前回のクロストークでやった「フランス大衆車の中古車を買うなら、いくらを基準に考えればいいのか?」。今回はその2回目。クルマのメーカー、モデルは異なるが、3台の中古車を乗ってみて、あーだこーだ言うゆるい企画。エントリーするクルマは、ランチア・イプシロン(2006年式・走行距離64,000km)、ルノー・カングー・ビボップ(2011年式・走行距離68,000km)、フィアット・クーボ(2014年式・走行距離110,000km)。それぞれの考察、評価はいかに?
足回りの消耗具合って、
意外にオーナーの乗り方に依存しないもの
Suzuki(以下、S)/今回、3台のクルマを連続で乗ってもらったけど、まずその感想から。
Morita(以下、M)/3台連続で乗ってみて、いちばん気になったのはクラッチの減り具合ですね。特にビボップはかなり不安を覚えました。その次がクーボ。ただ、クラッチはそもそも消耗品だし、減って当たり前。それ以外の部分で「ちょっとなぁ」と思える部分はあまりなかったです。むしろクーボは10万キロ以上乗ってるのに、足回りはしっかりしていて感心しました。イプシロンもクラッチ減ってるけど、もうちょっといけそう。内外装もきれいだし、マニュアルだし、いいなぁって思いましたね。
S/イプシロンとクーボはうちが新車で納めたクルマで、うちでずっとメンテナンスしてたんだよね。ビボップはうちに来る前は分からないけど、弊店に来てからは2オーナー。出自はそれぞれだけど、総じて手入れはいい方だよ。で、今回テーマとなるのが、中古車ってどこが消耗してくるのか?
M/そうですよね。僕が中古車と聞いて、いちばん気にするのは足回りの消耗具合です。
S/たしかに。でも、足回りの消耗って、これまで中古車を触ってきた経験則で言うと、そのオーナーの乗り方に依存するものではないように思う。もちろん、サーキットでガンガン走ってたってクルマはそれなりに消耗するだろうけど、普通に街中乗ってて、オーナーの乗り方によって消耗度が変わるかと言ったらそうでもない。車種によって、これはショックアブソーバーが抜けやすいとかそういう傾向はあるだろうけどね。
M/どこまで買う人が気にするか、ですよね。そりゃ新品のほうがいいに決まってるけど、中古車なので。
S/そう。なのでこの3台は総じて足回りは乗れないほどひどくはないし、この前のC2みたいにぜんぜんダメってことではない。
M/あれはひどかったですよね。それにしてもクーボの足回りのしっかり加減には驚きました。
S/そうだよね。うちでメンテナンスしてたからって、別に何度も足回りのパーツを交換したわけじゃないよ。なのに、あの感じ。いい意味でちょっと異常(笑)。その点においては、ビボップもそんなダメじゃないでしょ?
M/そうですね。普通に乗る分にはまったく問題ないです。イプシロンも2006年式でありながら、走行距離は6万キロ台だし、すごくきれい。イプシロンが好きな人にはたまらんクルマですね。
クラッチの消耗具合は、
オーナーの乗り方で差が出る
S/そうだね。話を戻すと、足回りがそのオーナーの乗り方にそれほど依存しない一方、クラッチはオーナーの乗り方しだいで、すぐに減るクルマとそうでないクルマに二分される。そもそもクラッチって、フライホイールにクラッチ板を擦り付けて断続させてるから、どうしても減ってくる。しかもダイヤフラムスプリングという板バネで押し付けているから、ある意味、乗り方によってクセが付いちゃう。
M/たしかに。
S/いずれ減るものだけど、乗る人のクラッチ操作しだいでそれが早まることもあれば、長持ちさせることもできる。
M/半クラッチが長い人は当然、早く減るでしょうしね。
S/じゃあ、クラッチは消耗品だから、新品に変えちゃえって、そりゃそのほうがいいけど、そうすると中古車の価格的なメリットがなくなる。そうなると、クラッチの減り具合が許容できるかどうかがポイントになるよね。その点でこの3台を評価すると、イプシロンはまぁ、許容できる範囲。ビボップはダメ。クーボは何とかもたせれるかなって感じ。
M/そうですね。僕も同意見です。
S/クラッチを換えようとすると、最低でもトランスミッション下ろして作業しなきゃいけないので、それなりの仕事になる。でも、総じてクラッチ交換の作業は減ってきてるね。それはクラッチの性能が良くなったのか、オーナーさんがクラッチを交換するまで乗らないのか。まぁ、だいたいクルマのクラッチって普通に運転してれば、10万キロはもつからね。
M/そう考えると、ビボップはまだ6万キロ台なのに、あの減りよう(笑)。
S/そうだね。ビボップは弊店に来る前のオーナーがよっぽど半クラを多用する人だったんだろうね。カングー2って、全車共通してクラッチのミートポイントが高い気がするんだよ。
M/というと、手前でつながる?
