さて、今回は表題の通り、日頃、オイルに関する疑問を抱いていたRENOスズキさんが、ルブロスで知られるユーロリサーチの代表・永野さんにいろいろと質問する回。オイルのことをある程度知ってはいるけど、これはどうなの? あれはどういうことなの? と少し突っ込んだ話をします。オイルについて、あんがい知らなかったことや「え、そうだったの?」なんて話題も出てくると思います。では「スズキvsナガノ」のトーク、始まります。
ナガノさんをお招きして詰問会を実施したいな、と
スズキ(以下、S):以前、永野さんとこで「シュペールノヴァ」っていうオイルをつくってもらったんだけど、あのオイルって僕は技術的な知識とか大してないまま「こんな感じのオイルをつくって」ってお願いしたんだよね。そのときのうちのブログを見ると「オレの書く文章は説得力ないなぁ」って思うんだよね。
ナガノさん(以下、N):そう?
S:うん。なんで説得力がないと思うのかっていうと、数値で話してないからなんじゃないかと。10W-40とかそういう系のね。10W-40というのは、数字だからオイルの粘度というか、硬さというのは理解できるけど、実際はどうなのかって本当に理解できているのか? そういうのも全部ひっくるめて永野さんをお招きして、詰問会を実施したいな、と。
N:詰問会! 出た出た(笑)。
S:まぁ、それは冗談だけど、オイルについてクルマ屋の疑問をオイル屋さんにいろいろ聞いてみようと。
車種限定のオイルってのは存在し得るの?
S:最初に話したシュペールノヴァの話なんだけど、僕はあのオイルをつくってもらうとき、数値がどうこうというよりも、感触を優先した頼み方をしたんだよね。そのときの例として、ルーテシア2 RSの可変カムの動きが分かりやすいオイルがいいと。ただひたすらスムーズに回る最近流行りのオイルじゃなくてね。某社の「Gなんとか」ではなく「4なんとか」のようなオイル。
N:ふむ。
S:ただ、オイルに求められる機能というのは、どのクルマにも共通するものなのか、と考えたんだよ。それで車種を限定すべきではないのかなとも思った。だけど、感覚的にスポーツエンジンのほうがオイルの“味”が分かりやすいのではないか、と。
N:まぁ、そうですね。それはそうだと思う。
S:さらに。ルノーのミッションで最近のクルマにはEDCが組み合わされてる。これに乗ったとき「回転落ちるのを速くするようなオイルってできない?」ってオーダーした。EDC車のタコメーターの動きを見ていると、1速で引っ張ってきて2速につながるときにストンと針が落ちる。このスピードがすごく速いんだけど、これがオイルでもっと速くなれば、もっと楽しくなるんじゃないかって思ったんだよね。硬いオイルにして回転がモサッと落ちるようにすると、このエンジンらしさをスポイルしちゃうと思って。その旨を永野さんに伝えたら「シュペールノヴァ・ルージュ・ルミヌーズ」ができた(リンク先の後半に記述)。これは車種限定というか、エンジンとミッションの組み合わせ限定のオイルだよね。
N:ですね。
S:そういう僕の感触を優先したあいまいなオーダーにも関わらず、その通りのものを出してくるのは、やはりルブロスさんの技術力、知識力、商品力はすごい。
N:あれ? 詰問会のはずじゃ……(笑)。
S:いやいや、まだまだこれから。でね。実際、オイルで車種限定というのは、そもそも存在するのか? EDC専用というのはあり得ると思うんだけど。
N:車種限定というよりも、エンジンでしょうね。
S:スポーツ系のエンジンであれば、だいたい要求要件は似通っているとは思うけど。
N:僕が最初に考えたのは、ルーテシア2 RSの可変カムが……って話だったので、イメージしたのはスズキさんとこのお客さんが乗っているクルマ。やっぱりルノー車が多いし、マニュアル車多いし。そういうのを見ると、だいたい粘度的にも共通してるので、基本的にそこを押さえておいて、あとは添加剤などの配合をどうしていくかを考えていったんだよね。
S:やっぱりそうだよね。EDCみたいなのじゃない限り、基本的には車種限定っていうのはないよね。レシプロエンジンであれば。ロータリーはまた違ってくるかもしれないけど。
N:あと大事なのは使用状況ですね。街乗り中心なのか、サーキットで走るのか。
レシプロエンジンでロータリーエンジンのように、
ただひたすら回るオイルをつくるのは可能?
