「Unil opal(ユニル オパール)」というエンジンオイルを知っているだろうか? おそらく多くの読者は「聞いたことがない」と答えるだろう。1958年にフランスで創業した歴史あるオイルメーカーなのだが、それを聞いてもいまいちピンと来ない。その正体が気になる……ということで今回、ユニル オパールの山川さんにお越しいただき、詳しい説明を伺った。
そもそも事の発端は今年6月に行われた「MiraFiori」での出来事。スズキさんと会場を回っているとき、クルマの前で商品を陳列している人が目に留まった。その商品はエンジンオイルで、名前はユニル オパール。フランスのメーカーらしいのだが、ラテン車業界で長く携わるスズキさんですら、その名前を聞いたことがなかったそうだ。ん~、なんだ、これは? 疑問符ばかりのオイルメーカーの正体を突き止めたいということで、このような企画となったのだ。
スズキさん(以下、S):そもそもね、フランスのオイルメーカーなのに名前を知らんのですよ。
山川さん(以下、Y):そうですね。じつはフランス本国でも知ってる人は少ないと思います。
S:基本的にはクルマ屋さんに卸している?
Y:そうです。量販店にも出してないです。
S:量販店にも出してない?
Y:はい。そこはメーカーがこだわっていて、あくまでもプロフェッショナルに使っていただこうと。なので、量販店で数あるオイルの中からユーザーに選んでもらう方法ではなく、しっかりとした知識のある販売店や整備屋さんにきちんと説明した上で使っていただこうと考えています。
S:1963年からやってるの?
Y:はい。前身はもっと前の1958年に創業しています。1963年にユニル社になり、1969年にオパール社という別の会社が設立されました。そして1993年にその2社が統合してユニル オパール社となったんですが、統合した当時はシェルの傘下に入っていました。でも、2007年から完全に資本独立して、いまは独立系のオイルメーカーになっています。
S:いまどき珍しいですね。普通は買収されちゃったりするんだけど。
Y:そういうことも多いですね。日本では先月、7月14日のフランス革命の日に合わせて販売を開始しました。
S:これ、フランス本国のユニル オパール社のウェブサイトを見るといろいろ出てるんだけど、国よってユニル社だけのとこもあるよね?
Y:ありますね。ユニル社は、ユニル オパール社の支社という形でベルギーにあります。もともとユニル社でやってきたものですから、社名変更せずにそのままってところもあるんですよ。ユニル オパールって英文で検索してもなかなか出てこないんですよね。他のオイルメーカーに比べても検索でヒットする件数はかなり少ないです……。
S:本国のページは英語もあったよね?
Y:あります。韓国、中国、シンガポール、ギリシャなどのサイトも少量出てきますね。現在は約40か国で販売されています。
S:そういうことね。いただいた資料のなかで「アフターマーケットシェアNo.1です」って書いてあって。いろいろ調べようと思ったんだけど、なかなか出てこなかったから(笑)。
Y:そういうご意見はよくいただきます。正体不明というか。ただ「アフターマーケットシェアNo.1」というのは事実です(笑)。
S:なんで日本で売るようになったの?
Y:もともと弊社(日本ユニバイト)は産業用機械のオイル添加剤を扱っているんですが、業界ではそこそこ評判が良かったんです。で、その添加剤を自動車に入れたところ、思ったよりも良かったという評判を聞き「それなら自動車用のも出そう」という話になって。国内の量販店で売ったりしていたのですが、どこから見つけたのかそういう一連の情報を本国のユニル オパール社が見て「うちのオイルを売らないか?」と直接オファーがあって。
S:へぇ。フランス本国のユニル オパールも産業用のエンジンオイルとかもやってるもんね。
Y:ええ、産業用、建設機械用、農業機械用、マリン用など、いろいろやってますね。400種類以上のオイルを扱っていると聞いています。
S:YACCOみたいに自動車用オイル専用メーカーということではないってことね。
Y:そうですね。総合オイルメーカーという感じでしょうか。ただ、輸出をしているものに関しては、自動車用がメインになっていますね。
S:生産はフランス?
Y:以前は国外でも生産していましたが、いまは国内に4つの工場があってそこで生産しています。
S:某フランスのオイルメーカーはアジアで作ってるもんね。
Y:ええ、日本で作ってる海外メーカーもありますね。ユニル オパールはフランス国内で生産して輸出しているので、価格は若干高めになってしまうのですが……。
クリーンディーゼルに強いオイルは、直噴ガソリンエンジンにも良い?
