これまで紹介したクルマのなかにも、エコを意識したクルマはいくつかあったが「これはエコカーです」という主張を全面に出したクルマに乗ったのは、これが初めてかもしれない。販売において、特にエコを声高にして売っているわけではない。ただ個人的にそう感じただけだ。
「エコを楽に、ストレスなく」というのは、多くの人が思う究極かもしれないが、それはちょっと虫が良すぎるのではないかと思うし、実際に矛盾も感じる。「甘い砂糖はカロリーが高い」。世の中の物は、大抵そういう理屈でできている。それを壊そうとすると、どこかに無理が生じるものだ。
4気筒の1気筒分を切り取った!?
現行のルーテシアは2013年に国内発売され、ルノー・スポールは別にすると1.2Lの直列4気筒直噴式ターボエンジンにEDCを組み合わせたパワーユニットを載せたモデルしかランナップされていなかった。そこに2014年12月、本国でも人気のあった直列3気筒ポート噴射式ターボエンジンに5MTを組み合わせた「Zen 0.9T」を追加された。ルノー・ジャポンはニッチなマーケットを狙う独自の路線を行ってるから、MTモデルを出してくるのは想定内のことだが、1.2Lではなく、0.9Lという新ユニットで出してきたのがニクい……と言いたいところだが、実際はそうではなく、1.2Lに5MTの組合せはそもそも本国でも存在していないし、本国では3気筒のほうが先にデビューしているから「追加」という言葉は日本だけに当てはまる。まぁ、そうであっても0.9Lという個性的なユニットを味わえるのは楽しい。
このユニットは「TCe90」と呼ばれ、現在はトゥインゴ3にも搭載されているのだが、当時はこのルーテシアが初出し。最初は「3ナンバー枠のそれなりに大きいルーテシアに、ターボとはいえ900ccのエンジンで大丈夫なのか」という漠然とした不安があった。スペックを見てみると、やはり0.9Lエンジンの出力とトルクは1.2Lエンジンには及ばない。90PSという最高出力と13.8kgmの最大トルクは、1.2Lエンジンと比べる28PSと7.1kgmのマイナスだ。ただ、純粋に数値だけ見れば、1.3か1.4LくらいのNAエンジンのスペックに近いから、そんなに心配することでもないのか、と思ったり思わなかったり。ちなみにスペックを見ていて気付いたことがある。この0.9Lエンジンのボア×ストロークは、1.2リッター・ユニットとまったく同数値。ということは、約300cc分の1気筒をカットして、3気筒にしているわけだ。何とも単純明快な……。
0.9Lでここまで!
とにかく机上であれこれ考えるよりも乗ってみて体感するのがいちばん。ということで、11月の早朝に街へ繰り出した。今回は街乗り9割、高速道路を1割の試乗だ。
乗り込んでみると、内装は1.2Lのゼンと同じ景色。エンジンをかけると、とにかく静かで振動もほとんど感じない。3気筒は4気筒に比べて振動面で不利だと言われるが、これは3気筒と言われなければ分からないレベルまで静か。走り出しは、常用している1.6L NAエンジンから乗り換えてすぐということもあり、低速でのトルクに不足感があったが、赤信号からのスタートを2、3回繰り返すと、むしろ0.9Lでしかもターボの効きにくい低回転域で、ここまでトルクを出せるのはすごいことではないかと思うようになった。これは1.2Lモデルに比べてファイナルギアを低く設定している恩恵もあるだろう。
アイドリングストップの罪悪感が薄れた
アイドリングストップも非常によくできている。クラッチを奥まで踏みこんでからエンジンがスタートするのではなく、クラッチペダルに足先を乗せ、ちょっと踏んだタイミングでスタートするので「エンジンかかるの遅いなぁ」とか「クラッチペダルに触れただけなのにエンジンかかった!」みたいなイライラ感はない。ブレーキから足を離し、クラッチ踏んで1速入れてミート、という一連の流れがまったくストレスなくできるし、エンジンスタート時の音や振動もかなり少ない。以前は「アイドリングストップって、バッテリーやスターターに負荷かけてていやだなぁ」と思っていたのだが、このクルマのようにエンジンが止まって、再スタートさせていることすら意識させないクオリティまでくると、そういう意識も薄れてくる。
さらに高速道路での巡行時には、ルノーらしいスタビリティの高さを存分に味わうことができる。充分に加速した後、5速に入れてしまえば200万円ちょっとで買えるクルマとは思えないほど、しっとりとした上質感のある乗り心地を提供してくれる。シャシーのできがいいこと、足回りの完成度が高いこと、ハンドリングが素直で反応も速くもなく遅くもなくちょうどいい。道路の継ぎ目を乗り越える感触すら気持ち良く感じるので、あまりアップダウンのない高速道路ならきっといつまでも乗っていたくなるだろう。