S:エンジンのレスポンスを良くしたいとか静粛性を上げたいとかって、そもそものベースオイルの性能によって違ってくる?
N:そうですね。
N:はい。
S:じゃあ極端な話、レシプロエンジンでロータリーエンジンのようにただひたすら回るオイルをつくってほしいと言われたら可能?
N:うーん、それに近づくことは可能かな。そもそもエンジンが違うので、100%ロータリーエンジンのようなフィーリングは出ない。
S:でも、それってものすごく乗りにくくなるよね。
N:そうかもね。
S:永野さんはさっき「車種限定のオイル」というのはないと言ったけど、巷にはそういう謳い文句で売ってる商品ってあるよね?
N:あれは、たぶんオイルの容量で車種限定って言ってるんだと思う。
S:ああ。ルノーで言うとエレメント換えると5.5リットルいるから1缶5.5リットルですよ、と。
N:そうそう。オイルメーカーが車種専用と謳って出してくるのはだいたいそこ止まりで、性能までは追求してないと思う。シュペールノヴァまで凝ったことはしてない。パーツメーカーやショップが絡んでくると、粘度を変えるくらいまでが精いっぱいかな。
S:なるほど。そういうことね。
機械式LSDの音を出さなくするためには何をするの?
N:他社だと、だいたいオイルつくるときにコストから入ることが多いんですよ。お客さんへの納入額をいくらにすればいいですか? って。そうすると、そのためにはこの組み合わせしかできないね、ってなる。あと缶のパッケージをデザインしたり、印刷でもコストかかるし。ただ、LSDのメーカーさんからOEMでつくってくださいってオファーがあったときにつくるオイルは、比較的ちゃんとしてる。音出たらダメとか、性能も追求してくるので。
S:音を出さなくするためにはどうするの?
N:他のミッションオイルよりも、リッチに摩擦調整剤を入れるとか。そういう対策をする。
S:ほお、なるほどね。
なんでナガノさんは僕の主観でオーダーした感覚のオイルをつくれるの?
S:僕はいろんなクルマを乗る機会があるから、オイルの差はある程度分かってるつもり。このクルマにこのオイル入れるとこんな感じかぁ、とか。でも、その体感には基準がないんだよね。僕の主観でしかない。もちろん、その感覚はみんなには共通しない。だから、僕が謳えば謳うほどウソっぽく伝わるし、説得力がないのかなぁとも思ったりするんだよね。でも、永野さんは僕の感覚を受け止めて、その通りのものができてくる。これは何でだろう?
