RENAULT Scenic 2.0i 16V

それにしても、本当にルノー車というのは乗ってみないと分からないものだと思った。いや、どんなメーカーのクルマであれ、本当の実力は乗ってみなければ分からない。分からないのだけど、分からないなりにだいたいのスペックや見た目で「こういう感じなんだろうなぁ」という“当たり”を付けることはできる。それは見た目の特長やコンセプトがはっきりしているクルマほど想像しやすい。

 

ミニバンにドライビングプレジャーを求めるのは酷!?

セニック1ほどではないがメガーヌのイメージを踏襲しているフロントマスク。フェイズ2になるとメガーヌというより、どちらかというとクリオ3っぽい顔になる。これといった特徴のないデザインだが、ルノー車においてはこういうクルマほど中身とのギャップが激しいことを学んだしかし、ルノー車はしばしばこの想像を簡単に裏切ってしまう。このコーナーを以前から読んでいただいている読者なら分かると思うが、以前、ルーテシア16Vに乗ったときの私のはしゃぎっぷりといったら、いま読み返すとちょっと恥ずかしくなるくらいだ。とはいえ、あの驚きと感動はウソじゃない。ルーテシアRSの陰に隠れてしまっているが、それ以上の名車だといまでも思っている。

今回のセニック2は、そんなルーテシア16Vと同じくらいの衝撃を受けた。見た目は何の変哲もないただのミニバンである。「クルマは乗って楽しくなければ」と思っている私にとって、ミニバンはその好みのかなり外側に位置するタイプ。しかもオートマチックである。期待しろというほうが無理な話で、実際心情的にはその通りだった。

リア周りはしっかりメガーヌっぽい。テールレンズ、リアウィンドウの形状がそう思わせる。ちなみにグラン・セニックは全長、全幅、全高、ホイールベースがすべてにおいてちょっとずつ大きくなっている。しかしその差は数センチ単位なのでパッと見でどちらがグランで、どちらが5人乗りなのか判別がつかないかもしれない弁解するわけではないが、セニックは製品としてはいいクルマである。これまでセニック1(フェイズ2)、セニックRX4を紹介してきたが、乗り心地も抜群だし、スペースユーティリティも優れている。「道具」としての機能はまったく問題ない。しかし「乗って楽しいか?」という枠にはめてみるとそうではなかった。ハンドルを握って、アクセルを踏んで、意のままにクルマを操る。積極的に運転したくなるクルマ。その楽しさはあまり感じられなかったし、なくて当然だと思っていた。だってミニバンなんだもん。そこまで求めるのは酷である。酷であると思っていた。このセニックに乗るまでは。

 

インテリアのデザインもメガーヌを踏襲。エスパスほどではないにしろ、ガラスエリアが大きいので明るく開放的。運転していてすごく気持ちがいい主流は5人乗りから7人乗りへ。

セニックの初代は1996年にデビューした。位置づけは、すでにメガーヌの派生モデルとして市場に出ていたエスパスの下のレンジを埋める存在。なので、最初は「メガーヌ・セニック」という名称だった。

1996年にフェイズ2へ移行し、2000年に4駆のRX-4が追加された。このフェイズ2になったとき「メガーヌ・セニック」から単なる「セニック」に名称変更。リアハッチのエンブレムも「Scénic」になったが、なぜかリアドアには「Megané」の文字が残ったままになっている。なぜこの部分だけ残されているのか、いまだに判然としない(メガーヌのいちバリエーションにしておけば、メガーヌ自体の販売台数も増えるのにね)。そして2003年にメガーヌがフルモデルチェンジした後、セニックも追うように「2」へ進化する。このとき折り畳みメガーヌお得意のカードキーによる「Carte RENAULT Mains-Libre(ルノー・ハンズフリーカード)」も引き継いでいる。日本の電波法に抵触するとかなんかで正規輸入車には装備されていない。中に入るのにカギで操作する必要はなく、ドアノブを引けばロックが解除されるし、乗り込んでからカードスロットにカードを入れなくても、スタート/ストップボタンを押すだけでエンジンを始動させることができる式の3列シートを備えた7人乗りのグラン・セニックも登場し、以降2タイプで展開することとなる。グラン・セニックのプロポーションは全長4495mm×全幅1810mm×全高1635mm、ホイールベース2735mmで、セニックよりも全長で236mm、全幅で15mm、ホイールベースで50mmそれぞれ大きい。つまりちょっと長い7人乗りがグラン・セニックというわけだ。ガソリンエンジンは1.4L、1.6 L、2.0 L、ディーゼルエンジンは1.5 L、1.9 Lの合計5種類。ミッションも5/6MT、4ATが用意された。2006年にフェイズ2へマイナーチェンジし、外観のデザインなどに小変更が加えられた。

