本格的にマズいことになってきた。いままでだましだましやってきたが、そろそろ限界が近づいてきたようだ。クルマの話ではあるが、クルマそのものの話ではない。よきパートナーでありがならも、ときにはクルマ趣味の妨害となる存在。それは「奥さま」である。
付き合っていた当初はいい。まだお互いいいところしか見えていないし、相手に対する遠慮もある。しかし、付き合いを深め、やがて将来を考える話をするようになってくると、だんだん状況が変わってくる。相手の長所・短所が分かり、だらしない部分が目障りに思えてくる。ただのクルマ趣味ならまだいいが、それにクルマ「いじり」趣味が加わると「今度の日曜日、クルマいじっていい?」とおうかがいを立てなければならない。月に1回程度ならいい。それが2回3回となると必ず嫌な顔をされる。実際に言葉にはしないが「私とクルマ、どっちが大事なの?」とでも言わんばかりだ。
でも、これはまだいいほうだ。結婚して子どもができると、状況はさらに悪化する。3ドアのクルマなんか乗っていた日にゃあ、最悪だ(2シーターとなるとさらに絶望的だが)。とにかく「使い勝手が悪い」と非難される。「3ドアはもうイヤ」問題である。おまけに家族が1人増えるわけだから、家計も厳しくなる。うちは妻1人、子1人だけど、子どもを2人、3人持つお父さんが3ドアコンパクトカー1台で済まそうとするのはもはや不可能だ。国産車よりは手のかかるラテン車。当然、故障もする。お金もかかる。文句を言われる。だんだんクルマ趣味が危うくなる。
そこで男は選択を迫られるわけだ。
1・潔く国産ミニバンに乗り換える
2・2台体制にして、1台は家族用、1台は趣味用にする
3・1台でオールマイティにこなせるラテン車に乗り換える
「1」はあり得ない。これを選択した時点でアイデンティティが崩壊する。となると、「2」か「3」か。自分の場合に当てはめてみよう。
1・SAXOを完全に家族用にする。3ドアだけどそこはあきらめてもらってその代わり、SAXOは今後、一切“余計”なお金は使わない(正常維持にかかわらないものね)。で、1台趣味用に増車する。
2・SAXOを手放し、もうちょっと使い勝手のいいラテン車に乗り換える。たとえばコンパクトカーでも5ドアのものを選ぶとか。
冷静に考えると「1」はちょっとおかしい。普通はSAXOを趣味グルマとして、家族用に国産車を増車するのが真っ当だ。でもそれはどことなく「1」っぽい。それにそうしてしまうと今回の企画が成立しない(勝手でごめんなさい)。一方「2」は模範的だ。常識的だ。やっぱりこの路線に落ち着くのか。
ということで、今回は「増車?or乗り換え?」をテーマにして「本当に欲しいクルマを乗るとしたら、いくらくらいかかるのか?」を大雑把に検証したいと思う。僕が何を選ぶのかは、この際どーでもいい話。問題は「そのクルマを手にするまでどんだけの手間と、どんだけのお金がかかるのか」って話。その辺に注目していただきたい。
■1日目「禁断のラリーカーに手を出す」
もう一度、おさらい。方法としてはこの2つだ。
1・SAXOを完全に家族用にする。3ドアだけどそこはあきらめてもらってその代わり、SAXOは今後、一切“余計”なお金は使わない(正常維持にかかわらないものね)。
2・SAXOを手放し、もうちょっと使い勝手のいいラテン車に乗り換える。たとえばコンパクトカーでも5ドアのものを選ぶとか。
あまり現実的はないな、と思いつつもまずは「1」から考える。どうせ趣味グルマを買うのなら、思いっきり振り切ったクルマにしようと前々から思っていた。クーペだろうが、オープンだろうが、セダンだろうが制限はない。あまり高いのはムリだとしても、遠慮することはない。好きなクルマを選ぼう。
クルマはメカニズムが原始的であるほどいい。それがかっこいいクルマならなおいい。僕は昔からそう思ってきた。そこでまず候補に挙がったのは「フォード・エスコートRS1600(できれば、Mk1か2)」のラリー車である。競技車を公道で乗り回す。漢の夢である。さっそくネットで検索。国内には皆無なので、ヨーロッパを中心に探す。
すると、イギリスに良さげなクルマを発見。エスコートMk2でエンジンは2.1リッターのコスワースに換装。5速ストレートカットギアにクワイフのLSD、車高調にロールケージ、中も外もオールペンしてあるもろラリー車である。お値段1万7,500ポンド。しかし、これを日本に持ってきて本当に街乗りできるのだろうか。そもそもが競技専用車。それを一般公道で長期に渡って酷使するメリットとデメリットは? さっそくこのデータを持ってスズキさんとこに相談。かくかくじかじかと事情を説明し、これ、日本に持ってきたらいくらくらいかかるか聞いてみた。
