人は歳を取る。歳を取るとどうなるかというと、肉体が衰える。そして、新しいものが受け入れがたくなる。肉体の衰えは、ある程度のトレーニングでそのスピードを緩やかにしてくれるだろう。しかし、新しいものが受け入れがたくなるのは、どうすればいいのだろうか。いや、そんなの受け入れなくていい、と割り切ってしまうのであればそれでよいのだが、なんだかそれもかっこわるい。自分の価値観に合わない新しいものはすべて否定するというのは楽だし、簡単だ。しかし、私はできることなら新しいものを理解し、受け入れたいと思っている。皆さんはどうだろうか? 新しいものを受け入れる派? それとも否定する派?
じつはこれ、最近とみに考えている個人的なテーマである。時代が進むにつれて、新しいものはどんどん生み出されてくる。マッキントッシュ、インターネット、デジタルカメラ、スマートフォンなどなど。モノだけではない。エコロジー、自然派志向、マクロビオティックなどは、まったく新しいものではないにしろ、これらは近年台頭してきた概念である。もちろん、クルマだってそうだ。古くはオートマチックトランスミッション、エアコン、パワーウィンドウなどの快適装置、ABS、エアバッグ、横滑り防止などの安全装置……、技術の進化とともに新しく生まれてきたものは、細かいものも挙げていくとキリがないが、大多数の人はその進化を歓迎し、受け入れ、恩恵を享受している。
クルマが環境にやさしく、安全で快適になっていく一方、どうもそれらに文句を付けたい人々がいる。いや、環境にやさしく、安全で快適になっていくのはいいのだけど、その弊害としてクルマを運転する楽しさや、メーカーの持ち味が薄れていくことを憂いている人たち、といったほうが正しいか。つまり、それは私たちのことである。エコ、安全、快適。それはいいことだ。でも、それ以上に私たちはクルマを楽しく運転したいんだ。心躍る高揚を感じたいんだ。ああ、このメーカーを選んで良かったとしみじみ感じたいんだ!! と心の中で叫んでいる人もいれば、このように文章表現として発露している人もいる。ただ、いくらそのような主張を唱えようと、このような人々は大多数からは理解されないだろう。「またヘンなこと言ってる」とストレートに変人扱いされるか「そういう見方もあるよね」とやさしく変人扱いされるか、そのどちらかである。
前置きが長すぎた。すみません。今回はかなり個人的に偏った内容で書くつもりである。いや、これまでも充分個人的な偏見に満ちていたかもしれないが、今回は特に、である。特濃である。
まず、今回のクルマを紹介しよう。2014年式のルーテシア1.2TCe。グレードは「ゼン」。ルーテシアの4代目で、ちまたでは「ルーテシア4」と呼ばれる現行モデルだ。
ルノー好きには釈迦に説法かもしれないが、知っての通り2009年からルノーは新しいデザイナーを迎えた。オランダ人のローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏である。2010年のパリショーに「デジール」というコンセプトカーが出展されたが、それがアッカー氏の初仕事であり、今後のルノーデザインの基準を示したと言われている。もちろん、ルーテシア4もそのデザインコンセプトを引き継いだものになっている。ロサンジュは大きく、立体的になったことで非常に印象的な顔になった。全体的なフォルムも抑揚感と躍動感に満ち、どことなくエロチックにも見える。
本国では2012年にデビュー。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンがあり、ガソリンは直列3気筒0.9L直噴ターボ、直列4気筒1.2L、直列4気筒1.2L直噴ターボ、直列4気筒1.6直噴ターボ(ルノースポール用)、ディーゼルは1.5Lのみで75ps、90psの2種類が用意されている。2013年7月には日本にも導入開始。グレードは「インテンス」「ゼン」「アクティフ」と3種類用意され、エンジンは直列4気筒1.2L直噴ターボ+6速EDC(エフィシエント・デュアル・クラッチ)の1種類のみ。2013年10月に直列4気筒1.6直噴ターボの「ルノースポール」、2015年1月には直列3気筒0.9L直噴ターボ+5MTモデルが追加された。
今回、すずきさんから「ルテ4のゼンがあるよ」と言われたとき、いよいよこのときが来たかと思った。ヴィブルミノリテで過去数度ルーテシア2を紹介しているが「ルーテシア2こそがコンパクトフレンチのベンチマーク」と考えて、原稿を書いてきた。自分の中での基準はルーテシア2であり、コンパクトハッチを比較するときは、いつもルーテシア2と比較してきた。
