【Engine Oil 2】EDC専用オイルをつくる。Supernova rouge lumineuse by Lubross

今回はオイルについて。というと「またオイルか!」とツッコミが入りそうだが、今回はただのオイルじゃない。いまとなっては定着した感のある「EDC」、その専用オイルについて考えてみようかと思う。

EDCは「Efficient Dual Clutch(エフィシエント・デュアル・クラッチ)」の略称で、要はデュアルクラッチのルノー的呼び名。デュアルクラッチは欧州のほとんどのカーメーカーが採用しており、マニュアルトランスミッションと同等の高い伝達効率と駆動効率、変速スピードの速さなどが特徴だ。

EDC専用のオイルを考察する、といってもただそのオイルを紹介するだけでは、いまいちピンと来ない。普通のオイルとどう違うのか? スペックだけでなく、使用したフィーリングも知りたい。と考えていたら、この企画の適任者が思い浮かんだ。前回「ありそうでなかったオイルをつくる」という企画でご協力いただいたTさん(今回の内容は前回の内容を読んでいただいてからだとなお愉しめます)。このときTさんはルーテシア2 RSに乗っていたが、その後、ルーテシア4 R.S.トロフィー(2016年・新車)に乗り換えたと聞いている。Tさんはもともとエンジンオイルについて関心が高く、ルーテシア4 R.S.トロフィーも約2年の間にそれぞれ別の銘柄のオイルを3度交換している。そんなにオイルを愉しんでいる方なら、きっとそれぞれの違いなどについて、いろいろ話してくれるだろうと目論んだのだ。

Tさんには今回、ルブロスさんとRENOさんが共同開発した新しいEDC専用オイルを入れてもらって、そのインプレッションをお聞きする。と、その前にEDC専用の新しいオイルとはなんだ? という疑問に答えなければならない。

 

変速が終わって

クラッチをつなぐコンマ何秒の間にサクッと回転を落として、

あとは電スロが開くだけ回りだせるような

オイルはできないだろうか

――Suzuki

 

EDC専用オイルの企画者は、RENO店主のすずきさん。話を聞いてみた。

「そもそもシュペールノヴァは厳密に言うと、吹けを速くしたかったわけではなく、 ドラマティックにというか、エモーショナルにというか、エンジンの特性を愉しめるようなオイルを目指したんです。そういう感受性を持ってる人にわかっていただきたい、そういう好事家を増やしたいのが狙いなんですね。もちろんスポーツ走行も視野には入ってるけど、それが主目的ではない。とはいえ、実際にサーキット持ちこんでも、巷 の一般的なスポーツ系オイルと何ら遜色はないという評価をいただいているので、さすがはルブロスさんって感じだけども。

話変わってEDCという駆動方式はもはや定着しているけど、考えてみると、このEDCってえらく特殊な機構だと思ってる。レスポンスのいいエンジンと組み合わせ、瞬時のシフトチェンジと同時にエンジン回転数も瞬時に適切な回転数に合わせ、クラッチをつなぐ。ルテ4 R.S.のレースモードだと、それを0.15秒で済ませちゃうわけでしょ。もう手が付けられない。安易に手を付ければその分、悪影響が出そうな気すらする。でも、オイルなら換えられる。というか、オイルしか換えられないのなら、エンジンオイルでそのメカニズムに挑んでみようと。ただ、吹けるのが速く、スムーズに上まで回してくれるオイルは、ちまたにいっぱいあるから、そこで勝負するのはおもしろくない。今回、EDC専用で使うのであれば、シュペールノヴァの性能に加えて秀逸なEDCの性能をより発揮できるよう、変速が終わってクラッチをつなぐコンマ何秒の間にサクッと回転を落として、あとは電スロが開くだけ回りだせるようなオイルはできないだろうかと考えた。たぶんこんな要求は珍しいだろうね。回転が落ちる速さを追求したオイルなんて。ルブロスの永野さんもちょっと悩んだみたいで、どうなるか予想がつなかい部分もあるけど、試しにこの手でやってみましょうっていう感じでつくってくれたわけです」。

そして、できあがったのが「Supernova rouge lumineuse(ルブロス・シュペールノヴァ・ルージュ・リュミヌーズ 以下、シュペールノヴァRL)」。さっそくTさんにこのオイルを入れてもらった。少し経ってから話を聞いたのがこんな感じ。

 

これまでは4速から3速へキックダウンしてたのが、

このオイルにしてから2速までキックダウンしたんですよ。

――T

 

Morita(以下、M):さて、シュペールノヴァRLを入れてからどれくらい走りました?

Tさん(以下、T):まだ200kmくらいです。でも、違いはだいぶ分かってきましたよ。

M:なるほど。じゃあ、シュペールノヴァRLのインプレだけ聞いても、分かりにくいんで、最初、新車のときの純正オイルの話からそれぞれの印象を時系列で話してもらえますか?

