車検と車検整備

一般的な自家用乗用車で2年に1度やってくる車検(新車の場合、初回は3年後)。正式には継続検査と言われるこの車検、期限切れが迫ってくると「あぁ、お金がかかる~」とお嘆きの方もいらっしゃるだろう。まぁ、たしかに車検にはそれがしのお金がかかるが、天下の公道を人様に迷惑をかけず、安全に走るためには、最低限の整備が必要。では実際、車検や車検を通すための整備ってどんなことをやってるの? あんがい詳しく知られていない(かもしれない)ので、RENOさんの社用車(1999年カングー1.4 RT 走行距離約160,000km)をモデルにあらためてレポートしようと思う。ちょうど車検のタイミングだったので。

74の点検項目。

社用車のカングーを車検に通すため、まずは各部の点検を行う。不具合が見つかれば、当然部品交換などをしなければならないが、社用車としてガンガン働いてもらわなければならないクルマだけあって、日常的な整備はしっかりと行われている。そのため点検をしても重大な問題は見つからないだろうが、記事作成のために車検整備の行程をひと通り実践してもらうことにした。
RENOさんで車検を通す場合、事前の整備として以下の内容を行っている。

A・電気周り(フロント)
1・スモール点灯&色(白色)
2・ヘッド点灯&色(白色又は年式によっては黄色)
3・フォグ点灯&色(白色又は淡黄色)
4・各レンズのヒビ・光漏れ

B・電気周り(リア)
5・スモール点灯&色(白色)
6・ブレーキ点灯&色(赤色)
7・バックランプ点灯&色(白色)
8・リアフォグ点灯&色(赤色)
9・ナンバー灯点灯&色(白色)
10・ウインカー&ハザード点灯&色(橙色)
11・各レンズのヒビ・光漏れ

C・室内点検
12・ホーンマークの有無
13・ホーンの音色
14・シフト位置の表示
15・発炎筒の有効期限
16・ワンボックス貨物の仕切り棒(商用車の場合)
17・サイドブレーキの引きしろ

D・外観、その他
18・テールパイプのバンパーからのはみ出し
19・最低地上高(9cm以上)
20・ナンバープレートの封印
21・貨物車の積載表示
22・ガラスのヒビ
23・ドアミラー
24・運転席、助手席、フロントウィンドウにウィンドフィルムが貼ってないこと
25・ガラスの不要なステッカー
26・エアコンフィルター

E・ワイパー
27・ワイパーブレードの劣化損傷
28・ワイパーの作動
29・ウィンドウォッシャの作動
30・ウィンドウォッシャの液量

F・タイヤ
31・磨耗 亀裂 破損
32・フェンダーからのはみ出し
33・タイヤの種類
34・ホイール

G・油脂類
35・エンジンオイル 油量 汚れ 漏れ
36・クーラント 液量 汚れ 漏れ
37・ブレーキ 液量 汚れ
38・パワステオイル 油量 汚れ 漏れ

H・ベルト類
39・ファンベルト亀裂 張り
40・エアコンベルト亀裂 張り
41・パワステベルト亀裂 張り
42・オルタネータベルト亀裂 張り

I・電気系
43・スパークプラグの状態
44・バッテリ液量
45・バッテリターミナル部の腐蝕 緩み
46・バッテリの機能

J・燃料系
47・エアフィルタの汚れ つまり
48・燃料漏れ
49・燃料ホース亀裂損傷
50・燃料フィルタ

K・動力伝達装置
51・エンジン&ミッションマウントの亀裂損傷
52・ミッションオイルの漏れ
53・ミッションオイルの量 汚れ
54・オートマオイルの漏れ
55・オートマオイルの量 汚れ
56・デフオイルの漏れ
57・デフオイルの量 汚れ
58・クラッチ液の漏れ
59・クラッチ液の量 汚れ

L・ブレーキ系
60・ブレーキマスターシリンダーからの漏れ
61・ブレーキキャリパからの液漏れ
62・ブレーキホースの亀裂損傷
63・ホイールシリンダからの液漏れ
64・ブレーキパットの磨耗
65・ブレーキパットの隙間

M・足回り
66・ショックアブソーバの漏れ 取り付け状態
67・ボールジョイントブーツの亀裂損傷
68・プロペラシャフトの連結部の緩み
69・ステアリングラックブーツの亀裂損傷
70・ドライブシャフトブーツの亀裂損傷