しかし、考えてみると、ルーテシア2は1998年に発表されたクルマ。もう17年も前の話である。新しいクルマがどんどん出てくるなかで、いつまでも自分の基準がルーテシア2だなんて……。パトリック・ルケモンの亡霊をいつまで引きずっているんだ、と。「いよいよこのときが来た」と思ったのは、そろそろ新型車と対峙して、自分のベンチマークを更新すべきではないのか、ということだ。遅すぎる話だが、せっかくの機会、ここはしっかりと向き合わなければならない。
現車を前にしてドアを開け、それを閉めた瞬間、私の脳内でアップデートが開始された。「ドスッ」とも「バスッ」とも表現できる重厚な閉まり心地と音は、私たちがよく知っているルノー車、いやフランス車ではなかった。そしてシートも。もちろん掛け心地は上等で文句はない。しかし、ルーテシア2に代表される“あの頃”のしっとりとお尻を包み込み、吸い付くような感触ではない。「ああ……」と私はため息をついた。
走り出して、妙に足回りが硬いと思った。「ん?」と思い、信号待ちのときに車外に出る。タイヤの表示を確認するが、17ではなく、16インチ。195/55R16でこの乗り心地か。新車なので、ブッシュなどのゴム製品が馴染んでいないのかもしれない、とそう思うことにした。
エンジンは1.2Lとは思えない。そのパワフルさはもちろんターボによる恩恵だが「このクルマ、ターボなんだぜ」と言われても気づかないかもしれない。パワーでいえば1.6Lなみ、トルクは1.8Lくらいあるから、力不足はまったく感じない。ただ、エコモードにするとエンジン出力、アクセル開度、シフトタイミング、エアコンが燃費向上のために大きく制限されるので、かなりダルな印象になる。その分、最大で12%の燃費改善が見込めるらしい。個人的にはいらない機能だが。
EDCも非常にスムーズで、変速ショックはほぼ感じない。ルノーといえば「クイックシフト5」だが、MTを自動で変速してますよ感は皆無(VWのDSGのようなレスポンスとダイレクト感があるかと言われたらそうでもない)。「6速ATです」と言われても「そうですか」と納得できそうなフィーリングだから、国産AT車に乗り慣れている人でも文句は出まい。ただクリープのフィーリングは中途半端な気がする。ブレーキを離すと、微妙な間をおいてちょーっとずつ前に出ていく。出るなら出る、出ないなら出ない。もうちょっとはっきりさせたほうがいいように思う。
スピードを出せば出すほど高まっていくフラット感は健在だった。ふつうは速度が上がれば上がるほど、エンジン音、ロードノイズ、足のバタつきなどが気になったりするが、ルーテシアは逆。スピードが乗れば乗るほど、むしろクルマが静かに、軽くなっていくような感覚になる。街中でコチョコチョ走るよりも、高速でスバッと走ったほうが断然気持ちいいだろう。
しばらく乗ってみて思ったのは「工業製品としての品質や機能が高まった一方で、ルノーらしさ(フランス車らしさ)は薄まった」ということ。これは私の勝手なイメージなのかもしれないが、フランス車はエンジンよりもシャシーが勝っていながらもガチガチではなく、シャシーもしなやかに動きながら、粘り強く4輪が路面を捉え続ける印象を持っている。それこそが個性であり、それがあるからこそフランス車を選んできた。さらにルノーでいえば、その特性をベースにしっとりと落ち着いた足回りが乗り心地の良さに輪をかける。しなやかで高いスタビリティを発揮するすばらしさがあった。
ルノーには乗り心地やハンドリングなど、数値化が難しい感覚的な部分をジャッジする選ばれた
メンバーがいるという。いわばルノーらしさを守る番人なのだが、ルーテシア4にはルノーの個性とも言える乗り心地がかなり弱い。その番人たちの意識が変わったのか、それとも若い人材に一新されたのか。そんな想像もしたくなるような変わりようだ。
以前、ルーテシア3(1.2)を乗ったが、そのときは今回ほどギャップを感じなかった。まだルーテシア2に近かった。でも、今回のルーテシア4はゴルフを追いかけようとしているのではないか、と思ってしまった。
