【Column】大衆実用車とは何か?

――SUZUKIの考える大衆実用車

足るを知れ

 

ことの発端は、ルーテシア4 0.9ターボを、相応の距離、大雑把300kmくらい回送する仕事を敢行した時。

 

想像にたやすく、あのボディーに0.9ターボはアンダーパワーだ。それは当然、スペックは数字だ。誰にでもわかりやすく、明らかに劣ってるバカな私でもわかる。街乗りで乗れば容易に看破できた気になる。走らん遅い。そう、困るほどではないがもうちょいトルク感があってもいいんじゃね? ガバッと走る感あってもいいんでね? おそいなぁ。以上。な訳だが……。

それが、高速道路乗ると、そのイメージが、もはや先入観以外のなにものでもない、その理解の浅さを、このルーテシアはシレーと示すのです。

5速で巡航をなんなくこなし、鋭くはないがちゃんと加速もする。ガバッと加速したいならばシフトダウンすればいい。流れには確実についていけるし、車速さえ落ちなければ実際のところはなんら支障はないといえる。

ローパワーなそのエンジンが載るそのドンガラを支える足回りは、定評のあるルノー、ルーテシア4のそれである。お上の定めた速度などなんてことはない。ここで書くのが憚られる状況(ご賢察ください)においても、全く破綻することなく、正直、私の後ろで赤灯、回りましたし。気づいたからいいけど(恥)。ともかく終始、ルノーらしい、安定したスタビリティを示してくれる。なんたる快適さ。これが仏車、これでこそ仏車、いや今の時代に至っては、ルノーである。

 

2018年式のZen 1.0SCe。ホワイトのボディカラーが新鮮でいいなんだ、全然これでいいじゃん。充分だよ。0.9ターボで充分。

 

で、別の機会に、いや厳密には単純に帰路なんだけども、トゥインゴ3 1.0SCeに、また大雑把300kmくらい乗る機会を得たわけですよ。

こちらは、なんてったって70馬力、非力だって誹りは常に受けている。だが実は私的には街乗りではそれほど不足を感じない。だが、果たして長距離の高速道路走行は、どぉなることやら……と、数値に惑わされ気味な理解の浅い私は、半ば諦め気味でインターチェンジ突撃本線合流に赴いた訳だが……。

これがまた、いや、確かにアンダーパワーだ。だが、踏めば相応に動く。急加速こそままならないが、必要に応じてでガバッと踏むなりシフトダウンするなりで、流れに乗るどころか流れを先導することも、できない訳ではない。いやそれをする為に床から棒生えてて掻き回せと主張する。現車がまだ登録後さほど走ってない個体なので、ガバッとな、は避けたが、それでも追越車線をダバダバダと流す方の後ろについていく程度なぞ、容易なのである。車速を落とさない運転を心がければ、それほど不足に感じることは、多くはない。少なくはないが、それを補う為に、ぶん回し、クラッチ踏み、シフトレバー搔き回す。それがドライビングプレジャーではなかろうか? もしこれが自分の車なら、そこそこいいエンジンオイルを奢って、エンジンに回り癖つくような調教を重ねれば、これ意外と愉しませてくれんでね?

街中に於かれましては若干なりとも感じられるRRらしさは、高速走行時には影を潜める。若干頭が軽いのかなくらいの軽快なハンドリングに、ルノー特有の安定したスタビリティ、この差は如実に体感できる。ボディサイズからは想像できないロングツアラーぶりを発揮してくれる。

 

「足るを知る」ことのできるミニマルなクルマだから「Zen(禅)」なのか。もしそうなら、そうとう素敵なネーミングだなんだ、全然これでいいじゃん。充分だよ。1.0自然吸気で充分。

 

そう、大衆実用車だもの、これでいいのだ。

 

そこで思い出されるのが、弊店の社用車であるところの、カングー1の初期、1.4シングルカム。あのドンガラにそのエンジンなのだから、パワー不足は否めない。なのだが、マニュアルトランスミッションを巧みに操れば、中央道も ガンガン登る、霧ヶ峰の急坂こそ2速に落ちるが、それは特殊な状況であり、こと高速道路に於いては、速い車に振り切られようとも、意外と追いついてしまうことがある。ええコツは、特定の時速以下に車速を落とさないこと。あとは追越車線の間隙をついていかに車速を落とさず維持するか。それを為し得ると、1.4カングーは意外とハイウェイクルーザーです。(エンジンはブん廻ってますけどね。)

 

それ以前に、ぶん回せば、意外と速いぜ1.4SOHCで充分だぜMTならば!