スズキ(以下、S):またえらいの探してきたね。とりあえず計算機っと……。これはイギリスだからポンドだね。いまんとこ1ポンドは……。
モリタ(以下、M):さっきは1ポンド=118円でした(9月24日現在)。
S:じゃ、だいたい120円にしとこうか。ちなみに1ポンド=118円だからといっても、これに為替手数料やらなんかがかかるし、決済時での変動などがあるから、きっちりそのレートじゃ銀行ですら引き受けない。当然僕らもムリ。なので、5~10円プラスしてください。今回はとりあえず計算しやすいようにざっくりと120円にしとくけど。このクルマは1万7,500ポンドだから、210万円だね。まずイギリスから日本の港まで持ってくる運送料として30万円くらいかかるかなぁ。手配してもらう現地のヒトにも手数料を払わなければいけない。僕らもロハでは動けないなので、まぁたぶんプラス40万円くらいはかかるでしょうね。270万円に消費税で294万円。これで港渡し価格くらいじゃないかな?
M:もうこの時点であきらめかけてますが……。
S:いやいや、まだまだ。これ、競技車だから触媒とか排気ガス対策と全くなーもない可能性がある。エスコートMk2用の触媒なんて国内にないだろうから、別のクルマのを加工して付けるとして、そこで3、4万で済むかなぁ? 割と触媒って高いしねぇ。もちろん付いていたらいらないけど、そもそもその触媒が生きていて、用を為してるかどうかも定かじゃないし……。いちおう最悪のケースで交換前提で考えておいた方が確実。場合によっては点火時期制御、進角などいじったり、封印したり、しなきゃいかんかも。で、ガス検(車両を新規登録する際に必要となる各種モードでの排ガス検査)。これ、受検にだいたい30万円くらいかかるかな。で、1度の受検料で3回まで受けられるので、対策して受けて、落ちたらまた別の手を施して受けて、落ちたらまた別の手を……で、その度ごとに相応の費用が発生する。なんとかして規制値内の結果が得られれば、それでレポートと呼ばれる「ガス検査証」を出してもらって、ガス検取ったドー。になる。この時点でだいたい330万円くらいかなぁ? 素直にガス検受かればの話だけども。
M:さらに車検がありますよね。
S:そうだね。当然、日本の車検に通るように整備しなきゃいけない。音、爆音だろうねぇ。静かになってもらわないとお上はハンコついちゃくれないだろうねぇ。カーペットとかドアの内張りとか剥がしてあるだろうねぇ。なきゃダメだろうねぇ。3点式のシートベルトも付けないといかん。灯火類もそうだし。その他にいろいろ日本の保安基準に合致してないトコが出てきたら、全部何とかしないと車検は取れないよね。費用は想像できないけど、だいたい整備して車検受けてとなると、重量税自賠責入れると、40万円くらいかかるかもしれない。そうなると合計約370万円。あ、イギリスから取ると、スピードメーター・距離計はマイル、燃料の量はガロンだからねぇ(ニコニコ)。
M:出直してきます……。
■2日目「あきらめずに安いラリー車を探す」
いくら憧れのエスコートのラリーカーでも、さすがに中古車で370万円はつらい。しかもその値段で収まるとも限らない。モノを確認せずに買うわけだから、来てみてビックリすることも充分あり得る。じゃあ、ラリーカーをあきらめられるかと言われたらNO。次はこんなのを探してみた。
真っ赤なタルボ・サンバのラリーカーだ。これはスペインにあった。フリッカーにレストアの様子まで事細かにアップされている。レストアしてから競技に出た記録はなく、オーナーの趣味で作られた1台だそうだ。しかも値段は7,000ユーロ。いま現在、ユーロはめちゃ安だが、だいたい3か月くらい前まで遡って平均した数値、110円くらいで計算しよう。
S:車体価格は77万円だね。まぁ、これも元値は違ってもエスコートと同じだよ。もろもろやって日本で走れるようにして210万円くらいかなぁ。
M:エスコートに比べてばずいぶん現実的ですけど、このクルマに200万円以上かける価値があるかどうかですよね。