N・マフラー
71・機能 損傷
72・吊りゴムの状態
73・遮熱板の緩み

O・走行距離 経過年数等による判断
74・タイミングベルト&ウォーターポンプ

いかがでしょうか? 誰ですか? Bの項目くらいまで読んで後はグリグリとストロークしちゃった人は。いや、でもそれが普通ですね。そうなんです。思わず飛ばしたくなるくらいたくさんで面倒なことをチェックしてるんです。
点検箇所は74項目もあるんですが、この中に省いていい要項はまずないと言ってもいい。逆にこれらの項目を満たしていないクルマが街中にあふれていたら危なっかしくてしょうがないと思いませんか? と同時に気づいた方もいらっしゃると思いますが、エアコンやカーステなどの快適装備に関する項目は一切ないのがおもしろいところ。運転する人が暑かろうか、音楽がなくて寂しかろうが、そんなのは安全に関係ないんで省かれているわけです。では、主に気をつけたい部分、強調したい部分などをメカのニシカワくんといっしょに見ていきましょう。

室内点検

Morita(以下、M)/最初はどこから見るんですか?
Nishikawa(以下、N)/最初は見る前に走りますね。このクルマはいつも使ってるんで今回は省略しますが、お客さんから預かったクルマはまず走って各部のチェックをします。このとき事前に「あの辺から異音がする」とか「エンジンの調子がなんか悪い」とか日常で気になった部分を伝えておいてもらえると助かりますね。
M/なるほど。で、乗った後は?
N/まずは室内ですね(写真A)。電気周りも室内から操作するものが多いので、室内からチェックします。ライト系は点けて、確認して、消して、と面倒ですがこれは専門的な知識は必要ありませんし、それほど時間はかかりません(写真B)。あ、ライトと言えばフランス車によくあるのが黄色いヘッドライト。平成18年以前のクルマなら大丈夫ですが、それ以降はNGなんでご注意を。後からHIDに交換したヘッドライトも光軸がちゃんと正常に出ていれば問題ありません。ウィンカーなどのレンズはヒビが入ってるくらいはいいんですが、割れて光が外に漏れてるのはダメです(写真C)。
M/ホーンマークとか、シフト位置の表示はとりあえず書いてあればいいんですよね?
N/ハンドメイドな雰囲気が漂うのはダメです。ホーンマークがないから正露丸のラッパのマークを切り取って貼ったとか、シフト位置をガムテープに書いて貼ったとか。最近はそういう取って付けた感のあるものに厳しいんですよ。たとえばフェンダーからタイヤがはみだしてる場合、こりゃマズいってことでダンボールでオーバーフェンダー作っちゃうけしからん輩がいるんです。そんなの、どうせ車検終わったらすぐはがすだろうって。
M/そりゃ、やりすぎだ(笑)。
N/なので、検査官も「ダンボールとガムテープ」には過敏です。

エンジンルーム点検
N/じゃ、エンジンルームに入ります。まずエアコンフィルターを見ましょうか。(と、おもむろにワイパーを外しだす)
M/え、なんでワイパー外すんです?
N/カングーはワイパー外さないとエアコンフィルターが見えないんですよ(写真D)。いちおうフィルターを見るためのフタはあるんですけどね。でもこれ外しても見えないという……。
M/えー、そうなんだ。
N/あー、やっぱ付いてない(写真E)。カングーの初期型は初めから付いてないんですが、途中から付いてくるんですよね。まぁ、これがなくても車検は通るんですが、フィルターが付いてないとエバポレーターに当たる風の向きが変わっちゃって、エアコンの効きが悪くなることもあるんですよ。あと、中にホコリがたまっちゃうし。ないよりはあったほうが絶対いいです。車検の要項には含まれないですが、この機会くらいしかあえて見ないんでウチでは見るようにしています。ラジエターには漏れを確認するためにラジエターリークテスターをつないで圧力をかけておきます(写真F)。
M/圧力をかけてもしホースなどに亀裂がある場合、そこから漏れてくるので確認できるわけですね。
N/そうです。次はプラグ(写真G)。焼け具合、電極の磨耗はもちろんチェックしますが、あんがい知られていないのがガイシ部分の汚れ。ここが汚れているとミススパークしてしまうこともあるので、きれいにしておかないといけないです。
M/へえ。そうなんですか。あんまり関係ない部分かと思ってました。
N/エアクリーナーも一見きれいですが、ジャバラの谷の部分に汚れがたまっていることが多いので、しっかりチェックして内側、外側ともにエアで吹きます(写真H)。ベルトは目視で確認。バッテリーはテスターで擬似負荷をかけて確認します(写真I)。液量や比重もチェック(写真J)。各セルにバラつきがないかを見ますね。オルタネーターもちゃんと発電しているかをテスターで確認(写真K)。だいたい14Vくらいが正常値でしょうかね。18Vとかとんでもない数値が出る場合は、ICレギュレーター異常の可能性が高いです。