 

ホワイトが配されたインテリアで車内はポップで明るい雰囲気そう、若干の不足は過ぎたる不足ではないのである。

使う側の使い方でいかようにも補完できるのである。

 

と、改めて、ここでこの3台を総括すると……。

そう、3台にわたって、同じこと3回も言ってんです。

それが、ルノーの、大衆実用車なんです。歴史もサイズも違うが、皆同じなのである。

 

当初私が囚われていた、モアパワーをよしとする風潮はどこからきたのか。皆様がなぜそれを求めるのか。そりゃもちろん極東の島国、アップダウンもあれば信号一時停止で頻繁に急発進を強いられる。その場合の加速感・トルク感は当然求められるだろう。だが、それが車に要求される全てではない。本来の車の使用用途に則って考えると、いかに快適に遠方へ乗員貨物を輸送できるか、その点においては、アンダーパワー車で充分用を為す、のみならず、車全体の総合力の評価であるべき。

そこを理解する、それが大衆実用車を選ぶということ、多分それがフランス的合理主義、なのではないかと。

 

足るを知れ。合理主義とは、その一言に集約されるのではなかろうか。

世間の風潮に踊らされて、余計なとこでお金使うのも、経済を回す為には一切それを否定はしない。だが、貧窮極まった我らにとっては、今求められるのはその合理主義ではなかろうか。

 

いいですよハイパワーのエンジンの低回転域だけしか使わずダバダバダな優雅さも。一応垣間見たことあるので知ってます。だが、残念ながら、世知辛い渡世の我らには、既に、その優雅さと呼ばれる余裕なぞ、ありはしないのである。

 

ではそういう、フランス的合理主義に叶った車が、極東の島国に於いても、価値を認められ普及するかと言えは、現実はそれほど容易ではない。

ここ極東の島国に於かれましての仏車は、未だ、輸入車の範疇では多少お値打ちでカッコだけつく、そこに誘引されるニッチマーケットにのみ訴求し得ているに過ぎない現実が依然として存在する。

そのマーケットに難なく訴求する為には・・・・そんな大衆実用車では、訴求力に欠けるのである。だから各種装備てんこ盛りエンジンもハイパワーな右ハンドル自動変速車がもてはやされ、積極的に輸入されて普及を目指す。

 

前席のシートはヘッドレスト一体型。ホワイトの縁取りがおしゃれそういった歪んだマーケットにおいては、大衆実用車は、一見何も目を惹くものはない。そりゃ速いだ、バッヂがついてるだ、がわかりやすい。で、不思議と、わかりやすいのをわかってかわからないでか、わかりやすいからすぐあきるのか、そもそもファッションnotパッションなのか、意外とショートサイクルでお買い換えお乗り換え♪が多いので、意外と商売としては、いい。

だが本質は、そこではないのでは?

大衆実用車とは、そういうキャラがたったわかりやすいものではなく、しみじみといいよねぇと思えるもの。

 

錦のおねぇさんと近所の焼鳥屋のおねえちゃん、どっちがぃいかって話しだもん。

錦のおねぇさんは、そりゃ資本力要りますよ。そういうことです。

 

最大出力/52kW(71PS)/6000rpm、最大トルク/91Nm(9.3kgm)/2500rpm。このご時世、ターボモデルのみで良さそうだが、あえてこのモデルを置いている意味を考えると興味深いトゥインゴ3で言えば、 極東の島国の於かれましては、0.9TCeのEDC(自動変速)インテンス(豪華仕様)が主力に据えられている。そう、この極東の島国の、ニッチマーケットにはそれが最適なのであろう。

だが、私は、実は大衆実用車の本懐は、今回乗った、1.0SCeのマニュアルトランスミッション、ゼン(一般仕様)にあると思っている。

本来普及すべきは、大衆実用車であるならば、こちらであるべきでは?

 

足るを知ることができる車が、この価格で買えて、しかも悟りの境地、禅思想まで学べてしまう。こんな合理的な車、極東の島国の正規輸入車に限って言えば、他に類を見ないのは、明確である。what else?

