2018年はちゃんと年末に総括したんですが、今年はずれ込んでこの時期に。ひとまず昨年の振り返りと今年の話をダラダラと約10,000字。お暇な方だけどうぞ。
簡単に言うとダシアな1年、
ドッケールな1年という感じだった。 ――Suzuki
Morita(以下、M):では、始めましょうか。もう2月も半ばあたりになろうというのに、2019年の振り返りをやろうとしている体たらく……。すみません。
Suzuki(以下、S):まぁ、それは置いといて、去年のことね。毎年同じようなことを言うようだけど、一向に景気が良くはならないね。何なんだ、これは。アベノミクスはどこいった? みんないろんな意味で疲弊してるよね。
M:疲弊感はありますね、確かに。
S:中古車市場の話で言えば、いいクルマは異常に高いんだよ。新車から3年から5年落ちぐらいのクルマは、みんな競って買うので、高騰して手に入らない。中古車を買う旨味がない。たとえ買えたとしても、店での売値も高くなるから買える人が限られてくる。
M:そうなりますよね。
S:だから、買うのはやめようと。じゃあ、古いのはどうかというと、古いのはいろいろ壊れたりするから、疲れちゃう。当たり前なんだけどね、まぁ、そういうことでドッケールをやろうということになったんだけど。でも、正直こんなになると思ってもなかったなぁ。結局、1年で合計6台(1台は在庫車)。
M:驚異的ですね。
S:うちの規模からすれば、驚異的だよ。多分、全国的にみても驚異的かもしれないけど。ウチの規模で6台というのは、まっとうなクルマ屋で言えば10台以上売ったと同等。
M:売れた理由はいろいろあると思いますが、やっぱり値段は大きいですよね。
S:そうだね。売れたのはあの立ち位置だから。会社員の皆さん、給料が上がらないから苦しい。でもクルマは必要だから買わなきゃいけない。古いのを直しながらやってくのは、それはそれで楽しいけど、やっぱりお金がかかる。かと言って、新車は高くて買えない。そこに現れたのがドッケール。当時215万! これなら新車で買えるじゃん。頑張れば買えるじゃんって。これだったら半分ぐらい現金入れて、半分ローンで買える。中古車をローンで3年でもいいけど、新車で5年でいいじゃんという気持ちになれる。
M:なるほど。
S:ネタバレをしちゃうと、ドッケール、5台売ったけど、お客さんはすべてウチのお客さん。新規ユーザーがいないんだよ。すなわち、みんな耐性があるということだよね(笑)。並行車だけど、困ったらRENOに持ってけば何とかなるだろうと。
M:それはあるかも。
S:とはいえ、こんなの売れると思わなかった。
M:タイミングも良かったんじゃないですか?
S:それもある。半年ぐらい売れなくてウチの社用車になるんじゃないの? って思ってたけど。まぁ、最後は排気ガス規制でNAエンジンのSCeがなくなるという終わり方になっちゃったけど。簡単に言うとダシアな1年、ドッケールな1年という感じだった。今年はどうなるかね。
サンデロのステップウェイはやりたいなぁ、と。
でも逆を言えば、
それ以外にやりたいクルマがないってことでもあるんだけどね。 ――Suzuki
S:今年もおそらく状況としてはそんなに変わらないと思うけどね。
M:僕もそう思います。
S:消費者がこれまでディーラー車でルーテシアとかメガーヌとかを買ってきたけど、その体力すら怪しくなってきたという状況は、たぶん今年も変わんない。だからってわけじゃないけど、ウチも基本的には同じスタンス。
M:というと、やはりダシア推しで?
S:まぁ、そうなるんだけど。あくまでも結果論としての話だけど、失敗だったなぁと思うのは、こんなにドッケールが売れるなら、ドブロを買わずにドッケール2台買っておけばよかったなぁと。ドブロが悪いわけじゃないよ? ドブロもほしかったからいいんだけど。
M:となると、ドッケールバブルはまだ続きそう?