N:スズキさんの感覚が、僕も共有できているからじゃないですかね。
S:そういうことですよね。
N:ラブラブってことですよ(笑)。オイルをつくるときって、多くのメーカーは机上の組み合わせでつくるわけですよ。でも、僕は自分のクルマで毎日走ってるし、サーキットも走る。ルブロスを使ってくれているお客さんや取扱店さんからも、いろんな情報が僕のところに寄せられるんですよ。なので、そういう生の声や自身の経験も踏まえて「こうしたらいいんじゃないか?」っていうチャレンジを何度もやってきている。計算上、こういう粘度になるから、ここまで耐熱性があるとか、そういう単純な話じゃないんですよ。そういう部分があるから、僕はスズキさんの愛を受け止めることができたんじゃないかと(笑)。
S:愛についてはノーコメントだけど、まぁ、その感覚で意思疎通ができてるからなのかな。世間一般の人は、オイルを換えてもそんなに変わるという認識がないと思うんだよ。
N:そういう経験をしていないからね。
S:そうだよね。
N:だって「オイルでそんなに変わらないですよ」って言うオイル屋もいるくらいだから。クルマに対してそんなに興味がなかったり、クルマの味っていうのがよく分かんない人たちがいっぱいオイルづくりに携わってるんですよ、実際。
S:そうなんだぁ。いろいろ経験を積んで違いが分かるようにならないといけないし、オイルメーカーさんもしかり、だよね。「その価格帯ならこれくらいのスペックのものしかできません」って言ってオイル屋さんも出してるんだろうけど、水面下では「ここをもっと安いのにして、ここも省いてやればもっと儲かるだろう」っていう思惑もついてまわる。もちろん、シュペールノヴァの場合でも、要求要件が多いにも関わらず、売値はこれだけって決まってる。にもかかわらず、要求要件のほうを重視するから、まったく儲からないものができてしまう。再三の値切り要求を却下されたもんなぁ。
N:ははは……。
S:もうちょっと考えてって言っても「無理です」ってあっさり言われるし。年間208リットル(ドラム缶の内容量)を達成したらちょっと安くなる?
N:なりません。
S:ほらぁ。
N:無理ですって。
S:まぁ、そういうことだね。コストがかかっていないと、それなりのものしかできない。当たり前のことだけど。
エンジンオイルでエンジンのパワーを上げられる?
S:さっきの話で体感(感覚)ってのがあったよね。体感には共通するものがない、客観的に判断する物差しがない。じゃあ、それを客観的に見るとしたら、やっぱり数値しかない?
N:そうですね。
S:たとえば、新車のときにカタログスペックが100馬力のクルマで、ある改良を施したら105馬力になりました、と。こういう場合は客観性に足る数値になるよね。じゃあ、エンジンオイルでパワーを上げることができる?
N:あり得ますね。
S:ピストンリングの密閉性が上がれば、圧縮比が上がることになるから、設計時の馬力まで出る可能性があるというのは分かるんですよ。でも、設計時よりも上がるということはあるのかな?
N:そういうことですか。それは難しいなぁ。エンジンの製造誤差もあるし、使用状況もあるし。
S:そうだよね。必ずしも上がるとは言い切れないよね。エンジン自体にもバラつきがあるなら、結局、客観性がないってことになっちゃう。
N:確かに。
S:シャシダイに乗っけて100馬力って言われても、実際に乗ってみて「これ、100馬力もあるかなぁ?」って思ったら、僕は自分の感覚のほうを信じちゃうけどね。
S:よくオイル屋さんのウェブサイトとかでユーザーの声とか、プロのドライバーの評価とか、載せてるところあるんだけど、一貫してないんだよね。プロドライバーは腕があったとしても、感覚や伝え方が違うから、オイルの評価も変わってくる。そう考えるとやっぱり体感には基準はないし、客観的に評価できるものじゃない。そもそも、オイルってそういうものとして捉える必要があるのかなぁ。
N:エンジンって設計段階で入れるオイルは決まってるじゃないですか。僕らがそのオイルよりもよく滑って、よく密閉して、よく潤滑するものをつくれば、性能の上積みになる。そこはできていると自負していますよ。
S:あるオイルを使って、サーキットを5周走り、タイムの平均を取りました。その後、オイルを換えてまた5周走りました。僕は差が出ると思っているんだよね。
N:出ると思いますよ。
S:出なきゃおかしいよね?
