「やっぱ軽いクルマはイイなぁ」と、106 Rallyeに乗った人ならきっと同じような印象を抱くはずだ。現代の豪華な軽自動車と同じくらいの車重に高回転まで軽々と吹け上がるエンジン、絶対的な速さはないけど、速く走っているような気分になれるクルマは、いまとなってはそうそうあるもんじゃない。パワーを求めるならいくらでもそれに該当するクルマはあるが、軽いクルマとなると見つけるのが困難な時代。だからこそ、106 Rallyeは貴重なんだ。
106 Rallyeは’94年にデビューし、’90~’94年まで販売されていた205 Rallyeの意志を受け継いだ競技ベース車。その名が示す通り、ラリーに出場するためにつくられたクルマで、当時プジョーワークスとしてはフランス人のジル・パニッツィなどがドライブしたことでも知られている。その他にも106 Rallyeはプライベーターのベース車両として愛され、ヨーロッパの地方選手権でも活躍。205 Rallyeの後継として見事にその任務を果たしたのだった。
ラリーという名が冠せられる106はこの1.3 SOHC(通称テンサンラリー)の他に1.6 SOHC(通称テンロクラリー)、1.6 DOHC(通称ラリー16V)の3車種があるが、競技車度は後ろにいくほど薄れる。ラリー3兄弟の中でもっともスパルタンなテンサンラリーは、競技車ベースだけにエアコン、パワステ、パワーウィンドウなどの快適装備やABSなどの安全機能もない(当該車にはエアコンのみ後付けで装備)。それゆえに当時のインポーター「インチケープ・プジョー・ジャポン」からの国内販売は行われなかったが、その尖った性格に魅力を感じた人たちがいたのは確か。あくまで推測の域を超えないが、国内数社の専門店が並行輸入したのは200台くらいに及ぶとか。並行車としてはかなりの数と言えるが、いまとなってはもう10年以上前の話。当然こんな性格なクルマだから、走り好きな好事家が所有するわけでサーキットで横転しただの、エンジンブローしただの、そういう話は枚挙を厭わない。ただでさえ古いクルマなのに、そんな使い方をされればフツーのクルマより現存率も明らかに下がるわけで。いま国内に何台残っているのか知らないが、ともあれ今後ますます少なくなっていくクルマであることには間違いない。
そんなヒストリーを持つ106 Rallyeを借り出し、やはりその実力を試すにはラリーと同じフィールドだろう、ということで林道を求めて山間部へ向かった。クラッチをつないだ瞬間から軽さを感じられるクルマだけに、山へ向かう途中の市街地ですら楽しい。おまけにクロスレシオのギアだから短い直線でもサクサクとシフトアップ、コーナー手前で2つほどシフトダウン、とその動作は忙しいのだけど、変速好きにはたまらない快感だ。そう、街中の低速域でもラリードライバーの雰囲気を味わえるわけ。郊外に出てちょっと多めにアクセルを踏みつけてみると、エンジンはここぞとばかり回転を上げ、油断するとすぐにレッドゾーンだ。エンジンに意思などないが、明らかに「もっと回して!」とせがんでくるような気さえする。エンジンは所詮1.3リッターなのでトルクは頼りないが、常に3,000rpm以上をキープしながら走るとそのパンチ力にやられっぱなし。「痛快!」とはまさにこのことを言うんだろうな。
林道の入口につくと、路面はハーフウェット。タイヤがちょっと心配なので思い切りは踏めないが、フロントウィンドウ越しにカウントダウンするオフィシャルの右手をイメージしてSS(スペシャル・ステージ)のスタートだ。ほとんどが2速、3速のタイトな道はまさにその軽さを活かせる最高の舞台だった。右へ左へ切り返すコーナーでノンパワーのステアリングを忙しく回す。奥に行くほどRがきつくなる複合コーナーでの操作は、クルマとの「格闘」だ。まっすぐに戻ろうとするステアリングを力でねじ伏せ、そのトルクと戦う。コーナーの出口で握力を緩めると、開放されたステアリングはものすごい勢いで回転し、中立へ戻る。摩擦力と慣性と、そしてクルマと、そのすべての戦い勝利した瞬間、ようやくアクセルを緩めることができる。心拍数の上がった体を休めるように大きく深呼吸。