ブレーキ、足回り点検
M/次はブレーキ関係ですね。
N/はい。ローターとパッドの磨耗具合、キャリパーのガタ、ピストンのゴムブーツをめくってオイル漏れのチェックなどを行います(写真L)。パッドの鳴きがある場合は、スレッドコンパウンドを吹いて対処(写真M)。鳴きの原因はパッドそのものではなく、パッドを乗せている金属のベースが振動して起こることが多いんです。なのでベースが接するキャリパーのガイド部分に振動を止めるためのスレッドコンパウンドを吹くんですよ。ブレーキホースの亀裂(写真N)やダンパーのオイル漏れもチェックします(写真O)。リアブレーキはドラムなんで、ブレーキダストの掃除、ホイールシリンダーからのオイル漏れチェック(写真P)、あとサイドブレーキ。オーナーさんによって引きしろを調整するんですよ。
M/というと?
N/かよわい女の子だったら、緩めに。ゴツいあんちゃんだったら詰めます(笑)。
M/おー、細かい配慮!

下回り点検
N/では次は下回りを見まーす(リフトアップ)。
M/オイル漏れはなさそうですね。
N/そうですねぇ。カングーはガスケットがやせてカムカバーのネジが緩み、オイル漏れを起こすことが多いんですよ。先ほど圧力をかけたラジエターも大丈夫ですね。ただ! これはカングー全般に見られる症状です(と、シフトリンケージがつながっている部分にあるカバーを外す)。
M/おー、にじんでる!
N/ミッションオイルがにじむんですよね(写真Q)。だからカバーが付いてる(笑)。
M/しかし、絶妙なにじみ具合ですね……。
N/ドライブシャフトのブーツをはじめ、足回りに使われているゴム部品の確認も大事です(写真R)。破損していると車検には通りません。あと、見落とされがちなのが燃料フィルター(写真S)と燃料ホース(写真T)。この型は燃料フィルターがアルミで出来ているので腐食で漏れてしまうことが多いです。ホースもしょせんゴムなのでいつかは劣化します。ガソリンが通るところだけにチェックは欠かせませんね。
M/主な注意点は、だいたいこんな感じですか?
N/そうですね。あ、あと仕上げにブレーキフルードはたいてい交換しますね(写真U)。ウチでは不具合が出た場合「保安基準に適合しないので絶対交換」、「交換オススメ」、「とりあえず様子見」の3段階に分けて認識します。後ろの2つはオーナーさんと相談しながら進めていきますね。部品交換が発生した場合は、その手配。車検の日取りの打合せと検査場の予約、自賠責保険を取得して車検が切れている場合は仮ナンバーも手配します。で、実際に検査を受ける、という段取りでしょうか。

車検当日。カングーに乗って陸運局へ

N/いきなり検査場に入ってもいいんですが、念のためにテスター屋さんで事前チェックを受けます。
M/そのほうが安心ですもんね。
N/そうですね。ここではヘッドライトの光軸と光量(写真V)、サイドスリップ、ブレーキ(写真W)、スピードメーター、排ガスのチェックを行います。排ガスはキャブレターのクルマでない限り大丈夫です。

テスター屋さんに到着。サクサクと作業終了M/早いですねぇ。
N/まぁ、向こうも手馴れてますからね。さ、いよいよ検査場です。

検査場に到着

N/まず検査を受ける前に書類をそろえます。必要なのは自動車検査票、車検証、継続検査申請書、自動車納税証明書、自賠責保険証明書(新旧2枚)、定期点検整備記録簿、自動車重量税納付書の7点です。で、受付に行って確認。予約は前日までにネットで済ませておきます。当日はダメですよ。

検査レーンに進入し、サイドスリップ検査

N/最初はサイドスリップの確認です。アライメントのズレをチェックするんですよ。ハンドルを放して踏み板を通過するんですが、このとき1m進む間にイン側、アウト側ともに5mmズレてしまうとダメ。過去に修復歴のあってうまく修正できてないクルマは引っかかる可能性があるようです。