2009年に現行型のセニック3へフルモデルチェンジする。先にグラン・セニックが登場し、後から5人乗りのセニックが出てきたところを見ると、このときすでにグラン・セニックがモデルの柱になっていたことがわかる。ミッションにCVTが追加されたのも新たなトピックスだ。

 

あいかわらず掛け心地の良いシート。メガーヌシリーズで言えば、1のシートが最高なのだけど、2を踏襲したこのシートもなかなかのもの。オーソドックスな形だが疲れ知らずだもしミニバンしか乗ることが許されないなら。

日本への導入は、セニック2においてはグラン・セニックしか入ってきていない。2.0L・4AT・右ハンドルのみの設定で2005年から販売開始。フェイズ2まで輸入されていたが、その後のフルモデルチェンジしたセニック3は未導入だ。

当該車はグラン・セニックではないセニック2。つまり5人乗りの並行輸入車である。4AT・右ハンドルで、話によるとイギリス仕様だとか。

リアシートは3座独立式でそれぞれ前後スライド、リクライニングができる。前席のシートバック裏にあるテーブルも使い勝手がいい先にも書いたがミニバンでATということもあってさして期待もせずに対面した。もちろん見たところでその期待は変わらない。セニック1ほどではないが、メガーヌの顔をイメージさせるミニバンだな、ということくらい。しかし、乗ってみてその印象は見事に覆った。もし、どうしてもミニバンに乗らなければならない状況になったら(いまのところ)このセニック2が最有力候補、というくらいに。

 

だんだんミニバンという感覚が薄れていく。

じゃあ、セニック2の何がいいのかと言ったら(メガーヌの)ハッチバックとミニバンのいいとこ取りができているところ。これは稀有なことだと思う。どのメーカーも思うだろう。ドライビングプレジャーとスペースユーティリティを両立しようと。でもたいていはどっちつかずに終わる。いや、空間効率が優先されるほうが多いかもしれない。そのせいで運転する楽しさが犠牲にならざるを得ないが、まぁ、そうだろう。そうするのが普通だ小物入れがいたるところに設置されているのも、セニック2の特長。なかには「ここに何をしまうんだ」と思わせるスペースもあるが、あって困ることはないと思う。しかし、セニック2はそうじゃない。運転感覚は限りなくメガーヌ2に近いのだ。ちょっと重いメガーヌ2。その重さがネガに働くことはなく、むしろセニック1よりも(いい意味で)重厚感がある。ヒラリヒラリと軽快なハンドリングという方向でなく、どっしりと構えながらもクルマとの一体感を味わえる。

2リッターのエンジンも低回転域のトルクが太く、ピックアップがいい。アクセルを踏み込んだら、すぐに車体が前に押し出されていく力強さ。4ATのセッティングも不満はない。

高速道路に乗ると、さらにメガーヌ感は増す。道路の継ぎ目を乗り越える感じはまさにメガーヌのそれと同じで、しっとりとやさしく大人な振る舞いだ。ハイスピードで巡航すると重さのネガは消え、完全なるグランドツーリングカーの様相。ボサーっと運転できる安楽さとは裏腹に、ルノーのGT特有の「いつの間にかこんなスピードが出てた!」感は健在なので、スピードメーターをちょくちょく見ないと危ない。たとえば4人家族なら、4人がゆったりと座れ、その人数分の荷物も充分に載せられる。週末や大型連休の長距離レジャーにはもってこいだ。