Y:ユニル オパール社のエンジンオイルの最大の特徴は、クリーンディーゼル向けのラインナップが非常に多いことです。日本国内のクリーンディーゼル乗用車の市場規模は約75,000台(2013年)と言われていますが、その規模は年々拡大しています。おそらく今年は100,000台を超えるのではないかとも言われるくらいで。そこで「クリーンディーゼルに最適なエンジンオイル」ということで、ユニル オパールのブランドイメージを定着させていこうというのが狙いです。
S:ふむ。
Y:クリーンディーゼルといえば、国内ではマツダさんが有名ですよね。ディーゼルの本場であるヨーロッパだと、いまのところ正規でクリーンディーゼルを出しているのはBMWとメルセデス・ベンツだけ。ただ近いうちにVWがゴルフにディーゼルエンジンを投入すると発表していますし、これは正式な情報ではないんですが、アウディにも採用するという話があります。
S:まぁ、たしかにディーゼル熱は盛り上がってるとは思うけど、乗用車全体でいえば10%を超えるかどうか分かんないくらいだよね。それにBMWやメルセデス・ベンツで言うと、ガソリン車よりもディーゼル車のほうが高いんだよね。お金払ってまでもディーゼル車に乗りたいと思う人がどれだけいるのか? 日本ではちょっと分からないよね。うちでもディーゼルのお客さん、あんまりいないし。
Y:そうですね。
S:ただ、ディーゼルで使えるエンジンオイルってのは、燃料希釈にも強いわけだし、ガソリン車のエンジンオイルにもあってほしい性能を有してるわけだからいいと思うんだよ。ディーゼル車のエンジンオイルをガソリン車で使ってもいいという話はよく聞くし。
Y:たしかにディーゼル用オイルをガソリン車に使用していたという話は聞いたことがあります。ディーゼル用のエンジンオイルは燃料希釈に強いのはもちろん、清浄分散性にも優れているんです。ディーゼルエンジンって高圧で燃料を噴射するので、すすなどがピストンまわりに付きやすいですから。また、燃焼温度も高くなるので、高温時の安定性にも優れています。
S:個人的に思うんだけど、ディーゼル用のオイルってディーゼルエンジンだけでなく、直噴のガソリンエンジンに乗っている人にもおすすめだと思う。直噴ってかなりオイル食うんだよね。直噴エンジンの特徴を考えると、ディーゼル用のエンジンオイルが持っているメリットがけっこう当てはまる。これから先、ディーゼルエンジンも増えていくだろうけど、ガソリンの直噴エンジンも増えていくと思う。じつはこっちの分野をターゲットとしてもおいしいかもよ。
Y:2つめの特徴としてはメーカーのアプルーバル(承認)が取れていること。メルセデス・ベンツをはじめ、VW、BMW、ポルシェ、プジョー、シトロエン、ルノー、フォードという欧州の主要メーカーの承認を得ており、保証の対象にもなります。ACEA(*1)のC1、C2、C3、C4すべての規格を取っているオイルメーカーもかなり少ないと思います。フランスのオイルメーカーでいうとプジョー、シトロエンの純正オイルである「トタル」以外、これまでどのオイルも承認は取れなかったんです。保証が効くオイルという意味では、このユニル オパールがやっと1つ追加されたということになりますね。ルノーに関しては最近の規格である「RN0720(ディーゼルエンジン向けのオイル規格)」というのがあるのですが、これに関してはルノーの純正オイルである「エルフ」ですら正規品として入れてないんです。プジョー、シトロエン、ルノーというフランスの3メーカーの承認が取れているのは、いまのところユニル オパールだけです。
S:これだけのメーカーの承認を取れているのはすごいと思う。そんなにないよね。
Y:販売台数でいうとVW、BMW、メルセデス・ベンツが多いので、その3社については他メーカーも承認を取っているのですが、VWの最新規格「504」、「507」に関してはかなり厳しい規格になっているので、これが取れているメーカーは少ないですね。ポルシェに関してもガソリン車向けの「A40」とディーゼル車向けの規格「C30」の両方取っています。性能の証明にもなるし、安心を買っていただくという意味でも、承認オイルはユニル オパールの強みになるんじゃないかなと思っています。
S:承認を取るのには、かなりのコストがかかると思う。それなのにこれだけのメーカーの承認を取ってるのはよくやってるなぁと思うね。
Y:はい……、実際に承認のためのコストはかなりかかりますね。
S:ACEAとかAPI(*2)もおのおのかかるわけでしょ?