 

そう、敢えて選ぶ価値のある合理的実用車、なのである。

 

リアゲートを開けるとき、ほぼ100%の人が騙されるスイッチの位置。無意識にリアゲートの下端に手を入れてしまうが、そこにスイッチはなく実はバンパーの下にある(写真中央の長細い部分)~あともう一言~

本来は、自動車のラインナップにおいて、健全であり目指すべきところは、こういった大衆実用車がコンスタントに売れて、稀にキワモノと高級車、であるべき。それを以って総台数が稼げるものだと思う。だが残念ながら、そこが逆転しちゃって、豪華仕様とキワモノの台数のみで勝負を強いられているのが、極東の島国のニッチマーケットである。それは過去から続く永遠の課題ではある。他輸入車はその健全なヒエラルキーの構築は既に諦めているのか、大衆実用車と呼ばれる仕様が正規輸入されるのは稀である。そこで敢えて日本に存在するTwingo3 1.0SCe MT、既に孤高の存在、唯一無二であるような気すらしてくる。

 

 

――MORITAの考える大衆実用車

ルノーの矜持は分かりにくい

 

大衆実用車とは何か? その名のとおり、一般大衆が実用的に使えるクルマのことであり、ベーシックカーと言い換えることもできる。

僕は「ベーシック(基本)≒本質」だと思っているので、大衆実用車にはクルマに求められる「走る、止まる、曲がる」という基本性能を叶えるための構造、設計、品質が最重要視されるべきだという考え方だ。そのため、過度な(あくまでも過度ね)経済性、安全性、快適性、デザイン性などは必要ない。クルマを売らんがために、経済性、安全性、快適性、デザイン性に注力しすぎることで、基本性能を生み出す部分が疎かになるのは本末転倒。多くの人が買い求める大衆実用車こそ、基本性能にお金をかけるべきだと思っている。とはいっても、成熟しているクルマ業界では、基本性能がめちゃくちゃなクルマはよほどなく、その基本性能をどのようにして実現していくのかは、各カーメーカーのクルマづくり思想によって大きく異なる。

 

後席のシートは、ライトグレーとのコンビネーション今回、トゥインゴ3に乗る機会を得て、大衆実用車について語ろうとスズキさんから言われたとき、私はこれまでトゥインゴと関わってきた機会を思い出した。

トゥインゴとのファーストコンタクトは、輸入車雑誌の編集をしていたころだ。1990年代に乗ったトゥインゴ1は、そのかわいらしいルックスから小さなクルマをイメージしていたが、目の前にしてみるとけっこうボリュームがあり、乗ってみるとエントリーモデルとは思えない驚異的なスタビリティに圧倒された。日本の軽自動車の延長のように思っていた自分が恥ずかしかった。

トゥインゴ1は当初、1.24LのOHV 52psだったが、1997年にシングルカムエンジンに変わった際にも驚かされた。たいていOHVからOHCになれば、それなりにパワーアップするものである。しかし、ルノーは排気量をわざわざ1.14 Lに削減し、58psとわずかに出力が向上させたに留めたのだ。これは明らかに意志のある決定であり、むやみにパワーアップせず、大衆実用車のコンセプトを守り続けるという頑なな姿勢の表れである。単に「パワー=善」ではなく、そのクルマの立ち位置や性能全体のバランスを維持することが重要なのである、というルノーの、そしてルケマンのメッセージとして受け取った。

その後、輸入車業界から離れたこともあり、トゥインゴと再会したのは、このコーナーを始めてから。

トゥインゴは2代目に進化していた。クリオ2(ルーテシア2)のプラットフォームを用いた2代目は、1.4、1.6、2.0のエンジンの搭載可能な実力を持っている。しかし、やはり排気量は1.2 L(75ps)を最後まで堅持。ただ、初代と違ったのは、一部の好事家の要望を叶えるために過給機をつけたGTや1.6L可変カム16Vのルノースポールを用意し、時代のニーズに“譲った”ところだ。クルマ好きはGTやRSのほうについつい目が行きがちだが、この2モデルはあくまでも「おまけ」で、やはり本流はベーシックな1.2L NAなのだと思う。

 

ラゲッジは5:5の分割可倒式2014年、トゥインゴは3代目になり、リアエンジン化、5枚ドア化と大幅に変化したが、コンセプトは変わらない。当初は1.0L NA(71ps)と0.9Lターボ(90ps)、その後、おまけの「GT」が追加されたが、それでも109psである。そして現在はフェーズ2になり、0.9Lターボ(92ps)と1.0L NA(73ps)というシンプルな構成になった。

