FIAT Panda 1.2 8V

メイン1230クルマが持つ世界観や個性は、大きな武器になる。たとえばミニ、たとえばビートル、たとえば、マスタング、たとえばパンダ。そのクルマの名前を出しただけで、たいていのクルマ好きはその姿形を脳内でイメージでき、同時にどんな人が乗るのか、そんなことまで想像できてしまう。クルマだけでなく、クルマを含めたライフスタイルまでイメージを広げられること。それが世界観や個性なのだと思う。しかし、同時にそういったクルマはコンセプトをしっかり持たないと、モデルチェンジのたびにその世界観や個性がブレてしまう。パンダは2代目でその危機に陥った。果たして3代目はどうか?

前1231あえての1.2 8V。

 新しいパンダが出た。これによってニューパンダという呼び名はこのパンダに移り、ニューパンダと呼ばれていた先代パンダは、これから「パンダ2」とでも呼ばれることになるのだろうか。
 ニューパンダの発表は、2011年のフランクフルトショー。デザインはパンダ2から大きく変わらないものの、サイズは少しだけ大きくなった。シャシーは500、ランチア・イプシロンと共用し、エンジンラインナップは本国では3種類で展開。1.2リッター直列4気筒SOHCのFIREエンジン、1.3リッター直列4気筒のディーゼルエンジン、そして話題の0.9リッター直列2気筒ターボのツイ後1232ンエアエンジンだ。日本では2013年の5月初旬に発表され、6月1日から販売開始。しかしディーラーで販売されるのは、ツインエアエンジンにデュアロジックを搭載した「EASY」の1種類のみ(右ハンドル)。500には1.2も1.4もツインエアもあるのだか、このあたりは人気しだいで後から追加されるのかもしれない。
 まぁ、そんなわけで6月1日に日本発売を果たしたばかりのニューパンダなので、ネットを含め日本で、それなりにちゃんとしたインプレッションはあまり見かけない。きっと来月くらいになれば、紙媒体もこぞってニューパンダを取り上げてくるだろう。そんな中、ヴィブルミノリテではいちはやくインプレッションをお届けしたいと思う。右ハンドル・ツインエアではなく、左ハンドル・1.2 8VのFIREエンジン搭載車だけどね。

なぜに1.2 8V?

 当該車は2012年製1.2リッター8Vのラウンジというグレードで、本国ではもっとも高級なレンジに当たる。走行わずか4000km台の個体を持ってきた中古並行。なので日本では新規登録となり、初回の車検まで3年となる。
インパネ1236 では、なぜ1.2 FIREなのか? すずきさん曰く、基本設計は古いものの、熟成されたFIREエンジンであること。裏を返せば、新しいツインエアはイタリア人のやることである。どうせ……(以下自主規制)ゴホン。あとはアイドリングストップ。それほど必要性は感じないなぁ、という見解らしい。
 たしかに初代パンダから続くFIREエンジン、これ、不動の組み合わせであり、僕自身もFIREエンジン、大好きである。ヴィブルミノリテではこれまで初代パンダ、パンダ2、チンクエチェントで1.1リッターのFIREエンジンを紹介してきたが、あのモーターのように軽やかに回るフィーリングはとても気持ち良く、55馬力とは思えないくらいよく走った。そして何よりパンダというキャラクターにFIREエンジンの性格がとても合っているように思えるのだ。

フロントシート1237パンダってこんな高級だったか?

 現車を見た最初の印象は「パンダもここまで来たかぁ」という感慨深さ。じつはヴィブルミノリテで3世代にわたって紹介しているのはこのパンダだけで、初代から見れば「立派になったもんだ」とまるで親戚のおじさん状態なのだ。その「立派になった」という印象のひとつはサイズが大きくなったなぁである。しかし、先代から見れば長さで120mm、幅で55mm、高さで15mmほど大きくなった程度で、それほど巨大化しているわけではない。このご時世にあって、5ナンバーサイズを堅持してくれているのは素直にうれしい。
あとデザインの国・イタリアらしいなぁ、と思ったのは、デザインモチーフにスクエア+サークルの「スクワークル」を採用しているところ(スクワークルってのは造語だと思う)。いわゆる“角のとれた四角形”を随所に散りばめているのだ(そういえばルノー・モデュスにも波形をデザインモチーフにしていたなぁ)。ホイールのセンターキャップ、フロントエアダムの上部、スピーカーのグリル、シフトノブ、メーター、インパネのスイッチ類など、探せば続々出てくる。またダッシュボードやドアインナーパネルのシボには、小さな「P」「A」「N」「D」「A」の文字がいっぱい。こういう遊び心はいかにもイタリアらしいし、パンダらしい。
ラゲッジ1235 そして歴代パンダを知っている人はドアを閉めて驚き、走り出してまた驚くはずだ。ドアを閉めるときの質感、音ともにもう僕らの知っているパンダではない。ぜんぜんチープさがない。そして走り出せば、先代で気になったリアまわりのバタバタ感がぜんぜんない。一言で言えば「あれ、パンダってこんな高級だったか?」。
 足回りは変わった。ほんとに変わった。全体的にはサスペンションのストローク感を感じさせるソフトな仕様なのだけど、その感覚が上質。どことなく最近のフランス車っぽい気がする。FIREエンジンはカタログ数値を見ると、先代に積まれていたものよりも9psアップしている。何をしたら9psも上がるのか謎だが、体感的にはパワー感よりもトルク感のほうが増しているように思う。なので、先代より余裕のある走りが楽しめるはずだ。とは言っても、ついつい回してしまうのだけど……。
 しばらく乗ってみて、やはりパンダをパンダたらしめているのはマニュアルミッションであり、FIREエンジンなんだな、と思った。足回りや乗り味はもう以前のパンダではないから、そこからパンダらしさは感じ取れない。たとえばパンダを乗り継いできて、新しいパンダを買おうかと思っている方ならFIREエンジンを搭載しているモデルをおすすめする。

タイヤ12331.2 8Vのほうがエコ?