T:はい。まずこれまで入れたオイルの種類をリスト化するとこんな感じです。

 

  1. 【新車純正】エルフ・エボリューションRNテックススポーツ0W-40(新車純正)

  2. C社オリジナルオイル7.5W-40

  3. ルブロス・シュペールノヴァ・コンペティション・スペチアーレ7.5W-40(45)

  4. YACCOギャラクシーGT 10W-60

  5. 【EDC専用】ルブロス・シュペールノヴァRL 10W-40

 

1

【新車純正】エルフ・エボリューションRNテックススポーツ0W-40(新車純正/専用オイル)
価格:オープン
使用状況:通勤、遠出
使用走行距離:約2,500km

 

T:新車時、純正オイルはエルフのエボリューションです。新車ということもあって比較対象がないのと、純正オイルなので特に不満とかここがすごいとか、そういうのは感じられませんでした。まぁ、普通のオイルだなと。

M:まぁ、そうですよね。で、次は某ショップのEDC専用のオリジナルオイルを入れた。

 

2

C社オリジナルオイル7.5W-40
価格:自主規制
使用状況:通勤、遠出、サーキット(美浜)
使用走行距離:約6,000km

 

T:はい。これはオイルエレメントといっしょに交換して、美浜サーキットを1回走りました。純正オイルに比べてよく回るオイルだなという印象。とはいえ、ルテ4 R.S.はターボ車なので、NAのように上まで回さなくてもいいんですけどね。街乗りでも高速道路で遠出しても、特に不満はなかったです。サーキットでもタレることはなかったですし。

M:よく回るオイルというのが印象的だったわけですね。で、次はシュペールノヴァ。

 

3

ルブロス・シュペールノヴァ・コンペティション・スペチアーレ7.5W-40(45)
価格:2,700円/L
使用状況:通勤、遠出
使用走行距離:約10,000km

 

T:C社製のオイルと比較するために、7.5Wを一時的につくってもらいました。ただ、通常の5Wとの違いは正直分からなかったですね。これは1万キロほど乗りましたが、入れ始めとその後交換するまでの間、あまりフィーリングが変わらないのが特徴的でした。レスポンスだけを取ってみると、C社のオイルのほうがちょっとだけいい感じです。でも、回転はきれいに上がるし、シュペールノヴァのほうがエンジンに無理させてないというか、ストレスのない印象がしたので、とても好感触。これでサーキットを走れなかったのは残念ですが……。

M:全体的に見れば、シュペールノヴァに軍配が上がる?

T:過去の2つのオイルと比較すれば、いちばんいい印象でしたね。

M:なるほど。そして次はギャラクシーGTにいくわけですね。

 

4

YACCO ギャラクシーGT 10W-60
価格:4,400円/L
使用状況:通勤、遠出、サーキット(YZ)
使用走行距離:約10,000km

 

T:もうこれはね、別格です。これまでのどのオイルよりもスムーズで、アクセルを踏んだ瞬間から違いが分かります。エンジンがひとクラス上がったような感じがしました。YZサーキットを走りましたが、どれだけ回してもタレないし、サーキットを走った後も、走る前とフィーリングが変わらないのがすごいですね。困ったときの神頼み……じゃないですけど、ギャラクシー入れておけば間違いない。そういう信頼感、安心感すらあります。ただ、値段も別格ですけどね……。

M:さすがはギャラクシーGTですね。この後に入れるオイルとしてシュペールノヴァRLがくるのですが、ちょっと分が悪いんじゃないですか。

 

5

【EDC専用】ルブロス・シュペールノヴァRL 10W-40
価格:3,000円/L
使用状況:通勤、遠出
使用走行距離:約200km

 

T:僕もそう思いました。ただ、実際はそうじゃなかったんですよ。まずギャラクシーGTと同等のレスポンスを感じました。回転の上がり方はギャラクシーっぽいし、回転の落ち方もストンと。すずきさんが目論んでいた「回転の落ちの速さ」をしっかり感じることができます。ギャラクシーってアクセルを踏んでからちょっとタメがあるんですよね。あ、これは反応が鈍いという意味じゃなくて。でもシュペールノヴァRLはダイレクトに、即上がっていく印象。たとえるなら、ノーマルモードでもスポーツモードに入れてる感じ。もしくはロムチューンをしたり、スロコン入れたような感じ、と言えばいいでしょうか。

M:そんなに変わりますか。変えてからの印象的なエピソードとかあります?