ボディをかため、小排気量+ターボのエンジンとEDCを搭載し、引き締まったドライブフィールを提供する。この“ドイツ化”は、以前からヒタヒタと忍び寄っているのには気づいていた。すでにPSAの1.4L、1.6Lエンジンは実質的にBMWからのOEM調達(型だけ買って自社生産という話もあるが、真偽は分からない)。デザインにおけるプレミアム感は、どことなくアウディを追っているようにも見える。しかし、そんな中でもルノーは我が道を行く姿勢を貫き、よきフランス車の伝統を守る頼もしいメーカーだと思っていた。しかし、やはり“ドイツ化”の波は避けられないのだろうか。工業製品としてめざすところはドイツ製で、信頼性、耐久性、品質、スペックでめざすのは日本製なんだろうけど……。ただ、フランス車だって、2000年あたりから信頼性をはじめ、各性能は飛躍的に進化を遂げ、場合によってはドイツ車をしのぐ部分もあったりする。その上で“ドイツ車至上主義者”までも取り込んでいこうという思惑なのかもしれない。旧来のルノー乗りだけでなく、ドイツ車や日本車乗りにも照準を合わせているようにも思える。だからこそ、ディスプレイの日本語対応までやってのけているんだから(ナビは別ね。TOMTOMが日本に来てないので)。
ただ、ターゲットを広げるということは、つまりその国の、そのメーカーの個性が薄まるリスクも含んでいる。このままでは(デザインと価格以外に)積極的にルノー車を選ぶ理由がなくなってしまうのではないか。ルーテシアの個性が失われてしまうのではないか。そんな危機感を憶えるのは、私の考えすぎだろうか。
むかし輸入車の編集をしていたとき、はじめてルノー車に乗ったのがセニック1だった。見た目は非常に地味だったが、乗って驚いた。なんだこの上質なシートは! なんだこのまろやかな乗り心地は! ルーテシア2にも乗った。こんな小さな大衆車なのに、セニック1と同じ血が流れていた。なんてことだ。日本の大衆車のつくりとはまるで違うではないか! あの感動はいまでもありありと思い出せる。
私はルーテシア4に乗って確信した。あのときの、あまりにも印象的なルノー車との出合いによって、ルノーのイメージが強く心に刻みすぎてしまったがゆえに、私はそのイメージから脱却できないのだ、と。
ルーテシア4はすばらしいクルマだ。デザインだって、以前のようなちょっとヘンテコなものではなく、スタイリッシュでかっこいい分かりやすい形になった。だからこそ、日本市場におけるルノーの主力車種「カングー」の販売台数を抜いたのだ。それだけ支持されている証拠であり、方向性は間違ってはいないのだろう。
しかし、なんだろうか、このさびしさは。「いまの若者は……」ならぬ「いまのルノーは……」と管を巻くオヤジにはなりたくないのに。いや、いまの時点でそれほど悲観することはないのかもしれない。まずこのクルマは新車である。先にも書いたが、ブッシュなどのゴム製品のあたりがついておらず、硬く感じるのはよくある話。ここは少し冷静に考えて、もう一度、それこそ3、40,000km乗った個体で試してみたい。カドが取れ、いまよりもまろやかな乗り心地になっているはずである。またそのとき、今回のようにつぶさに観察しながら向き合えば、違うよさが見えてくるかもしれない。
いつまでも、自分の欲求に素直でいたい。しかし、新しいものを知らないで凝り固まった化石のような、偏屈な変人にはなりたくない。新しきを知った上で、あえて旧きを選ぶ。それであるなら、致し方あるまい。
PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
全長×全幅×全高/4095mm×1750mm×1445mm
ホイールベース/2600mm
車両重量/1190kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC(直噴ターボ)
排気量/1197cc
最大出力/88kW(120PS)/4900pm
最大トルク/190Nm(19.4kgm)/2000rpm
実体験が、パンダ(借り物)、テンサンラリー、クリオRS。
5年ぐらい前から、クリヲが基準に思えるようになりました。
あぁ、変人だ。
twin air は面白いと思いました。MTで乗ってみたいです。
新しいクルマにも、一応興味はあります、次のスパイダーとか。
だいたいおんなじ基準ですね!
基準となるクルマは世代はもちろん、そのクルマから受けるインパクト具合によっても
変わってくると思うのです。
だから、たとえばルテ4に乗って「すげー!」と思った人は、
きっとそれが基準になっていくんでしょうね。
新しいクルマ、僕も興味あります。
個人的にはトゥインゴ3ですかね。
基本の判断基準をClio2/Lutecia2においてしまったが故に、時代に取り残された男がワタシです。
なんか最近のクルマのベクトルがよくわかんなくなっちゃって・・・
なーんで言ってるあいだに、10年以上取り残されて・・・
最近、薹が立ってきた。ってより、饐えてきた。それがワタシです。
貴方は縦サンクでしょー。
自分はtwingoかシュペールサンクのGTL。
へ?どゆこと?