クルマをかっこよく見せるのは、あんがい簡単だ。まずボディに対して少し大きめのホイール&タイヤを履かせること。次にオーバーフェンダーなどを装着し、ウェストラインより下をワイドすること。そして最後に車高を下げること。最低限この3つが行われていれば、たいていのクルマはかっこよく見える。WRCのラリーカーしかり、DTMのツーリングカーしかり、かつてのF2キットカーしかり。しかし、競技車では数あれど、市販車になるとこの条件に添ったクルマはなかなか見つからない
なかなか出なかった。
ルーテシア・ルノースポールV6(以下、ルーテシアRS V6)は、1998年10月のパリサロンで登場し、国内では2001年11月から各ディーラーで販売された。発表から国内販売まで3年ほどかかっているが、そもそもこのクルマはどういう生い立ちで日の目を浴びるようになったのだろうか。
ご存知のようにルノーは昔からモータースポーツへの取組みに積極的で「フォーミュラールノー2.0(3.5)」や「スパイダー・トロフィー」などのさまざまなワンメイクレースを主催していた。その流れで「クリオにV6積んでレースやったらおもしろいよね」とルノースポールの誰かさんが言ったんだろう(たぶん)。「じゃ、やるか」ということになり、ワンメイクレース用の「トロフィーバージョン(285ps/1100kg)」をつくった。で、また誰かさんが調子に乗って「これのロードゴーイングパージョンもあったらおもしろいよね」と言ったんだろう(たぶん)。「じゃ、やるか」となって1998年のパリサロンで「出すよー」と発表したわけだ。
こんなやる気満々のスタイルである。ルノー好き、ラリー好きは誰もが「サンク・ターボがモダナイズされて帰ってきた!」と浮足立った。「出たら買う」と宣言した人もそれなりにいた。しかし、出す、出すと言っておきながら、なかなか出なかった。「お蔵入りすることはないだろうけど、何年何月何日に出るとは明言できない状態で、値段すら書かれていない白紙の注文書をいくつか受けた」とはスズキさん談(でもって試乗会にも招待されちゃったお話はこちらで詳しく)。値段も分からないのに注文してしまう人がいるとは、にわかに信じられない話だが、ルーテシアRS V6にそれほどの求心力があった証拠だろう。結果、2001年末あたりから495万円(ディーラー価格)でデリバリーが開始され、ひと安心……というわけでもなく、バックオーダーを全部さばききるのに1年くらいかかったのだとか。量産車とはいえ、ディエップ工場で1台1台ハンドメイドされるクルマである。日本にも少しずつしか入れることができなかったのだろう(それでもD車、並行車合わせて200台くらい入ってきているらしい)。ちなみに初期の頃はルノースポールが生産も担当していたが、製造効率が悪いのか、コストの問題か、じきにTWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)に生産を依頼することになった。
ルーテシア(クリオ)2の後席、トランクを取っ払って、ラグナ用3リッターV6(L7X)をベースにしたエンジンを載っけてMRとし、フェンダーも切り取って樹脂製のゴッツイのを接着剤で貼っつけてつくりあげたのがこのクルマ。エンジンは専用ヘッドやピストンを採用し、圧縮比を11.4に高めている。吸排気系もちょこちょこいじってノーマルよりも20psアップの230ps。そのパワーは6MTを介して後ろ足に伝えられ、17インチのタイヤを駆動させる。
スズキさんに「どえらい幅広いし、どえらい車高低いし、どえらい小回り効かんよ」とアドバイスされ、多少ビビりながらもスタート。しかし、クラッチは特別重くもなく、発進に気を遣うことなく一般道へ出ることができた。シフトフィールは少しグニャッとするが、とりわけナーバスになる必要もなし。ただ一般的なクルマよりも位置が前にあるのか、それともストロークが長いのか、勢い余って3速に放り込もうとすると、シフトノブを握った手がコンソールに激突するので注意。そして笑ったのは小回りの効かなさ。本当に効かない。自分の駐車場に一発で入れられなかった。聞けば最小回転半径は6.5mだとか。調べてみると、10tダンプ(三菱ふそうスーパーグレードダンプ)と同じスペック。こりゃスゴイ。
翌朝、雨。まだ陽も上がらないうちから、三河方面にステアリングを向けた。午前5時。高速道路に乗って気が付いたのは、いつものルノー車で感じる印象とはまるで逆だった。細かく上下にヒョコヒョコするのは、ルーテシアRSに乗ったときと同じなのでそれほど気にはならなかったが、どうも安心できないのだ。素のルーテシア2もメガーヌ1、2も、1.2リッターという小さい排気量のクリオ3ですらどこかしらGT的な要素を持っていたのだが、このクルマに関してはそういう感覚がまるで感じられない。簡単に言ってしまえば直進安定性が低いということになるのだが、MRの持つ俊敏性は速度を上げてもまったく陰を潜めない。これは条件が「雨」ということにはおそらく関係ないだろう。
もうひとつ。これまで乗ったルノー車には体感速度と実際の速度にギャップがあった。それほどスピードを出しているつもりはないのに、速度計を見たら「え、こんなに出てた?」的なアレである。しかし、このクルマはその逆。いま110km/hくらいだろうと思って速度計を見ると、90km/hくらいだったりする。それは音によるところが大きい。そりゃそうだ。3リッターのエンジンがすぐ背後にあるのだから、いくら遮音性に優れていたとしても、ボンネットの中に収まっているクルマにはかなわない。ただ問題は音量ではなく、音質だと思う。音量が小さくても不快なエンジン音はあるし、音量が大きくてもそれほど不快に思わない音もある。ルーテシアRS V6は幸いにも後者だ。アルファのV6! とまではいかないが、なかなか良い音だと思う。高回転まで上げていくとV6ならではのサウンドも(多少)する。