Y:そうですね。ACEAはいったん取ってしまえば、その後のチェックはないみたいなんですが、メーカーの承認についてはメーカーのコントロールがしっかりと入っているので、同じ銘柄のオイルでも原材料が変わったら承認されないんです。しかも、メーカーの規格もひんぱんに更新されることも多いんですよ。
*1 ACEA……Association des Constructeurs Europeens d’Automobilesnの略で「欧州自動車工業会」を指す。このACEAが定めたエンジンオイルの規格のことを「ACEA規格」と言う。
*2 API……American Petroleum Instituteの略で「アメリカ石油協会」を指す。この協会が定めたエンジンオイルの規格を「API規格」と言う。
Y:いま国内で「スーパーFJ」というフォーミュラーカーレースにエンジンオイルを提供させてもらっているんですが、レース向けのものを提供しているわけではなくって、現在ラインナップされている製品を出しているんですよ。
S:レース用のエンジンオイルだとモチュールの300Vが好評みたいね。
Y:ええ。300Vはエステル100%ですから、潤滑性能に関してはそうとう良いと思うんです。ただうちのはベースオイルがグループ4、5のエステル+PAOを使ってまして。初期性能についてはわずかに300Vに及ばないんですが、高温安定性が非常に良く、性能劣化が少ないんですね。それが認められてスーパーFJにシーズン通して使ってもらえるようになったんです。
S:「コンペティション」じゃないんだね。
Y:はい。あとヴィッツのチャレンジカップレースに参戦している車両にもエンジンオイルとギアオイルを提供しています。そこでつい先日、筑波で行われた第2戦で優勝しました。非常に過酷なレースだったようで油温が120度、水温も100度を超える状況で、各車エンジンオイルの熱ダレと思われる現象に悩まされたようです。そんな中でもユニル オパールのオイルは性能劣化の度合いが少なかったと報告されています。レーシングスーツにユニル オパールのロゴが入っていたので、表彰台に上がったときに「あのユニル オパールってロゴ、なに?」とメディア関係の方たちからけっこう聞かれたみたいですよ(笑)。
S:なるほど。たしかに300Vはすごいいいオイルだと思う。2、3,000kmまではね。その後、だんだんふつうになっていくんだけど。あれはたぶんエステルだからだろうなぁ。まめに交換するか、ここいちばんのときに使うならいいよね。
Y:そうですね。うちのオイルだとガソリン車で30,000km、ディーゼル車で50,000kmもつと宣言しています。ただ、日本の気候や交通状況を考えると……。
S:日本だと半値八掛けだね。
Y:そうですね。弊社としても半分の15,000kmくらいかなと思っています。
S:クルマ屋のレベルだとVHVIは鉱物油よりはいいよね、PAO使ってるとツルツル回っていいよね、エステル最強だよね。でも、もたんよね。ってな感じの認識かな。
Y:そうですね。エステルでいうと性能順に「コンプレックス・エステル」、「ポリオール・エステル(POE)」、「ジエステル」の3種類があって、どれもエステル配合と謳えるんです。でも、この3種類でかなり性能に差があるんですね。ポリオール・エステルやジエステルは性能の良いPAOとそんなに変わらない場合もあります。コンプレックス・エステルは別格ですけどね。だから現在、コンプレックス・エステル100%のベースオイルというのはかなり少ないです。ルブロスさん、A.S.H.さん、あとスペインのレプソルさん、あと2、3メーカーあるのですがそれくらいなんですよ。その中でもルブロスさん、A.S.H.さんなどが販売しているコンプレックス・エステルのノンポリマーオイルは、非常に高性能です。もちろん性能なりの価格はしますけどね。
S:それはしょうがない。それなりの技術を持っているところがコストを度外視すれば、良いものは作れるわけで。エンジンオイルで1リッター5,000円超えてもやむなしと言えば、高性能なものができる。実際にルブロスさんのように小ロットで作れる体制を整えてやってるんだもんね。本気でサーキット走ってタイム縮めたい人とかにはいいよね。
Y:コストと性能のバランスを見ながら、良いものをそこそこの値段で使ってもらおうというのがうちの方針なので。……と言っておきながら「コンペティション」は1リッター4200円もするんですけどね(笑)。
ギアオイルが1リッター5,000円以上!?