スピードメーター検査

N/これが終わったらスピードメーターの検査。実際のスピードとメーター上の誤差を確認します。ローラーの上に乗ってアクセルを踏み、40km/hでパッシング。誤差はプラス側で10%、マイナス側で15%以内ならOK。だいたい±5km/h以内くらいでしょうか。

ブレーキ検査

N/同時にブレーキの検査も行います。「踏む」の表示が出たらブレーキを踏んで「離す」の表示が出たら離すだけです。サイドブレーキもチェックします。これも指示に従うだけですね。ブレーキは踏み込む量が少ないとNGになる可能性があるので、けっこうガツンと踏みます。

ヘッドライト検査

N/次がヘッドライト検査。これはテクニックでどうにもなりませんので、ハイビームにして「○」と表示されるのを待つだけ。まぁ、事前にテスター屋さんで確認しているので大丈夫です。

排ガス検査

N/次は排ガス検査です。これは「プローブ」という棒をマフラーの中に突っ込むだけ。問題なければ「○」と表示されます。この検査ではプローブを突っ込む前にA、B、Cのボタンを押してからやります。というのも年式によって排ガス規制値が違うからなんですね。ちなみにAボタンは「4輪車の4サイクルレシプロエンジンで10年規制対象車」、Bは「ロータリーエンジンなどの特殊エンジン」、Cは「4輪車の4サイクルレシプロエンジンで10年規制前対象車」です。

下回り検査

N/最後が下回り検査。地下から検査官が目視したり叩いたり、揺らしたりして異常をチェックしていきます。ここではオイル漏れやブレーキ回り、マフラーの取り付け状態、ゴム類の損傷などが調べられます。ここで引っかかると、その場で対応できない場合が多いのでやっかいですよ。

クルマに愛を。

この下回り検査を終えて、車検は終了。思っていた以上に早く、10分もかかってない。正直「え、これだけ?」という印象だ。そう、これだけ、なのである。実際にこれで車検証は交付されるのだから。じゃあ、なぜ前半に記した74もの項目をわざわざチェックするのか。それは本来、これくらいやって完璧であるか、許容範囲以内であることを確認できなければ、車検に通っちゃいかんのです。でも、これらの内容を検査場に来るすべてのクルマにやってたら、とうてい捌ききれない。毎日山のように車検を取りに来るクルマがいるわけだからね。なので陸運局の検査は表面的な部分しか見れない、というのが実際のところ、なのだ。
そういう事情なのでぶっちゃけて言えば、74項目も点検しなくても車検は通ってしまう。現実にユーザー車検や車検代行などで大した点検もせずに陸運局に持ち込んで車検をパスしてしまう例も少なからずある。で、数ヵ月後にブレーキパッドが消耗限界まで来ちゃいました、ってこともあったりする。まぁ、でもそれは当然のこと。ろくに点検してないんだもん。
だからRENOさんではそういうことがないように車検を「ちゃんとクルマを維持するための検査」ととらえ、車検に通るのはもちろん、オーナーさんが安全に乗れ、他の人にも迷惑をかけずに天下の公道で乗れるように整備してくれるのだ。費用に関しても不具合が出るたびにちゃんと直しておけば、車検時期になって「あれも換えないかん、これも換えないかん」と大騒ぎする必要もない。クルマは機械の集合体なので故障もすれば、劣化もする。それをこまめに直すか、車検前に一気に直すか。それはオーナーさんの自由だが、まとめて直すと当然それなりの金額がかかる。んで「あぁ、お金がかかる~」と嘆いてもそりゃ、仕方ない。別にクルマ屋さんが悪いわけじゃない。それに重量税や自賠責保険などは、そのまま国に収めなければいけないものであって、別にクルマ屋さんがシメシメと懐に入れているわけではない。♪右から左に受け流す~お金なのだ。そういう事情もぜひご理解いただきたい。
車検だ、車検だ、と騒ぐ前に、せっかく好きで買ったクルマなんだから、日常的に手をかけてあげましょう。そうすれば“8月末の小学生”のように慌てふためくこともないし、クルマ屋さんも日常的にそのクルマを見ていれば「次はアレが怪しいんでやっときましょうか」と先のプランも提示しやすくなるはず。クルマに愛を。これです、これ。

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

関連URL/http://www.reno-auto.net/wp/archives/3878
http://www.reno-auto.net/wp/archives/3814

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