東名高速道路を「音羽蒲郡」ICで降り、三河湾スカイラインへ(いまは無料になったからこの名称は使われていないのかな?)。それなりに長いワインディングなので運転のフィーリングがつかめるかな、と思って試乗ステージに選んでみた。雨だけど。
コーナーをいくつかクリアしてから気づいたが、旋回性がMRっぽくない。これまでMRには「ビート」、「MG-F」、「MR2(AW11)」しか乗ったことがないが、自分の背骨を中心にクルッと回っていくような感じが希薄だ。それよりもアクセルオンでリアにドカンと荷重がかかる感覚は、RRのように思えてくる。
雨なので控えめにしているが、それほどビビらなくても普通に運転できることが分かってきた。山頂付近は濃い雲に覆われていて、ほとんど視界ゼロ。とりあえず下るとするか。次はもうちょっとタイトな三ヶ根山スカイラインに行こう。
三河湾スカイラインから15分ほど走って三ヶ根山スカイラインへ(ここはまだ有料450円)。上り始め、タイトなターンが繰り返される。タイトコーナーのある上りはちょっと難しい。意識的にフロントに荷重を乗せないと、ステアリングを切ってもリアタイヤに押し出される。プッシュアンダーを出してしまうとそのままアウト側の山と仲良くなってしまうので慎重に。タイトターンで気付いたことは、フルロックに近い状態だとオーバーステア気味になること。ただ、これはあんがい便利な性格だ。というのも、このクルマは小回りが効かないので、タイトなターンだと非常に曲がりにくい。そこで思い切ってステアリングをロックさせた状態でアクセルを踏んでいくと、リアから曲がっていってくれるのだ。これをうまくコントロールさせられると楽しい。リアの出方も比較的ジンワリくるので、ズルズルと滑り出してもそれほどパニックにならない。
三ヶ根山の山頂付近も当然、重苦しい雲の中。写真を撮るスポットも見つけられず、下る。下りは自然にフロントへ荷重が乗るので、上りよりも走りやすいかもしれない。クルッと! まではいかないけど、まずまずの旋回性で楽しめる。ただ、狭い道ではあくまでも慎重に。外装部品、びっくりするくらい高いよ~。
かっこいいで充分。
帰りの高速道路で考えた。「ルーテシアRS V6は、どんなクルマと表現すればいいんだろう?」。MRだけど、エンジンは横置き。しかも搭載位置はけっこう高め。GT的な要素も感じられないため、長距離移動に適しているかと言われるとそうでもない。そもそもベースがクリオ2。この小さなクルマにV6 3リッターを詰め込んでいるんだから、構造的にどうしても無理がある。
思うにカギはこのクルマの出自となった「ワンメイク用のレース車両」というところにありそうだ。もしライバル各社としのぎを削る真剣勝負のレースフィールドに投入することを前提としていたら、おそらくこのV6を選択することもなかっただろうし、FF用のパワーユニットをそのまま後ろにもっていくこともしなかっただろう。ただ競う場がワンメイクレースである。みんな同じ車両なら高スペックを狙うより、量産部品を活かして価格を下げ、楽しくレースしてもらったほうがいい。そんな思惑があったのではないだろうか。
空はすっかり明るくなったものの、まだまだ早朝の域。小難しいこと考えながら、ない頭で深読みをしながら、サービスエリアで小休止。
コーヒーを買って戻るとき、目を奪うのは周囲のクルマとは一線を画す、レーシーなルーテシアRS V6の姿。重心が高いのとか、高速安定性がどうのとか、小回りが効かないとか、車内が騒々しいとか、ハッチバックなのに2人しか乗れないとか、そういう些細なことは「かっこいいから別にいいだろう。文句あっか!」の前にすべて跪く。たしかにそうだ。ルーテシアRS V6はかっこいい。でかいタイヤで、車高が低くて、ワイドなボディで、クルマがかっこよくなる要素を全部踏まえている。
「ルーテシアRS V6は、どんなクルマと表現すればいいんだろう?」の答えは出た。「ルーテシアRS V6は、かっこいいクルマです!」。それで充分だろう。文句あっか!
PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
2002y Lutecia RENAULT Sport 3.0 V6 24V
全長×全幅×全高/3803mm×1810mm×1365mm
ホイールベース/2510mm
車両重量/1335kg
エンジン/水冷V型6気筒DOHC24V
排気量/2946cc
最大出力/169kW(230PS)/6000rpm
最大トルク/302Nm(30.6kgm)/3750rpm
よくよく思えば、この車でアルファサウンド的なモノを堪能しようと思ったら、それなりの場所とテクが必要なワケでして・・・官能的な音量に魅了されるのも醍醐味ではありましょうが、まずはこの子の性格(性質?)をある程度把握しておかないと、取り返しのつかないミスを犯しそうではあります。狐さんを付けるのは暫く先送りだな・・・
個人的なハナシはさておき、この子は、乗り手を迷わせるクルマです。最初は乗り味に、しばらくしてからは限界探りに、もうちょいしたら、どこまで費やして維持していくか、に(^^;) で、気合の入ったオーナー諸氏は『血迷う』方向で、どっぷり楽しむ(楽しんでいる)のでしょう(笑)
ナニやっても高価く付くクルマなのでねぇ・・・(トーイメ)