N:うちが協賛してるレースの練習走行で、オイルを交換したら坂のあるセクタータイムが上がったということがあった。
S:でも、それは人間が操作しているものだから、すべて同じように走れるわけじゃない。だから、結局タイムも客観性に足る証拠にはなり得ないよね。
N:そうですね。オイルだけの結果ではないと思います。
S:でも、体感的には変わるよね。たとえば「グッと踏み込んだら、以前よりも鋭く吹けあがった」と感じた場合。鋭く吹け上がるという感覚は、力強くクルマを前に引っ張っているってことだから、タイムも上がってるはずだよね。
N:うん、上がってるはず。
S:ただ、それもやっぱり「上がってるはず」という感覚の域は超えない。結局、客観性を証明できるものじゃない。永野さんはこういう客観性に欠ける仕事をやってるわけで、すごいなと思うよ。
N:まぁ、そういう仕事ですからね。
オイルの粘度数値と体感は一致するの?
S:オイルの粘度は10W-40とか数値である程度までは保証できるとして、同じ10W-40でも妙に硬いやつとか妙にスカスカな感じがするのって存在するよね?
N:ありますね。
S:そういうのを世間的には40の上の方とか下の方とか、そういう評価の仕方をするけど、あれは正しいの?
N:まぁ、どうしても多少のバラつきは出るよね。
S:ということは、40って書いてあったとしても、実際に40ピッタリってわけじゃないってことだよね。
N:ないですね。あくまでも目安なんで。
S:ですよね。寒いところに住んでいる人、温かいところに住んでいる人、日本でもいろんな地域に住んでいる人がいるから、オイルの粘度指標が必要になるわけで、乗っている人が感じる指標ではないんだよね。
N:はい。違いますね。
S:SAEの粘度表示を見てると「動粘度」って言葉があるけど、これは?
N:動粘度はオイルの硬さを示す数値です。数値が高いほど硬いオイルってことですね。
S:ふむ。じゃあ、粘度指数ってのは? ちょっと調べたんだけど、40℃の状態でどれくらいの流動性があるのかっていうのを指しているのが粘度指数?
N:いや、粘度指数というのは、40℃と100℃の状態でオイルを垂らして、その差が大きいと粘度指数が低い。差が少ないと粘度指数が高いと判断する。
S:じゃあ、差が少ないものほど、オイルの性能を維持できているってこと?
N:維持できているというか、温度が変化しても粘度の変化が少ないってこと。だから「こんなシャバシャバなオイルで大丈夫?」っていうのでも、100℃で同様の粘度を保っているのであれば、それは結果的に高性能なオイルと言えるでしょうね。
S:でも、動粘度はよく話に上がるけど、粘度指数ってあんまり言わないよね?
N:いいオイルつくったのに、数値が低いと「良くないオイル」って思われちゃうからかもしれないですね。
S:ああ。
N:温度変化が少ないから、耐久性がいいってわけじゃないし。新しいオイル入れても「すぐガシャガシャいってきたじゃん」ってのもたぶんあるでしょうね。
S:そう考えると、10W-40っていう数値は客観的にオイルの性格を理解するには適しているんだね。でも、それは体感とは関係がないと。
N:名古屋でルノー車に乗るには、10W-40というのは非常にいいところを突いていると思いますよ。
S:そうなんだ。僕は北の方に住んだことないから分からないけど、10Wでセルの回りが重いなんて、そんなことあるのかな?