S:そうだね。ボクが昔69年式のルノー 8S買って日本で新規取ったときだって、69年なのでガス検はイランかったけども、そいでも結局総額なんだかんだで250万くらい要ったモン。自分で馬鹿だナーって思った。日本で8ゴルディーニ買えばよかったかもしらん、って思ったけど、しょうがないじゃん、8Sに乗りたかったんだもん。もうそこへ挑むかどうかは漢の心意気見せるかどうかみたいなモンで……。どぉ? やってみる? 得られる満足感高いよー。払う金額も高いけどネー。
■3日目「実用性と走りを兼ね備えたパンダ100HPはどうだ?」
悔しいがいまの自分では、妄想をかなえられるほどの財力がない……(先に気付け!)。今度は「2」の堅い線で考えることにする。SAXOを手放し、もうちょっと使い勝手のいいラテン車に乗り換える方法だ。僕は大きなクルマは好きじゃないので、やはり小さなハッチバックが対象になる。しかし、今度も3ドアというわけにはいかないので、5ドアハッチバックを見つけなければ。
そこで見つけたのが「フィアット・パンダ100HP」。1.4リッターで100ps。1,020kg、6MTとくれば不満はない。もちろん5ドア。国内にもあることはある。2007年に導入され、当時は限定130台で207万円だった。その後、2009年に再リリース。このときは限定100台。価格はちょっと上がって209万円。しかし、しかし、右ハンドルなのだ、これは。左ハンドルに乗りたいとなると並行輸入しかない。排ガス対策、車検対策などが上記の2車のようにそれほど心配いらないのであれば、まだ現実的か。こっちは乗用車だしね。さぁ、スズキさんに相談だ。
S:お、ちょっとは現実的になってきたね。
M:はい。走行距離2万6,000マイル(4万1,840 km)で、7,995ポンドです。
S:96万円くらいかな。これも前の2台同様、日本に持ってくるまでの費用はだいたい同じ。163万円くらいになるかな。あ、ヨーロッパの方が若干安いけどね。で、このクルマだったら、ガス検はどこかの業者が持ってるかも。もし持っていて、余っていて、それを譲ってくれれば少しは安く済むけど、それでも10万円くらいは払わないと譲ってくれないと思う。そういう業者を見つけられなければ、新規でガス検取らなきゃダメ。30万円。でも、コレはたぶんそんな苦労せずとも排気ガス検査は受かると思うよ。で、193万円。車検も普通の乗用車だからそれほど苦労しないと思うよ。あ、でも、こないだ中並のタEト車で、結局ブーツ破れてたりショック漏れてたりしたからなぁ……。あるんだよねー、天下のタEト車でも。そういう危険性も孕みつつ、まぁ、運良く大ごとがなければ、だいたい20万円くらいかなぁ? とはいっても、もろもろ210万円くらいになっちゃうか。
M:国内では走行1万5,000kmとかのが190万円くらいで流通してます。もちろん右ハンドルですが。
S:微妙なところだね。右で満足できれば、わざわざ並行で取る必要ないけど。それにもうラインオフしちゃったクルマでしょ? もし次のモデルが出るなら新しいパンダのスポーツモデルを新車で買ったほうがいいかもよ。
M:たしかに……。
■4日目「左ハンドルのカングーなら行けそう?」
なんだかわざわざ中古をヨーロッパから引っ張ってくるのがもったいなく思えてきた。それなら新車ならどうか。新車並行。略して新並。まったくの新車であれば、割と妥当な金額で確保でき、排気ガス検査も共用できたりで負担が減る(逆に他で売れなさそうな車だと、1台に全額かかっちゃうけどね)。
そして車種をガラッと変えてみる。これまではラリーな雰囲気をにおわすモデル、そしてある程度“走り”に振ったモデルを選んできたが、ここはひとつ実用車を視野に入れてみよう。選んだのは「ルノー・カングー・エクスプレス・コンパクト」。思いっきり商用車。だから荷物がいっぱい積める。もうひとつの趣味、オフロードバイクだって積める。「荷物をいっぱい積みたいなら、ノーマルサイズのカングー・エクスプレスでいいじゃん」という声も聞こえてきそうだが、いやいや、このショートホイールベースがもたらすキビキビ感がどうしても捨てがたい。以前、カングーBeBopに乗ったときの感動がいまでも忘れられないのだ。だからどうしてもコンパクトじゃないとダメ。
M:どうですかね、スズキさん
S:うーん、おもしろいけど、これ1ナンバーだからリアシートないよ。
M:え、そ、そうなんですか? オプションでもなし?