なんだろう、この爽快感と達成感は! 人車一体となった数分の出来事。それは4つの車輪の位置と状態が脳内でイメージできるほどの小さな車体と、思った操作をダイレクトに返してくれる軽い重量を持つクルマだからこそ得られる感覚だ。快適を割り切った分、その歓びは大きく代え難い。106 Rallyeをドライブするとクルマはその中に「居る」ものではなく、やっぱり「走る」ものだなぁ、と思わずにはいられない。走りの楽しさを享受するものは、圧倒的なパワーでも、駆動方式でも、緻密に制御するデバイスでもない。小さく、軽く、元気のいいエンジンがあればいい。足りないところは人間の工夫と知恵で何とかする。人と機械がバランスよくミックスされたクルマにこそ、人車一体の官能が宿るのだと思う。
106 Rallyeのようなクルマは、もうこの先出てこない(あえて断言する)。それは多くの人に求められていないから。いや、10年以上前も求められていなかっただろうけど、いまはもっと求められていない。それどころか、こんなクルマを大メーカーがリリースするのは世間的なコンプライアンスに反するとさえ思われている時代だから。
多くの人はクルマに快適を求め、安全を求めた。その結果、クルマは大きく、重くなり、その分のハンデをパワーに頼らざるを得なくなった(事実、いまどき1t以下の重量税で車検が取れるクルマはほとんどない)。そのおかげで数値では表せない「運転する歓び」は薄れ、多くのクルマは(スポーツカーと呼ばれるクルマすら)運転しても、すべての操作にどこか1枚ゴム板がはさまっているような、鈍い印象しか残らないものばかりになった。もちろん自動車の進化を「運転する歓び」という単一的なワードで斬るべきではないのはわかっているつもりだ。でも「時代の流れ」というジョーカー的なワードで運転する楽しさまで斬り捨ててしまうのもさびしすぎるではないか。時代遅れと言われてもかまわない。私は歳を取って手足が充分に動かなったとしても、106 Rallyeに代表される“軽くて熱い”クルマを支持しつづけたい。
PHOTO/Motita Eiichi, Yamazaki Hiroki
TEXT/Morita Eiichi
1994y PEUGEOT 106 Rallye
全長×全幅×全高/3565mm×1605mm×1360mm
ホイールベース/2385mm
車両重量/810kg
最大出力/74kW(100PS)/7200rpm
最大トルク/110Nm(11.2kgm)/5400rpm
σ(^_^)がF国AR社のGT▼を所有していた頃
友人がテンロクラリーを購入。
助手席に乗せてもらっただけなのに
「軽いクルマって、なんて素晴らしいんだ!」
と開眼しました。
偶然、某ショップに出てきた(RENOさんではありません/スマヌ)
某車を購入。
1100ccの排気量でエンジンパワーは大したことがないですが、
軽自動車と殆ど変わらないボディサイズ&車重なので
ものすごく運転が楽しい。
それでいて、重量税やタイヤが安く財布に優しい。
ホント、軽いクルマは良いです!
※ 某車は、三菱ピスタチオではありません(謎)
↑
すみません。
「F国」は間違いで
「I国」です(苦笑)
> かまかまさん
そうなんですよね~。いま現行車で探そうとしても、
そういうのがないですよね。
軽いクルマ、万歳!
こいつにゃとうていかなわないけれど,わずか1200ccなのに,自分の感覚(それが大事!)ではすっごくよく走ります。900kgしか(いや2CVやパンダは,まっと軽かったな…)ないので,それはあの「Y」です。以前このコラムに登場した黄色の 「Y」です。
とぼけた顔して バンバンバン♪
あいつにゃとっても かなわない♪
遊び上手な バンバンバン♪
にくい男さ バンバンバン♪
バンバン ババババ ババババン♪
バンバン ババババ ババババン♪
> be bop ナリタさん
あの黄色いYはいいですよね。
あれに乗るとほんと1200ccで充分じゃないか、と
あらためて思います。
すごくオシャレですし。
テンサンラリーと同列では語れない
魅力がありますよね。