N:あると思いますよ。-20℃とかそれくらいになると分かると思いますね。
S:なるほど。シュペールノヴァは長野県のオーナーさんには使ってもらっているけどね。長野県なら-10℃くらいにはなると思うけど、それくらいならいいのか。シュペールノヴァで以前、5Wと7.5Wも永野さんにつくってもらったけど、正直その差はわからんかった……。
N:ふだん10W-40に乗っている人なら5W-30以下まで落とさないと違いは分からないと思いますよ。
S:そうかぁ。ほんとにオイルって体感で語るのは難しいし、どこに基準を置いていいのか分からない代物だなぁ。だからみんな混乱するんだろうし、だからこういう詰問会でいろいろ聞いてはっきりさせておかないといかんと思ったんだよね。
N:うちの会社に一般の方から問い合わせのメールがあるんだけど「このオイルの100℃のときの動粘度を教えてください」とか。まぁ、数値を問われているので、それに返答はしますけどね。
S:なんか数値にとらわれちゃってるようにも思えるね。使ってみるのがいちばん手っ取り早い気もするけど。
N:そういうオイルについて興味のあるお客さんがいても、付き合ってるショップさんがしっかり説明できないことも多いと思うんですよ。スズキさんみたいにちゃんと説明できる人ならいいんですけど。
S:いや、うちはちゃんと説明できてないよ。分かってないから「たぶん大丈夫」って言ってるだけで。
N:まぁ、でもそういうことでも言ってくれるじゃん。そういう人がいまいないから。
S:うーん。ただ、一般ユーザーから見ると10W-40みたいな数値にこだわっちゃうのも分かる気もする。それで語るのがいちばん分かりやすいからね。
N:でも、分かりやすくすると、結局その数値でしか判断できなくなっちゃうという弊害もある。
S:そうだね。ここであらためてはっきりさせないといけないのが、SAEが示す数値は必ずしも体感と一致するものではないと。
オイルの性能に湿度は影響するの?
S:オイルの性能に温度は大きく影響するけど、湿度って影響する?
N:厳密にいえば、関係するでしょうね。
S:でも、エンジンオイルっては冷えている状態では常温だけど、熱がかかると高温になるから水分は気化するんじゃない?
N:たしかにエンジン内部はそうでしょうけど、外気の湿度が要因となって油温は上がるでしょうね。
S:湿度が高いと油温が上がると?
N:ええ。だってラジエターの熱交換率も悪くなるだろうし。直接オイルの性能に関係がなくても、エンジンにオイルを入れて実際に走行させると、湿度によって結果的に性能が下がるでしょうね。
S:なるほど。じゃあ、たとえば、ヘッドガスケットが抜けると、エンジンオイルってクリーム色になるよね? あれって冷却水が混じるからなるの? 水でもなる?
N:水でもなりますよ。
S:乳化って現象だよね。あれって混ざってるんだよね? 放っておくと水と油は分離する?
N:分離しますね。
S:そうか。何が言いたいかっていうと、湿度が高いっていうことは、空気中に含まれる水分が多いってことだから、湿度が高いとオイルに交じる水分も多くなって、乳化しちゃうんじゃないかってこと。
N:ああ、なるほど。厳密に言えば、乳化しますよ。冬場にエンジンかけてちょっとだけ走って戻ってきてエンジンを切ったりすると乳化する。エンジン内部に溜まっている空気を熱で蒸発させるまで至らずにエンジン切っちゃうわけだから。
S:オイルのフィラーキャップを外すとクリーム色になったオイルが付いてるのは、あれ、そういうことなんだ。
N:そうそう。そういうのを自分のクルマで発見した一般の方からメールも来たことがある。
S:やっぱり! そういう疑問持つんだよ。オイルに水分が加わって乳化しても、エンジンの熱が加われば水分は蒸発していくわけだよね。たとえば4リットルのエンジンオイルに1リットルの水が混入しました。かき混ぜたら乳化しました。その状態で油温が上がっていって水分が蒸発していったら、何リットル残るんだろう?
N:うーん、それはやったことないから分からないなぁ。
S:分かんないけど、単純に興味ある。でも、オイルに水が混入して、それが気化して……ってのを繰り返していったら、確実にオイルの性能は劣化するよね。
N:潤滑性能も劣いっていくし、酸化も早くなるし。でも、それは厳密にいえばの話ですよ。
S:そうだね。じゃあ、普通に使ってる場合は、湿度はそんなに考える必要はないか。すんごいジメジメしてるところで乗るのと、乾燥している地域で乗るのでは若干の違いはあるにしても、日本で乗る上で、日本という気候環境に配慮した専用オイルが必要ということはないよね。
N:そうですね。
オイルが最高の性能を発揮する油温ってどれくらい?
S:油温って、オイルメーカーが最高の性能を発揮する油温を設定してるんだよね?
N:まぁ、一般的に70~100℃くらいかな。
S:でも、サーキットだともっと上がるよね?
