RENAULT Koleos 2.5i 16V

クロスオーバーSUVはつくり手からしても自由度が高く、乗り手からしても幅広いライフスタイルを受け入れてくれる懐の深さがある。セダンよりも車高が高く運転しやすいし、ミニバンに辟易しているユーザーもクロスオーバーSUVへ流れ込んでくる。型にはまらないもっと自由なクルマを、私たちは心のどこかで求めていたのかもしれない。あらたなクルマのカテゴリーかと思っていたが、もはやそんな時代は終わり、次のスタイルを模索しているかのようにも思える。クロスオーバーSUVの未来はどうなるのだろうか。

 

コレオス1のフェーズ1でこの顔がもっとも馴染みのあるのではないだろうか。色はノワールディボワール。グレードはベースグレードのほか、レザーシート、ルーフレールなどが装着された「プレミアム(当該車)」、さらにグラスルーフを備えた「プレミアムグラスルーフ」があるモノコック構造を持つSUV

いまさら書くことでもないけど、ここ最近の自動車業界は「CASE(Connected:コネクティッド化、Autonomous:自動運転化、Shared/Service:シェア/サービス化、Electric:電動化の頭文字を取ったもの)だったり、シェア/サービス化だけとっても「MaaS(Mobility as a Service)」だったりと、新しい言葉がどんどん出てきていて“100年に一度の変革期”を実感させられる。

そういった新技術やインフラ、システム以外にも、クルマ単体の話では「SUV(Sport Utility Vehicle)」もよく目にする。なかでもクロスカントリー車のような堅牢なラダーフレームを持ったタイプではなく、モノコック構造のクルマが大人気だ(便宜上、これらのクルマのことをクロスオーバーSUVと呼ぼう)。

 

コレオスのルーツといえば、セニックのRX4であろう。RX4はハードなデザインだったが、コレオスはより洗練された都会的な雰囲気がする。ルノーサムスンでは「QM5」の名前で販売されていた進撃のクロスオーバーSUV

SUVやクロスオーバーSUVという言葉は北米がルーツで、クロスオーバーSUVについては1980年に発売された「AMCイーグル」がその始祖と言われている。とはいえ、このイーグルは燃費を上げるために軽量なモノコックのコンコード(セダン)をベースに車高を上げ、苦し紛れに4WD化しただけのもの。実質的なルーツはその後に発売されたジープ・チェロキーだろう。このクルマは日本でもヒットした。

日本でいえば、1994年に出たトヨタの「RAV4」が代表格。当時、RAV4が出たときはクロカン派のうるさ方からは「あんなのは4駆じゃない」とか「邪道だ」とか批判的なコメントが浴びせられたが、ゴツくてワイルドなクロカンに対し、クリーンで洗練されたスタイルを持つRAV4は私の目にはそうとう新鮮に映った。その後、国内カーメーカーもこの手のクルマを続々とデビューさせていく。そしてクロスオーバーSUVがドル箱だと気付いたいまとなっては、ランボルギーニ、アルファロメオ、マセラティといったおよそその手のクルマに縁遠いメーカーまでもクロスオーバーSUVを発売し、ついにはロールスロイスまでもが動く事態に。こうなるともはやブームとは呼べないどころか、セダンやクーペを駆逐する勢いである。

 

インテリアは非常に女性的なテイストだ。明るいベージュでまとめられ、ステアリングもシート同様にレザー。プレミアムはオートエアコンで左右独立。ルノーお得意のカードキー仕様だ

クロスオーバーSUVは自由度が高い

では、なぜクロスオーバーSUVが売れるのか。以前、某カーメーカーのデザイナーにその話を聞いたことがある。つくり手の立場からすると、クロスオーバーSUVの美点はセダンやクーペのようなデザイン的な制約が少ないことだと言う。セダンやクーペなどはセダンやクーペたらしめるための寸法やデザイン的なセオリーがあるのだが、クロスオーバーSUVは全長を長くしてもいいし、全高を上げてもいい。ホイールベースを詰めてもいいし、伸ばしてもいい。唯一、制約と言えるものがあるとしたら、大きなタイヤ&ホイールくらい。つまりデザインやパッケージの自由度が高いから、結果的にかっこよく使い勝手に優れたクルマをつくれるのだという。