S/そう。最初、うちに来たときは、それがひどい感じなのかなって思ったけど、乗ってみたらいや、これは違うぞ、と。でも、まぁ、乗れなくはないしいいかと乗ってたら、徐々にいまの状態までなった。ただ、経験則で言うと、あ、クラッチやばいなぁって思う状態からさらに1万キロくらい乗ってた人がいたので、すぐにクラッチが滑り出すってほどでもないんだよ。
M/へー! まだそんなにもつんだ?
S/まぁ、でも不安を抱えながら乗るのもあれなんで、換えたほうがいいよね。
M/そうですよね。
S/距離は少ないけど、クラッチを多用したから減っちゃったんだねって感じ。まぁ、順当に消耗してるね。
M/ビボップはクラッチ交換必須で、あと気になるところは?
S/あとはタイヤが終わってる。前々オーナーがミシュランに換えたんだけど、あれ、ミシュラン特有なのか思い切りってヒビ入ってる。
M/全部そうなんですかね?
S/いや、ミシュランでもヒビ入らないのもあるんだよ。
M/そうなんですね。
S/まぁ、ヒビ入るのが多いけどね。ミシュラン曰く、ゴムの寿命を的確に知らせるためだとか。でも、国産に慣れている人だと、ねぇ。ヨコハマなんか10年経ってもヒビ入らない。タイヤとして終わってるのに、ヒビ割れない(笑)。
M/まぁ、どっちがいいか、というか、メーカーの考え方の違いですね。じゃあ、ビボップはクラッチとタイヤ。あと、もろもろ交換しきゃいけない油脂類ですね。
S/ああ、あとAppleのCarPlayが出だした当初に、対応デッキを付けているので、まぁ、これは人によってはうれしいかも。
クーボは、タイミングベルトを交換すれば安心
内外装も気になれば
S/もっと順当な消耗具合はクーボ。10万キロ超えて、こんな感じのクラッチなら、まぁ、こうなるよねって感じ。クーボのオーナーさんは新車から乗ってて、左マニュアルも乗り慣れている人。運転も荒いわけじゃないので、ごく普通に乗られていた。距離が10万キロ超えているのも、レジャーでいろんなところに行ってたから。特殊な乗り方をされていたわけじゃない。クラッチもすぐに滑り出すほどじゃないし、まだまだぜんぜん乗れる。
M/他には何かやることあります?