S:うーん、どうなんだろうね。これ以上は新規ユーザーに向けて売らないと売れていかないような気がする。いまドッケール乗ってるウチのお客さんを見て、普通に乗ってるじゃんって思ってもらえれば、新規のお客さんも買ってくれる可能性はある。でも、問題なのはコストかなぁ。
M:排ガス規制ですね。
S:うん。ガソリンエンジン車にGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター) と言われる排気フィルターの装着が義務化され、事実上、過給機付きモデルしかなくなっちゃった。GPF付きのクルマって、GPF非装着車とガス検査が異なるので、余計にコストが高くなっちゃう。概算で30万アップ。
M:それは痛い。
S:消費税が上がって220万円。それに30万円アップで250万円。ダシアに250万円はさすがにキツい。しかも、アンビアンスでこの値段はちょっとね。だからウチで5万、輸入商社で5万、向こうのディーラーで5万泣いてもらって、都合15万下げてほしいって言ってるんだけど、誰も乗ってこない。誰もがそんなに売れると思ってないからね。
M:値下げてして売れる保証があるならやるでしょうけどね。
S:未知数だからねぇ。まぁ、でもとりあえずあと1台あるからいいけど、商品としての訴求力はちょっと弱まるね。215万円とか220万円で買える新車だったわけだし。「ワークマンが似合うクルマランキング、輸入車部門第1位(当社比)」のキャラクターは健在だけどね。今年まだ何をやるのか未確定だけど、ドブロとあと1台のドッケールが売れてくれないと、仕入れるお金も捻出できないしね。
M:もし売れたとして、何かやりたいクルマがあるんですか?
S:いちおうね。
M:ここで言っちゃってもいい?
S:いいよ。ダシア・サンデロ。
M:サンデロ!
S:サンデロの中でもステップウェイ。たとえばさ、街中で普通のスイフトが横切っても、別に目をひかないけど、スイフト・スポーツだと「おっ!」ってなるじゃん。それと同じで普通のサンデロだったらまったく見向きもされないけど、ステップウェイだったらあの小さなハッチバックにルーフレールとかついてて、ちょっと車高が高いキャラクターが面白いんじゃないかと。
M:確かに素のサンデロってまったく目立たない(笑)。
S:だから、サンデロのステップウェイはやりたいなぁ、と。でも逆を言えば、それ以外にやりたいクルマがないってことでもあるんだけどね。
M:でも、ちょっと楽しみじゃないですか。
S:あくまでも机上の計算だけど、240~250万円ぐらいになりそうかな。
M:ドッケールと比べれば、ジャンルは違うけど、サンデロの方がちょっと格上な感じがするので、それを考えれば250万円で納まるんだったらいいのかなという気はしますね。
S:何て言ったって真ん中のグレード以下には、オプションですらエアコンがないという(笑)。ローレートよりも上じゃないとない。ステップウェイでも、エアコンはオプションだからね。オーディオもオプション。
M:安いのが欲しいなら、なくていいでしょうというノリですね。
S:まぁ、そういうクルマなので、あれこれつけるとそれぐらいになっちゃう。ドッケールはもともと異常に安かったし、妙なキャラ立ちしてるから、日本で乗るのにいるものは全部付けて、それでも安かったからね。
M:そういうところがウケたんですよね。そう考えると、今年もどっちかと言うと新車を売っていった方が、何かと面白いかなという感じですかね。
S:そうだねぇ。新車はとにかく楽。基本的に何も起こらない。売ってすぐにあれこれ壊れないから。いまのウチの状態ってキャパシティオーバーなんだよね。もう15年やってるけど、既存ユーザーの車検や点検やオイル交換だけで手いっぱい。だから、とにかく壊れないクルマにしてほしいというのが正直なところ。
M:車検とかで手いっぱいだったら、その間にトラブルが出たクルマをどうやって差し込むのか悩みが増えますよね。
S:ましてや原因がわからないものをネチネチとやってると、時間がもったいない。去年は預かって原因を突き止めて、修理して納めるまで1ヶ月とか2ヶ月かかるのもあった。
M:じゃあ、人を増やすかと言っても難しいですしね。
S:そう。そうすると単価とか粗利を上げてくしかない。でも、それはやりたくないし。いまの状態でできる限りのことをどれだけやれるかと考えるしかないんだよ。なので、古いクルマをやってる場合じゃないかなと言う気もする。
僕は正直、ルーテシア4でも、
遠いところに行ってしまった感があります。 ――Morita
M:新車を中心にやるのはもちろんいいですけど、このコーナーのネタとして考えると中古車もあったほうがうれしい。
S:もちろん、中古車をまったくやらなくなるわけじゃないし、下取りも入ってくるからね。ただ、中古車で猛烈に欲しいものがあるのかと言われると……。
M:何かあります?
