ここ最近、トゥンゴ3がアツい。本当にアツいのは店主のすずきさんなのだが、僕もいろんなトゥインゴに乗せてもらううちに、すっかりその良さに魅了されてしまった。自分が本当に好きなクルマにファーストカーにして、セカンドカーとしてトゥインゴにカーライフをバックアップしてもらう。現実的に最高の布陣である。そのトゥインゴも2019年にフェーズ2へ進化し、もう3年も経ってしまったが、そんな折、試乗するチャンスがやってきた。
NAはマイナーチェンジでエンジンも変更!?
トゥインゴ3、街中でもその姿を多く見られるようになった。3代目のデビューは2014年だから、もう8年も前のことになる。当時を振り返ってみると、新しいトゥインゴがデビューするにあたって「今度のトゥインゴはRRらしいぞ」という話題でかなり盛り上がったように記憶している。当時、そしていまもRRのコンパクトカーなんてなかったから、当然かもしれない(厳密に言うとRRではなく、MRなのだが)。
2016年には日本仕様が販売され、エンジンは0.9Lターボ(TCe90)と1.0L NA(SCe70)が用意された。その後、0.9Lターボの出力を109psまで引き上げたGT(TCe110)も登場した。
2019年にマイナーチェンジを行い、フェーズ2へ。エクステリアデザインの変更が与えられたが、1.0L NAのみエンジン自体が変わっているようだ。フェーズ1はエンジン型式が「H4D」、フェーズ2では「B4D」と表記される。H4Dのボア72.2mm x ストローク81.3mmに対し、B4Dはボア71.0mm x ストローク84.0mmとロングストローク化されている。これに伴い出力も変更され、フェーズ1が71ps/6000rpm・91Nm/2850rpm、フェーズ2は73ps/6250rpm・95Nm/4000rpmと高回転型になっている。しかも詳しく調べていくと、ギア比まで違うではないか。フェーズ1は、1速3.727 / 2速2.047 / 3速1.392 / 4速1.096 / 5速0.891 / 後退3.545 ファイナル3.733に対し、フェーズ2は1速3.727 / 2速2.047 / 3速1.392 / 4速1.029 / 5速0.820 / 後退3.545 ファイナル4.066となっている。4速と5速のギア比が下がっているのは、3速からのつながりの良さや加速の良さを意識したのだろうか。それでいて最終的にファイナルを変更することで、高速域での伸びをカバーするという方針か。ちなみに確認が取れているのは、NAエンジンのみで、ターボエンジンは変更がない模様(フェーズ1も2もエンジン型式は「H4B」のまま)。ターボエンジンのトランスミッションはどうだろうか。変更されているのかどうかは不明だ。
と、ちょっと細かい話になってしまったが、2021年現在、日本のディーラーではTCe90にEDCを組み合わせたインテンスとインテンスキャンバストップ、燃費対策でSCe70からSCe65になったS(5MT)がラインナップされている。ちなみに本国ではTCe90はもう買うことができない。ラインナップはSCe65とEVしかなくなっている。
洗練されたデザインのフェーズ2
フェーズ2になったトゥインゴを見て、洗練されたデザインになったなぁと感じた。フロントで大きく変わったのは、ヘッドライトとバンパーで、フェーズ1にあった丸いデイライトが廃止され、バンパーの両端にスリットが入った。ヘッドライトはその外側を囲むようにデイライトとウィンカー兼用のC型LEDが採用されている。これはルノーのCI変更に伴い、他の車種も同様のあしらいがなされている。フロントデザインはトゥインゴ2のフェーズ1からフェーズ2に変わったときのような大きな変更はないものの、印象はかなり違うと思う。
リアもフロントと同じように小変更に留まる。パッと見、フロントよりも分かりづらいかもしれないが、リアコンビネーションランプもバンパーも変わっている。フェーズ1ではリアゲートを開けるとき、バンパーにそのスイッチがあったが、フェーズ2ではリアワイパー部分に移設された。サイドに回ると、左側にはフェーズ1でGT専用だった空気の取り入れ口が設けられている。
インテリアも大きなデザイン変更はない。ただ、新しく「イージーリンク」という名のインフォテインメントシステムが採用され、7インチのタッチスクリーンが存在感を放っている。
ドイツからやってきたマンゴー
さて、ようやく当該車の話。2019年式の、本国ではもう新車で買えなくなってしまったTCe0.9の中古並行車である。中古と言っても走行距離はわずか6,500km足らずで、新車の域だ。
まずパッと見て飛び込んでくるのがこの色。ジョーヌ・マンゴーはフェーズ2になって採用された新色なのだが、色について言うとルノーならではの傾向があるように思う。かつてルーテシア2 RXEやトゥインゴ3フェーズ1にブラウン(正式名称はカプチーノだったか)のボディ色があったのを憶えているだろうか。これがなかなか落ち着いた色で素敵だったのが、いつの間にかラインナップから消えていた。売れ線ではないけど、何気にいい色。そしていつしか消えてしまう色。このジョーヌ・マンゴーも、もしかしたらその類の色かもしれない。
この色、トゥインゴというキャラクターにとても合っていると思う。本国ではシルバーやブラックなどの地味な色が多いが、日本のニッチなマーケットにこういう色は映えるんじゃないかと思う。もし、廃止されてなくなったとしても「ジョーヌ・なんとか」という色が限定車で後から出てきそうな気もする。