S:うん、ない。
M:ガーン……。
S:リアのクォーターガラスないし、毎年車検だし、任意保険が高いし、ETCの割引適用がお得じゃないし……。値段は日本で乗れるようにして200万円は超えちゃうね。
M:ランニングコストを考えれば、あまり実用的ではないですね。というか、そもそもリアシートない時点でアウトか。素直にBeBop買ったほうが良さそうですね。ちなみにディーゼルは?
S:ポスト新長期に対応した規制数値じゃないと登録できないからねぇ。ポスト新長期のPM(粉塵)の規制基準は、I原さんのお達しかドーカ知らないけど、世界一厳しい。ユーロ5よりも厳しいのでメーカーすら挑まない。きっと挑んでも挑んだ分元取れる台数日本では売れないカラじゃないかなぁ? だからあんまディーゼル車が日本に入ってこない。まぁ、みなさん言うだけで買ってないからってのもあるとは思うけども……。メーカーすら及び腰のそれへ、敢えて挑めと言う暴挙な訳で。それをやるのに、あれこれやって受けてで100万? で、受からなければさらに50万円とかって話が一般的ですねぇ。ま、やってみた具合ですが。私が言うことを信じられないなら、不退転の覚悟で挑んでみてもいいんじゃないかなぁ? 各々その度毎請求で承ってもいいですよ。
M:ひぇ~。それなら普通のカングーの左ハンドルマニュアルはどうでしょう。だんだん妥協の塊になってきましたが……。
S:いや、それもおもしろいんじゃない? 普通のカングーと思わせといて「左!?」みたいな。ベーシックな「オーセンティック」を例にとろうか。オーセンティックは標準ではエアコンレスだから、まずエアコンを付けて。小物入れとか観音開きとかもろもろオプション付けてだいたい1万7,000ユーロ(187万円)。消費税入れて約225万くらいか。新車だったら僕らは向こうの言い値で買ってくる訳ではないので、その分で必要経費をよっぽど賄えるから、だいたいそのくらいで港渡しできるんじゃないかなぁ? で、こういう、継続販売されてる新車だったら、ガス検査取っても、ガス検査は同型車なら10台まで使い回し可能だから、ガス検査取っても、他で売れる可能性があるから、他で使う前提で、その費用は僕らで何とかなるかな? となると、車検とって諸費用入れて260万円ちょいくらいかな。あ、一つ上のグレード、エクスプレッションだと標準でエアコン付いてるな。これで計算しても、あぁ結局だいたい同じくらいの数字になるね。で、装備充実ってことだねぇ。結局、安いのは安いまま乗らないと結果高くつくってのが世の常で……。あ、でも結局、ディーラー車の右マニュアルが219万8,000円だから、そう変わんないねぇ。ユーいっちゃいなよ、左マニュアルのカングー!