 と、通常ならこのくらいでお茶を濁すのだけれど、個人的にはツインエアエンジンも気になったりする。なんせ話題の2気筒ターボである。いや、話題っていうほど新しくないか。もうすでに500に搭載されているのだから。とにかく個人的に気になったので、ディーラーに申し出て試乗してみることにした。
 お世話になったのはフィアット・アルファロメオ名古屋西さん。ありがたいことに「15分くらいならご自由にどうぞ」とひとりで乗せてくれた。目の前にあるパンダ・イージーは1.2 8Vラウンジと同じ色のスイートドリームターコイズである(一部オプションを装備)。アイドリング音はまさにツインエンジンらしいもので、モーターサイクルに明るい人ならすぐに「あ、ツインだね」と分かるくらい分かりやすい音。乗ってみると、外から聞いた音からイメージできるような振動はほぼない。あの音だとシートに座っても小刻みな微振動が伝わってきそうだが、よほど敏感な人でない限り気にならないはずだ。ひとまずデュアロジックはオートモードにして発進。2気筒ターボのスペックは最大出力/63kW(85PS)/5500rpm、最大トルク/145Nm(14.8kgm)/3000rpmと、4気筒よりも高い。しかし小排気量ターボというのは、基本的にピーキーになりやすく、おまけにラグもある。そうならないようにタービンの大きさや制御方法で工夫しているが、アクセルを踏み込んで後から追いかけてくるトルク感にギクシャクしてしまう。アクセルを一定に保つようなシーンではまったく問題ないが、街中などでストップ&ゴーを繰り返すとそのギクシャク感が顔を出す。ただ、デュアロジックは正常進化しているな、と思う。以前に比べてだいぶ賢くなった。
ツインエア1252 あと気になったのはアイドリングストップ機構。もう最近のクルマでは常識となっている機能だが、これがどうも……。これは完全に個人的な話なので、共感してもらえる方は力強く「うんうん」とうなずいてもらえると思うが、そう思わない人にはまったくピンとこないと思うのであくまで参考程度に聞いてほしい。
 まず。理由もなく(いやあるのだけど)エンジンが止まるのは、かんべんしてほしい。僕の感覚では、基本、エンジンは勝手に止まってほしくないのだ。やめてくれ、一瞬、ヒヤッとするじゃないか。これが第一の理由。そしてこの季節、エアコン全開である。信号で止まるとエンジンは止まるがエアコンは動いたままだ。吹き出し口に手を当ててみると、若干風がぬるくなり、風量も少し落ちる。いや、そのことが不満なのではない。そういう状況になると、意識はバッテリーに行ってしまうのだ。ああ、負担かけてるなぁ、かわいそうだなぁ、と。もちろんそんなことは想定していて、きっとバッテリーの容量も上げられているはず。でもね、やっぱ気になるのは気になる。さらにエンジンを切って、エンジンをかけて……を繰り返すと今度はスターターモーターに意識が行く。ああ、負担かけてるなぁ、かツインエアエンジン1253わいそうだなぁ、と。もちろんそんなことは想定し……以下同文。
 ああ、もう、そんなにギャーギャー言うなら、アイドリングストップをキャンセルするスイッチを押したまま乗ればいいじゃない、とそういう話になるだろう。まったくもって正論である。でもね、使わないんだったら、なんでそんな機能の付いてるクルマに乗らなきゃいかんのだって。アイドリングストップ機構、レスオプションにできませんかねぇ?
 これはもう完全に意識の問題、感覚の問題。そんなことを微塵も思わない人は「何言ってんの?」である。ツインエアもアイドリングストップも、地球環境を考えた結果生まれたものであって、そんなささいな個人的事情なんか、地球規模の大きな問題に比べたら屁のカッパ。エコな人からは煙たがられそうだ。ちなみに参考まで書いておくが、Co2排出量は0.9リッターツインエア(5MT)が113g/kgに対し、1.2リッター8Vは95g/kgである(メーカー比較値)。

イメージどっちもパンダ。

 右ハンドルのツインエア+デュアロジックか、左ハンドルの1.2 8V+5MTか。その優劣なんて当然決められるわけはなく、決める必要もない。好きな方に乗ればよい。5ナンバーサイズで重量は1tと軽量。5枚ドアで4人(ないし5人)がちゃんと乗れ、しかも運転して楽しい新車なんて、他にそんなにないでしょう。それがパンダだ、と言えばまさにそうだ。ただ、それを前提にした上でひとつだけはっきり言えるのは(繰り返しになるが)、ずっとパンダが好きで乗り継いできた人なら、やはり左ハンドルの1.2 8V+5MTだ思う。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム2012y FIAT Panda 1.2 8V Lounge
全長×全幅×全高/3653mm×1643mm×1551mm
ホイールベース/2300mm
車両重量/1000kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1240cc
最大出力/51kW(69PS)/5500rpm
最大トルク/102Nm(10.4kgm)/3000rpm

Share

Leave a Reply