S:グランデ・プント・アバルトぐらいかな。
M:ああ。でもないですよね。
S:ないねぇ。
M:街中でも走ってないですから。
S:あとはトゥインゴ3のマニュアルかなぁ。年末にGTやったじゃない。あれ乗ったらやっぱいいなあと。
M:いいですよね、トゥインゴ3。
S:いまのクルマはみんなデカくなっちゃったから余計にね。
M:そうですねよね。僕は正直、ルーテシア4でも遠いところに行ってしまった感があります。僕の中ではもうメガーヌグループじゃんと。
S:そうだね。そう考えるとトゥインゴは、いまとなっては稀有な5ナンバー車。1000ccの NA でトコトコ走ってもいいし、ターボ付きはそれなりに走るから面白いし。RRっていう構造もケッタイだし。前後タイヤのサイズが違ってるし(笑)。どっかで中古があればいいなと思ってる。
M:そう考えると、他メーカーもあまり刺さるものもないですね。
S:そうだね。ここ3、4年ずっとそうだけど。世間ではプジョーとかシトロエンとか DS とか売れてるみたいだから、やればいいんだろうけど、どうにも自分がワクワクしない。まあ、それがうちの店のいかんところなんだけどね。売れるんなら、やればいいじゃんて。
M:でも、それやったら他の店と一緒じゃんって話になりますよね。
S:うん、そうなるし、結局さ、僕は自分のお金でやってるわけだから、自分の好きなことやりたいわけなんですよ。
M:ははは、究極の正論!
S:スポンサーがいて、収益あげないといけないって話なら変わってくるけど、そういうわけじゃないので。
じゃあ、求められてないから、
メーカーはつくらなくていいのか。 ――Suzuki
S:最近、提案型営業とかって言われるけど、新車にしても中古車にしても「これいいじゃん」って提案してみても、反応がなきゃ意味がないんだよね。で、いまの時代ってその反応がすごく薄い。ドッケールは稀有なキャラクターと価格だったから反応があったのかもしれないけど、みんなひと通りありがちなものは知ってるからね。
M:いろんな情報が簡単に手に入るから、驚きのない時代かもしれないです。
S:世間の売れ線も、僕らから見ると「なんでそれ?」っていうものが売れるようになってきている。たとえば、BMWとかは1600のエンジン1個使って、過給器のありなしや過給圧のコントロールでバリエーションつけてる。そのエンジン載せてるRCZって、出たときはちょっとかっこいいじゃん、3リッターぐらいのエンジン載せてるのかと思ったら、1.6のターボって。V6までは言わないけど、せめて2リッターターボぐらいを積んで欲しかった。そのくせ1.6ターボなのに、けっこう高いし。でも、実際はそういうクルマでもそれなりに売れたということは、V6の3リッターとかそういうのは求められてないのかもしれないよね。
M:ですねぇ。求められてないんでしょう。
S:じゃあ、求められてないから、メーカーはつくらなくていいのか。いまどきV6 3リッターなんてナンセンスなのかもしれんけど、2リッターターボぐらいのパフォーマンスでっていう消費者がそういう風にならなくなっちゃったのを、そのまま受け入れている部分があるからね。
M:ニーズに応えるというと聞こえはいいですけど。
S:たとえば、ルーテシア5が出るとして(事前アナウンスでRSは設定しないという話になってるんだけど)、まぁ、それは置いといて、いまのご時世、RSなんて大して売れないから、やめちゃおうって。消費者にパワーがないとそういうことになりかねない。
M:そうですね。でも、実際にRSなしでこの極東で売れるのかなあと思っちゃいますね。
