小さい。普段は4人だけど、たまに5人乗る。安いけど、質もそれなりのクルマにはもう乗りたくない、という向きには非常におすすめできる。
もうちょっと大きくなってもいいから、荷物が載るようなればいいなぁ。家族でキャンプに行く機会も多いから、シュラフやテントを余裕で載せたい。そんな人にはグラン・モデュスを選ぶといい。マイナーチェンジをして内装が若干チープになった感じがするのと、全幅が1700mmを越えて3ナンバーになってしまったのはちょっと残念だが、それでもいいクルマには違いない。
こんな世の中だから、安価至上主義みたいになっている。日用品や短期サイクルの消耗品、質をそれほど問われない物ならいいが、クルマという機能的な製品にまで価格! 価格! と強く迫られている。もちろん価格も大事だが、盲目的に高い! 安い! だけで判断していると、本当の価値を見失ってしまわないか。ま、見失っても何とも思わない人が多いので、いいのかもしれないけど。
ヨーロッパで、そして日本で、拡販の面ではまったく実力を発揮できなかったモデュスだが、そういうクルマこそ隠された真の良さを見出し、あえて乗る、というのも素敵だと思う。クリオ3が大きくなってしまったいまだからこそ、モデュスの価値が活きてくるような気がしてならない。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

2005y RENAULT Modus 1.4 16V Privilege Luxe
全長×全幅×全高/3792mm×1695mm×1589mm
ホイールベース/2482mm
車両重量/1235kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1390cc
最大出力/72kW(98PS)/5700rpm
最大トルク/127Nm(13.0kgm)/4250rpm

Share

Leave a Reply