スパルタなエコモード
エコモードも使ってみた。エコモードのボタンはセンターコンソールにあり、これを押すと12%燃費を抑えることができるという。トルクが制限され、アクセルマッピングが変化し、エアコンの効きも緩くなる。さらにシフト・インジケーターのシフトアップサインがさらに厳しくなり、2000rpmくらいで「早くシフトアップして!」と催促する。いちおう数値で示すと22.2km/Lで、1.2Lモデルの20km/Lに比べて10%くらい向上している。
ただ、このエコモードはなかなか厳しい。はじめからエコモードで乗っていればいいが、ノーマルモードからエコモードにするとその落差でかなりイライラするだろう。完全にクルマに主導権を奪われたようで、思い通りに走ってくれないからだ。燃費を上げたいのなら、何かを犠牲にしなければならないということか。
小排気量ターボの個性とみるか、違和感を覚えるか
3気筒0.9Lターボというエンジンに対して、この性能。そしてこの価格。スペックの部分としては何ら問題ないが、エンジンのフィーリングについては、ひとつ感じたことがあった。
ただ、これは不満点というわけではなく、小排気量ターボの特性なのだと思っている。この「踏んだら踏んだ以上にどんどん加速していく」という感覚に違和感を覚えるのか、それともターボ車ならではの醍醐味と捉えるのかは人それぞれだと思うし、慣れの範疇だと思うが気付いた点として挙げさせてもらう。
昨今のターボは元々のエンジンパワーに対し、少しだけパワーをアシストする補助的な役割を担っている。ターボ付きエンジンの出力特性は、元の排気量が大きいほどマイルドになり、排気量が小さいほどピーキーになる傾向があるので、このクルマはピーキーな部類に入る(ピーキーといっても昔の2ストロークバイクのようなものを想像しないでほしい)。そこをピーキーにしないようにうまく制御をしているのだが、やはりNAエンジンに慣れている身としては、その加速のフィーリングに若干の違和感を覚える。アクセルを思い切り踏んで加速するときはあまり感じないのだが、赤信号で止まっていて、青信号になり、前が空いているので普通に加速させていく状況のとき、アクセルの踏み代と加速感がマッチしないと感じることがある。アクセルを踏んだ以上に加速していく感覚なのだ。
チープなモデルはチープに
あと、もうひとつが外装である。このモデルは基本的にルーテシアのラインナップ中、中間グレードにあたるゼンと同等の装備を持っている。しかし、外装はサイドプロテクションモールにクロムメッキの帯が入り、ドアミラーやBピラーをグロスブラックに仕上げられている。しかもホイールは16インチで切削とペイントの今風なデザインを採用するなど、その見た目はゼンよりも上のグレードにあたる「インテンス」に近い。多くの人は「200万円ちょっとの価格なのに、見た目は高級感があっていいわ」と感激するかもしれないが、私は逆で見た目なんてもっとチープでいいのに、と思うのだ。
メッキのモールなんていらないし、ホイールなんて鉄ホイールにキャップで充分。16インチ? こういうクルマならマックス15インチでしょう。で、その分、値引きしてもらって200万円を切る価格設定にしてもらえたなら、もっとインパクトを出せたのではないだろうか。さらに見た目でもインテンスやEDCのゼンとも差別化できる。高級なモデルは高級に、チープなモデルはチープにするのが道理。このクルマは「エコカー」でしょう。エコカーを贅沢にしてどうする。
エコってなに?
販売面においては、値打ち感を出すために見た目を豪華にしたほうが売りやすいのは分かる。ただ、何のためのエコカーなのか。ガソリン代を節約できればエコカーなのか。燃費され良ければ、シートに革を使っていてもいいのか(このクルマは革シートじゃないけどね)。材料を使ってアイテムをバンバン追加すればいいのか。「高級感のあるクルマに乗ってます」という自己満足と他者へのアピールは、そもそもエコカーに必要なのか。
その辺の線引きは人それぞれなので、何とも言えないが、ただ「エコカーは燃費さえ良ければいい」という考え方には賛同しかねる。環境に配慮するのであれば、考え方やライフスタイルもそれなりの信念を持つべきだと思うのだ。
PHOTO & TEXT/Morita Eiichi
2014y RENAULT Lutecia Zen0.9T
全長×全幅×全高/4095mm×1750mm×1145mm
ホイールベース/2600mm
車両重量/1130kg
エンジン/直列3気筒DOHC 12バルブターボ
排気量/897cc
最大出力/66kW(90PS)/5250rpm
最大トルク/135Nm(13.8kgm)/2500rpm