T:そうですね……。たとえば、いつもの道で前にクルマがいなくなったので、アクセルを踏み込んだとします。これまでは4速から3速へキックダウンしてたのが、このオイルにしてから2速までキックダウンしたんですよ。エンジンのコンピュータが勘違いしたんでしょうか。

M:あまりにもレスポンスが良くて(笑)。

T:回転の落ちがいいので、変速もいままで以上にうまい人にやってもらえている感じがしましたね。ATモードでもサクサク変速していくんで楽しいですよ。

M:TさんはいまでもMTが好きだと思うんですが、このオイルにしてEDCはMTの愉しさを超える?

T:いやぁ、さすがにMTを超えるとまでは言いませんが、MTが好きな人でもEDCの良さを実感できるし、愉しめると思います。

M:それだけべた褒めされると、何か悪いところを探したくなりますね。このオイルにしたことで弊害はあります?

T:うーん、あるとしたら……。僕のクルマはアイドリングストップが付いているんですが、信号が青になってアイドリングストップからエンジンが立ち上がって、普通に踏んでるだけなのに、1速で引っ張ろうとするところでしょうかね。

M:エンジンのコンピュータのほうが「こいつ、やる気だな?」と(笑)。

T:そうそう(笑)。でも、まぁ、それもすぐに慣れて人間の方で調整しますけどね。

M:そう考えると、いまのところネガは見当たらないと。

T:まだ200kmしか走ってないので、耐久性などははっきり言えませんが、シュペールノヴァがベースなので、その辺も問題ないでしょうね。ロムチューンのような電気的にエンジンを制御しているわけではないので“演出感”がないんです。エンジンその物の性能、質感が上がった感じがしますよ。ギャラクシーGTを最初に入れたときはかなり感動しましたが、それ以上の感動かもしれません。

M:なるほど。スポーツ系EDC車においては、ギャラクシーGT以上の体感が得られたということですね。この後、もしサーキットなど走ったときはまた感想聞かせてください。ありがとうございました。

 

と、いったんオイルの話はここでおしまい。その後、すずきさんも加わって、話はあらぬ方向に脱線していく。

 

EDC用につくったオイル、

これをMT車に入れたらどうなる?

 

すずきさん(以下、S):このオイル、いちおうEDC用としてこちらの要望を永野さんに伝えてつくってもらったんだけど、これをMT車に入れたらどうだろうね。

M:またおもしろいこと考えますね。

S:えらいレスポンス良すぎて、運転しにくいかな。あんなスピードでタコメーターの針が落ちるクルマないもん

T:軽量なフライホイール入れたクルマとか、そういう落ち方ですからね。

S:ああ、そういう感じだね。

M:レスポンスがいいってことは、別の言い方をすればダルな運転が許されないわけで。

S:そう。レスポンスがそこそこってことは、運転しやすさにもつながるからね。

T:MT車に入れたらどうなるか。ちょっと想像してみると、たとえばルテ2 R.S.のような車格に対して大きなエンジン、要はトルクのあるエンジンならそれほど運転しにくくはないかもしれないですね。反対に106とか、106の中でもテンサンラリーとか、そういうクルマは運転しにくくなるのかな、と

M:なるほど。

S:僕はね、電スロかマニュアルスロットルかの違いだと思う。

T:ああ、電スロなら制御してくれますからね。

S:マニュアルスロットルだとアクセル離したら閉じちゃう。あとは惰性でエンジンの回転数が落ちてくるだけ。でも電スロはアクセル離しても電子的にゆっくり閉じるとかして制御しちゃうような気がする。

T:だったら、ルテ2 R.S.でもフェーズ2ならいいかも。

S:そうかもね。だからマニュアルスロットルは運転する人にかかっている。でも、電スロは機械がうまいことやってくれる。機械がうまいことやってくれるから、あんな性能のオイルでも上手に扱えるのかもしれないね。

T:それで思い出したのが、ルテ2 R.S.フェーズ1に乗っている人がギャラクシー入れたときに「乗りづらい」って言ってたんですね。でも、僕のはフェーズ2なんでそう感じなかった。その違いかもしれない!

S・M:ああ!

T:僕のほうはレスポンスのいいギャラクシーでも機械がうまいことコントロールしてくれたんで「レスポンスがいい」という好印象だけがろ過された。でも、フェーズ1はマニュアルスロットルなんで、良くも悪くもそのまま出ちゃう。レスポンスはいいけど、同時に乗りづらさも感じたんでしょうね。まぁ、あくまでも想像の範囲の推測ですけど。

M:うーん、でもそれは正しいかもしれない。でも、そう考えるとますますマニュアルスロットルのMT車に入れた感触を確かめてみたい。僕のに入れようかな、次。

S:じゃあ、次はこれを入れて、実際はどうでしたって追記してみる? 正直、お薦めはしないけど……。

M:いいですね!

ということで、続報を期待せよ!

 

TEXT/Morita Eiichi

 

 

 

 

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