 

プレミアムはパワーシートでシートヒーターも装備。助手席はシートバックの支点を上部にずらしており、前に畳めばテーブルとして活用できる

このコーナー初のクロスオーバーSUV

前置きが長くなったが、長くなったのには理由がある。今回のクルマは、ヴィブルミノリテで初めて紹介するクロスオーバーSUVだからだ。100回以上やっているにもかかわらず、自動車業界を席巻するクロスオーバーSUVが初登場という、いかにも偏ったこのコーナーならではの嗜好。おそらくこのコーナーの読者層も、それほどこの手のクルマには興味がないのではないかと勝手に推測する。とはいえ、積極的に選ばないにしろ、実際にこれだけ売れているジャンルのクルマを体感しないのはどうかとも思う。積極的に選ばないからこそ、こういう機会に乗っておきたいと思う。

 

後席はリクライニングでき、アームレストも装備。トランクスルーにすることもできる。前席のシートバックにあるトレイも使える。その他にもいたるところに収納スペースが用意され、使い勝手がいい

フランス、日本、韓国

ルノーというメーカーにクロスオーバーSUVのイメージは薄い。今回紹介するコレオスも、ルノー初のクロスオーバーSUVとして2008年に発売されたが、あまり印象に残っていないクルマだ。私も初代は知っているものの、その後、2回もフェイスリフトを受けているとは知らなかったし、特にフェーズ2は街中で見かけた記憶もない。さらにフルモデルチェンジを果たしたコレオス2は日本に導入されなかったこともあり、余計に知らない。ルノーのクロスオーバーSUVといえば、やはり「キャプチャー」が最もメジャーな存在ではないか。

コレオスの出自もまた変わっている。デザインと商品企画はルノー、エンジンなどの主要なメカニズムと走りなどの開発は日産、生産は傘下のルノーサムスンが行なう。プラットフォームはデュアリスやエクストレイルなどと同じで、エンジンはルノーと日産が共同開発したM9R(2.0Lディーゼル)エンジンと日産の2TR(2.5Lガソリン)が用意された。トランスミッションは6MTとCVTがあり、駆動方式は4WDだ。

 

リアゲートはこのように上下分割で開く。下のゲートは耐荷重200kgなので標準的な大人2人が座っても大丈夫

こだわりはハンドリングと足回り

当該車は2009年式のフェーズ1。2.5L 4気筒のガソリンエンジンにCVTを組み合わせたモデルで、右ハンドルだ。乗り込んでみると、視点の高さによる見晴らしの良さをいちばんに感じる。いつもの感覚でアクセルを踏むと、グワッと車体が前に出る。これはCVTの味付けなのかエンジンの特性なのかは分からないけど、このひと踏みでドンと前に出る感じで「低速トルクがあるなぁ」と思うか「コントロール性に欠けるなぁ」と思うかは人それぞれだろう。ブレーキも効きは充分なのだが、いわゆるカックンブレーキでありこれも好みが分かれる。

ただ、ハンドリングと足回りはルノーっぽいと思った。話によると、電動パワーステアリングと足回りは、コレオス専用にチューニングされたものを使っているという。サスペンションの基本的な構造はエクストレイルと同じだが、スプリング、ショックアブソーバーはもちろん、各所のブッシュまで専用に設計されたものを使用。正直言って、ハンドリングに関してはアシストが強すぎて、軽すぎるなぁと思ったが、足回りに関してはルノーテイストを感じられた。企画・開発から生産まで、すべてルノーでできるわけではないことを考えると、せめて操舵系と足回りだけはコストを費やしてもこだわりたい。そんな思惑が感じられる。

 

ラゲッジ&リアシートのアレンジも多彩。ワンタッチレバー(ラゲッジ両端にあるレバー)を引くと、ダブルフォールディングのシートを一発で折り畳める機構は秀逸だ。

アメ車的な乗り方?