N:僕の場合だと130℃を超えることもあります。
S:そういうときはオイルクーラーとかで100℃くらいまで落としたほうがいいかもしれんけど、さっきとSAEの話でいうと、上の数字が50、60くらいのオイルであれば、耐えれないことはない?
N:充分ですね。5W-40でも大丈夫です。
S:あ、それでも充分?
N:充分です。0W-20だと劣化が早くなるかな。ちなみにうちのオイルは「酸化安定性試験」というのをやるんだけど、それは170℃で1週間、熱をかけっぱなしにしてそれでも性能が劣化しないのを確認してます。
S:ええっ? それ、こげないの?
N:こげないです。それだけもてば大丈夫だろういう基準でやってます。
S:あ、それ聞いて思い出したけど、オイル漏れてるクルマがあって。ダウンパイプにオイルかかってるのにしっとりしてるの。
N:ああ、耐えちゃってるんですね(笑)。
S:へー、こげないんだ! って思ったわ。そういう風につくってあるんだね。
N:安いオイルはそんな風にならずに揮発してっちゃいますよ。
S:なるほど。じゃあ、油温はメーカーとしては70~100℃くらい。場合によっては100℃超えても商品としてまっとうなものであれば、充分使えると。
N:はい。
S:僕はスポーツカー乗りではないからアレだけど、水冷エンジンで90℃くらいで水温が安定してる状況で、エンジンオイルだけ100℃、120℃、130℃になるってことがありえんよね?
N:うーん、車種によっては全体的に高いクルマはあるよ。
S:普通の街乗りでもちょっと回し気味で乗ってると上がってっちゃう?
N:うん、そういうのもある。よっぽど稀だけどね。
S:まぁ、普通に乗れることを前提につくってあるからね。たとえば、鈴鹿サーキットを10周回ると油温が130℃超えちゃうからオイルクーラーつけたほうがいいなってことはあるかもしれないけど、峠道走るとか、ショートサーキットを走るとかのレベルではそんなに影響ないと。
N:鈴鹿のほうがむしろ風が当たるんで負担は少ないよね。
S:ああ、そうか。距離があるし、スピードも乗るから。
N:そう。だから意外に油温って上がらない。ショートサーキットのほうがオイルのおかれる環境としてはきついよ。
硬いオイルだとオイルポンプが(一瞬でも)汲めなくなるってほんと?
S:じゃあ、次は油圧。一般的に油温が上がれば、油圧は落ちる?
N:そうですね。粘度が低くなるので。
S:以前、油圧計が付いてるクルマを乗っていたときに、そのクルマに入っていた得体の知れないオイル、エンジンかけた直後は2バールくらいだった。あったまってくるとアイドリングで1バールくらいになるんだよね。で、某社の某オイルに換えました。エンジンかけた直後は3バール出るんだけど、あったまってくるとアイドリングで2バール。それは前者のオイルが良くないってことなの?
N:そうですねぇ。オイルが劣化していたか、合っていないものを使っていたか。
S:極端に言うとシャビシャビのオイルだったから、そこまで油圧が出なかったと。たとえば油温が100℃以上になったとき。アイドリング時は通常の油温だと2バールあったものが、1バールまで落ちちゃっても大丈夫?
N:アイドリングで1バールはちょっとよろしくないですね。
S:そうだよね。なんか気持ち悪い気もする。油圧ポンプの回るペースってオイルが変わっても一緒なのに圧力が変わるってことは、つまり、そこを流れているオイルの硬さの違いってことだよね。
N:そうですね。
S:だからその硬さを維持できていれば、油圧も維持できる。エンジン回転が上がっていくにつれて、オイルポンプも一所懸命回るんで、油圧も比例して上がっていく。これはどこかで聞いたんだけど、硬いオイルだとオイルポンプが一瞬でも汲めなくなることはあり得る? 僕は理屈的にないと思ってるんだけど。
N:汲めなくなるようなオイルはないでしょうね。
S:ないよね。オイルポンプがオイルの硬さに負けるっていうようなことを聞いて、え、そんなことってあるの? って。40と60を比べてみて、油温が高い特定の状況において40だと油圧をロスするってことはまずないよね?