■5日目「最近はやりの小排気量ターボで、クリオ1.2TCeは?」
そうか。単純に価格だけで考えるなら、新並のほうがお得感が強い。それなら、さらに経済性を重視して「クリオ3 1.2TCe」の5ドアはどうだろうか。
S:いいんじゃない? あ、運良く先代クリオ1.2TCeの中古車のいいのがあれば、ガス検査取ってあるから、総予算的にはいいかもねぇ。前ご相談いただいたパンダ100HPでいうところの「ガス検手に入ったぜ」状態。だけども、高年式低走行なクルマって、向こうだと新車の隣みたいな値段で売買されてるからねぇ。どっちにしても、ないものは買えない。ないものの話をしてもしょうがないから、新車の話しましょうか。新車は作ってれば買えるからねぇ。やっぱ新車だなぁ……。グレードはエクスプレッションでいこうか。せめてフォグランプくらいは欲しいよね。それ付けて1万6,150ユーロ。このモデルだったらガス検は他で使えそうだから、前のカングーみたく、僕らで負担してもイイかもね。で、ガス検入れて店頭での販売価格が消費税込み245万くらい? ここから車検や諸費用など入れてやっぱり270万くらいかな。ちなみにディーラー車の1.6マニュアルが209万8,000円。いいじゃんいいじゃん、いっとこうよぉ・・・あ、でも、そいだったら300万くらいでクリオ・ゴルディーニって手とか、270万くらいでウィンド・ゴルディーニって手もありますけども。
M:なるほどぉ。ウィンドはダメだけど、クリオ・ゴルディーニはいいなぁ。あ、3ドアか……。
S:新車だと1年間は部品供給を無償で受けられるしね(一部部品をのぞく)。
■6日目「帯に短し、襷に長し。クルマ選びはいくら悩んでもタダ」
ここでいままでの内容をまとめたいと思う。
フォード・エスコートMk2(中古) → 約370万円
タルボ・サンバ(中古) → 約210万円
フィアット・パンダ100HP(中古) → 約210万円
ルノー・カングー・コンパクトdCi90(新車) → 店頭販売価格300万円(税込)
※ただし排気ガス検査が素直に通ったらの話。プラス諸費用15万円、取得税10万円くらい
ルノー・カングー・オーセンティック1.6 16V(新車) → 店頭販売価格225万円(税込)
諸費用20万円、取得税10万円くらい
ルノー・クリオ3 エクスプレッション1.2TCe(新車) → 店頭販売価格245万円(税込)
諸費用20万円、取得税10万円くらい
価格とクルマの状態を相対的に考えると、新車並行で買ったほうが妥当だと言える。しかも国内で買うのとそれほど変わらない値段で買えることが分かった。
つまりはこういうことだ。中並は中古車だから元値は安いものの、どのような状態かがわからない。レアなクルマならガス検取得の費用なども重なり、結果的に高くついてしまう。一方、新並は新車なのでコンディションは保証されている。元値が高くても日本であれこれする手間が少ないので、結果的に上乗せ金額も少なくなる。一般的に考えれば、並行車は新車で買うのがお得、と言えそう。
しかし、ものは考えようである。エスコートMk2なんて国内でまず見ない。しかも本国でラリー用にモディファイされている競技車だから、さらにレアだ。運よく国内で見つけたとしても、購入してからロールケージ入れたり、エンジンチューンしたり、足回り換えたり、いろいろやったとして総額370万円で収まるだろうか。タルボ・サンバもしかり、である。反面、リスクもある。たとえばミッションが壊れた。ストレートカットのギア、手に入るのだろうか。シンクロ、手に入るのだろうか。それ以前にどこのメーカーが使われているかすら分からない可能性もある。古いクルマである上にいろいろ手を入れてあるので、維持していくのにはそれなりの覚悟がいる。
だからといって新並のクルマたちに満足か、と言われるとそうでもない。実用に徹するとして、カングー・エクスプレス・コンパクトが候補に挙がったのだが、リアシートがない時点でアウト。ならBe-Bopでいいか、というと国内では右ハンドルがほとんど。パンダ100HPも同じだ。じゃあ、ノーマルなカングーの新並でいいじゃん。左だし。値段もそう高くない。荷物も積める。でもね、やっぱあのショートホイールベースのハンドリングがいいのよ。もう普通のカングーとぜんぜん違うんだから。と、書いていて「ぜんぜん実用に徹してないじゃん」という自己ツッコミ。はい。すいません。でもなぁ、やっぱ運転して楽しいクルマがいいじゃない。そういう意味ではクリオ3 1.2TCeはいい。運転する楽しさはカングー以上だろう。ただその反面、カングーのような実用性は望めない。欲張りすぎだな、と自分でも思うのだが、決して安くない買い物だけにいろいろと考えてしまう。ま、これもクルマ選びの楽しみのひとつ。いくら悩んでもタダなので、思う存分、悩ませていただく。
最後にひとつアテンション・プリーズ。今回、クルマの価格で具体的な数字が出ているが、これはあくまでも目安としてとらえてほしい。こんな経済情勢だから、ユーロやポンドが大きく変動する可能性も充分あるし、中並のクルマに至ってはどういうコンディションなのか、よく分からない状態で日本に持ってくるわけである。現物を見て「案外まともじゃん」ということもあるし「こりゃ、そうとう手をかけないとまずいぞ」ということだってある。当然、それは価格に反映されてくるので、一概に「これだけ資金を用意しておけば大丈夫」とは言えないのだ。でも本気で、全力で「このクルマが欲しい!」という情熱とお金を持って臨めば、きっとスズキさんが何とかしてくれる……かもしれない。
TEXT/Morita Eiichi