誰のところにも公平かつ定期的にやってくる「次のクルマをどうするか問題」。それは特に大きなトラブルに見舞われた後に渡来することが多い。もしくは家族持ちの場合、子どもの年齢が上がり、ライフスタイルに変化が現れるころにやってくる。
たとえばうちのSAXOの場合、ちょっと前にクラッチを交換した。トラブルではないがそれなりの大仕事。お金も当然かかるわけで……。奥さまからの「そこまでしてまだ乗るの?」と言わんばかりの視線が痛い。そして次に来るのが2回目のタイミングベルト交換。いつの間にか13万kmも乗ってしまった。来年の車検とガチ合うのを避けるためには、何とか今年中にやっておきたいのが正直なところ。当然、これについても同様に「そこまでしてまだ乗るの光線」が照射されるに違いない。
古くなるクルマを維持していくためには、当然それなりのコストがかかるわけで。この問題を回避するためには「もうクルマなんか乗-らないっ!」とさじを投げてしまうか「国産車に乗り換えよう」とラテン車道からドロップアウトしてしまうかのどちらか。しかし、さすがにこの2つは選択したくない。となると、やはり同列の新しいクルマに買い替えることが現実的になってくる。どうがんばっても新しくならない、トラブルは増えるばかりのクルマにお金を出すのと、トラブルとは無縁(とは言い切れないが)の新車にお金を出すのとでは、圧倒的に後者のほうが健康的なのである(もちろん、圧倒的に後者のほうが高額なのだが……)。
ただ、買い替えるとしても何にするのか? それが大きな問題だ。以前「ある男の、クルマ妄想6日間(http://www.reno-auto.net/wp/archives/6466)」でもやったが、次期候補のクルマを考えるのは楽しくも悩ましい。そこでは非現実的なフォード・エスコートMk2や現実的なパンダ100HP、カングー、クリオ3なんかが候補に挙がったが、いま考えるとどうだろうか? ということで(前置きが長くなったが)、今回はそんな妄想劇パート2として、これまで誰も見たこのない新車をどうやって買うのか? 特に車種を限定してお送りできればと思っている。
RRのトゥインゴっておもしろそうじゃない?
(7月某日、RENOにて)
店主スズキさん(以下、S):まぁ、そういう時期はいずれくるよね。
モリタ(以下、M):そうなんですよ。わかってはいるんですけどねぇ。
S:で、やっぱりSAXOの次とはなると、そのラインを踏襲したヤツになるよね?
M:ええ、最初はトゥインゴ2 RSがいいな、と思ってたんですよ。まぁ、新車じゃないですけどね。でも、最大の問題が……
S:3ドアってことでしょ?
M:そうなんです。僕は3ドアでもぜんぜんいいんですけど、嫁が許さない。
S:それならいいのがあるよ。
M:なんですか?
S:トゥインゴ3!
M:おおっ!
S:当然、大きいのはイヤだろうから5ナンバーサイズに収まるクルマが大前提だよね。で、ちゃんと4人乗れて、荷物も積める。MTでLHD、しかも5枚ドア! トゥインゴ3は私的にここ数年間で最大のヒットなんだよね。ウィンド以来のワクワク!
M:たしかに条件的には問題ないですね。
S:でもって、魅力的なのがRRというレイアウト。
M:たいていの人が乗ったことないですよね。僕もそこにはかなり引っかかってるんですよ。どんな感じなんだろうって。
S:たしかに私も8Sとスマートくらいしか経験ないけどね。でも、スタビリティや操安性はルノーなんでぜったいスマート以上のものをつくってくるはずだと思うよ。最近はASRなどの電子デバイスも発展してるから心配いらないんじゃないかなぁ。
M:でも、トゥインゴ3って情報あんまりないんですよね。装備もグレードも値段もよくわからないし……。詳しいこと、わかります?
S:うん、だいたいね。本チャンのカタログが出る前に「アヴァンプレミア」ってのが出るんだよね。プレ・カタログみたいな位置づけかな? これにだいたいの内容が書いてある。
M:まず気になるのがエンジンですよね。
S:エンジンは2種類あって、SCe70とTCe90。この数字はともに馬力を表していると思っていい。で、SCe70には素のヤツとS&S、いわゆるアイドリングストップ機能を搭載したヤツがある。
M:グレードは?
S:下から「Hello!」、フランス語で「エロー」、「Life(ライフ)」、「Zen(ゼン)」、「Intens(インテンス)」の4種類。
M:この呼び名は最近のルーテシアなどと共通していますね。
S:ちなみに最上級の「インテンス」はTCe90のエンジンしか選べない。
M:「エロー!」はさぞかしスパルタンな仕様なんでしょうね(笑)。
S:そうね。スパルタンっていうか、素ったか(笑)。パワーステアリング、パワーウィンドウ、エアコンなし!