ラゲッジスペースとリアシートのシートアレンジ。ラゲッジはさすがに余裕がある。シートもすべて取り外すことができるしばらく走っていると、これがミニバンだ、なんて感覚はなくなると思う。ただ、グラン・セニックではこうはいかないかもしれない。乗ったことがないので何とも言えないが、メガーヌ2で1310kg、セニック2で1470kg、グラン・セニック2で1560kgという車重にポイントがあるように思う。このシャシーが運転する楽しさを提供してくれるのはセニック2がマックスの車重ではないか。セニック2よりも約100kgも重いグラン・セニックだとどうか。もしかしたら、重厚感が「重苦しい」というイメージに変わってしまうかもしれない。マニュアルだと印象は変わるかもしれないが、日本仕様ではそれを試すことができない。

 

エンジンは2.0Lの「F4R」。1.6Lの「K4M」とともに多くの車種に採用されているエンジンで、ルノーの名機とも言える。2.0Lは特に低回転域でのトルクの太さが優れていて、日本のようなストップ&ゴーが多い交通環境でも充分に使えるカングー2と比べてみたい。

一般的なユーザーは、何を基準にしてミニバンを選ぶのだろうか? そもそもミニバンを所有しようと思わない私にはよく分からないのだけど、おそらく乗車人数は大きなポイントになるような気がする。「3列シートじゃなきゃミニバンと呼べない」という人もいるだろう。残念だがセニック2はそういう人から真っ先に外されるクルマだろう。でも、もし5人乗りで充分、その代わりに運転が単なる作業にならない、楽しんで運転できるミニバンを! という方がいらっしゃれば、まずこのクルマを試してほしいと思う。

ATでもその楽しさは味わえるが、これがMTならもっと楽しいんだろうなぁ、と想像してしまう。左ハンドルのMTがあれば最高だろうなぁ、と。あとこれはかなわない夢だけど、1.6Lエンジンにも乗ってみたい。同じメガーヌのCプラットフォームを利用したカングー2と乗り味を比べてみたい。シャシーのベースも同じ、エンジンも同じ、車重もほぼ同じで、何が違うのか。もっと言えば、1.6Lのカングーにセニック2の2.0Lエンジンを搭載したらどうなるか? ちょっとパワー不足のカングーが、このセニック2のような余裕のあるドライビングフィールを与えてくれるかもしれない……。と、いろんな想像を膨らましてしまうのだが、そもそもカングーは商用車がルーツで、派生モデルとして乗用仕様があるのに対し、セニックは完全なる乗用車出身。5人快適に乗れて、長距離もラクラク移動でき、荷物も載せられる。そういう目的を果たしたいとなれば、セニックに2.oLエンジンがあり、カングーにはないのもうなづける。荷物を満載し、トランスポーターとして使い倒す目的であれば、やはりセニックよりもカングー。そんな棲み分けがなされているのだろう、きっと。

 

タイヤサイズは195/65R15。厚みのある65偏平も乗り心地の良さに寄与している気がする地味なクルマほど気をつけろ!

「スポーティーなミニバン」、「走りのミニバン」。CMやカタログなどでそんな謳い文句を目にする。私はそんなのあるはずないと思っていたし、実際スポーティーなのは見た目だけとか、足を固めました、速いエンジン載せましたとか、そんな程度のスポーツであることがほとんど。それにそもそもミニバンに乗る人がスポーティーな走りとか、運転する楽しさを求めているのか? とすら思ったりもする。ただ、メーカーとしてはウソをついているわけではない。メーカーはメーカーなりに低重心化だとかマスの集中、軽量化、マッピング変更などといった努力はされていると思う。ただ、それが運転車に「実感」として伝わってこないのだ。

その点において、セニック2は乗ってみて考え方を変えさせられたクルマだ。ああ、運転して楽しいミニバンもあるんだな、と。それと同時に思ったのが冒頭の言葉である。

「本当にルノー車というのは乗ってみないと分からないものだ」。

しかも地味でアピール度が低く、あまり注目されないモデルほどその確率が高いのだから、まったく侮れない。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

エンブレム_01762004y RENAULT Scenic 2.0i 16V

全長×全幅×全高/4259mm×1810mm×1620mm
ホイールベース/2685mm
車両重量/1470kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1998cc
最大出力/100kW(136PS)/5500rpm
最大トルク/191Nm(19.0kgm)/3750rpm

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