アクセルとブレーキのコントロールにも慣れてくると、ガバッと踏んでグワーッと加速し、ガツンと踏んで停まるという運転の仕方が、いかにもアメリカ車っぽく感じられ(といっても、いまのアメ車はそんな感じではないのだけど)、これはこれでコレオスならではの運転の仕方を会得したようで楽しい。グワーッと加速と書くと騒々しいエンジンじゃないかと思われそうだが、車内はじつに静かだ。アクセルを踏み込んで回転を上げたときもCVTの特性も相まって、1700kgの車体をスルスルと加速させていく。DCTのようなダイレクト感は薄いが、滑らかでおしとやかに加速していく感覚はCVTならでは。こういった加速フィーリングのほうが好きという人もいるのではないだろうか。

 

エンジンは2.5リッター直列4気筒DOHC。126kW(170PS)、226Nm(23.1kgm)を発生。トルク感があり、音も静か

使い勝手も上々!

クロスオーバーSUVらしく「ユーティリティ」の部分も気を遣っている。それが特に感じられるのは、テールゲートとリアシートだ。テールゲートは上下に開くようになっており、下のゲートは耐荷重200kg。座ってもいいし、テーブル替わりに使うこともできる。リアシートは後席側からも、リアゲート側からもワンタッチで畳むことができる。レバーを引くだけでシートを折り畳みできるのはかなり便利。フロントシートを前に倒せば、フラットなテーブルにもなるし、車内のいろいろな場所に小物入れを用意しているのもうれしい。

ちなみに4WDシステムについては正直、街中を普通に走るレベルでその恩恵を知ることができなかったが、2WDモードや前後配分50:50の4WDロック、HDC(Hill Down Control)などの機能もしっかりついている。まさに道を選ばないクロスオーバーな使い方ができるはずだ。

 

タイヤサイズは225/60 R17で、アルミホイールが標準装備。当該車は雪道も走れる夏タイヤとして話題の「ミシュラン・クロスクライメイト」を履いていた。オールシーズンタイヤとしてまさに夏タイヤとスタッドレスの中間のようなフィーリングだった

クロスオーバーSUVの未来はどっちだ!?

クロスオーバーSUVに乗ってみて気付いたのは、クルマを運転すること自体に楽しみを見出すよりも、そのクルマを使ってどう楽しむのか。そこに焦点を合わせている人たちが乗るクルマなのだとあらためて実感した。ありきたりな言葉だが、クルマはライフスタイルを支える演出物であり、ひとつの道具なのだ、と。週末はカップル、家族でスポーツやアウトドアなどを楽しみつつ、買い物や通勤など日常の移動手段としても快適に使える。そんな最大公約数的なライフスタイルの良き相棒になるのが、クロスオーバーSUVなのだと思う。もちろんセダンやミニバンでもそういったライフスタイルを叶えることはできる。ただ、よりスマートに、より快適に、より安全に、という部分を重視する現代では、やはりその適役はクロスオーバーSUVであると言わざるを得ない。

クロスカントリー系のSUVは目的がはっきりとしているので、今後はその目的を達成するための深化とより印象的なデザインの追求は続くだろう。そしてクロスオーバーSUVは、より多様化するライフスタイルに合わせた細分化が始まるような気がする。いずれにせよ、その勢いは今後も衰える兆しはない。

 

PHOTO &TEXT/Morita Eiichi

 

 

2009y RENAULT Koleos 2.5i 16V Premium

全長×全幅×全高/4525mm×1855mm×1695mm
ホイールベース/2690mm
車両重量/1660kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/2488cc
最大出力/126kW(170PS)/6000rpm
最大トルク/226Nm(23.1kgm)/4400rpm

 

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