S:日本のRS率って、どれくらいなんだろうね。詳細は知らないけど、RSに依存してるのは事実だろうね。でも、そういう状態をつくっちゃったのは、ルノージャポンだし、そのしっぺ返しを食らうときなのかもしれない。僕が思う健全な状態というのは、ルーテシアで言えば一般的なグレードが6、7割で売れてて、RSが残りをカバーするくらいな感じ。実際、ヨーロッパではそういう風になってるだろうから。でも、日本だと半分ぐらいRSだったりするわけだから、いざそれがなくなっちゃうとなると、困ったことになる。まぁ、とはいえ、ルーテシア5でRSが設定されない替わりに、ゾエに付くって話もあるから、完全に消滅するわけではないとは思うんだけど。
いまどきの軽のいいやつなんて、
フル装備を買ったらドッケールより高いですからね。 ――Morita
M:さっきの消費者のパワーが、って話で僕が思ったのは、ホットハッチとか、スポーツカーが好きだった人が、だんだんそうじゃなくなってきてるような気がするんですよね。それを象徴するのが、トゥインゴ2 RSが不発に終わったこと。たとえば、僕はサクソオーナーなので、その周辺の話をすると、106/サクソが好きな人って、トゥインゴ2 RSは絶対に刺さるクルマなんですよ。でも、106/サクソも古くなってきてるから、買い替えるかとなったときに、トゥインゴ2 RSは選ばれないんですよね。まだ、スイフトスポーツ買いましたっていうのなら分かるんだけど、もうホットハッチ路線からドロップアウトしちゃう人が多い。それこそ、トゥインゴ3とかカングーとか、そっち方向に落ち着いちゃってるんですよ。まぁ、みんな歳を取っていくので、もう走りはいいかってなっちゃうのかもしれないけど、それもある意味、パワーがなくなってきてるのかなぁって。
S:うん、でも、環境もあるよね。たとえば子供ができましたとか、子供が大きくなって106じゃ辛いとか。そういうのはさすがにしょうがない。
M:そうですね。その替わりと言っちゃなんですけど、106/サクソにも20代の若いオーナーとかがいるので、まだいいのかもしれないんですけどね。
S:そういう若い人たちがいるだけいいと思うよ。僕が会社勤めしてた30代あたりって、若いお客さんいなかったもん。自分たちと同世代か、ちょっと下ぐらいで。クルマは違うけど、うちにも25歳の若者がドッケール買ってくれたしね。そういう子たちが、クルマの趣味をやめないような環境を維持していかなきゃいけない。
M:そうですね。
S:でも、現実は厳しいよ。いまの若い子って、正直大して稼げないと思うんだ。頑張らないとクルマ買えないだろうし。
M:手取りで18万円とか、そういう状況だと、なかなかきついですよね。やっぱり、景気が悪いということに行き着くのかな。ただ、うちらの若い頃も変な中古車買って、食べるものはコンビニの弁当とかおにぎりで適当に済ませて、あとは全部クルマみたいなことしてきたわけですが、さすがにいまの時代、そこまでクルマに傾倒しないんですよね、きっと。それは情熱がないとかじゃなくて、ある意味賢いと言うか。僕らのほうがそもそも異常だったのかもしれない。
S:たしかにね。大学卒業して、就職して、月3万円くらいで駐車場とクルマのローン払って、みたいなのが目標だったからね。いまはそれが目標でも何でもない。好きだったらやるけど、そうじゃなきゃ、普通の軽自動車でいいですって感じなんだよ。軽自動車の方が実際、よくできてるんだから。国産各社が日本市場の普通車を減らしていいでしょう、と。軽の方がいいもん。軽自動車もこれだけ値段が上がってきて、採算ベースに乗せられるようになったんなら、リッターカーも必要なくなってくるよね。
M:いまどきの軽のいいやつなんて、フル装備を買ったらドッケールより高いですからね。高いけど、実際乗ってみると250万ぐらいの価値はあるのかもしれないと思ってしまう。
S:日本人の求めてるものはほとんどついてる。人が乗れて、荷物も載せられる、税金も安い、維持費も安い。あれには勝てない。それ以外を選ぶのは、もう道楽でしかない!