余談はこの辺にして。このクルマはドイツからやってきた中古車で、ディーラーのデモカーや展示車として使われていたのではないか、と予測するのが店主のすずきさん。グレードはリミテッド3で日本仕様にたとえると、ゼンのひとつ下に位置するグレードらしい。それにエアコンを標準装備化し、お買い得感を出したモデルで、アルミホイールや電動ドアミラー、バックカメラ、バックソナーなどがオプションになっている(電動ドアミラーを装備すると限りなくゼンの装備と近くなる)。現行で搭載されているバックカメラやレーンキープアシストなどの先進的な安全装備は付いていない。
インテリアはヴィヴィッドな外板に対してホワイト、ブラック、グレーとシックな装い。先述した大画面が特徴的だが、ラジオは現状で欧州バンドのまま。TEXAで変更を試みたものの、日本仕様のパラメーターがないとか。将来的に追加される可能性はあるかもしれない。
ちなみにいま日本ではトゥインゴの新車をディーラーでオーダーしても、半年くらい待たなければいけないようだが、これは日本だけでなく世界的にそうらしい。欧州ではもうTCe0.9が買えない状況なので、このモデルは希少車。ドイツのクルマ屋さんがわざわざ日本に向けて出してくれたのは奇跡的とも言える。
乗り味の変化は気のせいか……
機械的、構造的に大きな変化はないTCe90のフェーズ2。果たして乗って違いが分かるのか、甚だ疑問ではあったが、ひとまず実際にエンジンをかけ、道路に出てみた。最初に感じたのは足回りの変化。フェーズ1よりも上質になったように感じた。単にやわらかくなったわけではなく、ギャップを乗り越える最初にアタックにずいぶん角が取れた丸みを感じる。その後の沈み込みはそれほど深くないが、しっかりとしたコシのある足回りだ。ただ、この印象はタイヤに依存しているかもしれない。タイヤはオランダの「ヴェルデステイン」というメーカーで、110年以上の歴史がある会社らしい。モデルは「クアトラック5」で、オールシーズンタイヤだ。これまで乗ってきたトゥインゴ3は16、17インチが多かったが、このクルマは15インチ。偏平率は65%なのでかなり縦バネが使えることになる。しかもオールシーズンタイヤとなれば、コンパウンドもやわらかめだろう。初期の当たりに丸みを感じるのは当然かもしれない。
大通りに出たので、少しアクセルを踏み込んでみた。フェーズ1のTCe90とはちょっとパワーの出方が違うように感じた。フェーズ1はターボを思わせないマイルドな特性だったが、このクルマはパワーの立ち上がりが鋭く、過給が掛かるのが分かりやすい。吸気やターボのマネジメントが違うのだろうか、はたまた単なる勘違いか。|
思った以上に速度が出てしまい、とっさにブレーキに足をかけた。グッと減速したが、印象としてはかなりカックンブレーキだ。これもフェーズ1のときには感じられなかった。ただ、これもブレーキパッドが違う可能性もあるので、根拠に乏しい。
と、僕が感じた限りではこの辺りがフェーズ1との違いだが、どれも感覚的で「ただし……云々」ばかりなので、まったく参考にならないと自分でも書いていて思う。しかし、ルノー車全般に言えることだが、フェーズ1からフェーズ2に変わってがっかりした、もしくはフェーズ1のほうがよかったと思えることはあまりない(デザインは抜きにしてね)。先代のトゥインゴ2も機械的・機能的な部分ではフェーズ2のほうが良かったし、ルーテシアやメガーヌもそう。正常進化という言葉がぴったりくるのだ。デザイン的にはフェーズ1の愛嬌のある顔付きのほうが個人的には好きなので、もし買うとしたら依然としてフェーズ1の0.9ターボがベストバイなのだが、見慣れてくるとフェーズ2のシュッとした顔も悪くないかなぁと思えてくる。
そうそう、これは余談なのだが、すずきさん曰く「フェーズ2のSCe65がすこぶるいいよ」と話していてすごく気になった。70馬力からデチューンされて65馬力になったSCe65は、ディーラー車のトゥインゴの中で唯一、5速マニュアルなのだが、やはりその数値に抵抗を感じてしまう。65馬力かぁ……と。しかし、実際に乗ってみると想像以上にトルクがあって乗りやすいのだとか。振り返れば、新車で買うチャンスもあったが、当時はTCe90のガス検があったので、そちらを探すことに注力していたそうだ。
1.0のNAといえば、このコーナーで最初に乗ったトゥインゴ3である。その頃はワクワクして乗ってはみたものの、正直言ってその良さがあまり分かっていなかった。でも、買ってがっかりすることはないというすずきさん。いま乗ったらまたきっと印象が違うのだろうな、とひそかに再会できる日を心待ちにしている。
※追記 残念ながらちょうど先日、ディーラー車のSCe65がディスコンに……。皆さん、新車で買える欲しいクルマがあるなら、あるうちに買っておくべきですよ。こうやってなくなっていっちゃいますから。
TEXT & PHOTO/Morita Eiichi
2019y RENAULT Twingo 0.9 TCe 90 Limited3
全長×全幅×全高/3595mm×1646mm×1554mm
ホイールベース/2492mm
車両重量/944kg
エンジン/直列3気筒DOHC 12バルブ ターボ
排気量/897cc
最大出力/66.2kW(90PS)/5500rpm
最大トルク/135Nm(13.7kgm)/2500rpm