S/そろそろ2回目のタイミングベルトを換えてもいいのかなぁ、とは思うけどね。タイヤは古いけど、あ、これもミシュランだけどヒビ割れてないからね。外装の細かいキズはあるので直したいなら直す。あと、この頃のフィアット車全般に言えることだけど、ホイールキャップの色あせ。
M/ああ、なってますね。色褪せを超えてる気もしますが(笑)。
S/そうそう、表面は塗装してあるんだけど、それが劣化して粉吹いてきて、その粉と一緒に塗装がはがれる感じ。まぁ、気になるなら換えるか。内装はフロアマットがだいぶ劣化してる。純正は手に入らないだろうから、社外品でつくったほうがいいね。あとは……、あ、そう。距離計が点滅してる。
M/ああ、してましたね。
S/まぁ、こまごましたのはあるけど、お客さんがどこまで許容するかで価格にも反映されてくるよね。
S/じゃあ、次はイプシロン。このクルマは2オーナー車で、前々オーナーは1万キロしか乗っていないから、まぁ、いいとして。前のオーナー。もともとバイク乗りなのでクラッチのつなぎ方が唐突なのかなって。あくまで推測だけどね。
M/ああ、ときどきポンッとつなぐ人、いますよね。
S/そうそう。そういう感じ。そういうクセがあって。だからちょっと独特の感触がある。エンジンが振ってるような感じがするので、マウントも換えたりしたけど変化ないので、クラッチのクセかな、と。だから半クラをゆっくり慎重につなぐ人はあまり違和感ないと思うんだけどね。
M/ですよね(笑)。イプシロンは?
S/僕はやるつもりでいるけどね。クルマの年式的に2006年だから、このままもたせてもいざ交換しきゃいけないときがきて「部品ないです」と言われたら、目も当てられない。それにこのクルマはまだ乗り続ける価値があると思う。
M/うん、それは言える。
S/前のオーナーは転勤が多い人で、転勤先が割と屋根付きの車庫が多くて、しかも行動の基準がバイクなので、結局バイクばっかり乗って、クルマは月に1回くらいしか乗らないって。
M/じゃあ、あのきれいさも納得ですね。
S/タイミングベルトは5万キロくらいで一回換えてるし、残しておきたいクルマ。
M/おー、それならなおさらですね。
S/なので、僕はクラッチを交換するつもりでいるけど、お客さんがしなくてもいいってことなら、その分安く提供できる。ただ、エアコンの効きがちょっと弱い。単にガスが減ってるだけならいいけど、コンプレッサーが問題なのかもしれない。特定はできないけどね。なので、最近流行りの適切なガスの量を補充できるやつで、ガス入れてひと夏過ごしてみて、それでも耐えられないってことなら次のステップかな。あとは順当に車検整備すればいける感じ。
まっとうなクルマに乗ろうと思ったら
とりあえず100万円いるよね
S/クラッチを換えるとすると、トランスミッションを下ろしてアレコレするから、その費用はどうしても販売価格に乗ってくる。ただ、それを込みにするとお客さんに提示する価格が高くなっちゃう。そこで、中古車屋はこの3台のうち、イプシロンとビボップはクラッチ交換を踏まえた値段になっている(イプシロン/75万円、ビボップ/95万円)。だけど、クーボは別。なぜならもう10万キロだからね。気になるなら換えればいいし、このまま行けるところまで行きますわってことなら、安い価格で提示できる。
M/なるほど。
S/クラッチ交換した状態で、10万キロ超えのクーボが75万円って、なかなか乗ろうって人いないと思うんだよね。だからクラッチは交換しないで、それより安い値段(65万円)で出したほうが、お客さんもその値段だったら乗ってみようかってことになるかもしれない。
M/たしかにねぇ。
S/中古車って、そもそもいろんなところが消耗しているクルマ。新車の状態を0(ゼロ)だとすると、中古車はマイナススタートなんだよね。そのマイナスをどれだけ0に近づけられるか。近づけたいものが多ければ多いほど、価格に転嫁してくるよね。
M/そうですね。
S/この3台はクラッチくらいしか気になるところがないからいいけど、もっとボロいクルマだと車両価格は安くても、ちゃんと乗れるようになるまでやったら結果的に高くなる。だから、僕はいつも言うけど、まっとうなクルマに乗ろうと思ったらとりあえず100万円いるよね、って。そういう話になっちゃう。
M/ええ、ええ。
S/古くて安いから買ったって、でもそんなの何がいいの? って思うよね。それよりもまっとうなものを買って、3、4年乗って「あのクルマよかったよね、おもしろかったよね」って思えないとお金を払う価値はないと思うんだよ。
TEXT&PHOTO/Morita Eiichi