M:そうですね。道具として割り切るなら、軽自動車でいいけど、そうじゃない部分をうちらは求めているわけですから。
S:エコカー減税とか、並行車は対象外なわけだから、そういうのが必要だと思うなら、僕も軽を勧める。そうじゃなくて、わざわざ輸入してるわけだからね。
どんなものでもね、
お金と手間がかかるのが、道楽。 ――Suzuki
S:うちはそもそも高いクルマをやるつもりはないので、大衆実用車路線で行くしかないんだけど、その中でどうやって楽しめるのかを考えないといけない。ルノー好きだから、ルノーの話をすると、ルーテシアも買えなくなっちゃったからトゥインゴでいいかと。でも、それがダメなんじゃなくて、それでもトゥインゴでどうやって楽しく暮らすか。幸いなことに、僕らの周囲の人たちは、人の評価を気にしない人たちなので、その点はいいのだけど、皆さんが稼げてくれないと道楽にお金使ってくれないからね。
M:ですねぇ。どうなんですかね、皆さん。稼げてるけど、使ってないのか。それとも本当に稼げてないのか。
S:ヒエラルキーのどの辺かによっても違うんじゃないかな。上の方はちゃんと稼げていると思うよ。T社関連の方は大丈夫なんじゃないかと。真ん中はなんとかトントン。下の方は本当に必死でクルマどころじゃない状態かもしれない。
M:道楽にはお金がかかりますからね。当たり前ですけど。
S:どんなものでもね、お金と手間がかかるのが、道楽。「これだ!」っていうものが何かあればいいんだけどな。新車で200~300万円の間で「これだ!」というものが。
M:クルマが好きな人の「欲しいな」という気持ちがお金のバリアを上回れば、お金のことって、けっこうどうでもよくなっちゃって、買っちゃうんですよね。お金はある。あるから、買えるものを買うというのとは違う。
S:これ買っておけば、3年で手離してもけっこういい値段で売れるから、とかそういう人たちの行動は道楽じゃないし、そういう人たちはもっと無駄なお金を使ってもらわないと。
M:なるほど。それで経済回してくれないとね。
S:僕らは気持ちの部分がうまいことお金を上回ってくれるようなものを提案しないと。ドッケールにはそういうのがあったんだよね。
M:その次なる手がサンデロになるのか。ダスターになるのか。
S:ダスターはちょっとないかな。ロッジィも弱いし。ロガンもどうかな……となると、やっぱりサンデロかなぁ。もうちょっとちっちゃければね。あれが5ナンバーだったら。
M:ああ、3ナンバーですもんね。
S:そう。1750あるから。まぁ、それはドッケールとサンデロのプラットフォームが一緒だから(推定)なんだけどね。向こう1700っていう縛りがないからしょうがないんだけど。でも、長さは短いから取り回しは楽だと思うよ。
M:とりあえず、現物見たいですね。
S:そうだねぇ。でも、売れてもらわないと、こっちも持ってこれないから難しいところだね。
M:前向きに考えれば、ちょっとネタがあるだけまだいいのかな。他にないもんなぁ。
S:フィアットもパッとしないし、PSA もおお! っていうのはないし、アルファロメオってどうしてるの? って感じだし。ランチアに至っては風前の灯どころかもうイタリアにしかないし。イプシロンしかないし。そうなるとダシアが唯一、ワクワクするクルマになるのかな。ルノー、日産と共通の部品がほとんどだし、流通もそれを使えるので、やりやすいというのもあるよね。僕にとってはまったく別のものではないので。シュコダとかだと、どうやっていいかわかんない。何が起こるかすら分からないからね。でも、ダシアは見るからに見たものしかないものしか付いてないので、楽でいいよ。ボンネット開けてたら、日産だし。
M:いろんなパーツが見覚えのあるやつが多いですからね。ああ、これ、トゥインゴだとか。
S:エアコンのコントロールパネルとか、全車種一緒だからね。そこであーだこーだしようと言う気がない。その割り切りが素晴らしいし、だからこそ、あの値段でできる。あ、そういえば、この間、新車でひとつだけクレームがあった。ドッケールの前席ドアの内張りをはがしたんだけど、その眺めが20年前のルノーそのもの。内張は1枚ものだし、オープナーのリンクはいまどきワイヤーなのに、ロッド。ウィンドウレギュレーターも旧態そのまま。ドアロッ クとパワーウィンドウレギュレーターとスイッチがちまっと線で繋がって るだけなんだよね。原因は、その線がガラスに触ってしまうという些細なトラブル。私的にはこわけたうちに入らないけど、これをコワケタって言 われたらおぢさん困っちゃうなぁ。ダシアだもんで勘弁しておくれよぉ、な気分。
M:ははは。たしかにそれは壊れたうちに入らないっす。
S:って実際トラブルらしいとトラブルってこれくらいしかないんだけども。