M:RRだからFFよりハンドル重くないとしても、パワステなしは漢すぎるっ。
S:うん、ただスマート乗ったときはパワステあってもなくてもどっちでもいいかって感じだった。個人的にはなくてもいいと思ったよ。エアコンはいるけどね。
M:そうなんですかー。
S:「ライフ」になると、パワーステアリングが標準で付き、エアコンがオプション。でもパワーウィンドウはなし。「ゼン」はパワーステアリング、エアコンが標準になり、パワーウィンドウがフロントのみ付く。「インテンス」はさすがに最上級だけあってたいていのものは付くね。
M:なるほど。だとすると、日本で乗るなら「ゼン」以上って感じですかね?
S:そうねぇ。「ライフ」にエアコンをオプションで付けちゃうと「ゼン」との価格差がなくなっちゃうんだよね。「ゼン」は日本人的にはチープかもしれないけど、欧州的には充分豪華なんだよね。まぁ、どうしても「ライフ」がいいなら、エアコン付けて持ってこれるよ。「ゼン」並みの価格になるけど。でも、そういう好事家的な選び方、好きだけど。
M:あんまりやる人はいないでしょうけどね。
S:あと、ボディカラーと内装色の組み合わせもいろいろあるよ。外装色は黄、赤、白、黒、茶、青、水色の7色を基本に、特別色のメタリック塗装もある。インテリアは白、黒、赤、水色。白はなぜかふつうの白と、ゴルフボールのディンプルを表面に加工したものがあるみたい。で、外装色によって選べる内装色が変わってくる。
M:何通りもあって迷っちゃいますねぇ。
S:さらにオプションで専用のサイドストライプや16インチアルミなどを装備した「パックスポール(TCe90のみ)」とかオートエアコン、オートワイパー、オートヘッドライトとオートざんまいの「パックシティ」とか、いろいろある。
M:「パックハンジュメント」って何ですか?
S:これは……小物入れが随所に付くパッケージだね。グローブボックスやリアドアの小物入れなんかが追加される。こういうのはそんなに高くないから付けといたほうがいいかもね。
M:「パックテクノ」はカーエレクトロニクス系のパーツがグレードアップするんですね。
S:そうね。たしかにグレードの高いカーオーディオとかナビが付くんだけど、これ、欧州仕様なので日本では使えない可能性がある。可能性というか、ナビは確実に使えないね。FMラジオも受信できない。ただ、AM、CD、USB、ブルートゥースはおおむね動作はするよ。iPhoneでしか試してないけどね。あ、並行車の場合は、各部の液晶表示がフランス語になるんでご容赦を。
M:それはそれでかっこいいかも。
S:うん。まぁ、フランス語、勉強しなさいとまでは言わないけど、知ることによって「へー、そう言うんだ」っていう親近感を獲得するのもまた一興だと思うよ。わかりにくいけど、理解しようとする心構えもあっていいと思うけどな。
M:そうですね。
S:他にもトゥインゴ3にはスマートフォンを接続して使う「R & GO」というマルチメディアシステムが組まれてて、専用のアプリも無償提供されるらしいんだけど、実際はどうかわからんね。日本仕様が出たとしても、それがほんとに使えるのかは謎デス。
M:なるほどー。でも、僕はスマートフォンはスマートフォンとして使いたいんで、たとえ日本で使えたとしても、これは必要ないかなぁ。兼用ってあんまり好きじゃないんですよね。
S:まぁ、それは好き好きに。
M:そうかぁ。これまで新車なんか買ったことないし、当然、並行でも買ったことないから、こんなに選択肢が多いもんなんだ! と驚いてます(笑)。それにディーラー車だとある程度制限されたグレードでしか買えないけど、並行車だと選択の余地はかなり広い。
S:当然です(笑)。
M:いまさら気づきました。
M:それにしても、ほんと迷いますねぇ……。
(ここから脳内妄想開始!)まずどういう方向性かを考えないとなぁ。SCe70の「ゼン」を選んでチープに乗るか、TCe90の「インテンス」に「パックスポーツ」付けてスポーティーに乗るか。でもなぁ「ゼン」はテッチンなんだよなぁ。ホイールキャップもそこそこオシャレだけど、アルミくらいは付けたいなぁ。ん? でもアルミは「Exception(エクセプション)」しか選べないのか! なんかヤだなぁ、このキューブみたいなホイール(もしかしていっしょじゃないか?)そうなるとやっぱTCe90の「インテンス」に「パックスポール」かぁ。でもこのストライプ、ちょっとこれ見よがしな感じだなぁ。どことなく50……や、やめた。「パックスポール」を外すと……、うげっ! また標準ホイールが「エクセプション」になるの!? や、やめて~このホイール……。
S:モリタさん、モリタさーん!
M:!!
S:大丈夫ですか?(笑)
M:の、脳内妄想しておりました……。うーん、これはほんと悩みます。ちなみにスズキさん的におすすめってあります?