さらに個人的な話をすれば、僕は半年以上の間、トゥインゴ1を代車としてお借りしていた時期があり、その後、2台目の自家用車としてトゥインゴ2 GTを購入したという経緯がある。

トゥインゴ1は1.24Lで車両重量こそ約860kgと軽量だが、OHVの52ps。多くの人が遅いと感じるクルマだ。もちろん僕も例外ではなく、最初は踏んでも踏んでも走らないから遅いなぁと思っていた。しかし、付き合いを重ねるうちに、だんだん慣れてきてパワーがないのは当たり前に思えるようになってきた。その代わりにパッケージの良さ、シートの座り心地、足回りのしなやかさ、安定感が際立つようになった。さらに発見したのが、高速道路での高速走行。非力なので登坂はさすがに苦手なのだが、流れに乗れば52psしかないことを忘れさせてくれるほど快適だった。そこで気づいたのだ。ああ、このクルマの良さは、ちょっと乗っただけでは分からないということに。このクルマの価値を、単に馬力だけで判断してはならないということに。スペック中毒にはなるまいと、いつも思ってはいるけど、ときどき気を抜くと数字だけで判断してしまう自分がいるのも確か。それをたしなめるように、トゥインゴはニッコリと微笑むのであった。

 

右ハンドルはクラッチペダルの左横にスペースがないが、このクルマには後付けのフットレストが装着されていた。充分な大きさや形状ではないが、あるとないとでは大違いその後、トゥインゴ2 GTに乗ることになり、ターボによってトゥインゴ1の倍ほどのパワーを手に入れた。トゥインゴ1よりも圧倒的に速いのだけど、しかし。どこかでトゥインゴ1の、あのバランスの良さを求めている自分がいることにときどき気づく。

今回、トゥインゴ3のベーシックグレードに乗り、あらためて「ああ、これだ!」と思ったのである。そう。RRになっても、5枚ドアになっても、各部の構造、機構、性能が飛躍的に向上しても、やっぱりトゥインゴだったのだ。ルノーの大衆実用車、かくあるべき、というコンセプトはまったくブレていないことを確認できた。

これまでトゥインゴ3には3回乗ってきている。最初は並行車のSCe70(左H、5MT、1.0L NA)、2回目はGT(右H、5MT、0.9Lターボ)、そして3回目はこのZen(右H、5MT、1.0L NA)である。しかし、恥ずかしながら最初にトゥインゴ3に乗ったときは、正直ピンとこなかった。もちろんいいクルマだと思った。しかし、トゥインゴ1に初めて乗ったときほどの感動はなかった。しかし、GTに乗ったときから少し変わってきたのだ。それはNAよりもパワーのあるターボエンジンを載せたことで、そのパワーよりもそれを受け止めるシャシーの懐の深さに気づいたのだ。ん? これは僕が思っている以上にもっと先があるのかも……。と、思いつつ、今回のZenに乗って、やはりトゥインゴの本流はこのベーシックグレードにあり、と再確認したのだ。クルマはシャシーが勝つべきである、と。ターボで過給しなくても、しっかり踏めばちゃんと走る。それもターボ独特のクセのないリニアなフィーリングとともに。いや、もちろんローバーのRV8のようなやわいフレームにバカでかいエンジンを載せる豪快さも魅力的である。それは重々承知の上で、やはり大衆実用車とはこうあるべきだと感じたのだ(そもそもRV8は大衆実用車ではないな)。

タイヤサイズは前後で異なる。フロントは165/65R15、リアは185/60R15マスに向けてのクルマはコストの壁がある。安くおさえるためには、あらゆるものをミニマムにしなければならない。しかし、ミニマムだから仕方ないよね、ではつくり手のプライドが許さない。むしろミニマムであっても、ミニマルで最高のクルマをつくってやる。その矜持がトゥインゴ3には感じられる。しかし、その矜持に、僕は3回乗ってようやく気が付くことができた。トゥインゴ3の、いやルノーの矜持は分かりにくいのである。

 

PHOTO/Morita Eiichi

 

 

2018y RENAULT Twingo Zen 1.0 SCe

全長×全幅×全高/3620mm×1650mm×1545mm
ホイールベース/2490mm
車両重量/960kg
エンジン/水冷直列3気筒DOHC
排気量/998cc
最大出力/52kW(71PS)/6000rpm
最大トルク/91Nm(9.3kgm)/2500rpm

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