M:まぁ、そういうクルマだから、トップ・ギアでもいじられるですよね、きっと(笑)。
S:Hey, Great News!! ダシア・サンデロがUKで発売され、大好評です! って。
M:ジェームズ、ダシアが大好きですからね。
ダシアって、この10年で一気に回復した。
日産より凄いじゃないのってくらい。 ――Suzuki
S:ダシアって確かにそういうネタにされがちなクルマなのかもしれないけど、クルマとしての出来は悪くないし、全然これでいいじゃんと思う。ロガンとドッケールしか知らないけど。
M:むしろ、コストとかデザインとか、制限だらけの中でよくここまで成立させてるなと感心すらする。
S:ダシアっていう会社は、チャウシェスク政権のときに潰れた会社なんだけど、この10年で一気に回復した。日産より凄いじゃないのってくらい。それ以前は、ルノーのクルマをノックダウン生産してたんだけど、10年で本家を脅かす規模の売上になったというのはすごいと思う。
M:今後、ダシアの立ち位置はどうなるんでしょうかね。そもそも日産とルノーの関係も着地してないけど。
S:まあ、正直いって上がどうなろうがユーザーは関係ないけどね。底辺は変わんない。いわゆるホールディング系の人たちは、勝手にやってくださいっていう感じ。ブランドを潰さなければそれでオッケー。ただ、あんな感じで各メーカーが手を結んでいくと、バリエーションはどんどん狭くなってしまう。
M:差別化されなくなる時代になってきますよね。
S:悲しいかな、ヨーロッパで言えばルノーはベンツと提携して、カングーがシタンになっちゃってるけど、そういう風にしていくと、みんな一緒じゃんってなっちゃう。値段が下がってお求めやすくなるというメリットもあるだろうけど、限度はあるでしょう。バッチだけ違えばいいとことじゃないしね。
M:効率とかそういうことを第一に上が考え出しちゃうと、消費者は非常につまんないですよね。消費者にやっぱりパワーがあれば、けったいなものでも売れるなら、上も考えるでしょうけど。結局、そこに尽きますか……。
S:じゃあ、我々のパワーはどこから来るのか? やっぱり稼ぎだ。そこが源泉。いくらやりたいことがあっても、お金がないとね。うちもいいペースで売れてれば、あれもやってみよう、これもやってみようって思えるけど、1台1台、確実に納めていかないと利益が確保できないとなってくると、冒険もできない。固い線しか踏めなくなる。僕はへそ曲がりなのでいろいろやってるんだけど、普通のクルマ屋だったらやらないでしょ。売れるかどうか分かんないクルマをわざわざやらない。でも、わざわざやるから面白いんだよね。
M:お金は限られてますが、その中で考えて楽しみましょうと。
よし、今年の目標は、
「トップ・ギア」に取り上げられる(笑) ――Suzuki
S:ライオンは自分の子供を谷底に突き落として、這い上がってくる子供だけを育てるなんて言うけど、僕らはその谷底で楽しもうと。上の人を下にまで引きずり下ろすというのもいいなぁ。
M:なんか、あっちは楽しそうだなって?
S:ウチの使命って、そこかもしれないな。例えばディーラーでディーラー車をずっと買ってたんだけど、ふと見てみたらあの谷底でやってる人たち、楽しそうって思わせるぐらいの。そこを目指そうかな。
M:そう思ってくれるお客さんだったらウエルカムですね。
S:なかなか難しいとは思うけどね。谷底に降りるってことは、つまりアイデンティティの崩壊を意味するから。
M:まぁ、でもアイデンティティなんていくらでも作り直せるもんですから、素直にそっちが面白そうと思って来てくれる人なら、きっと新しい、楽しいカーライフが待ってるはず!
S:クルマなんてさ、買うだけの話なんだよね。ぶっちゃけ、買うか、買わないかの話なんだから。得体の知れないのを買うのは知らないよ「ワズ」とか(笑)。そういうのは知らないけど、別にドッケールってそんなにすごい冒険でもないと思うんだよ。国内に部品ないから時間かかるよ、とかそういうのはあるかもしれないけど、普通に乗れるし、普通に修理もできる。だからそんなに構える必要もない。
M:その一線を飛んでしまえば、いいんですよね。
S:そうすると、ドッケールのオーナーさんがツイッターにドッケールの写真アップしたら、海外の人から「何で日本に??」ってレス来てて。
M:へぇ、そんなことがあったんですか。そういうの素敵ですね。
S:トップ・ギアにメールでも送っとこうか。「グレートニュース! 日本にサンデロが!」って(笑)。
M:そんで「そうか。じゃあ、次」ってスルーされる(笑)。
S:よし、それを今年の目標にしよう(笑)。「日本のサンデロをトップ・ギアに取り上げられる」で、どう?
TEXT/Morita Eiichi