S:うーん、ぶっちゃけ言うとどれでもいいかな、と(笑)。正直、エンジンは(S&Sは要らんにしても)、70と90でそれほど大きな差を感じられないし、いい意味で「これじゃなきゃダメでしょ」も「これはやめときなよ」ってのもないんだよね。さすがに「エロー!」を選んだ人には「ほんとにこれで大丈夫?」って念を押すかもしれないけど……。あえて個人的に言うなら、外装色は茶色がいいなぁ、と。これにすると、内装色が白しか選べないけどね。あとホイールは「Embleme(エンブレム)」。どことなく縦サンクのホイールっぽくてイイ!
HVやEVは輸入決定できません!?
M:あと気になったのが「ガス検」の費用です。
S:トゥインゴ3はたとえば「こんなクルマ、あんたしか乗らんよ」的なクルマじゃないから、排気ガス検査などの費用がもろに乗っかるってことはないので、心配いらんですよ。もちろん、SCe70でもTCe90でもどっちでもOKよ。それに、あんがい知らない人多いかもしれないけど、並行車でも1年間の保証が付きます。ただその保証が受けられるかどうかはクルマをまわしてくれるむこうのディーラーの基準になる。日本人的な重箱の隅を突くような細かいクレームは通らない可能性があるね。
M:なるほど。
S:まぁ、とにかくうち的には買いたい人がいれば輸入決定。輸入決定って言って持ってこないクルマはない!
M:欧州の主要メーカーが売ってるクルマは、ほとんど輸入できるってことですね。
S:そういう意味では全車輸入決定! ですよ。HVやEV以外ならね。
M:ハイブリッド車や電気自動車はダメ?
S:ダメってことではないんだけど、ハイブリッド車って高電圧を使っていたり、それをコンピューター制御してたり、制動時に発電してたりと、普通のクルマとは異なる知識・技術が必要なんだよね。当然、私たちが知りえる知識・技術の延長線上じゃないことが起こる場合もあるわけで。そのリスクを知ってるのに、知らないふりをして売るのはどうかと思うんだよね。
M:たしかに。
S:うちは買っていただいたお客さんのクルマをずっと面倒見るのが責務だと思っているんで、もしシトロエンかなんかのハイブリッド車を持ってきても、その後お世話できない可能性が高い。
M:そういうことですか。
S:以前、ルノーの電気自動車「Twizy」を乗れるなら買うってお客さまがいて。けっこう真剣に考えてみたんだけど、バッテリーがリースのみで、単品供給なし。なので結局見送ったんだよね。
M:へぇ! そうだったんですか。
S:充電もどうなってるのかよくわかんなくて。欧州は200Vで充電するんだろうけど、日本ではどうすんの? 単に100Vを200Vに換えればいいのか? 動力は200Vでできるのか? 中電から供給される工業用の電源引けばそれで充電OK? バッテリーの耐久性は? とかね。いろいろ疑問が残る。そもそも標板も白なのか黄なのか、何ナンバーで登録するのかもよくわからない(笑)。
M:なるほど。そういうことですか。
S:だから、HVやEVは輸入決定できません!(笑)
並行車は妥協しない人のために。
M:ちょっと話題が反れましたが、最終的な関門は総合的な値段ですね。
S:そうだね。いまのところだけど、うちで考えているのは「ハロー!」が170万円前後、「ライフ」が185万円前後、「ゼン」が195万円前後、「インテンス」が229万円前後くらいかなぁ。値段はもちろん為替相場の値動きで変動します。もちろん車両本体価格(オプション除く)で税別。弊店の店頭渡し暫定価格です。
M:それくらいになりますよね。
S:威張って言うことでもないけど、やっぱり並行車はディーラー車よりも割高になることが多いよ。
M:そりゃそうですよね。ディーラー車よりも自由度の高い選び方して持ってきてもらってるわけだから。
S:値段ももちろん大事だけど、安いからって理由だけでクルマを買うのではなく、自分の納得いくものなら多少払っても構わないって人には並行車っていいんじゃないかと思うよ。ディーラー車って基本的に日本仕様の、ツルシの背広を買えって話なんだよね。でも、並行の新車はこれから作るんで、若干の仕様変更はできる範囲で請けますよっていうセミオーダーちっくな感じ。まぁ、できるまで数か月待たにゃいかんのだけど。
M:ですね。この件、ちょっと持ち帰って熟考してみます。エンジンとかグレードとか色は何となく絞れるんだけど、オプションはいろいろあるからちょっと考えて選ばないと。
S:納得いくまで悩んでね。当たり前だけど、新車だからさ。仕様も装備も色も好きに選べるわけで。これもクルマを買うイベントの楽しみだよね。あるモノしか買えないディーラー車や中古車では望めない楽しみなんスよ。いまオーダーすれば9月、10 月にむこうのディーラーに届いて、日本に来るのは年末くらいかな。待つ時間もまた楽しいよ。
TEXT & PHOTO/Morita Eiichi