N:もし何かトラブルが起こるとしたら、ポンプが汲めないんじゃなくて、他の流通経路が通りにくくなってるとか……。
S:オイルポンプって、オイルを汲んでリリーフバルブかなんかでオイルエレメントに回して、もしオイルエレメントの流れが足らなかったら、リリーフバルブでエンジンのほうに直行でオイルを回すっていう仕組みだよね。
N:そう。だから物理的に汲めないってことはない。
S:だよね。オイルパンにオイルがなかったら知らんけど。あ、でもサーキットのような特殊な状況でコーナーリング時に横Gがかかって、オイルポンプにオイルがいかないことはあるのか。いや、それを防ぐためにバッフル板が入ってるよね。まぁ、そもそもクルマを設計するときにそういう状況も考えてオイルパンにオイルが残るようにしてるはず。もしそういう状況が起きたとしても、長期間でなければ、実害はないよね。
N:うんうん。
S:だって汲んだオイルはすでにエンジンに回ってるわけだから、そこで油圧がロスしたとしても、上にあるオイルが一気に下へ落ちるなんてことはないわけだから。
N:まだ上にいてくれるはずだからね。
S:そういうことを気にしてるって話を聞いて、うーん、そんなことってあるのかなって。
N:それでもしトラブルになるのなら、そのエンジン自体がダメだよね(笑)。
S:そういうのを防ぐために昔のアルファロメオのオイルパンがエイのひれみたいになってたり、ルノーに至ってはオイルパン容量が5リットル超えてるのもあったり。たとえオイルパン容量が3、4リットルで成し得ているエンジンがあったとしても、そういう状況のことを考えて設計してるわけだし、油圧が一瞬ロスしたところで、それでエンジンが逝ってしまうなんてことはないはず。
N:そうですね。
S:実現は不可能だけど、興味があるのは、すごい横Gがかかってるとき、オイルパンにどれくらいオイルが残ってるもんだろう? すっからかんになることはないだろうけど。
N:まぁ、だいぶ減るでしょうね。僕、以前にオイルパンを割ったままサーキット走っちゃったことがあったんですよ。周回してるときはポタポタって感じだったけど、戻ってきた途端にバーッと漏れるんですよ
S:へー。じゃあ、オイルパンにあるのはけっこう少ないんだね。そのときのクルマはアルファロメオの145?
N:そう。
S:よくあるオイルパン打ったってやつだよね。エキマニのボルトのところを引っかけたってやつ(笑)。
N:オイルパン割ったといっても、クラック程度なんで漏れる部分が小さかったのもあったと思うんですけど。
S:僕の予想は1/3くらいかなと思ってたけど、実際はもっと少ないかもね。まぁ、いずれにしろそういう状況を考慮してエンジンを設計してるわけだから、もしオイルを汲めないようなことが起こるとしたら、マツダのロードスターみたいにバッフル板入れて対策してるだろうし。そこを心配するようなことはないってことだよね。
N:メタルとか重要なところには、オイルがしっかり回って仕事できるようになっているから、そこがオイル切れを起こすようなことはまずないですよ。
S:エンジンの上まで上がったオイルが、ジャーナルを通ってクランクを通ってちゃんとメタルまでいくようになってるから。一瞬、オイルが汲めなくなっても、問題ないだろうね。
N:もし、どうしても心配なら、金属皮膜の強いオイル、たとえば、シュペールノヴァのようなエステルのしっかり入ったオイルで走るのがいい。
S:お、宣伝入った(笑)。まぁ、でも潤滑性能をちゃんと確保しているオイルであれば、もしそういう状況であっても安心かもしれないね。
(後編に続く)
まとめ/Morita Eiichi