S:いまのところエンジンオイルがメイン?
Y:ギアオイル、ATF、ブレーキフルードもあるんですが、いまはサンプルで入れただけですね。レース屋さんに提供して評価してもらっている段階です。ギアオイルの性能も非常にいいんですが、すごく高いんですよ。
S:そうなんだ?
Y:1リッター5,000円以上します。
S:すごいな、それは!
Y:ギアオイルでエステル+PAOなんですよ。
S:ふ~ん。あんまりないよね。
Y:ないですね。でもレースでは抜群にいいって話で。ただ、一般向けには売れないですよね(笑)。75W-80の鉱物油もありますけど、これも安くないです。2,000円近くします。
S:うーん、でも1リッター2,000円ならそんなに高いとは思わないけどね。
Y:そうなんですが、鉱物油として果たして2,000円の価値があるのかどうかがまだ評価しきれていないんです。なので、まだ大手を振って販売できる状態ではないですね。
S:なるほど。
Y:あとはオートバイ用もあるので、それもおいおいサンプルで取り寄せて使ってみて反応を見たいと思っています。
Y:話はまったく変わるんですけど、ユニル オパール社はフランスのソミュールというところにあるんですが、そこはワインの産地として有名なんです。で、本社のすぐ裏がブドウ畑になっているんですが、通常、エンジンオイルってケミカルなものなので、工場の近くにあって大丈夫なのかな、と思いますよね。でも、環境に対してはかなり気を遣っていて、廃油や大気に放出する気体まですべて管理されているんです。だから、一切の汚染物質を出さないから大丈夫だと言ってました。
S:ふむふむ。ぜんぜん関係ない話ついでに聞きたいんだけど、カタログのこのクルマって何?(笑)
Y:このクルマは……ベースはないです(笑)。デザイナーが描いたんですよ。一見、アウディっぽいんですけど。
S:何だろう、このクルマってずっと思ってたんだけど、オリジナルかぁ。
Y:ただ、ユニル オパール専用に描いてもらったわけではなくて、もともとはこの形でボディカラーが赤いのがあったんです。それに色変えて、ユニル オパールのエンブレム付けたんですよね。インパクトはありますよね。
S:そういうことね。ユニル オパールっていうのは、ユニル社とオパール社を合わせた名前ってのは、さっき聞いたんだけど、そもそもはどういう意味なの?
Y:詳しくは分かんないんです……。
S:え、そうなの? でも、オパールといえば、鉱物のオパールかと……。
Y:いや、何かの頭文字を合わせた名前みたいです。ユニルもそうですね。UとNは分からないんですが、IとLは「Industrial Lubricants(産業用潤滑油)」の頭文字だと聞いています。
S:本国に聞いてみれば?
Y:いや、本国でも分からないみたいです(苦笑)。
Y:現在、国内外含めてさまざまなオイルメーカーがさまざまな戦略で製品を売っています。その中でユニル オパールというブランドが生き残っていくためには、他メーカーにない“異質さ”というか、個性を出していかなければならないと思っています。単に「性能がいいですよ」ではどのメーカーも謳っているわけですからね。なので、いまはまだ販売量は少ないですが、クリーンディーゼルに最適であるということ、メーカーの承認が多数取れているという部分を強みにしていきたいですね。まずは「ディーゼル用のエンジンオイルといえば、ユニル オパール」と言ってもらえるようになりたいなぁと。
S:まだ販売開始したばっかりだから、まずは知ってもらわないといかんですね。
Y:はい。ブランド周知のために10月18、19日に開催される「フレンチブルーミーティング」にも出展させていただこうかと考えています。皆さん、ご興味がありましたら、ぜひ寄ってください。
TEXT/Morita Eiichi
ユニル オパール(本国サイト)
ユニル オパール(国内サイト)
日本ユニバイト(ユニル オパールの輸入元サイト)
ユニ オパールブログ
- お話を伺った人
山川雅弘(Yamakawa Masahiro)さん……ユニル オパールの輸入元である日本ユニバイトで貿易を担当。中南米にトーハツの船外機を輸出する業務に携わっていたが、ユニル オパールのエンジンオイル販売も担当することに。バックパッカーの経験もあり、スペイン語は堪能。